連載20代リーダーの教科書

本を読まずに仲間を増やせ。
20代リーダーが身につけるべき「人を動かす」基本のキ

インタビュイー

1999年、関西大学法学部卒業。事業会社2社での営業を経て、2007年にタナベ経営入社。人事制度改革や次世代経営リーダー育成などの組織・人材開発プロジェクトを主導。その間、2010年、2011年に全社年間契約額No.1を2年連続受賞。2013年には富士ゼロックス関連会社の人事企画へ転身し、各種制度改革を社内から推進。2016年、再びコンサルタントに戻り「戦略と人事をつなげる」運用重視の経営支援を行う。

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  • TEXT BY KYOZO HIBINO
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本を500冊読まずに、500冊分の知識を持つ仲間を増やす

若きリーダーにとっての指針となるべく始まった本連載も8回目を迎えました。今回は「周囲を巻き込む」がテーマになります。

山田どれだけ綿密にプランを練っても、実行が伴わなければ“絵に描いた餅”になってしまいます。特に、これから達成しようとしていることが大きければ大きいほど、1人の力ではどうにもならず、さまざまな関係者を巻き込んでいくことが必要不可欠です。以前、ある若い経営者の方がこんなことを話していました。

「例えば、自分が思い描いていることを成し遂げるには、本にして500冊ぶんの知識が必要になるとする。その時に私は、500冊の本を読もうとは思わない。本当にやるべきことは、500冊の本を読んだ人材を見つけて仲間にすることだ」と。

それこそまさに、リーダーが持つべき「巻き込む力」の重要な出発点だと思います。

もちろん、リーダーは何も知らなくていいということにはなりませんが、すべてを自分だけでやろうとするのは間違いで、自分がやるべきことと、周りの人にやってもらうことを分けなくてはいけない。

これからお話しすることは私自身も日ごろから実践していることなので、実は私にとってはちょっとリスクもあるんです。この記事を読んだ身近な人から、「山田がこう言っていたのは、そういう魂胆があったからなのか」と悟られてしまう可能性がありますから(笑)。

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現実は「何を言うかより、誰が言うか」

なるほど。でも「周囲の巻き込み方」は大切なスキルの一つかと思いますので、ぜひリスクを承知でご開示いただければ……。

山田では腹をくくりましょう(笑)。他人を動かそうとする時に陥りがちなポイントはいくつかあります。まずは、正論や正義を振りかざしてしまうこと。

「正しいことを言っているんだから、指示したとおりにやればいいんだ」というロジックは、理にはかなっているのかもしれませんが、現実に「人を動かす」という観点で考えた時にはうまくいかない可能性が高い。

特に20代などの若いリーダー、たいていのことは自分でできてしまう頭のいい人が、そういう手法を採ってしまいがちなのですが、それはやはり勘違いだと言わざるを得ません。

ディベートをしているわけではないのですから、相手を論破して勝ち誇ることに意味はない。あえて勝ち負けを言うなら、相手が自分の意図したとおりに動くことこそが「勝ち」であって、たとえ論破しても相手が動いてくれなければ「負け」なんです。

そういう意味では、論破されたふりをして「そのアイディアは私にはありませんでした。さすが。ぜひやってみましょう」と言って相手を動かす手もある。

それから、「ちょっと使えないな」と思った人などを簡単に切ってしまう人がいますが、私はそれもベストな選択肢だとは思いません。いまは使いどころがわからないけれども、この先、その人を生かせる場面がやってくるかもしれない。冷たく扱うのではなく、そういった人からも極力嫌われないように関係性を築いておくことも大切なのではないかと思います。

人と人の話ですから、良好な関係の構築は大前提ですね。

山田そうなんです。まず理解しておくべきは、「どういう時に人は動くのか」ということ。これは「合理的判断」「感情的判断」「無意識・本能」の3つに大きく分けることができます。

多くの人は、このうちの「合理的判断」で人は動くものだと考えて、自身の合理性を示すことで人を動かそうとしてしまいがちですが、実際の人の行動は「感情的判断」に基づく部分がとても大きい。

たとえば今日のランチは何にしようかと考える時、味や栄養価や価格から合理的な答えを導き出そうとする人はまずいない。「中華が食べたい」「肉がいいな」と、そういう感情的判断で決める人がほとんどでしょう。

また、感情的判断で決めたことに対して、後付け的に合理的判断をしたと思いたがる傾向も人にはあります。

そう言われるとたしかに……。人が動く最大の動機は感情なんですね。

山田私自身、痛い経験をしたことがあるんです。コンサルタントとして経験を積んだ後に事業会社に転職した時のことです。自分がこれまでに蓄えてきた知見に基づいて「こうすればうまくいくはずだ」といろいろ提言をしたんですが、はっきり言うと現場は総スカンでした。

当時のメンバーの一人からは「山田さんが言っていることは正しい。でも正しいがゆえに、以前からいるメンバーはおもしろくない。まずはそこを納得させないと拒否反応を示されるだけだよ」と言われました。その一言で冷静になって社内を見渡してみると、「何を言っているかよりも、誰が言っているかのほうが大事だ」ということにあらためて気づかされた。

合理性で人を動かそうとしていた自分は間違っていたんだ、リーダーは感情の部分できちんと納得させることが大切なんだと痛感しました。

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現代は「権威・権力」でマネジメントすべきでない

感情的判断に訴えかけるにはどういう力を身につければよいのでしょうか。

山田人を動かすことに有効な力は2つ、「公式の力」と「個人の力」があると考えられます。前者は役職やそれに基づく権限、あるいは組織のルールなどを指します。報酬も含まれるでしょう。後者は、言葉で説明するのは難しいところですが、たとえばカリスマ性と呼ばれるものがそう。

あるいは個人間の貸し借りや、専門性も「個人の力」を構成する要素と言えます。「公式の力」は強力ですが、それゆえにいたずらに行使すると弊害が生まれることも多い。

動く側は、感情的には納得していない状態であってもやらざるを得ないわけですから、それが続けば精神的な疲労が蓄積していくことは避けられません。もちろん、場合によっては権限に基づいて「とにかくやりなさい」と指示をしなければならないことはあるにしても、その効果が持続する時間は短いということを理解しておくべきです。

立て続けに2度も3度も有無を言わせず仕事に従事させると何が起こるか。指示を出されたほうはNoとは言えませんから、「わかりました」と口では言う。

でも腹の底では納得していないから、効率が上がらない。要は“面従腹背”が蔓延してしまうんです。

たとえば工場でのライン作業に代表される、昔のような労働環境では、面従腹背を見抜くことができました。実際問題として手が動かず、生産性が落ちていることが目視で確認できるわけですから、管理することもできる。

ところがホワイトカラー化の進んだ現代では、仕事の多くが知的労働となり、面従腹背を見抜くことが困難になりました。頭の中を覗き見ることはできませんし、最終成果を見ても、それが全力を尽くした結果としての成果なのか、「これぐらいでいいだろう」という考えで取り組んだ結果としての成果なのか、それを見極めることは極めて難しい。

リーダーは、そうした状況を引き起こす可能性のある「公式の力」に頼るのではなく、もう1つの力である「個人の力」を使って人を動かすことを考えるべきです。

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大切なのは、相手視点に立ち、承認すること

「個人の力」は、どのようにして高めていくことができるのでしょうか?

山田私が大切だと思うのは、指示を出す時や日常的なコミュニケーションの中で、常に相手視点に立つことです。ここからは小さな心がけの話になってくるのですが、相手がした仕事に対して指摘をしたり指示を出したりする時に、まず承認をして、そのうえでプラスアルファとして指摘や指示をすることが大切です。

たとえば「田中さんがつくってくれる報告書はいつも本当によくできています。ありがとう」と感謝しつつ、「そこに田中さんの意見も添えてもらえると、もっとよくなると思います。ぜひ次からは意見を書き添えてみてください」といったような言い方です。

若いリーダーの場合は、周囲に年上も多いでしょう。年上の人に対して指示や指摘をする時、頭ごなしに言っても、それを素直に受け入れてもらうことは難しい。相手には相応のキャリアがあり、自分なりのやり方、考え方を確立していて、一定のプライドもあるはずです。

そういう人に動いてもらおうと思えば、やはりまず承認から入ることは必要。「この分野に関しては私にはあまり知見がない。詳しい鈴木さんにぜひ協力してほしいので……」というところから話を始め、具体的にやってほしいことをプラスアルファ的に伝えるのがいいと思います。

それから、感謝の意を示したり褒めたりする際には、具体的であることが重要です。ちょうどこの取材の前にも、ある人からこんな話を聞きました。「私はよく褒めていただけるんですけど、具体的に何がよかったのかを言ってもらえない。ハードルばかり上がる感じがして、何となく気持ち悪い」と。

たとえば「議事録の書き方が本当に丁寧で、後から読み返した時にすごくわかりやすい」といったように具体性を持って褒めることで、相手の心には「自分のことをきちんと見てくれている」という感情が芽ばえ、信頼につながります。

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20代リーダーこそ「人間臭さ」で勝負すべき

褒め上手にならなければならない、ということですね。

山田その一方で、リーダーである以上は、どうしても厳しく言わざるを得ない局面もある。

「感情的になってはならない」ということもしばしば言われますが、こちらの意図したことに相手が応えてくれない時、怒りの感情が生まれたり、イライラが募るということは人間として当然の心の動き。そこで暴言を吐くことは論外ですが、怒りを押し殺して無理やり笑顔で対応する必要もないと私は思います。

真剣に仕事に向き合っていることを伝える意味も含め、怒気を込めて「なぜできていないんですか」「こういうふうに進めてください」と伝えることはあっていい。

重要なのは、その後です。厳しい言葉を投げかけた相手にいつも以上に注目し、こちらからの指導や指摘の方向性に合った行動をとっていれば、すかさず声をかけること。最終成果が出ていない段階であっても、「私がお伝えしたことがもうできているじゃないですか」「よくなってきていますね」と、小さな行動変化を見逃さず評価することが大切です。

言われた側は「まだまだですよ」などと言いつつも、うれしそうな表情を浮かべるものです。

小さな積み重ねが信頼を生み、「個人の力」を育んでいく。

山田そうですね。いわゆるカリスマ性がある人は強いですが、そういう資質のある人は決して多くはありません。私はむしろ、失敗や思い悩む姿をきちんと見せることが重要なのではないかと思います。

失敗を経験し、もがき苦しみながらも、最後にはきちんと成果を残す。そうした人間臭さが周囲の人たちを惹きつけ、「この人についていこう」と思わせるキーになる。弱みを見せまいとして完璧を装っていても、張りぼては必ず見透かされますから。

40代、50代のマネジャーともなれば、権限もあるでしょうし、本人が意識しなくても「公式の力」がおのずと働きます。しかし20代となると役職や権限がそれほどない場合が多いですし、そういう若いリーダーこそ「個人の力」をどれだけ身につけられるかが重要になってきます。

正義、正論を振りかざさず、日ごろのコミュニケーションの取り方から配慮する。一人で空回りしないためにも、そうした努力を積み重ねることの重要性に気づいてもらえればと思います。

こちらの記事は2018年04月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

日比野 恭三

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