連載スタートアップに求められるPR力とは?
最初の広報担当は「WHY」がマッチする人を選べ──Goodpatch流の広報戦略
スタートアップにおいて、広報はフェーズを追うごとに重要な役割になっていく。
しかし、経営層が普段の業務の合間を縫って兼任していたり、担当者が着任しても情報が体系化できなかったり、一人で見る範囲が大きかったりと、苦労するシーンも多い。
同様に広報戦略に課題を抱えるスタートアップは多いのではないか。その仮説のもとFastGrowでは、第一線で活躍するスタートアップ広報担当者に寄稿を依頼。優れた広報戦略をいかに仕組み化して立ち上げたのか、そのナレッジを共有いただく場を設けた。
初回は、プロトタイピングツール「Prott」やキャリア支援サービス「ReDesigner」といった自社事業と、デザインパートナー事業を展開する株式会社グッドパッチに依頼。同社で広報を務める高野葉子氏が考える、スタートアップ広報のあるべき姿を寄稿いただいた。
- EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
あなたはWHY型?HOW型?
広報として働いていると、様々な企業広報の方々にお会いする機会があります。その中で、それぞれの強みや個性を観察していると、広報には大きく分けて2つのタイプがいることがわかりました。「WHY型」と「HOW型」です。それぞれ以下のような特徴があります。
WHY型
自分自身と会社の大義名分が完全に一致している。その会社のビジョンや思想に心底共感しており、その会社以外の広報ができないタイプ。
HOW型
広報という職種が持つ「手段」を強みとしている。どんなビジョンの会社でも、広報という手段を使って仕事をすることができるタイプ。
もちろん、いずれかのタイプであっても、最低限プロとしてのスキルは持っている必要があります。ただ一定のレベルまで達した際に、どちらの志向が強いかは特徴がでると思います。
求められるのは「広報のプロではなく、会社のプロになれる人」
では、特にスタートアップにおいてはどのような人材が求められるのでしょうか。多くの方は「広報」というと手段であるHOWの印象が強いのではないでしょうか。
プレスリリースを書く、メディアとの関係構築をする、アウトプットに対して確認をする、社外の人と積極的にコミュニケーションをとる等...。いずれも広報にとっては重要な業務です。
たしかに、「広報」には目的に合わせてHOWを駆使することが求められます。ただ、スタートアップが、一人目の広報を採用する際には、どのような人材がマッチするのか。私が考えた際に、たどり着いた答えは「広報のプロではなく、会社のプロになれる人」です。
会社のプロとは、つまりビジョン、ミッション、バリューと表裏一体になれるWHY型のこと。よく人材採用ではスキル重視、マインド重視と区別されますが、スタートアップの広報に関してはこのマインド重視であることが重要だと考えるからです。
それは、ビジョンドリブンなスタートアップでは、創業者の代弁者としてビジョン、ミッション、バリューを社内外に発信していくことが、特に求められるからです。
スタートアップの広報は、創業者と二人三脚をしていかなくてはいけません。社内の誰よりも共感し、共感を超えて自分の内なる言葉として発信することが求められます。例えるのであれば、イタコのような感じでしょうか。
スタートアップの広報の仕事は、ビジョンとミッションなどのWHYを、HOWを駆使して社内外に伝えること。一人でも多くの方にそれを知ってもらった上で、事業に共感してもらう。そのために今できるベストを尽くすことだと考えています。それが結果として、ファンになっていただくことや会社の成長に繋がります。
かけ算で考える広報戦略
では、どのようなHOWを駆使するか。Goodpatchにおいて重視しているのは「かけ算」の広報です。
なぜかけ算かというと、いずれかの変数がゼロの場合、成果はゼロになってしまうからです。どれか1つでも適切な選択をできなければ、成果には繋がりません。
例えば、広報業務に携わる方の周りでは「プレスリリースを書いたので打ちたいです」というやりとりがあると思います。ご存じの通り「プレスリリース」は手段としては重要ですが、目的ではありません。
メッセージを届けるための、適切な手段になっているか。手段を目的化していないか。こういった様々な視点で広報活動を考え抜くため、変数を整理し施策を検討しています。私が考える変数は以下の6つです。
- なぜ(WHY)
- 何を(WHAT)
- どうやって(HOW)
- 誰に(WHO)
- いつ(WHEN)
- どこで(WHERE)
これらを考え抜き定期的な発信で「点」を打ち続けることで、その点と点が「線」になり、会社の「ストーリー」になります。それを継続的に実践することで「点」が「線」となり、再現性を生む。適切なHOWを積み重ねることが、自分だけではなくチームの成長へとつながり、最終的には企業の成長曲線を描く一助になるのではないでしょうか。
なぜ私がGoodpatchで広報として働くのか
最後に、Goodpatchがどのように広報を立ち上げたのかをご紹介します。
約3年前、Goodpatchには広報がいませんでした。組織はすでに50名を超える規模でしたが、私が入社するまでは、代表の土屋自ら広報を担当している状態でした。
一方の私は、学生時代にデザイナーを目指しデザインを学んでいましたが、当時はUIデザイナーやUXデザイナーの門は今以上に狭く、いちデザイナーがビジネスに携われる企業はほんの一握り。デザイナーとして働きたいと思える企業に巡り会えず、新規事業担当として働いていました。
そんなある日、デザインイベントで土屋が語った「自分が信じるデザインを信じろ。デザインの時代がすぐそこに来ているんだ」という言葉に感銘を受け、今に至ります。
Goodpatchが掲げる「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンと「デザインの力を証明する」というミッションに心底共感し、広報として入社したのは良いものの、当時の私は広報は未経験。完全にポテンシャル採用のWHY型でした。
急成長する組織の中、創業者の横に立ち続けて風を受け続けること。それに耐えられるのは、揺るがないビジョンとミッションの存在です。デザインの価値が向上した世界を実現したいという想いの強さが、いつも先を照らしてくれています。
広報になって3年経った今も、WHY型に重きをおいていることは変わりません。これからもGoodpatchが目指す先を見据え、ベストを尽くしていきます。
デザインの力を証明するために。
こちらの記事は2018年12月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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