電動マイクロモビリティを当たり前に。
人生をかけて交通インフラの創造に挑む、ある起業家の決意【Luup岡井大輝】

インタビュイー
岡井 大輝
  • 株式会社Luup 代表取締役社長 兼 CEO 

東京大学農学部を卒業。その後、戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDDを主に担当。その後、株式会社Luupを創業。代表取締役社長兼CEOを務める。2019年5月には国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任。

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日本では至る所に電車やバスの路線が通っている。しかし、駅やバス停から離れた途端、交通手段は徒歩や自転車、あるいはタクシーになってしまう。最終目的地までの最後の一区間、いわゆる「ラストワンマイル」をカバーする移動手段が限られているのだ。

こうした交通インフラの課題を解決しようとしているのが、岡井大輝氏率いるLuupだ。同社は2020年5月25日に、電動マイクロモビリティのシェアリングサービス『LUUP』をリリース。電動マイクロモビリティはこのコロナ禍に伴い、「3密」を避けられる乗り物として注目を集めている次世代の移動手段。Luupでは、街中の至る所に専用ポートを設置し、電動アシスト自転車から始め、いずれは電動キックボードなどにも気軽に乗車できる準備を進めている。

岡井氏が目指すのは「JRレベルの交通インフラづくり」。そのためには、規制の適正化など乗り越えるべき課題も多く、政治家、自治体、警察、地域住民の協力なしでは実現しない。岡井氏は一体どのようにステークホルダーを巻き込み、日本の移動手段をアップデートしようとしているのか。壮大なビジョンに向けて泥臭く挑む、起業家のリアルに迫る。

  • TEXT BY KOUTA TAJIRI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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目指すは、交通の“毛細血管”

『LUUP』は、街中のどこからでも電動マイクロモビリティに乗れて、好きな場所に返せるサービスだ。飲食店や駐車場などの空きスペースを活用したポートが104カ所存在(2020年8月1日現在)し、2021年までに街中のコンビニ数を上回るポートの設置を目指す。

利用方法はシンプル。利用者は事前に専用スマホアプリをダウンロードし、名前とメールアドレス、決済情報を登録しておく。街中で『LUUP』のポートを見つけたら、アプリから機体のQRコードを読み取り、ロックを解除。降車後は手近なポートに機体を戻し、アプリで証拠写真を撮ると決済が行われる。料金は初乗り10分100円(以降は1分15円)。

現在は、こぎやすいように車輪が小さく、高馬力で疲れにくい小型電動アシスト自転車をそろえているが、将来的には電動キックボードや椅子付き四輪モビリティなどを導入予定とのこと。

『LUUP』を立ち上げた理由について岡井氏はこう語った。

岡井現状、日本の交通システムは、いわば“大動脈”であるJRなどの電車やバスはは充実していても、“毛細血管”のようなラストワンマイルの移動手段がないんです。僕らはその“毛細血管”となるものを作り、電車だけでは解決できない課題に向き合うつもりです。

株式会社Luup 代表取締役 岡井大輝氏

ただし、岡井氏は「JRをディスラプトするつもりはない。それどころか、既存の移動手段があることを前提としたインフラを作りたい」とも断言する。

岡井戦後の日本が経済的に急成長できたのは、電車が普及したおかげ。僕らは“21世紀のJR”になることを目指していますが、電車やバスなどと共存しながら、既存のインフラでカバーしきれていない移動手段を提供するつもりです。

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世界に浸透する電動キックボード。なぜ日本では普及しない?

一方、海外ではラストワンマイルの移動手段の導入が進んでいる。自動運転タクシー、人が乗れるドローン、ライドシェア、オンデマンド型バス・シャトルなど、さまざまある中で、電動キックボードは特に注目を集めている。

例えば、アメリカのシェアリング電動キックボード大手のLimeとBirdでは、2社合わせて月間乗車数が2,000万回を突破(2018年時点)とも言われているそうだ。ヨーロッパ、ニュージーランド、オーストラリアでも複数のサービスが立ち上がり、シェアリング電動キックボードの普及が広がりつつある。対して、日本では進んでいない。

岡井公道での社会実装に向けて普及が始まっていないのは、先進国の中で日本くらいですよ。海外に行くとわかりますが、日本で言うタクシーと同じくらい電動キックボードが使われています。

普及しない理由は法規制にある。電動キックボードは原動機付自転車に該当するため、乗車時にはヘルメットの着用や免許証の携帯が必要なだけでなく、車道以外での乗り回しも禁じられている。こうした制限がシェアサービスの運営を難しくする。

ただし、交通安全と電動キックボードシェアサービスの両立は、世界中で適切な運用方法が模索されている途中にある。例えば、ドイツの電動キックボード関連規制を見ると、14歳以上という年齢制限はあるものの、運転免許は不要でヘルメットの着用義務もない。時速20km以下であれば、自転車レーンと車道で走行することも認められている。

一般的に最高時速が20kmほど出る電動キックボードが、車道で時速40kmの自動車と並走する。あるいは、歩行者と同じ道を走る。事故のリスクと利便性は、常に天秤にかけられているのだ

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関係省庁や政治家との度重なる協議、住民からの門前払い……一筋縄では行かなかった、交通インフラの創造

シェアリング電動キックボードの利用について、世界と比べ大幅に遅れている日本。そのような環境下で、Luupは「小型、一人乗り、電動」を条件とした「電動マイクロモビリティ」の社会実装を進めている。

今年5月、まずは自社開発の電動小型アシスト自転車を利用したシェアサイクルサービスとして、渋谷など東京5区の一部エリアで『LUUP』の提供を開始。

2日間で会員数2,000人を突破し、2020年7月30日には累計8億5,500万円の資金調達を完了した。順風満帆にも見えるが、ローンチまでの道のりは「想像以上に過酷だった」と岡井氏は振り返る。

岡井『LUUP』は、街中に高密度でポートを設置して初めて価値を発揮するサービス。設置するためには、政治家、警察、町内会、地域住民など関係者全員を巻き込む必要があり、苦労の連続でした。

政治家や町内会長とは果てしないほどに対話を重ねてきましたし、地域住民から門前払いされたことも……。「よく分からないからお前らとは会わない!」と言われたこともありました。でも、そう言いたくなるのも、うなずけるんです。聞いたこともないベンチャー企業が、人の命を預かるような事業を始めようとしているのですから。

それでも地域自治体と粘り強く対話を重ね、地域のステークホルダーたちの声に耳を傾け続けた。移動に関する課題やニーズは街によってさまざまなため、ある街の成功事例を横展開することはできず、常に異なるアプローチを取らなくてはならない。膨大な数の自治体と交渉を重ねていく必要があるのだ。

岡井ヒアリングを重ねるうちに、街の人たちも素直に悩みを打ち明けてくれるようになりました。「街を回遊する手段がないから観光客を留めておけない」「目玉となる建物を作ったのに、移動手段がないから集客できない」「観光客を乗せたフェリーが来ると、地元のバスが満員になってしまう」──これらの課題を解決し、何としても期待に応えたいと、強く思いました。

プロダクト開発では、まず安全性を実証するため、毎月のように日本全国での実証実験を行ったという。試乗した人たちの声をもとに改良を重ね、10月には規制のサンドボックス制度(※)に基づいた政府認可の実証実験が大学構内にて実現した。

※規制のサンドボックス制度:IoT、ブロックチェーン、ロボットなどの新たな技術の実用化や、プラットフォーマー型ビジネス、シェアリングエコノミーなどの新たなビジネスモデルの実施が、現行規制との関係で困難である場合に、新しい技術やビジネスモデルの社会実装に向けて、事業者の申請に基づき、規制官庁の認定を受けた実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげていく制度。

岡井『LUUP』では電動キックボードだけでなく、四輪機体の開発も進めているのですが、当初は「ご高齢の方には座椅子があったほうがいい」と決めつけていました。しかしヒアリングしていくうちに、人によっては「腰が痛いから立ったまま乗車したい」という人もいることが分かってきた。年齢や健康状態に応じて、座椅子を自由に出し入れできる仕様も検討するようになりました。

さらに、政府に向けて電動マイクロモビリティの必要性を訴えるために、マイクロモビリティ推進協議会を設立。国内で電動キックボード事業を手掛ける競合3社と手を組んだ。岡井氏自らが会長に就任し、電動キックボード事業の信頼性を確保するための「安全ガイドライン」を発表。経済産業省が主催する「多様なモビリティ普及推進会議」などの検討会にも参加し、精力的に関係省庁との対話を行った。その結果、各地方自治体のトップからも期待が寄せられるようになったという。

岡井創業から半年くらい経った頃、浜松市、奈良市、多摩市、四日市市、横瀬町(埼玉県)の市長さんたちが、わざわざ東京まで足を運んでくださったんです。「うちの街には電動マイクロモビリティが必要なんです」と言っていただいたとき、『LUUP』が社会に求められていることを実感しました。

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せっかく生きるなら、インフラをつくりたかった

国や自治体、地域住民を巻き込んだ、交通インフラ創造への道。何が、岡井氏を突き動かしているのだろうか。

岡井「世の中には、インフラとエンタメしかない」というのが僕の思想。人々の心を豊かにしてくれるエンタメが不要だとは思いませんが、「せっかく生きるならインフラをつくりたい」と学生時代から思っていました。

岡井氏が共同創業者と共に起業を志したのは大学2年の頃。Webで完結するインフラか、実体のあるインフラか。いずれかで起業を検討した末、後者を選んだ。しかし現実を直視し、一度は起業を踏みとどまったという。

岡井ZoomのようなWeb完結型のインフラづくりには、大資本が必要になります。中国やアメリカの企業が使うことも考えると、自ずと外資系企業が競合になる。

一方、『LUUP』のようなリアルなインフラをつくるにしても、関係者が多く利害関係が複雑なので、“大人”のコミュニケーションが求められます。ハードワークだけが強みの大学生ができることではないと思い、自分を含めた共同創業者全員で、まずは社会人になる決意をしました。

大学卒業後は戦略系コンサルティングファームに就職。上場企業のPMIやPEファンドのビジネスDDを担当したのちに、Luupを創業。現在も大学時代に創業したメンバーと一緒に事業を進めている。創業後、まずは「認知症だった祖母のような人を助けたい」という想いから、主婦や元介護士がスポットで家庭の介護活動を一部サポートする介護版Uberのような事業を立ち上げた。

岡井介護版Uberは、今後の日本に欠かせないインフラになるはずでした。しかし、駅やバス停が起点となる商圏内ではラストワンマイルの移動手段がなく、働きたいワーカーさんたちが介護者のお宅に気軽に訪問できなかった。その結果、十分なマッチングが行えず、事業は失敗に終わってしまいました。日本の交通インフラは、人が人の元へ行くCtoCのマッチングサービスに不向きだったのです。

ただ、日本の交通インフラにおける課題に気付くことができました。『LUUP』は、事業の失敗から着想を得て生まれたサービスなんです。

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交通インフラをつくれるなら、自分が社長でなくてもいい

岡井氏が見据えているのは、会社の成長でも起業家としての成功でもなく、「インフラ創造」一点のみ。その揺るぎない信念は、氏を通じて社員にも浸透している。

岡井大勢の市長さんや住民の皆さんの期待を背負っている以上、僕らにはこの事業をやり遂げる責任がある。Luupが目指しているのは、あくまでインフラづくり。それを達成する上で僕より適任者がいるのであれば、社長の座を譲ってもかまわない。それくらいの覚悟で事業に向き合っています。

それは社員も同じ。Luupでは、僕ら経営陣の言葉よりミッションの実現が優先される。「インフラをつくる上でLuupにいることが最適でないと感じたら、辞めてくれてもかまわない」と伝えています。

ミッションを最優先するLuupでは、採用も妥協しない。「何としても電動マイクロモビリティのインフラをつくる」という気概と、それを実現していくスキルがなければ、追いついていくことすら難しいと岡井氏は言う。

岡井「経験はありませんが、Luupが大好きなので頑張ります」「成長領域に身を置きたいです」などと言われると、「ほかを当たってください」と思ってしまいます。

確かに、すでに『LUUP』にニーズがあることは分かっていて、将来的に伸びることも疑ってはいません。でも、「伸びるから」といった中途半端な根性で務まる仕事では決してない。うちの仕事は泥臭いし、社員は全員ハードワーカー。必然的に採用のハードルも高くなっています。

でも、透明性の高い会社なので、「なぜあの人があのポジションに?」といった不満は生じないと思います。僕がたまたま社長の椅子に座っているのも、来年は社長でないかもしれないのも、全て会社のミッションに最適化した結果にすぎません。

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あらゆる場所が「駅前」になれば、日本経済は活性化する

2020年8月現在、『LUUP』は東京104カ所にポートを設置し、拡大を進めている。最後に、『LUUP』を普及させた先にある未来について伺うと、嬉しそうにこう語った。

岡井毎日が楽しくなると思うんですよね。『LUUP』のポートが高密度になっていけば、どこからでも、好きな時に、電動マイクロモビリティに乗れるようになる。

これまで徒歩15分かかっていたお店が、すぐ手近なポートから乗って4分で着くなら、行きたい気持ちが湧きやすくなる。地域経済も活性化するはずです。

ポートやユーザーが増えれば、『LUUP』の利用コストもどんどん安くなります。今後はサブスクでのサービス提供やアプリのUX改善も進めていきますので、ぜひ楽しみにしてください。

「人生をかけてインフラをつくる」

その言葉の重責に押し潰されそうになりながらも、泥臭く前に進む。そんな起業家のリアルを、今回のインタビューでは垣間見た気がした。

撮影協力:Lowha

住所 東京都渋谷区神宮前6-11-49
TEL 03-6451-1679
営業時間 平日 12:00~21:00
土日祝日 11:00~19:00

こちらの記事は2020年09月23日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

田尻 亨太

編集者・ライター。HR業界で求人広告の制作に従事した後、クラウドソーシング会社のディレクター、デジタルマーケティング会社の編集者を経てフリーランスに。経営者や従業員のリアルを等身大で伝えるコンテンツをつくるために試行錯誤中。

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小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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タテイシサエコ

校正/校閲者。PC雑誌ライター、新聞記者を経てフリーランスの校正者に。これまでに、ビジネス書からアーティスト本まで硬軟織り交ぜた書籍、雑誌、Webメディアなどノンフィクションを中心に活動。文芸校閲に興味あり。名古屋在住。

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