知る人ぞ知る「経営リーダー育成企業」ミスミ。
“スモール・イズ・ビューティフル”で、ものづくりに革新を起こす

インタビュイー
吉田 光伸
  • 株式会社ミスミ(現・株式会社ミスミグループ本社) 3D2M企業体 代表執行役員企業体社長 

新卒で大手通信企業に入社。3,000人の同期と共に、“通信会社”からインターネット事業会社へ舵を切る中で奔走。その後、セカンドキャリアとして海外を志向し、シリコンバレーの大手外資系IT企業に入社。現在、株式会社ミスミグループ本社にて企業体社長を務め、3D2M(3D to Manufacturing)事業を統括。

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経営者を志すビジネスパーソンにとって、最適なキャリアとは何だろうか。プロフェッショナルファームでのスキル磨き、創業間もないスタートアップでの事業立ち上げ、就職せずに起業…それらの選択肢が思い浮かぶ。

この問いに絶対的な正解はないが、ここではひとつの選択肢を提案したい。戦略コンサルティングファームや総合商社出身の実力者がこぞって門を叩く、「経営リーダー育成企業」──機械加工部品を製造・販売する、ミスミグループ本社(以下ミスミ)だ。

以前もFastGrowで取り上げたミスミは、2002年に経営リーダー育成を本格化。従業員340人の中規模企業から、12,000人以上の従業員を擁するグローバル企業へ変貌を遂げる。創業56年の大企業にも関わらず、ミスミはチャレンジ精神を絶やさない。最新のAI技術を用いた新規事業『meviy(メヴィー)』をリリースし、部品調達の分野でデジタル革命を起こした。

本記事では、経営リーダー育成企業・ミスミの革新的なものづくりを明らかにする。「スモール・イズ・ビューティフル」を重視する組織形態から、11ヶ国のエンジニアが結集したmeviy立ち上げの軌跡、“世界の覇権”が移り続ける製造業界での「速さを追求する」戦略まで、3D2M(3D to Manufacturing)事業を統括する吉田光伸氏に伺った。

  • TEXT BY ISSEI TANAKA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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外資やベンチャーも経験した。それでもミスミに決めた「スモール・イズ・ビューティフル」の魅力

吉田ミスミにジョインした理由は、正直、ものづくりとはあまり関係がなかったんですよ。

国内外の顧客から「水、電気、ガス、ミスミ──ミスミなくして製造業は回らない、“社会インフラ”だ」と絶大な信頼を寄せられるミスミの企業体(ミスミの社内カンパニーの呼称)の社長が、そう打ち明けたことに驚いた。

確かに、吉田氏のキャリアはものづくり業界とは無縁だった。新卒で大手通信企業に入社し、3,000人の同期と共に、“通信会社”からインターネット事業会社へ舵を切る中で奔走。その後は、セカンドキャリアとして海外を志向し、シリコンバレーの大手外資系IT企業に入社した。

インターネット黎明期、国内最大手の通信会社で当時最先端のインターネット事業を経験し、大手外資系IT企業でグローバルビジネスの方法論やスピード感を目の当たりにした吉田氏が、次のキャリアに選んだのがミスミだった。

吉田前職で社内ベンチャーの立ち上げを数多く経験していくなかで、経営の面白みを感じていました。しかし、20代から30代当時の私は、MBAも取得していなければ、経営を学んだ経験もなかった。そこで、圧倒的な経営力をつけられる環境を探しはじめたんです。

コンサルティングファームや外資系事業会社も検討しましたが、転職市場で「経営リーダー育成企業」として著名だったミスミを選びました。日本発でグローバル展開できるダイナミズムを体感しながら、体系的に経営力を身につけられる。「自らをたたき上げるには最高の環境だ」と思いました。

現在は企業体社長を務める吉田氏は、ミスミを「“経営リーダーを育てること”を重視する会社」と評する。経営リーダー育成に最適化された環境での実践で、経営リーダーが育つのだ。

ミスミは組織の理想形として「スモール・イズ・ビューティフル」を掲げている。

ミスミが考える商売の基本は「創って、作って、売る」。他社の場合、製造や販売が別部署であることが多いが、ミスミでは経営リーダー育成の観点から、開発から販売までの機能をワンセットで担う小さな組織が数多く存在する。さらにチームの規模が一定まで大きくなると、再び小さな組織として独立させるという。

だからこそ、際立って素早い意思決定は維持される。「お客様はこのような課題を抱えている」と即座に現場のフィードバックを伝え、開発戦略、製造戦略、販売戦略を迅速に修正し、場合によって抜本的な変革も行う。

その結果、数多くの革新がもたらされた。後述する新規事業『meviy』もスモール・イズ・ビューティフルな組織から誕生したのだ。

吉田規模は小さくてもいいから、“商売のワンセット”を有するチームの責任者になること。早ければ20代後半でチャンスが巡り、経営リーダーとしての旅がはじまるんです。

さらに、若く優秀な経営リーダーを育てるため、海外での武者修行の機会も提供する。早ければ新卒2年目から赴任をするケースもあるという。現地の事業担当者の右腕として、世界の競合企業との熾烈な競争を体感する。帰国後、役職に就いたのちに、海外事業の責任者として舞い戻るケースも多いそうだ。

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「絶対にできない」と言われるも、11カ国の叡智を結集させて生み出した新規事業『meviy』

「スモール・イズ・ビューティフル」の思想のもとで育まれた経営リーダーたちは、イノベーションの精神も持ち合わせている。その好例が、部品調達にデジタル革命を起こした新規事業『meviy』だ。

実はミスミは約40年前にも、製造業の仕組みを革新したことがある。当時の精密機械部品の調達は、紙の設計図を描いて複数の加工業者に見積もりを依頼し、価格と納期を比較してから製造を依頼するという非常に手間のかかるプロセスで、部品が手元に届くまでに1カ月以上かかることが常識だった。

そこでミスミの起こしたイノベーションは、「標準化」と「カタログ」という概念の発明だ。部品の材質・寸法などを規格化しカタログに掲載、顧客はカタログから必要な条件を選ぶだけだ。紙の設計図を描く手間や見積もりにかかる時間がなくなり、短納期で部品を製造する生産システムを実現したことで、「調達全体のリードタイムを最短で1日にする」という画期的なイノベーションを実現したのである。

しかし、大規模な装置を作る際、ミスミのカタログで網羅できている部品は半分ほど。残りは「特注品」として、今まで同様に紙の設計図を描き、見積もりを依頼し、長い製造納期を待つという非効率なプロセスのままであった。

ミスミは特注品の効率化に何度もチャレンジしたが、失敗続きだった。たとえば、カタログからの脱却を図り、カタログにでは掲載でいないような複雑な部品を選びやすくするソフトウェアを自社開発。しかし、ソフトウェア化はしたものの、顧客が複雑な部品を選びづらい状況は変わらず、利用は進まなかった。

吉田そこで発想を転換したんです。お客様にカタログの中から部品を選んでもらうのではなく、お客様が自由に描いた設計データをそのままシステムが認識し、その場で価格と納期を出せる仕組みにできないか。「選ぶ」から「描く」への転換ですね。

meviyの構想が誕生した瞬間だ。しかし、当時は他社を見渡しても前例のない挑戦だったため、実現までの道は困難だった。

meviyと類似しているサービスが、アップロードされたCAD(コンピューターによる図面設計ツール)データの形状を認識し、樹脂の積み上げにより立体を造形する3Dプリンターによる部品製造のサービス。

しかし、決定的に異なる点が、素材と求められる精度だ。meviyは製造の現場で用いられるいわゆる「プロ仕様」のため、対象は樹脂だけでなく金属が主流であり、ミクロン単位での精度の設定も求められる厳しい世界だった。ミクロン単位の誤差があるだけで、顧客が作りたい装置や設備は完成しなくなってしまうのだ。

吉田氏は「meviyを立ち上げられたのは、本当に奇跡でしたよ」と振り返る。

吉田「やりたい」というwillと、「やるべき」のmustは十分でした。ただ、「やる」ためのcanに見通しが全くついていなかった。ITシステムで著名な企業様に数多く相談しましたが、「できない」とハッキリ言われたんです。「Webシステム、3DCAD、製造、全てを理解して構築できる企業なんて存在しない」と。

だが、吉田氏は諦めなかった。試行錯誤を繰り返した結果、「ミスミだけのケイパビリティでは困難」という結論にたどり着いた。この時点で幕切れでもおかしくないが、meviy開発チームは、起死回生の打開策を見出す。

それは製造業界においても、類を見ないオープンイノベーションの実現──meviy開発に必要な、あらゆる分野のスペシャリストを世界中から探しだすことだった。インド、フランス、アメリカ…大企業からスタートアップまで、噂を聞けば世界中のあらゆる企業とコンタクトを取った。

吉田懸命に試行錯誤していると、課題解決に必要な技術をもつエンジニアと不思議に出会うんです。そうした縁を含め、meviy誕生は奇跡だったんですよ。

社内の開発体制も徐々に強化されチームの国籍は11カ国にのぼった。そして2016年、meviyは完成する。他のスタートアップや大企業が、「開発できれば売上が伸びる」という生半可な動機で手がけても、決して辿り着かなかっただろう。製造業の歴史を塗り変える発想のみならず、国内外30万社(海外率6割)の製造業の顧客と直接取引するグローバルネットワーク、そして「日本のものづくり業界全体を進化させる」という強い責任感と、あらゆる逆境を乗り越える不屈の志があったからこそ、不可能が現実となったのだ。

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競合他社の追随を許さない、圧倒的な競合優位性

meviyの操作画面。
提供:株式会社ミスミグループ本社

meviyは、ふたつの革新をもたらした。

ひとつは顧客サイドの発注効率化だ。3Dの設計データをmeviyに直接アップロードするだけで見積もりが行えるようになったので、1枚に30分ほどかかっていた部品の図面作成が不要に。さらに独自のアルゴリズムによるAI自動見積もりシステムは、価格や納期を即時算出する。1週間ほどかかる見積もりの待ち時間が、実質ゼロになった。

もうひとつは生産サイドの製造効率化だ。独自のデジタルマニュファクチュアリングシステムにより、顧客の設計データから工作機械を動かすためのプログラムを自動で生成し、ダイレクトに工場の機械へ転送する。通常2週間かかる部品の製造納期を大幅に短縮し、確実短納期を実現したのだ。

昨今台頭してきている“ものづくりスタートアップ”や海外の製造企業も、3D技術を投入した事業を展開している。これら競合企業も見積もりを即時に算出するが、部品製造は他社に任せる場合も少なくない。しかしmeviyは受注から製造まで一気通貫のため、出荷まで「最短1日」を実現する。

吉田見積もりのために図面を作成している時間や、見積もり結果を待つ時間、長い製造納期を待つ時間は本来、付加価値を生まない時間です。meviyの価値は「時間の創出」。設計者はアーティストだと思っています。システムができることはシステムに任せ、創出された時間を使って人間にしかできないクリエイティブな仕事に時間をかけてほしい。そうなることで、日本のものづくりに、もっと創造と笑顔をもたらしたいんです。

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中国の覇権に陰り?グローバル市場で日本が追求すべき「速さ」

ミスミは、消費者や現物取引の行動を分析し、未来の市況を予想する証券アナリストから「ものづくり業界の先行指標だ」と評されている。ミスミの部品は、世界中のあらゆる場所で使われているため、その売れ行きを見ればグローバルのビジネス潮流がリアルタイムでわかるからだ。

一方、吉田氏が注目する地域はアジアだ。現在、世界の製造業は中国が牽引している。成功の要因は人件費の安さにあるが、「状況は変わりつつある」という。

吉田人件費が高騰してきた上に、米中貿易摩擦の影響が恐れられています。「中国以外にも目を向けた方がいい」という意識が広まりつつあるんです。

今、世界は南アジアに目を向けている。中国より生産コストが安価で、ものづくり産業の基盤も確立しつつあり、生産工場が中国から徐々にシフトしているのだ。

さらに、製造分野のグローバルトレンドは「デジタルトランスフォーメーション」と指摘する吉田氏。ドイツが推進する「インダストリー4.0」もその流れにある。

加えて、ものづくりにおけるデータ活用にも注目している。製造現場では日々さまざまな機械が作動するが、その作動内容をデータ化し、クラウド上に容易に蓄積できる仕組みが存在しない。工場にはさまざまなメーカーの機械が混在しており、それらからデータを抜き出すことと、データを連携することが極めて困難だからだ。そもそも数十年前に作られた機械などでは、「LANケーブル(コンピューターと周辺機器を接続するケーブル)」が接続できないことも少なくない。

「ものづくり産業はデータ活用を真剣に考えるべき」と吉田氏は語気を強める。その根拠の一つが「予知保全」だ。機械のデータを蓄積し、故障の兆候を捉えると警告を行う。故障を未然に予知すれば、製造ラインが停止することでの莫大な損失を防げる。

日本の製造業は、1980年代に「ジャパンアズナンバーワン」と称されたほど、ものづくり大国として躍進した。当時では安い人件費に、高い教育レベル、さらに人口の増加も相まって、安価で品質の良い商品を大量生産できたからだ。

しかし、かつてのように人件費を下げられず、生産労働人口は減少の一途を辿るばかり。日本の製造業は、これからどのように戦えばいいのだろうか。吉田氏は世界と競争する大前提に「デジタル化の推進」を挙げる。

吉田日本は非常に遅れています。設計は3DCAD、製造はロボット、販売はeコマースが活用されはじめましたが、調達の分野はこれまで手付かずでした。そこでデジタル革命を起こしたのがmeviyです。部品調達には、デジタル化の余地がまだまだ残っています。

加えて吉田氏は、「これからは速さの追求が不可欠」と説く。

吉田「モノからコトへ」という潮流が訪れています。ただ製造すればいいだけでなく、デザインを含めたアート的な要素が求められる時代です。人間にしかできないクリエイティブな作業に充てる時間を創出するために、ミスミは速さ、時間価値を徹底していくつもりです。そして、ものづくり産業全体をさらに進化させたいんです。

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減点主義は一切ない。製造業を革新したい魂をもつ人を求む

世界の製造業のシーンが目まぐるしく移り変わり、ミスミも変革期を迎えるいま、吉田氏は「失敗を恐れずに挑戦する人を求めている」と話した。

吉田ミスミは減点主義ではなく、失敗が許容される環境です。失敗することで、原因と結果のつながりが分かり、自らのデータベースに蓄積されますから。ミスミではそれを「因果律データベース」と呼び、小さな失敗を速く繰り返すことを奨励しているんです。わたしも失敗をたくさん積んできましたし、積極的にチャレンジする人が活躍できる環境だと思います。

さらに、製造業への強い想いも欠かせない。

吉田ものづくり産業を進化させたい、革新を起こしたいという魂をもつ人。そんな人とぜひ一緒に仕事をしたいです。そして一緒に、若い世代に「製造業がかっこいい」と思ってもらえるような産業に成長させていきたいと思っています。

隠れた経営リーダー育成企業、ミスミ。

「スモール・イズ・ビューティフル」の思想に裏打ちされた実践環境として、海外に挑戦できる。

海外18万社とのネットワークを有することで、グローバル規模のオープンイノベーションを実現。世界の優れたエンジニアの叡智を結集し、最新のAI技術を掛け合わせることで、日本の製造業界をリードするような新規事業への参画機会も用意されている。チャレンジ精神のある若手にとって、学びと実践の機会に溢れた環境だと言えるだろう。

これからも、ミスミの経営リーダーが、ものづくりに革新をもたらしていくに違いない。

こちらの記事は2020年02月07日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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Presented by

執筆

田中 一成

写真

藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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