INTERVIEW
山本 祥馬
19-02-26-Tue
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「大企業病?それ他責じゃん!」
元意識低い系社会人が教わった、組織を動かしミッションを実現するたった1つのコツ

TEXT BY NAOKI MORIKAWA
PHOTO BY TOMOKO HANAI

「変革を起こす」……もしも「向上心を持つビジネスパーソンや学生たちが
共通して口にするセリフ・ランキング」というものがあれば、今はこれが第1位だろう。
たしかに夢はあるが、実体が見えにくい言葉でもある。つまり誰にだって言える。
「いつ、どこで、誰と、どうやって、何をするか」が問われるものの、それはあくまでも方法論。
変革へ向けて走り出すための最重要事項は「何のために、誰のために」というミッションだ。

その答えになりうる方向性をブランド・スローガン“A Better Life, A Better World.”と打ち出しているパナソニックであるが、
メンバー個人はどんなミッションを持ち働いているのだろうか。
1人の若き変革人材が向き合う「ミッション」から探ってみよう。

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内々定をもらった「意識低い系」学生にかけられた言葉は、「ほんまにそれでええんか?」

最初に伝えておこう。学生時代の山本祥馬氏は「明確なキャリアイメージとミッションをもって就活に挑んでいた」わけではない。「(法学部生なのに)人気の高い経済学部のゼミに無理矢理入ろうとしたので、何か自分を特徴付けるものが欲しかった」という“魂胆”から、松下電工(現パナソニック)のインターンシップに参加。それが縁となって入社へつながったのだという。

山本今どきの言い方なら、私は「意識低い系」の就活生だったと思います(笑)。ただし、インターンなら何でもいい、というわけではありませんでした。まるで学生を「おもてなし」するようなインターンシップに参加しても、ゼミ参加時にハクを付けることはできません。

私の“魂胆”に適したインターンシップを探していたところ、松下電工の経理部が独自のカリキュラムを提示していたので飛びついたんです。内容は「理論株価と実際株価の乖離額を算出し、その乖離額を埋める方策を提案しなさい」という課題に取り組むものでした。

しかも「会社側からは基本的には何も教えてもらえない」という条件。その代わり、経理部の諸先輩に掛け合い、時間をもらって話を聞くことは許されていましたので、とにかく決められた期間内に自分の頭で考え、行動を起こして提案をまとめ、最後に経理部長に提案をするというものでした。

カリキュラム自体、とても勉強になりましたし、なによりも一貫して学生を大人として扱ってくれた。それがとても印象深かったんです。

就活シーズンが本格スタートすると、好印象を持っていた松下電工から、早々に内々定を得た山本氏。「ここでいい。なんの文句もない」という気分でいたが、経理の人事担当にハッパをかけられた。

山本「ほんまにそれでええんか? 世の中には会社がごまんとあるのに、なぜよそを見ようともしないでウチに決めてしまうんだ」と言われたんです。この言葉に心打たれましたね。懐が深いというか「器のでかい会社やな」と。私も負けず劣らず素直すぎる学生でしたから(笑)「よっしゃ頑張ろ」という気持ちで、他の企業の選考を受けていきました。

結局、山本氏はメガバンク、通信大手、競合電機会社、外資系IT企業など、いずれも人気企業から内定を獲得した。もしもこれらの企業に山本氏が強く惹かれ、入社をしてしまったなら、「パナソニックの人事が囲い込みをしなかったせいだ」と言われてしまいかねないところだが、山本氏はむしろ内定獲得時よりもずっと強い意志をもって、パナソニックへの入社を決めた。

山本訪問した大企業は、どれも必ずと言っていいくらい学閥のようなものがありました。むしろ、出身校と関係なく、様々な学歴・職歴・属性・バックグラウンドの人たちが活躍しているパナソニックのほうが珍しいんだ、ということに気づいたんです。

私は「意識低い系」学生でしたから、別段「偉くなってやるぞ」などと息巻いていたわけではありませんが、どうせ働くのなら、学閥のようなしがらみのない環境でのびのびと働きたかった。また、外資系IT企業のほうはといえば、米国本社の影響力が強くて、大事なことは日本法人ではなく本社が決めているな、と感じたため、自分の考えとはフィットしないかな、と。

「世間を見てこい」とパナソニックで言われたおかげで、ふわふわした気分も消え「ぜひパナソニックで働きたい」という強い気持ちで入社することができました。

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上司に褒められて感じた将来への漠然とした不安から、社内公募に手を挙げる

こうしてパナソニックに入社した山本氏は、経理部の一員として4年間を過ごす。収支管理や原価計算を中心に管理会計の仕事を担い、3年目からは年間売上高300億円超の事業部門で経理の主担当にもなり、充実した気分で働いていたという。だが、年に2回行われる上司とのキャリア面談の席上で、転機となるやりとりがあった。

山本「あと4年頑張ったら、海外の経理責任者だよ」と上司が笑顔で言うんです。将来のキャリアもバラ色だぞ、と励ましたつもりだったはずです。ところが、このセリフを聞かされた途端、私はハッとしたんです。日々の仕事が面白くて夢中になっていたけれども、「あと4年」頑張ったら30歳だということに気づき「いや、ちょっと待てよ」と。

特にミッションと呼べるものを持たないまま入社したが、充実した仕事に満足していた山本氏は、この時おそらく初めて「自分の将来というものを強く意識した」という。

上司が良かれと思って提示した「頑張れば海外で責任者に」という将来像に共感し、そうなることに使命感をかきたてられたのならば、それが山本氏のミッションとして心に刻まれることになったかもしれない。だが、そうはならなかった。まだこの時には「自分はこうありたい」という明確なミッションを持っていなかったが、上司が一例として提示したものが「違う」ということだけは直感したようだ。

山本何かやりたいことがはっきりしていたわけではないんですが、とにかく30歳前後というのはすごく大事な時期だという意識は何となくありました。その大事な時期に今とあまり変わらない仕事をしていて、本当に自分は満足できるんだろうか、という疑問が急に大きくなったんです。

そして「あと4年経ったら30歳になってしまう」と気づかされ、「同じ事をこのまま続けていたらあかん」という気持ちも膨らんで、転職という選択肢が唐突に浮かんできました。

にわかに転職活動らしきものを山本氏が始めると、ちょうどそのタイミングで、社内公募制度としてパナソニックが実施している「eチャレンジ」の通達があった。スキルアップやキャリア形成につながるプログラムやプロジェクトへの参加を募る同制度の通知の中に、「顧客直掌インフラ構築実証プロジェクト」なるものを発見した山本氏は、「これだ!」と、またもや直感した。

山本あまり具体的な内容は書かれていなかったのですが、とにかく「パナソニックがお客様とダイレクトにつながるようなインフラを作ろう」というコンセプトなんだ、ということだけはわかりました。

当時の私はサプライチェーンの川上の部分、原材料がらみの経理仕事をしていたこともあって、ある危機意識を抱えていたんです。それは「パナソニックって本当の“お客さん”、つまり消費者のためにモノを作っていると言えるんだろうか? そうではなく、大手小売店や納入先メーカーという“お客さん”のためのモノ作りにだけ走ってしまっていないだろうか?」というものです。

だからこそ、エンドユーザーとパナソニックがダイレクトに繋がる仕組みを作ろうとしていた「顧客直掌」という概念にいたく共感し、応募しようと意気込んだのです。そう意気込んだのは良かったものの、このプロジェクトには応募資格というのが設定されていたんですよ。

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「おまえの話は面白い。でも今、おまえ、一瞬でもお客さんのこと考えたか?」

応募の条件には、一定の肩書が必要だった。当時のパナソニックでその肩書きを得ていた層は、ほとんどが30代後半以上であった。それを見た山本氏は「この募集要項はおかしい。新規事業をはじめるのに若手を集めんでどうするんだ!」と憤り、不満と自分の参加希望とを熱く綴ったメールを募集をかけている部署の人事に送ったのだという。そして、この「怒りのメール」が運命を変えた。

山本資格も無いのに変なメールを送ったものだから、これは落ちたな。と思っていたら、何故か面談の案内がきました。これはもしや叱られるんちゃうかと、面談に行くと、部屋に何やら偉そうな人が座っていました(笑)。

実際ほんまに偉い人だというのは後から知ったのですが、その時の私は頭に血が上ってもいましたから、自分なりに考えた熱い思いを語りました。面談は受けれたけど、参加資格も無い自分は受からないだろうなと思っていたところ、後日合格通知がとどきました。

あとで知ったのですが、私が送ったメールを、あの「偉そうな人」が読んで、人事に「面白いから、こいつを呼べ」と言ってくれたとのことでした。

ピースサインをしているのが日野田知也氏
提供:パナソニック株式会社

「偉い人」の正体は、松下電工株式会社(現:パナソニック株式会社)の執行役員を務め、当時はパナソニック株式会社の社内カンパニーエコソリューションズ社事業開発センター長だった日野田知也氏。

トップ営業マンから経営企画部門に抜擢され、パナソニック エイジフリーサービス㈱や、それまでのビルトインコンロの規格を逸脱した、3口横並びのIHキッチンである「トリプルワイドIH」などの数々の新商品や新規事業を確立させてきた、レジェンド級の人物だった。

ともあれ、プロジェクトへの参加を特別に許可された26歳の山本氏は、当然のことながら最年少メンバー。最も年齢の近い人が39歳という環境下で動き始めた。転職活動は、しばしお休み、といったところ。「このプロジェクトを通じて、自分に何ができるのかを試してみたい」という気持ちで高ぶっていたが、スタート早々から冷水を浴びせられたという。

山本異動した初日にメンバー全員の前で日野田から「なんでもええから、喋りたいこと喋ってええで」と言われ、顧客直掌プロジェクトで何をしたいかを語ったことがありました。

それまでの4年間、「どうやったらパナソニックが儲かるか、市場を取っていけるか」という視点で収支管理の仕事をしていましたから、「パナソニックはイエの内(家電)も外(家、住宅設備)もやってるから、パナソニックに解決出来ないイエのお困りごとはない。

我々がお困りごと解決のインフラになれば、お困り事も情報も全部我々のところにくる。これからはIoTの時代や、日本ではIoTのスイッチやコンセントなんかは顧客自身ではつけられないから、IoT機器を作る我々がインストーラー(設備施工業者)も出来たら、IoTの覇権を握れるんや」という持論を唱えたんです。

すると、日野田が「おまえの話は面白い。でも今、おまえ、一瞬でもお客さんのこと考えたか?」と聞かれ、頭をかち割られるような衝撃を受けました。「たしかにオレ、1秒たりともお客さんのことを考えずに、パナソニックがいかに儲かるかどうかばかりを考えてしゃべっていた」と。

頭をかち割られつつ、日野田氏の言葉に心酔したという山本氏は、新規事業であるプロイエを担うことになった。日野田氏はこの2年後に60歳で引退したのだが、山本氏はそれまでの間に、ありとあらゆる場面で幾度も頭をかち割られ、そこで得た教訓をインプットし、成長の醍醐味を感じ続けたという。

若手社員や他部署の人など様々な人に電話をかけまくることで事実を自ら取りに行く電話魔として広く社内で知れ渡り、足繁く現場に赴く日野田氏特有の働き方にも影響を受け、人知れず日野田氏のことを「走る巨人」と呼んで崇拝していった。

提供:パナソニック株式会社

山本「この人のようになりたい」と強く望んで、なんなら話し方まで真似するくらいでした(笑)。日野田のことを「走る巨人」と呼びつつ、自分自身のことを「走る小人」と呼んでもいました。

あんなに実績もあって、ポジションも高い人が、ひたすらお客様の思いに寄り添いながら、現場へ走って行くのに、若造のオレが走らんでどないする、という気持ちです。

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「青い理想をどす黒く実行する」という働き方。それが山本流

カスタマーファーストで発想し、それを事業という形にして提供しながら、常に現場で起きていることに耳目を集め、惜しまず走ってバリューを上げていく……言葉にすれば美しいが、それが実際にはどれほど泥臭い努力の積み重ねなのかを「巨人」から学んだ山本氏。

そうして身につけた独自の働き方を、もっと端的な言葉でこう表現しているという。「青い理想をどす黒く実行する」。そこで、具体的にどう青く発想し、どす黒く実行してきたのかを聞いてみた。

山本私が担当することになったプロイエは、一言でいえば「住まいのお困りごとを解決します」というサービスです。モノ作りでお客様の住まいに価値を提供してきたパナソニックが、家に関わるサービスを広く提供していくというもので、パナソニック プロイエサービス株式会社が事実上の実行部隊となっています。

当初このプロイエは戸建てにお住まいのお客様を主な対象にしたものでしたが、なかなか発注をいただけない状況にいたんです。

戸建ての場合は家によって空間の広さや設備もまちまち。サービス内容によって、値段も施工方法も全く変わってきて、商材として難易度が高い。

一方、マンションならば構造も設備もほぼ同じなので、提供できるサービスも値段も均質化できるし、お客様にとってもわかりやすい。そうした考え方から、山本氏はマンションでの展開を社内で提案したという。

山本事業を始めたばかりのときは、サービススタッフの習熟度も低く、何でもかんでも受注してもこなせない。それに戸建てとなるとどんな設備が入っているかわからないので、サービスの値段も現場に行かないとはっきり言えなかった。

そこで戸建てではなくマンションに対して、「このOOマンションにはこういう設備が入ってます。この設備ならいくらで交換できます」というようにターゲットを明確に絞って、設備と値段を決め打ちして、マンションを一つずつ攻略していく。

サービススタッフの習熟度が高まった段階で、徐々に難易度の高い戸建てに移行していく、というサービススタッフの習熟度に応じた段階論を提案したのですが、プロジェクトメンバーの反応はネガティブなものでした。

「住まいに対する関心についてのアンケートを見てみろ。マンションの住人よりも戸建てに住むお客様のほうがずっと関心が高いだろ」というように。それでも私は納得できなかったので、勝手にイラストレーター(Adobe社が提供しているデザインツール)を購入しました(笑)。

自費でチラシを作成して「これをまいて宣伝させてください。制作コストは自腹を切ったっていいので」と当時のプロイエの社長に直訴したんです。すると「そこまで言うならいっぺんやってみろ」と許しをいただき、実行していきました。

もちろん、デザイナーなど使えない。完全なる自作によるチラシは、お世辞にも出来映えの良いものではなかったが、これをマンションにまき始めて1週間。問い合わせや発注の電話を祈る思いで待っていたものの、反応はゼロであった。

山本先輩社員たちからは「それみたことか」というリアクション。「まあ、こういうこともあるさ。いい勉強になったな」なんて言われて泣きそうでした。でも、さらに1週間が経過した頃から徐々に問い合わせの連絡が来始めて、反響が大きくなっていったんです。

こうして結果も現れてくると、手のひらを返したように皆が「やっぱマンションもありだな」と(笑)。結局、マンションの攻略が、全店舗戦略にまでなったんです。

新規事業に携わる者として、こうして実績を上げたことは自信へとつながった。しかし山本氏にとっては、それ以上に大きな収穫があったのだという。それはパナソニックに根づいている「社員稼業(与えられた仕事をこなすだけではなく、社員一人ひとりが経営者的な立場でものを考え、仕事を進めよという考え)」というカルチャーを体感できたことだった。

山本若い社員からの提案を「いい経験になるから」と、チャレンジさせてくれる社風というのは、他の企業にもあるのかもしれません。ただ、私がこの時の経験で本当に勉強になったなと感じているのは「そうそう簡単にはやらせてもらえないんだ」ということを教えてもらった点です。

お客様に喜んでもらうため、皆が真剣にビジネスをしているわけですから、なんでもかんでも「試しにやってみてもいいよ」なんて言えるわけがないんです。実績のない若手が頭でっかちな青臭い提案をしても、現場を知る先輩方から反対意見が出るのは当然です。

問われるのは「それでも絶対やりたいんだ!」と言い続ける熱意と裏付けがあるかどうか。自分で全責任を背負ってでもやりたい、と言い切れる覚悟があるかどうかです。ようやく「やってみてもいいよ」という答えをもらった後も、本当に全部自分でやらされましたからね。

主張を通した以上、あとには引けませんでしたが、現実に責任を背負ってみると、その重みでわなわなしました(笑)。それでも自分で決めて、自分でやり抜いたことに自信を持つことが出来ましたし、反響が出た時には心から嬉しく感じました。

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「大企業病?そんなの他責じゃないですか」

今現在、山本氏はビジネスイノベーション本部に所属し、新規事業創出や変革のための組織作り、人材育成などをミッションにして働いている。経営層に向けて提案をすることも頻繁にあるというが、そう簡単に「やってみてもいいよ」という答えはもらえない。相手は、かつての日野田氏同様、百戦錬磨の「巨人」たち。至極もっともな理由で突き返されたりもするが、プロイエでの体験で学んだ山本氏は心得ている。

「正しいところ(相手)に、正しいプロセスとタイミングで、正しいロジックで伝えれば、ちゃんとパナソニックの人は聞いてくれて、一緒に考えてくれるし、やらせてくれる」。そう知っているのだ。「誰が言ったか」は関係ないこともわかっているから、臆することなく向き合うのだという。

山本従業員数約27万人ですからね、個人の認知限界を超えるほどの巨大組織なんですよ、パナソニックは。27万人それぞれが向き合っている業界も、お客様も、職種も、立場も、考え方も異なる、複雑に絡み合った組織です。

そんな環境で自己の主張を通そうと思ったら、青臭い理想論をお門違いな場所でわめいていたって、誰も耳を傾けてはくれない。ありとあらゆる知恵を使って、適切な人にアプローチし、したたかな行動を展開するしかない。反論だって返ってきますから、単に情熱を振り回すだけでなく、冷静に打ち返せるだけの周到な準備も必要になります。そのすべてを私は「どす黒く実行するプロセス」だと呼んでいるんです。

「要するに、ポリティカルな動き(政治的な動き)をしろってことでしょ? だからイヤなんだよ大企業は」と思う人もいるだろう。だが、そんな反応を予想していたかのように、山本氏はこう被せてきた。

山本「オレはこんなに正しいことを言っているのに、わかってくれない。こんな大企業病の会社は駄目だ」と諦めてしまう人が世の中には多いのでしょうね。でも、本当に「大企業病」のせいなのかな、って思うんですよね。できない理由を会社のせいにしているだけじゃないかと。

少なくともパナソニックでは「社員稼業」のカルチャーが浸透し、稼働しています。強固な情熱と信念を持ちつつ、良い意味で「どす黒く」、つまり「したたかに」行動を起こせば、チャレンジさせてくれます。だから、若手が簡単に自分の「青い主張」を取り下げ、「ウチは大企業病だから」なんて、もしも口にしたならこう言います。

「本当にそうなんか?おまえの努力・能力・信念が足りてない可能性はないんか?」と。

青臭い理想論や事業プランを主張するものの、それをなかなか実現できない場合、失敗原因の多くは「大企業病」という組織カルチャーではなく、当人が発信する相手やタイミングを間違えているせいなのだと山本氏は言う。

山本例えば事業部門の若い社員の胸の内に「社内の組織を改編すべきだ」という青い魂が芽生えたとします。それをすぐ上の課長に提案したとしても、そもそも課長はそういう「組織改革」のようなミッションを与えられてはいません。

会社組織にはそれぞれの立場の人がいて、想いがあるということが理解できていれば、「課長に言ったのに聞いてくれなかった。この会社はもう駄目だ」なんて泣き言は決して出てこないはず。

会社が掲げているミッションを理解し、その会社の中でうごめいている人たちそれぞれが抱えているミッションも理解したうえで、自らがミッションだと確信した青い魂を形にしていこうと思ったら、厄介な人間関係やパワーバランスも掴み取って、それをうまく利用するぐらいの芸当ができなければおかしいやろ、と思うんです。

自分の主張が本当に正しいと確信していて、それが実現すればお客様のお役に立てるのだと思っているのなら、少々の障害を乗り越えていくぐらいの情熱も湧いてくるはずですし、面倒な言動だって進んで乗り越えてやろうと思うはずなんです。

言い換えれば、社内の人間さえ説得できない者が、ビジネスの相手であるお客様を納得させたり、ましてや世の中を変えることなんてできるわけがないんです。

飄々とした語り口ではあるが、どんどん熱量を上げて語る山本氏は、さらに持論を披露する。「パナソニックは巨大です。でも巨大であるがゆえに、もしもこの集団を動かすことができたなら、どんな人や組織をも動かせると思いますし、とんでもなく大きなインパクトを生み出すことが可能なんです」と。

「新しい価値を生み出して、社会を良くすることに貢献したい。本気で世界を変えたい。」と心底念じている優秀な若者がいるのなら、大企業を動かす人間になるべきではないか、と言うのである。

山本他の大企業がどうなのかは知りません。そして、私だって少人数のスタートアップやベンチャーのような環境に魅力を感じることはありますから、それを否定する気は毛頭ありません。でも、本当に優秀な人が、世界、社会を巻き込んだ大きなミッションを成し遂げたいと願うのならば、最終的にはスケールの大きな環境で活躍できるようになって欲しいと思います。

だって、小さいままの集団では決して起こせないような大きな変化を、「社員稼業」を掲げるような巨大集団ならば起こすことができるんですから。

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「日野田節」が聞こえなくなって知った、ミッションドリブンの真の価値

ここまでの取材の中でも、「走る巨人」「青い理想をどす黒く実行」というように、ユニークな山本語録が登場してきたが、さらにもう1つ「日野田節(ひのだぶし)」というワードが登場する。

山本日野田がいた頃、定例会議では必ず15分から1時間に及ぶ演説をするのが常でした。当時はそれを「日野田節」と呼んでいました(笑)。

私はプロイエの現場で店長もやっていましたから、早く会議を終えて店に戻りたいのですが、とにかく「日野田節」が毎回始まってしまう。「おまえら、プロイエというものがどういうものかわかってるか?プロイエとはな……」というような本質論というか、概念を説くような講演が延々と続く中、正直「早く終わらないかな」と思っていました。

ところが日野田が引退した直後から、メンバー同士の連携や経営上の判断にブレが生じ始めたんです。そうなってから気づいたのは「日野田節」はすなわち、経営理念を語っていたのだということ。

売上の浮き沈みや、日々の営みの中で生まれる課題、そしてその解決策にばかり会議参加者の気持ちが振れている中で、日野田はパナソニックのそもそもの経営理念との照合を演説で行いながら、私たちの発想や姿勢からブレを取り除こうとしていたんだと気づかされたんです。

お客様のことを忘れ、社員たちが事業を数字だけで語ってしまいがちなところに、ミッションをくり返し語り、「お客様のところで何が起きているか?お客様のために何ができるのか?」という大切な視点を取り戻してくれていた。ミッションドリブンに業務を執行することがいかに重要か?ということに、日野田がいなくなってから皆が気づいたというわけです。

パナソニックの理念とは何かといえば、その代表格が創業者・松下幸之助氏が定めた七精神(「私たちの遵奉すべき精神」)。「日野田節」にも度々引用されたというし、今も全社員が週に1度は声に出して唱和するという。

「宗教みたいだ、と思われて引いてしまうかもしれませんが、現実のビジネスの最前線で、この七精神の価値観が本当に頻繁に役立っているんです」と山本氏。そして今は、ブランド・スローガンである“A Better Life, A Better World.” が加わって、パナソニックで働く人々の共通の価値観として浸透しているとのこと。

山本会社のブランド・スローガンが“A Better Life, A Better World.”なんです。これってよく考えたらすごく青臭いこと言ってるんですよね。でもパナソニックって、そういう青臭いことをどす黒く実行してきた集団だと思うんです。

古くは「水道哲学」とか、青い理想を実現するために、皆が泥臭くも本気で取り組んで実現してきました。ここまでお話をしてきたように、私には私なりの信念や志、つまりミッションがあって動いています。

「お客さんのことを1秒でも考えたか?」と日野田に言われ、頭をかち割られて以来、とことん「お客さんのために、社会のために」と思って働いているわけですが、結局それは七精神や“A Better Life, A Better World.”がベースになっている。

パナソニックは、色んな事業を行うカンパニーや事業部が集合した、いわば「無数の中小企業が集合した合衆国」のようなもので、皆それぞれに違う信念を持って、違う仕事に取り組んでいます。

だけど、根底にはパナソニックとしての共通の価値観があって、同じ方向を向いているんですよね。ミッションドリブンな会社だからこそ、僕も青臭いことに本気で取り組めるんだと思います。

日野田節を行う日野田氏
提供:パナソニック株式会社

かつて、集団としてのミッションを唱え続けてきた「日野田節」が聞こえなくなった途端、業績や経営判断にブレが生じた経験を持つだけに、山本氏は経営理念やブランド・スローガンをただのお題目だとは捉えていない。

大企業だからこそ、最終的にどこへ向かっていくのかを指し示す指標や、そこでこだわるべき価値観や精神性を共有すべき。そして、このような共有があるからこそ、個々のプレイヤーに独自の志やミッションも生まれてくるのではないか、という。それゆえに、就職活動をしている学生たちが声高に「私には志があります」と言い切る様子を見ると驚くのだともいう。

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就活生にウソはついてほしくない。働く上でのミッションは、働いてから見つけられる

山本最初に言った通り、学生時代の私には高潔な志だのミッションだのはまったくありませんでした(笑)。そんな自分を基準にしてものを言うつもりはないんですが、今の学生たちが「私には夢があります」「こうやって社会貢献したいです」と語っている姿に遭遇すると、正直なところ違和感を覚えたり「ほんまかいな」と思うときがあります。

誤解しないでほしいのですが、そういうのを悪いことだと思っているわけではないんです。でも、例えば私もプロジェクトへの参加を機にやりがいを感じ、プロイエを始める時などは、「こうあるべきだ」という理想を思い描きましたが、結局それは妄想でしかなかったことを思い知らされました。

まだ何も行動をしていないのだから当然です。やっぱり確固たる信念みたいなものは、事業を実行に移してみて、失敗やら悔しい思いやらを体験した後、お客様から「本当にこういうサービスがあって良かったです」というような声を聞くようになって、初めて徐々に手に入るものだと思うんです。

ですから、もしも「私には志があります」というセリフを、内定獲得のために、多少でも背伸びしているなあと思いながら言っているのだとしたら、「少なくともパナソニックでは無理せんとき」と言いたいですね(笑)。

むしろ就活をしている人たちに伝えたいのは、実務経験を重ねていく中で本物の志が芽生えた時、それを聞き入れてくれる会社なのかどうかを見定めてほしいな、ということです。

「走る巨人」との出会いから「青い理想をどす黒く実行する」ことの難しさと面白味とを知り、巨大かつ、様々な想いが交錯する中で自分流のミッションを遂行することに喜びを感じ、その根底にあるのが全社員で共有するミッションなのだと気づいた山本氏である。

そこで、最後に聞いておきたいのは、「もともと崇高な志がなかった学生でも、仕事をしていく途上で自分流のミッションを見つけることができるのだとしたら、どんな姿勢で働けば良いのか」だ。

パナソニックとは違う場であっても、日野田氏のような「巨人」とまだ出会えていない者でも、ミッションを見つけ、ミッションドリブンに働くことはできるのだろうか? 最後の質問として投げかけると、山本氏はまた怒濤のごとく答えてくれた。

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若いうちは私欲なく働け。大きな組織を動かすコツは、「本質を見極め、ルールを変えられる側に回ること」

山本端的に言いたいのは「若いうちにはお金ではなくクレジットを貯めろ」ということです。若い時は、お金も権威も人事権も、何も持っていません。ただし唯一持てるものが青い魂です。

「間違っているかもしれないけど、こうすべきなんじゃないか」という想いを発信していけば、それに共感してくれる人が集まってくる。否定されたり、叩かれたりしながらでも、私心なく青い魂に従って行動していくと、周囲からのクレジット、つまり一定の信用が貯まっていきます。

つまり、自分の力では大したことが出来ない若い年代でも、社内に応援してくれる人の存在が増えていけば、その人から得た信用で、何かを動かしたりできるようになる。どれだけクレジットを集められるかによって、やれる仕事が変わってくるということです。

じゃあどうすればいいかといえば、オフィシャルな仕事以外の下働きをせっせと進んでやること。ただ闇雲にやるのではなく、自分が共感できる青い魂を持った巨人の下働きを、私心無く、使命感を持ってやる。これって大企業の醍醐味だと思います。

それこそ“巨人”がうようよいる巨大な組織ならば、その方を起点として、社内外の“巨人”ともクレジットも貯めやすい。小さな組織では、そうもいかないのではないでしょうか。

もう1つは、新しいチャレンジをしたいときは、ルールと運用の違いを理解して行動しましょう、ということ。青い理想論を言うのは結構なんですが、例えばサッカーのルールを知らずに試合に出て、ボールを手で持ってゴールに投げ込んだって、得点にはなりませんよね。

どんな会社にいようと、どんなビジネスを手がけようと、そこには必ず最低限のルールがあるんですから、青いことばかり言っていないで、きちんと勉強して、ルールに則って得点を上げられるようになる。でもその一方で、単なる運用が長年の間にルールの様になっているときがあります。

「そんなことしては駄目だ、ルールで決まっている。」と言われて、よく調べてみたら、ルールでも何でも無くて、単にその部署の運用ではそうなっていたということがよくあります。調べてみると意外とルールで縛られていることってそんなに多くないんです。

なので、最低限守らなければ行けないルールを認識した上で、運用でどう逃げるか、運用をどうやって変えていくか、といった考え方で行動するのが良いと思います。

その結果として、最終的にはルールを変えたり、作ったりする側の人間になるのが理想です。しかしこれも組織内で信用と実績の蓄積ができてこそ実現できることだと思うので、まずはルールと運用の違いを理解して、運用でどこまでミッション実現のためにやりたいことができるのか、始めてみるのがいいと思います。

何度も繰り返すが、こうして就活生にアドバイスをくれている山本氏も、元意識低い系学生だった。その彼が今の姿に変わった要因は2つ。1つは、日野田氏という良い師匠・メンターと出会えたこと。もう1つは、働きながらミッションを見つけられた瞬間に、それを応援してくれる仲間と環境に囲まれていたこと。

今回は、「どうやって大きな組織の中でミッションを実現させていくか?」について語っていただいたが、「読者に安心してほしいのは、いま「ミッション」が無くても焦らなくていいよ、ということだ。

上司・先輩・会社のせいにせず、私心なく何事にもチャレンジし続けた結果、いつしか自然と見つかるもの。それが「ミッション」なんだから。

[文]森川 直樹
[撮影]花井 智子

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