100億円の事業づくりに必要な7つのこと──ラクスル式・新規事業立ち上げの流儀を、アパレル事業オーナー丸山氏に訊く

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インタビュイー
丸山 諒

早稲田大学卒業後、2008年ミスミに入社。5年間営業に携わった後、事業開発に異動してパートナー開拓/事業戦略立案・実行/海外現地法人の事業立ち上げなどに従事。2018年ラクスルに入社。印刷事業のSCM部長としてサプライチェーンマネジメントや自動最適発注のアルゴリズム開発PJを推進。2020年ノベルティ事業のYoY400%成長に携わった後、2021年アパレル・ユニフォーム事業を立ち上げる。2023年8月よりノベルティ・アパレル両事業の事業統括(Vice President)に就任。

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2022年5月、ラクスルから印刷事業領域の新たなプロダクトが生まれた。それが『ラクスル アパレル・ユニフォーム』だ。ロゴや企業名などを入れたオリジナルウェアの制作、販売を印刷ECサイト『ラクスル』のプラットフォーム上で展開している。

ラクスルは、印刷事業以外にも、物流や広告などの分野で事業ポートフォリオを広げていることは言うまでもない。また、印刷事業から拡張したサービスとしては『ノベルティ事業』が有名だ。そして、このアパレル・ユニフォーム事業もノベルティ事業と同様に、『ラクスル』のサービスラインナップとして立ち上げられた事業なのだ。

このアパレル・ユニフォーム事業を牽引するのは、今回取材を実施した、アパレル・ユニフォーム事業部の事業責任者、丸山 諒氏。彼は2018年に大手精密機械部品メーカー・専門商社のミスミからラクスルに入社し、印刷事業の自動最適発注のアルゴリズム開発や、ノベルティ事業のグロースに携わってきた。

一見、既存の印刷事業からすると「そこ?」とも思えるアパレル領域。なぜ、丸山氏はラクスルの印刷事業の中で、法人向けのアパレル・ユニフォーム市場に狙いを定めたのだろうか? そして、そこにはどのような勝ち筋が見えているのだろうか?

当該事業において事業責任者兼BizDevとして活躍する丸山氏の取材を通じて、アパレル・ユニフォーム事業の立ち上げ背景や勝ち筋、またラクスルだからこそ味わえる、新規事業立ち上げの妙味について漏れなく語ってもらった。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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市場規模4,000億円。
アパレル・ユニフォーム市場に変革の波を起こす

2021年4月。丸山氏は、社内のプロジェクト審議会で、現・会長の松本 恭攝氏を前に、アパレル事業のプレゼンテーションを行っていた。ラクスルにおける、新規事業としての提案だ。

丸山当時私はノベルティ事業に携わっており、商品の1つとしてTシャツも取り扱っていたのですが、顧客の注文データを見ているとTシャツに企業名やロゴマークを印刷する依頼が多くありました。ノベルティ事業は元々イベントなどで外部に配るニーズを想定したサービスでしたが、これは明らかに外部に配るものではない。実際に尋ねてみると、そのTシャツは飲食店や福祉施設などで従業員の方が着用するユニフォームとして使用するものだということがわかりました。

思い返すと、前職では多くの工場を訪れる機会があり、そこで働く従業員の方々が着用している作業着には社名が刺繍されていることがほとんどでした。これをきっかけに、世の中には社名やロゴを印刷・刺繍したユニフォームを必要とする人が多いことに気づきました。

そこから業界についての調査を進め、そこには大きな市場があり、アナログな世界が多く残っていることが分かりました。デジタル化が進んでいない産業を変革し、世界をより良くするのがラクスルのビジョンですので、これはラクスルとして関わる価値がある。そう判断し、新たな事業として事業計画をまとめ、提案しました。

2020年以降、丸山氏はノベルティ事業に携わる傍らで、新規事業の可能性を模索していた。これまでアパレル業界と縁はなかったというが、偶然、目に留まった「Tシャツ」がきっかけとなり、新規事業の立ち上げに至ったのだ。

丸山例えば、『ラクスル』でチラシ印刷を注文した飲食店の方は、業務においてコックコートやエプロンなどのユニフォームも必要としています。つまり、既存の印刷事業の顧客と、アパレル事業の顧客は一部共通しており、クロスセルの機会を生み出すことができます。

加えて、ユニフォーム代は“福利厚生費”扱いとなり、“広告宣伝費”となるチラシや販促物とは予算の種類が異なります。つまり、顧客企業内では広告宣伝費とは別途、ユニフォーム代の予算が設けられるため、顧客1社当たりからより多くの利益を生み出すことが可能です。

これは、ラクスルが重視する1ユーザーあたりの平均的な収益・売上を算出する指標:ARPU(Average Revenue Per User)の向上にも繋がるため、ビジネス的にも経済合理性の高い事業モデルとなっていると考えています。

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「顧客の課題は何か?」という問いで気づく、顧客解像度の伸び代

既存のラクスル印刷事業とのシナジーも期待できるアパレル事業。2021年当時、丸山氏から社内のプロジェクト審議会でプレゼンを受けたラクスルグループの経営陣は、この事業構想に対しどのような反応を示したのだろうか?

丸山初回の審議会において、私はアパレル・ユニフォーム市場の動向や既存のプレイヤーについて入念に調査して臨みました。しかし現・会長の松本から受けたのは「この市場の顧客は具体的に何に悩んでいるんですか?何が課題となっているのでしょうか?」という指摘でした。松本がいつもこだわるのはN=1の解像度です。その時点の私は顧客に対する解像度が圧倒的に不足していました。

それからは徹底的に顧客のことを知るべく、アンケートやインタビューを実施し、自分の仮説に間違いがないことを顧客の声から証明していきました。こうした地道な取り組みを重ねた結果、正式にラクスルの経営陣から承認を得ることができました。

経営陣とのディスカッションを重ね、2021年8月に印刷事業本部内にアパレル部門を設立。そして2022年5月に本格リリースとなった。ちなみに、丸山氏はこの一連の事業立ち上げをすべて「既存業務の合間に」行っていたことも付け加えておく。事業を自分ごととして捉える、コミットするとはこういうことを言うのだろう。

ここで、アパレルのユニフォーム市場概況について簡単に説明しよう。アパレル・ユニフォーム領域の市場規模は約4,000億円にのぼる。この市場を構成する内訳は、8割が訪問営業によるオフライン販売で成り立っており、1割が主に地方でチェーン展開している企業群によるもの。そして残る1割がECサイト上で成り立っているといった状況だ。

toCのファッションも含めたアパレル全体の市場で見れば、ECサイトの導入は急速に普及してきている。しかし、法人向けのユニフォームはいまだ対面販売やカタログ発注が主流。顧客は、年に2回ほどユニフォームメーカーから発行される分厚い電話帳のようなカタログから、希望する商品を選ぶ必要がある。

また、メーカーごとにカタログが分かれているため、A社の商品とB社の商品を比較して何が違うのかを調べたり、特定の機能を持つ商品をメーカー横断で探すといったことが難しい仕様となっている。

つまり、普段Amazonや楽天などのECを使いこなしている人が、仕事で業務用ユニフォームの購入となると、何度もカタログのページをめくりながら、欲しい仕様に合致する商品を見つけなければならないといった手間が生じていたのだ。 

                  

丸山基本的に、飲食店や医療施設、工事現場で働く従業員の方々は、日中慌ただしく働いています。そのため、利便性や生産性の観点で言えば、日中に対応せざるを得ない対面販売や電話商談よりも、好きなタイミングで場所も問わずに購買できるECサイトの方が圧倒的に好まれるはずです。

そこで我々は、紙のカタログから商品情報を一つひとつ『ラクスル アパレル・ユニフォーム』のデータベースに取り込むことで、膨大な商品群から条件に基づいて商品を絞り込める“ファセット検索”を導入します。これにより、ブランド、性別、価格、業種、機能などの条件から自由に商品を絞り込めるようになりました。さらに、ユニフォームに刺繍する企業ロゴや社名文字の加工を行う際に、サイト画面上で完成イメージを確認できる仕組みも構築していきました。

正直、ファセット検索は消費者向け(to C)のファッション系ECサイトであれば当たり前の機能かもしれません。しかし、法人向けのアパレル・ユニフォーム市場では、長年にわたりアナログな商慣習が主流であったため、これらの機能はラクスルが業界に先立って導入する結果となりました。

法人向けのアパレル・ユニフォーム市場というレガシー産業に切り込み、テクノロジーを用いて市場を変革していく。まさに、ラクスルが掲げる「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを体現する試みではなかろうか。

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既存のラクスル事業とは似て非なる、「飛び地」的な事業モデル

2021年にアパレル・ユニフォーム事業を立ち上げてから2年。売上目標は上回り、急成長を続けている。

取材陣が「順調ですね」と声をかけると、丸山氏は「まだまだ、競合他社と比べると規模は小さい。これからですね」と返す。ラクスルCOO・福島 広造氏からは「丸山さん、早く売上100億円を達成してください。産業の変革を実現するには、そこからが本番ですよ」と、背中を押されていることを明かしてくれた。

既存の印刷事業と、新たなアパレル・ユニフォーム事業。サービス上の違いは理解できるが、事業を推進する上ではどんな違いがあるのだろか?

丸山先ほど、アパレル・ユニフォーム事業の顧客基盤は印刷事業と一部共通しているとお伝えしましたが、同じ印刷カテゴリとはいえ、紙とモノへの印刷では制作仕様や製造工程が異なります。

さらに、同じモノへの印刷と言っても、針と糸を使ってデザインを縫い付ける「刺繍印刷」と、インクを使う「シルクスクリーン印刷」、熱とシートを使う「転写印刷」など、印刷仕様によっても、用いる技術が変わります。そのため、ここでも製造工程が分岐してくるといった複雑性を持っています。

顧客側の基盤は印刷事業と一部共通してるとはいえ、実際にユニフォームの製造を行うパートナー企業側に関しては、新たに開拓していく必要があるからです。そこはなかなかタフなミッションでしたね(笑)。

ラクスルが保持する、既存の印刷事業から活用できるアセットはごくわずか。これはつまり、「ラクスルの印刷領域から新カテゴリの事業が誕生した」というレベルの話ではない。ビジネスモデルさえ既存の印刷事業を踏襲しつつも、まったく新たな事業をゼロから立ち上げたと言えるのではないだろうか。

「ゼロからのパートナー企業開拓はタフだった……」と笑みをこぼす丸山氏だが、実はその表情の裏には綿密な算段を忍ばせていた。彼は新たなパートナー企業の開拓が必要になることを予測して、前述の審議会での提案と並行しながら、ユニフォームメーカーや印刷工場との提携に向けて動き出していたのだ。こうした抜け目のない迅速な立ち回りから、事業家・丸山氏のプロフェッショナリズムが見えてくる。

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前職では不要だったマーケティングに対しても、自ら手を動かし、学ぶことで、事業価値の創出につなげる

既存のアセットに依存せず、力強く事業を立ち上げ推進している丸山氏。本人は「まだまだこれからです」と応えるものの、ここまでの流れを汲めば読者には「好調」と映りそうだ。

そんな丸山氏が、ゼロからアパレル事業を立ち上げる中で苦労したことはなんだったのだろうか?

丸山それは、「マーケティング」ですね。今回、私はラクスルのアパレル・ユニフォーム事業で初めて、本格的にマーケティングに携わることになりました。

前職のミスミは、精密機械部品を取り扱うメーカー・専門商社として製造業界で高い認知度を持っており、Amazonのように新商品を自社のECサイトに掲載しておくだけで次々と売れていきました。すなわち、マーケティング要らずの状態だったんですね。

その時は、大手企業のネームバリューのおかげで恵まれた環境にいることに気づいていませんでした。

丸山しかし、ミスミを飛び出し、ラクスルでゼロから事業を立ち上げる中で、初めて「顧客に選ばれるブランド構築」の難しさを痛感しました。特に、『ラクスル アパレル・ユニフォーム』のプレリリースを出してから半年間はサプライチェーンや社内オペレーションの構築に注力していたため、マーケティングの施策が後手になっていたんです。

そこからどうすればもっと集客を加速させることができるのかと悩み抜いた結果、単にWeb広告を出してリーチを稼ぐというよりも、「プロダクトを顧客にとって価値ある魅力的なものに磨き上げ、世の中に広めることが重要だ」という考えに至りました。そこからは、プロダクトのUX/UIの改善にも注力し、先ほどお伝えしたような利便性の高い検索機能の実装や、印刷プレビュー画面の実装などを行っていきました。

結果、今では『ラクスル』のサービスラインナップである印刷・ノベルティ・ダンボールなどの自社プラットフォーム外からも、『ラクスル アパレル・ユニフォーム』に流入してくださる顧客が増えています。

マーケティングとサプライチェーン、この二つのレバー(変数)を強く握り、状況に合わせてそれぞれを動かしていく。確かに前職では味わえなかった経験だろう。こうした環境下で事業を推進する中に、丸山氏の事業家としての能力は着実に引き上げられていった。

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事業立ち上げ期において、「生産性の高さ」や「事業拡大」という言葉は不要だ

一方で、アパレル・ユニフォーム事業の立ち上げ前は、丸山氏やチームメンバーともども、ラクスルにおける既存事業で数十億円~数百億円規模の事業に携わってきた経緯がある。となると、当然ながらゼロからの事業立ち上げに挑む際は持つべき視点やマインドなどにおいて様々なギャップが生じてきそうではあるが──。

丸山既存事業と新規事業では事業推進のプロセスやアプローチがまったく異なり、馴染むまでに苦労しましたね……。

ラクスルの印刷事業では、事業規模が大きくなればなるほど、「生産性の高さ」や「拡張性」といったワードが頻繁に社内で出てきます。これらは、成長過程の事業をより非連続な形でグロースさせるには必要不可欠な要素です。

一方、ゼロから事業を立ち上げる際には、異なる要素が最重視されると思います。それは、「提供価値の確立」です。

丸山自分たちが提供するサービスが、顧客にとって価値のあるサービスとして捉えられているのかどうかという点ですね。事業を推進する上で、売上や生産性の追求ももちろん重要ではありますが、それはしっかりと顧客から価値を感じてもらえるようになってから追っていけば良いと思っています。

ですので、ゼロイチの事業フェーズにおいては、目の前の顧客、たった一人を満足させられずに「生産性の高さ」や「拡張性」を主張することは無意味だと思っています。つまり、事業を推進する上で事業家が核に据えるべきポイントは、「事業の規模、フェーズによって変わる」のだと捉えています。

そうした視点から、アパレル・ユニフォーム事業では顧客理解を深めるために、カスタマーサポート(CS)とデスクトップパブリッシング(DTP*)のメンバーを自身の直属のチームに配属し、顧客からの要望やフィードバックに対して素早く改善対応できる体制を整えました。

*「DTP」とはデータ不備の有無を確認するポジションのこと

CSやDTPのメンバーを、「自身のチーム内」に配置する──。当事業立ち上げの提案時に松本氏からフィードバックを受けたように、実はここに丸山氏の「顧客理解」への深いこだわりがある。

ラクスルでは、CSやDTPのオペレーション部隊は特定の事業部には所属せず独立したポジションを保ち、各事業部からの要請に応じてリソースを提供するといったスタイルをとってきた。しかし、立ち上げ間もない事業部として、従来のスタイルではスピーディに顧客理解を深めていくことが難しいと判断し、自らの直属にCS・DTPチームを配置する意思決定を行ったのだ。

また、こうした点からも、アパレル・ユニフォーム事業は既存のラクスルの事業とは一線を画す存在であることが伝わるのではないだろうか。

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前職での成果は「先人たちの礎」ありき。
自分の力ではない

目まぐるしい速さで事業成長、自己成長を実現してきた丸山氏。ラクスルでこれだけの価値を創出しているのだから、前職のミスミにおいても高い実績を残してきたのだろう。

丸山ミスミには2008年から10年半在籍していましたが、前半5年間はセールス、後半の5年半は事業開発に従事しました。2010年には、製造業を中心とした顧客とサプライヤーをつなげるプラットフォーム『VONA』がスタートし、フィールドセールスやインサイドセールスのチームを立ち上げました。

その後、事業開発に異動してからは精密機械部品メーカーの新規開拓をはじめ、取引先とリアルタイムに在庫情報を連携し顧客に提示するシステム開発などにも携わりました。そしてミスミでのキャリアの後半ではインドネシアでの事業立ち上げにも参画し、開発したシステムを海外で展開するといったグローバルな事業推進も経験させてもらいました。

事業立ち上げに海外展開、人によっては文句のない環境が得られているようにも見えるが、なぜそこからスタートアップのラクスルへと移ろうと考えたのだろうか。

丸山一言で言えば、自分のアウトプットをよりダイレクトに社会に響かせたいと思ったからです。

2008年に入社した時点で、ミスミの売上は1,000億円ほどでした。そして、私が辞めた2018年には約3,000億円となり、企業として大きく成長しました。一方、私が入社時に惹かれたミスミの特徴は、経営者人材の育成を掲げる三枝匡さん(当時社長)が提示した、事業開発が商売の基本サイクルと言われる「創って作って売る」をワンセットで持つことと、それを可能にする「small is beautiful」という組織コンセプトです。

企業の成長を経験する一方、1人の事業家としては徐々にギャップを感じるようになりました。

「もっと自分自身の手で変革を起こせる、ダイナミックな挑戦がしたい」。

そんな想いを抱き、次の環境へ飛び出すことを決意しました。

企業の成長と共に、自身が成長できたことは素晴らしい経験だった。しかし、その裏には創業60年の歴史からなる、先人たちが築いた事業基盤がある。決して自身の力で成し遂げたわけではないという想いに、胸を張れずにいた。

「新たなチャレンジがしたい」「世の中にインパクトをもたらしたい」そんな思いを抱いている中、丸山氏の人生を動かしたのがラクスルとの出会いだった。

丸山ラクスルとの面談では、COOの福島や、現在上級執行役員 SVP of Raksulを務める渡邊から、ラクスルが目指す未来や事業についての話を聞きました。

「我々は、産業構造の変革を起こしていくんだ」──。

壮大な話を聞いて、「求めていたのはこれだ」とワクワクしたことを覚えています。また、ラクスルであれば、ミスミとビジネスモデルが類似している点もあり、これまで培ってきた経験を活かして新しいチャレンジができる、社会に対してインパクトを与えられると感じることができました。

ちなみに、ラクスルでは「ワークサンプルテスト」といって、選考中に社員と共に実際の業務に即した取り組みやディスカッションを行う機会があります。現在はオンラインが中心ですが、私が入社した2018年当時はまだ対面で行っていました。

そしてこのワークサンプルテストを実施するためにラクスルのオフィスに出向いたら、いきなり1時間半、業務ディスカッションの場に送り込まれました(笑)。そこでは自分には無かった視点で事業推進に関するフィードバックを頂けて、こうした刺激ある環境の中で挑戦していきたいと強く思いました。

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自動最適発注のアルゴリズム開発プロジェクトで、利益創出に貢献

2018年10月にラクスルに入社した丸山氏。入社当初、印刷事業部のSCM(サプライチェーン・マネジメント)を担うメンバーとして参画し、のちにSCM部長に昇進。2020年8月から1年間ノベルティ事業のグロースに携わり、2021年8月にアパレル事業の立ち上げを行っている。

その足取りを辿るだけでも、およそ1年単位というスピード感で着実に成長を遂げていることが分かる。

となると、おそらくアパレル・ユニフォーム事業を立ち上げる以前から、ラクスルの事業価値の向上に高く貢献してきたものと推察するが、実態はどうなのだろうか?

丸山一つ事例を挙げるとすると、印刷事業本部の「自動最適発注のアルゴリズム開発プロジェクト」ですね。これは年間で粗利が数億円上がり、ラクスルの利益創出に大きく貢献したプロジェクトです。

『ラクスル』の印刷工程は、さまざまな顧客が申し込んだ印刷物の注文データをプラットフォーム上で束ねて、ラクスルの印刷パートナー企業である工場へ発注して制作してもらうといった流れです。

その際、工場の印刷コストを削減できる最適な注文の組み合わせを、『ラクスル』内のアルゴリズムで自動探索して発注をかけるといったシステムを構築したんです。

このプロジェクトで私が担当したのは、「デジタル技術とリアル産業との接続」です。通常、アルゴリズムはインプットしたデジタルのデータをもとにアウトプットをしていくものですが、インプットするデータが印刷物のようにリアル産業のものとなると、さまざまな制約が生じます。

例えば、印刷を行う各工場によって機械の特性や構造、得意な印刷部数などが異なっていたり、そもそも稼働時間が異なっていたりします。もしくは急なトラブルにより工場のキャパシティが変更したりすることもしばしば。それぞれの工場現場にある制約条件を理解した上で、システムに落としていく必要がありました。

『ラクスル』のようにリアル産業と密接な連携を必要とするプロダクトの場合、色々な制約条件が存在し、インプットデータは常に変化する。注文する印刷物の種類や仕様、ボリューム、納期などが異なる中、提携先の工場の生産設備の状況や制約条件を細かく考慮し、注文を采配していく。なんと、難度の高い仕事だろうか。

このような可変性の高い条件下で仕組み化を構築するには、圧倒的な現場解像度がなければ実現することはできない。丸山氏が本プロジェクトの実現に向け、現場を駆けずり回ったことは想像に難くないだろう。

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丸山氏流、新規事業家人材に必要な7つの要素を公開

「顧客の課題解決」を自らの事業推進における“北極星”に据え、トライ&エラーを繰り返してきた丸山氏。その過程で得た経験には、事業家志望の読者や、新規事業立ち上げに挑む読者が学ぶべき貴重なエッセンスが含まれているに違いない。

そこで、FastGrowから丸山氏に向け、「(新規)事業家」を目指すにあたって押さえておくべきポイントについて、問いを投げかけた。すると同氏は、7つの要素を示した。

丸山氏が考える、新規事業家に必要な7つの要素

  1. 顧客の課題を言えること
  2. その要因を引き起こしている業界の課題を言えること
  3. その課題を、なぜ我々が解決できるか言えること
  4. その事業をやるべき理由を言えること(起業であれば投資家、社内起業であれば経営陣に)
  5. 自分だったら「この業界の未来を変えられる」と信じられること
  6. 自分の熱量をチームに伝播させられること
  7. 諦めずに、楽しめること

加えて、「新規事業は順調に進むことばかりではない。だからこそ、自分が知らないことに常に向き合い、学び続ける姿勢が大事だ」と丸山氏は述べる。

とはいえ、彼はもともと、アパレル領域で新規事業を立ち上げようとは考えていなかった。ところが、ラクスルに入社した後、印刷事業やノベルティ事業に携わっていく中で、アパレル・ユニフォーム領域における課題に気づくことができた。それが今の新規事業へとつながっているのだ。

ではそもそも、なぜその課題に気づくことができたのか。それはラクスルの行動指針の1つである、"Reality"(高解像度)を忠実に実践してきたからであろう。顧客の声を聞き、顧客の課題を特定し、顧客が価値を感じるプロダクトづくりを行う。この一連の取り組みを通じ、自身の中にRealityを醸成してきたからこそ、新たにアパレル・ユニフォーム事業を生み出すことができたのだ。

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新規事業立ち上げや、事業家を目指すならば、「実行強度」を持て

今回の丸山氏の取材を通じ、ラクスルで仕掛ける新規事業について興味が湧いてきた読者も多いことだろう。中には、「先々、自分もラクスルで新規事業の立ち上げに携わってみたい」と感じている読者も──。

そんな未来のラクスルにおける新規事業家候補たちに向けて、一足先を行く丸山氏の今後の事業構想を先取りしてみよう。

丸山今後は、提供する商品の価格や品揃え・納期といった「基本価値」の向上・差別化に力を入れていきます。

これまでアナログが主流だったアパレル・ユニフォーム市場において、我々のプロダクトは「サイト上で素早く自由に注文を完結させることができる」という革新的なプロダクトとして顧客に選ばれてきました。それが事業の立ち上げ期から実現できる唯一の差別化要素でもあったんです。

しかし、今後も長く顧客に選ばれ続けるためには、サービスの「基本価値」にも注力していかなければなりません。というのも、我々が提供しているサービスは、既存のオフライン・サービスと比べて購買体験が異なるだけで、購入できる商品自体には大きな差別化要素は存在していないからです。従って、商品では大きな差別化ができないからこそ、「ラクスルで購入したい」と思ってもらえる価値を提供することが大事になります。

サービス利用において、「利便性が高い」「コスパがいい」「信頼できる」など、人間の根源的な欲求や価値は、どんなに時代が変化しても変わらないと思います。なので、突飛なアイデアや一時的な話題性ではなく、こうした「基本価値」を追求しながら競争力を高めていきたいと考えています。

「あのAmazonだって、サービスの基本価値を高めるべく、いまだに物流に投資を続けていますよね」と丸山氏は言葉を重ねる。確かに、物流機能の生産性が向上すれば、ダイレクトに顧客満足度に跳ね返ってくる。Amazonが多くの顧客に選ばれる理由は、丸山氏が述べたような、人間の根源的な欲求に漏れなくアプローチできているからなのだろう。

「ポートフォリオカンパニー」のコンセプトを掲げ、多様な領域やフェーズの事業を生み出し、非連続に伸ばし続けるラクスル。今回、丸山氏がアパレル・ユニフォーム事業を立ち上げたように、同社では新たな事業創出に向けて積極的に事業家人材を募っている。そんなラクスルで活躍できる人物像とは?最後に丸山氏の見解を訊いた。

丸山ラクスルは、自ら考えてやり抜く人に対してチャンスや裁量が与えられていく環境を提供しています。ラクスルではこれを「実行強度」と呼んでいます。

失敗をするかしないかではなく、考え続けて実行し、やり抜くこと。その積み重ねが次の挑戦に活きる学びになります。

では、失敗とは何か。私は「答えが出る前に諦めてしまうこと」と定義します。愚直に努力を積み重ねていけば、どこかで結果につながります。先ほど、事業家人材として重要な7つの要素をお話ししましたが、その中でも述べたように、結局、地道に諦めず、楽しみながら物事に取り組める人が成果を出せるのだと思います。

至極当たり前のことしか言っていないような気がしますが(笑)、結局は熱量を持って泥臭くやり切れる、実行力を持った人が事業家として活躍できるのだと思います。

「やり切れ。実行強度を高めよ」。

極めてシンプル、そして力強いメッセージ。今回、丸山氏のアパレル・ユニフォーム事業の立ち上げからグロースの舞台裏の紹介を通じ、ラクスルの新規事業立ち上げの魅力が伝わったかと思う。

今後も引き続き事業ポートフォリオの拡大を指向するラクスルでは、まだ見ぬ変革者たちの挑戦を歓迎している。次にラクスルの新規事業を担う人材は、今この記事を読んでいる、君自身かもしれない。

こちらの記事は2023年07月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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