国内DX人材のレベルが低い、構造的な理由──MBOから再上場を果たしたシンプレクス金子が見出した「新卒人材育成」という高収益・高成長を維持する経営スタイルの全貌

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金子 英樹

1987年 一橋大学法学部 卒業、同年アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)に入社。外資系ベンチャーを経て、1991年 ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ証券)に入社。1997年 ソロモン・ブラザーズ時代のチームメンバーとともに独立し、シンプレクスの前身であるシンプレクス・リスク・マネジメントを創業。2016年 単独株式移転により、シンプレクスの持株会社としてシンプレクス・ホールディングスを設立。

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コンサルティング、システム設計、開発、運用保守まで、すべて自社内で完結させる一気通貫のビジネスモデルによって、IT業界内に独自の地位を築き上げたシンプレクス。

2021年には再上場を果たし、DX領域に特化したコンサルティングファーム・Xspear Consulting(クロスピア コンサルティング、以下クロスピア)を立ち上げるなど、その勢いは創業から25年経った今も衰えるどころか、さらに増すばかりだ。

昨今、一気通貫の支援やDXコンサルティングを謳う企業は少なくないが、シンプレクスが放つ輝きには、他の追随を許さない圧倒的なものがある。

他の会社にはない、シンプレクス独自の強みとは何なのか。再上場・クロスピア創設の先に、同社が目指している社会とは。シンプレクスの創業者にしてCEOを務める金子英樹氏に、同社の強みとポジショニング、今後のビジョンについて伺った。

  • TEXT BY MARIKO FUJITA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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国内トップブランドとしてポジション獲得も、もう一段のブレイクスルーを目指してMBO

「上場」は必ずしも、絶対的な価値ではない。しかし、企業がどのようなフェーズにあるのかを判断するうえでは、重要な参考指標となる。

1997年に創業したシンプレクスは、2002年にJASDAQ市場に初上場。その後、2004年に東証二部、2005年に東証一部に上場と、破竹の勢いの急成長ぶりを見せつけた。

しかしながら、2013年にMBOによって上場を廃止。8年間の非上場期間を経て、2021年9月に再上場を果たした。

そもそもなぜシンプレクスは上場廃止を決意したのか。金子氏は、その真意について次のように振り返る。

金子最初に上場したときというのは、キャピタルマーケットという、トレーディングやリスクマネジメント関連など、証券会社の収益の柱となる領域に特化して支援を行っていたんですね。

しかしいざ、そこでNo.1のシェアをとってしまうと、売上は百数十億円ぐらいで止まりました。領域があまりにニッチだったために「シンプレクス=金融フロンティア*」のイメージが定着してしまい、他の領域の依頼がこなかったからです。

*金融機関のフロントオフィスにおけるトレーディング等の収益業務及びリスク管理業務等をテクノロジーの側面から支援する領域。シンプレクスグループ内の造語。

でも、「自分たちのケイパビリティはこんなもんじゃない、もっと広いはずだ」と思っていました。そこで、当時シンプレクスの中でも最前線で活躍していたメンバーで、クライアントの事業成長に対するコンサルティング色を強めたセールス組織を組成しました。

金子具体的には、メガバンクやネット証券大手に対し、向こう3〜5年の事業成長を実現するロードマップを描かせてほしいと提案しました。もちろん、システムの上流~下流まで全て自分たちで行うと。

一旦シンプレクスとしての売上を犠牲にしてでも、自分たちのケイパビリティを世に知らしめることに注力したんです。

「何なら無料でも良い。御社の5年間のロードマップを描かせてくれ」──。しかし、そんな尖ったセールス手法は、上場企業では採用できない。しかし、金子氏の意志はとまらない。さらなるブレイクスルーを目指すには、MBOの実施と思い切った戦略が必要だった。

一度は売上を下げることも覚悟のうえだったが、金子氏の蒔いた種は思いのほか早く花開き、上場廃止からすぐに売上は上向きに転じる。このタイミングでもう一度上場をするという選択肢もあったが、シンプレクスはそうしなかった。これまでの成長を振り返り、自分たちの強みを見つめ直す中で、「自分たちのケイパビリティは、別の領域でも活きるはずだ」と、そう確信したからである。

それまで手掛けてきたトレーディング・リスク管理システムとは違う新規事業として、ネット生保の草分け的な存在であるライフネット生命の開発案件を皮切りに保険領域に参入。フロントシステムから開始し、現在は基幹システムにも幅を広げている(下記の図のグラフ参照)。そのほか、暗号資産取引システムにも早期に着手し、デファクトスタンダードの地位を確立した。こうしてシンプレクスは、ブレイクスルーを成し遂げたのだ。

シンプレクス・ホールディングス株式会社 2023年3月期 第3四半期 決算説明資料より引用

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他社のSIerが妬むほど、クライアントを惚れさせ、案件を獲得する

ではその、シンプレクス独自の強みとは何なのか。

一つは同社が「Simplex Way」と呼ぶ、コンサルティングからシステム設計、開発、運用保守に至るまでの全フェーズを、一気通貫で支援するビジネスモデルである。

IT業界においては、上流の戦略策定はコンサルティング会社、システム設計ならSIer、開発や運用保守はSIerの下請けや孫請け会社と、それぞれを分業で担うのが一般的であり、すべてのフェーズを1社で請け負うような会社はほとんどない。

一方、シンプレクスは、前述したようなコンサルティング・システム設計・開発・運用保守までの全工程をワンチームで支援する。

上流でビジネスを語った人がシステムをつくり、その後の運用まで見届けるからこそ、目的(事業成長)と手段(開発・運用)に一貫性を持って、プロジェクトを完遂することができる。すなわち、「絵に描いた餅」で終わらない支援が可能になり、それがユーザーからの圧倒的な評価につながっていると、金子氏はその価値について語る。

金子“普通の会社”だったら、クライアントときちんと合意した機能を持つシステムがつくれて、障害が起きなければ、それで成功なんですよ。

でも、僕たちの場合は、仮に障害が起きていなくても、最初に語ったビジネスの目的──例えば売上、利益の増加、障害発生率の低下など──が達成されていなければ、プロジェクトは失敗だと捉えています。

もちろん、中にはプロジェクト初期の目的を達成できなかったこともあります。2年かけてシステムをつくったら、その間にマーケットが変わることもありますし、実際にユーザーがシステムを使っているところを見て、最初の仮説が間違っていたことに気づくこともある。

僕たちの本質は、そうしたイレギュラーな結果になったときに、すぐに軌道修正して次の提案をし、プロジェクトの目的を達成するまで迅速に改善を重ねられることにあります。このサイクルを常にくるくると回しているのが、シンプレクスの特徴であり強みですね。

金子最初に戦略を語った人が、その後、現場で運用するところまで伴走して、本当にそのシステムがクライアントのビジネスの役に立っているかまで考えてくれる会社は、シンプレクスを除いて他にないですよ。だからこそ、クライアントにもユーザーにもめちゃくちゃ刺さるんです。正直、ここまでやるとSIerには嫌われるんですけどね(笑)。

上流から下流まで一気通貫でやるからこそ、クライアントの事業を成長させる、クライアントのビジネスにとって真に役立つ、本質的な支援が可能となる。そのことに疑問の余地はないだろう。

だからこそ最近では、「一気通貫のDX支援」を謳うコンサルティングファームも増えてきた。

しかし金子氏は、「実際にそれがうまく機能している会社はほとんどない」と斬り捨てる。

金子資本を大きく持ったSIerが、独立系のコンサルティングファームや、外資系コンサルティングファームの日本支社を買ってコンサルティング・ディビジョンを持つという動きは、たしかにあります。

でも、これは大抵の場合うまく機能していません。なぜかというと、コンサルティングをする人とその後テクノロジーでシステムをつくる人とでは、会社も違うし給与制度も違う。人事交流しようにもカルチャーがまったく異なるので、結局うまく交わらないんです。

表面的に同じ会社として合併し、くっついても、中身が違いすぎて融合することはない、ということなのだろう。

一方で、シンプレクスでは、組織の論理に消耗することなく、一気通貫の支援を提供し、クライアントのビジネスの成功にコミットできているときく。

それを象徴するように、本連載の1記事目では、尖った優秀人材たちが互いの才能を認め合い、チームでコトに向き合うスタンスが描かれた。こうした一気通貫スタイル、なぜ他社では実現が難しく、シンプレクスでは成し得ているのだろうか。

一つの理由は、シンプレクスが、「コンサルティング会社」と「事業会社」の両方のDNAを併せ持つからであると、金子氏は自社の創業メンバーのバックボーンを語り始めた。

金子もともと僕ら創業メンバーは、外資系のコンサルティングファームからキャリアをスタートしていて。そういう意味でいうと、シンプレクスはコンサルティングファームのDNAを持ってるんです。だから今も、カルチャーは極めてコンサルティングファームに近い。

続いて、そのあとも創業メンバーはみな外資系の金融機関、つまり事業会社で働いた経験がある。特に外資系の金融機関というのは、自分たちのつくったシステムで自分の会社のビジネスを強くして、はじめて給料やボーナスがもらえるという世界なんです。

コンサルティングファームの魂と、事業会社の「この事業を成功させなきゃメシが食っていけない」という環境で培った、当事者としての責任感。この二面性が組織全体と、メンバー一人ひとりの中に備わっているからこそ、シンプレクスは勝ち続けられているのだと思います。

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学生のレベルが上がっているから、採用数は「もちろん増える」。
再上場後の飛躍を見据え、新卒採用は拡大フェーズへ

金子氏を含む創業メンバーらが、キャリアの中で後天的にテクノロジーの知識を獲得してきたからこそ、シンプレクスでは入社時点でのITの知識は一切問われない。

コンピュータサイエンスやプログラミングに触れた経験がまったくなくても、地頭の良さとモチベーションを持ち、正しい方向に努力をすれば、誰でもITのプロフェッショナルを目指せる——。そんな信念のもとシンプレクスでは、2002年の最初の上場以来、並々ならぬ情熱を持って新卒採用と育成に力を入れてきた。(過去にはFastGrowでも採用イベントに登壇し、弁を振るったことも。その時の記事はコチラ

もちろん学部学科は関係ない。これもまた、理系出身が前提となりがちなIT業界の採用シーンにおいて、異色なスタンスと言えるだろう。

なぜシンプレクスは、即戦力になりそうな中途や理系出身者ではなく、オープンな新卒採用にそこまで力を入れるのか。その背景には「優秀な人材が流入しづらいIT業界において、とにかくポテンシャルのある人を採用したい」という強い想いがあったという。

金子たとえば、マッキンゼーでもリクルートでも電通でも、どこでも受かるぐらいの優秀な学生がいたとしましょう。この人が、これらの会社を蹴ってまでIT業界の大手企業や著名SIerに入社することは、かつてはまずありませんでした。ブランド力もなければ、給与も低いからです。

元を辿ればIT業界は1960年代から存在していますが、少なくとも2000年代初期に至るまでの40年の間、最もポテンシャルのある人材がIT業界には流れ込んでこなかった。がゆえに、この業界には優秀な人が少ない。

つまり、「中途採用では一流の人材を招き入れることは不可能だ」と踏んで、新卒採用に賭けることにしたんです。「本当に優秀でポテンシャルのある人を、無理矢理この業界に引っ張ってきて育ててしまおう」とね。

その力の入れようは、すさまじかった。金子氏は自ら、年間60回もの採用イベントに登壇し、シンプレクスが目指している“高み”を、学生たちに何度も何度も、自分の言葉で伝えてきた。

「雨の日には学生が2人しか来なかったこともあった」が、めげることなく、“社長自ら学生のところまで出向くスタイル”の採用活動を続けた。

そんな、シンプレクスのような企業が徐々に台頭してきたことで、最近はIT業界全体にも変化が起きているという。

金子6〜7年前から、IT業界を志望する優秀な人の割合が増えてきたように感じます。FinTechベンチャーと言われる企業が増えてきて、バリュエーションで1,000億円の評価額がついたという事例も出てきたので、夢のある業界になっているんでしょうね。学生から根強い人気を誇るマスコミや商社に行くのと、IT業界に行く価値が、そこまで変わらなくなってきました。

優秀層の就職先として、IT業界が当たり前に選択肢に入るようになってきた。これは読者も身をもって感じているところではないだろうか。そんな外部変化を追い風に、ここ数年シンプレクスでは一気に採用数を増やし、2017年以降は毎年100人以上の新入社員を迎えている。その理由として大きな点は、さらなる成長に向けてアクセルを踏むためだ。

しかしここで、学生諸君はこう考えていることだろう。「毎年100人以上?流石に多いな。すでにシンプレクスは大組織となり、尖った優秀人材以外にも手を伸ばすようになったのか……」と。

しかしながら、採用数が増えたとはいえ、採用基準と入社後の環境の“厳しさ”は、今も昔も一切変わっていない。もう一度いう、「一切」だ。金子氏は今でも、丸4ヶ月間にわたる濃密な研修で新入社員の成長をウォッチしながら、組織の人数が増えても人材レベルを落とさないよう細心の注意を払っていると話す。

金子新入社員研修で知識0の状態の学生たちに金融工学を教え、そこからどれだけの速さで実務に使えるレベルまでキャッチアップできるか。その成長スピード、成長角度だけを見ています。

テストをしたときの平均点や点数の散らばり具合はどうなっているのか、下の方に残っている人が何割いて、標準偏差はどこにあるのか。そうしたデータがもう10何年分と揃っているので、シンプレクスに入ってくる人材レベルが落ちていたらすぐにわかります。

確かに、一般的には人材をたくさん採用しようとすると質を下げてでも数を確保しようとしてしまうものなので、「絶対にレベルを落とさない」ということは、人事も交えて常に意識していることですね。ですから私はきっと、人事からしたら厄介な存在でしょう(笑)。社内で誰よりも強く、新卒で採用した人材の質に目を光らせていますから。

「シンプレクスは組織が拡大して、以前ほど尖った優秀人材が減っているのでは?」。そんな疑問を抱き、金子氏に問うた我が身を恥じた。

ここまでシンプレクスの沿革や強みを伺う中で、妥協や中途半端といった言葉がもっとも当てはまらない人物であることは、十二分に伝わっていた。これまでも、そしてこれからもシンプレクスが勝ち続ける理由は、この「ヒト」にこそあるのだろう。

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金融、テクノロジー、コンサルティングへの興味など求めていない。
「一流」になりたいなら、ウチへ来い

もちろん、ポテンシャルのある優秀な人材を採用し、研修が終わればそれで終わり、というわけではない。新入社員たちは研修が終わった翌日には即戦力と見なされ、外資系コンサルティングファーム顔負けの“厳しい”環境にさらされ続ける。

そしてこの“厳しさ”──、徹底的に制度化された若手を成長させる仕組みにこそ、シンプレクスがビジネスパーソンから「優秀人材輩出企業」として名を馳せているゆえんがある。

とはいえ、なぜシンプレクスはこうも若手を徹底的に鍛え上げるのか。

金子氏は、「一流のビジネスパーソンを育てあげ、会社に再現性のある仕組みをつくるため」と、その狙いについて語る。

金子重要なのは金融やテクノロジーの知識をどれだけ持っているかではなく、ポテンシャルのある人材にうちでの仕事のやり方を身につけてもらうことで、どんな仕事でも確実に活躍できる人になってもらうことなんですよ。だから、金融やテクノロジー、なんならコンサルティングに特別な思い入れや興味がなくても構わない。もちろん、ITが好きでうちの会社に入ってきてくれる人もいますけどね。

僕のような経営者が常に考えているのは、「再現性のある仕組み」をつくることです。いつまでも僕がトップセールスで、事業戦略を考えていても、シンプレクスとして持続的な再現性は生み出せないじゃないですか。だから、その戦略を自分で考えられる人を育てて、正しく評価して、給与でも報いて、さらなるチャレンジをさせる。このことを最優先に考えているんです。

「20代社員にはやりたいことなど聞かない」と過去の取材記事にもあるとおり、多少乱暴でもビジネスパーソンとしての基礎を徹底的に叩き込む。その「金子節」なるスタイルは今も変わっていないが、最近では「産休・育休」や「時短」、「働き方選択」、「リモートワーク」といった制度の整備を積極的に推進している。

しかしながら、就職/転職口コミサイト上では激務とも噂されるシンプレクスで、こうした制度の活用が可能なのだろうか。単なる外部向けのパフォーマンスではないのか。この問いに対し金子氏は、「自分の決めた仕事の範囲に対して、ベストを尽くしてもらうことが重要だ」と、背景にある想いを語る。

金子厳しい環境に憧れて入社して、実際に成長を手にすることができたけれど、何かのきっかけで辞めてしまう人は何割かいます。「子どもとの時間を大切にしたい」とか「親の介護がある」とか、あるいは「自分自身の健康を害している」とか。僕らはこれまで、そうした声が聞こえてきたら、「18時に帰って子どもの面倒を見てやれ。その代わり、18時までは誰よりも必死に頑張れ」と、個別に対応してきました。

でも、もしかしたらそうした立場にあった社員が、自ら声を上げる前の段階で諦め、辞めていってしまったこともあるかもしれない。だったらそうした人たちに、会社としてのスタンスを積極的に伝えていこうよと。言われてから動くのではなく、会社側から歩み寄っていこう。そうした経緯で、制度改革を推進しています。

金子みんないろんな状況を背負っているわけだから、仕事に対してどれだけのエネルギーをかけられるかは人によって違って当たり前。幼稚園卒業までは子どもとしっかり向き合っていたいんだったら、それで構わない。人それぞれの人生だから。ただ、「ここまでは仕事にコミットする」と決めたら、その範囲内でベストは尽くしてほしいし、「ただ、ぬるくやりたい」って人はいらないんです。

「一流のビジネスパーソンを育て、シンプレクスに再現性ある仕組みをつくる」──。

そのためには当然、厳しい修行を課していく。そしてここで鍛え上げられたメンバーたちが100%集中して事業にコミットできるよう、ライフステージの変化に応じた環境整備は柔軟に対応していく。決して対外的なパフォーマンスのためではなく、「自分が経営の座を退いたとしても、シンプレクスには持続的に成長していってほしい」。そんな想いが根底にあるように思えてならない。

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絶対に負けない会社になりたい──再現性の高いBtoB領域で、「高収益・継続成長」を狙う

一気通貫の事業支援という独特のビジネスモデルと、創業から磨き続けてきた人を育てるための仕組み。この二つを武器に、シンプレクスは業界内のシェアを“もぎ取り続けて”事業を成長させてきた。

当然、他のSIerからは時に嫌われ、時に疎まれてきた。しかし金子氏はいたって冷静に、「嫌われ恨まれてなんぼである」と、我々がまさにイメージする金子氏どおりのコメントをくれた。

なぜなら、シンプレクスが戦うのは、何十年も前からビジネスが存在するレッドオーシャンだからだ。金子氏の言葉からは、この領域で、いやもっと広くビジネスという戦場で勝ち続けるために必要な、「勝利への飢え」「勝利への執念」がありありと感じられる。

金子何十年も前から存在するビジネスで僕らが案件を獲得するには、既存のSIerのシステムをリプレイスしなければなりません。他所のSIerから見たら、僕らなんか新興のITコンサルのくせに、どんどんとシェアを奪っていくからめちゃくちゃ疎ましい存在なんです。

シンプレクスの売上の伸びっていうのは、こうして一つずつ他社を引き剥がしていった歴史の上に成り立っています。逆に、自分たちのシステムが他の会社にリプレイスされたらこれは大問題。そうした事例は過去に数件しかないですが「あの会社とこの会社だな」と、僕は全て覚えています。これは必ず取り返しにいきますし、これまでも取り返してきました。あと1件取り返せば全て達成です(笑)。

サラリと言ってのける金子氏とは対極に、会議室に同席していた関係者はみな息を呑み、この目の前の男からほとばしるエネルギーに圧倒されていた。

しかしなぜシンプレクスは、より穏やかなブルーオーシャンを探そうとはせず、競争の激しいレッドオーシャンで真っ向勝負を挑むのか。ここでのキーワードもやはり「再現性」だ。金子氏は、「再現性の高いBtoBの領域で、確実に事業を成長させたいんだ」と述べる。

金子昔よく、「高い技術力を活かして、ゲーム(事業)の方にはいかないんですか?」と聞かれたんです。ゲームって、一つでも当たればめちゃくちゃ儲かりますからね。でも、ゲームはやりません。なぜなら僕は再現性がないと思っているからです。

ゲームをはじめとするBtoCの領域というのは、個人の好みやトレンドによって流行り廃りがコロコロ変わってしまうので、ロジカルに戦略を立てることができないんです。何度もヒットを経験した40代ベテランのゲームクリエイターが、大学を出たばかりの22歳の新人にアイデアで負ける、ということが普通にあり得る領域なんです。

でも、僕らのいるBtoBの領域では、そういう逆転劇はまず起きません。企業はなんとなくの好き嫌いではなく、ロジカルに考えて一番正しい選択をするからです。だからこそ、こちらとしてはニーズを読みやすく、事業の成長に再現性を持たせることが可能になるんです。

もちろん、偶然のヒットが起きづらいBtoB領域では、それだけ競争も熾烈なものとなる。金子氏のいう「再現性」も、途方もない努力と経験を蓄積した上ではじめて手に入るものであり、多くの会社は「再現性」が手に入る前の時点で努力することをやめてしまう。

誰もがやり切れない厳しい環境でやり切るからこそ、シンプレクスのひとり勝ちは可能になるのである。

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「日本企業のITリテラシー?はっきり言って低い」。
シンプレクスが日本のDXを加速させる

記事冒頭の話題に戻ろう。こうしたシンプレクスの強みは、金融以外の領域でも活きるのではないか──。他の領域においても、「再現性」があるのではないか。そんな仮説のもと2021年に立ち上げられたのが、DX支援に特化したコンサルティングファームのクロスピアだ。

同社では、一気通貫のビジネスモデルや“5DNA”というシンプレクスの思想をそのまま受け継ぎ、あらゆる産業における企業のDX支援を行っている。

シンプレクス・ホールディングス株式会社 2023年3月期 第3四半期 決算説明資料より引用

背景には、企業の意思決定層のITリテラシーが低く、DXが進んでいないことへの課題感があるという。

金子先ほどもお話したとおり、かつての日本のIT業界は長年賃金が安く、人気のない業界でした。大手企業の中でITに携わる人というと、当時は左遷だったわけです。その結果、今の日本の主要な大手企業の経営陣には、IT業界出身者がほとんどいませんよね。そのことが、30年間にも及ぶ日本の停滞を招いている。

そして、その経営陣たちはみんな自分にITリテラシーがないことはわかっているから、とりあえず「DX推進室」のようなものをつくって誰かに任せてしまう。でも、そんな付け焼き刃で上手くいくはずがない。重要なのは「DXすること」ではなく、「DXで何をやれば、事業を10倍伸ばせるのか」を考えることですから。

それを企業と一緒になって考えるのがクロスピア。あと10年もすれば世代交代が起こり、ITリテラシーのある30〜40代が経営の中心に入るようになるでしょう。でも、その変化をもっともっと早く起こしたい。DXを加速させることで、日本経済が復活して、海外の優秀な人材も引き入れられるような未来を、早く到来させたいんです。

日本企業のDXを加速させる。その言葉通り、シンプレクスは今や既存の金融領域の枠を飛び越え、「エンタープライズDX」と題し、NFT(暗号資産)×エンタメのプロジェクトを筆頭に、流通や建設、または公共の領域など、確実にその領域を広げている。

シンプレクス・ホールディングス株式会社 2023年3月期 第3四半期 決算説明資料より引用

もちろん単に旬の業界に飛び込んでいるわけではなく、シンプレクスとクロスピアが持つ一気通貫の戦略コンサルティング、ITコンサルティング、開発といった強みを軸に、日本社会全体のDXを促進しているのだ。

先に金子氏が述べた通り、タフに鍛え上げた優秀な人材たちがクライアントの事業成長を描き、それが具現化されて成果を上げるまで見届ける。そして、もし成果が出なければ更なる改善を提案し、勝ち筋が見えればとことん深掘りしていく。こうしたビジネスを様々な領域に展開し、その規模を拡大させていく。それが金子氏の狙いなのだろう。

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どうせ君には、未来など予見できない。
だったらまずは「一流になれる会社」を選ばないか?

そして未来を変えられるかは、紛れもなく今の若者の手にかかっている。しかし、膨大な選択肢を前にして、キャリアをどのように考えるべきかわからないという人も多いだろう。

最後に金子氏に、外資系コンサルティングファーム、外資系事業会社、起業、上場、経営とあらゆるビジネス経験を積んだキャリアの大先輩として、学生読者に向けたメッセージをもらった。

金子自分で今から起業しないのであれば、新卒で選ぶべき会社は、ビジネスパーソンとしての基礎体力をめちゃくちゃ鍛えてくれる会社だと思います。自分が何をやりたいとか、10年後にその業界が花開くかどうかとかは一切関係ない。ビジネスパーソンとしての基礎体力さえ身につけておけば、どんな仕事でも活躍できますから。

金子よく雑誌とかだと「これからはテクノロジーが必要だから、テクノロジーは学んだ方がいい」みたいなことが書いてあって、たしかにそれは一つの真理ではあるけど、10年後にはノーコード技術が発達していて、プログラミングのスキルなんか要らなくなっているかもしれないですよね。英語もそうです。

大体、こうした発信をしている主の、ビジネスパーソンとしてのレベルはいくつなんですかと。資産数百億円ある経営者でも未来は読めないのに、そうでない人に正確に未来を見通すことなどできませんよ(笑)。

だから、効率的にスキルを身につけることばかり考えていると、人生全体では誰よりも低い山しか登れていないなんてこともある。じゃあ何を基準に会社を選べばよいのかと言えば、「誰が一番魅力的で、誰と一番仕事をしたいと思うか」です。

ビジネスの基本のキも分からない若者が企業ごとの強みや将来性などを測っても無駄。しかし、「この人はすごい」「この人と働きたい」というのはもはや本能、誰でも感じることができます。その直感に従って選んでいけば、間違いないと思います。ぜひ、頑張ってください。

取材後、関係者に一礼を済ませ颯爽と会議室を後にする金子氏。今回、同氏からは直々にシンプレクスの沿革や、その核たる強み、根底にある想いを伺ってきた。

もちろん、シンプレクスが今後も勝ち続けていくことには確信が持てたと思う。そしてそれと同じく、このシンプレクスを率いる金子氏の持つエネルギー、はたまた魅力も、理屈抜きで感じ取ることができたのではないだろうか。

これまでの3記事も含めた本連載は、ここで終了。当初は学生読者も「シンプレクス?新卒で入るメリットある?」とすら感じていたことだろう。しかし今ではこのように感じているのではないだろうか?

「シンプレクス、ね。具体的に検討してみるか」と──。

さぁ、まずは金子氏の渾身のプレゼン動画を見て、その後、直に会いに行こう。

(ロングver.を見たい方はコチラからエントリー後に視聴可能)

こちらの記事は2023年03月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

藤田マリ子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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