「起業家ではなく、事業家たれ」
FinTech界のカリスマ経営者が明かす、業界No.1で成長し続ける組織の作り方とは

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登壇者
金子 英樹

1987年 一橋大学法学部 卒業、同年アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)に入社。外資系ベンチャーを経て、1991年 ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ証券)に入社。1997年 ソロモン・ブラザーズ時代のチームメンバーとともに独立し、シンプレクスの前身であるシンプレクス・リスク・マネジメントを創業。2016年 単独株式移転により、シンプレクスの持株会社としてシンプレクス・ホールディングスを設立。

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「東大生が選ぶ就職注目企業ランキング」で、マッキンゼーやゴールドマン・サックスなどのエクセレント・カンパニーとともに、ベンチャー企業として唯一トップテン入りを果たしたシンプレクス。「FinTech」の造語誕生以前から金融×テクノロジーで躍進し、今や金融フロント領域における国内No.1プレイヤーだ。

このシンプレクスの創業者・金子英樹氏がFastGrowのイベントに登壇。インタビュー記事でも披露してくれた切れ味鋭い弁舌で、20年間ベンチャー企業として成長し続けている秘訣と、独自の経営者論を語ってくれた。

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY TOMOKO HANAI
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大学時代に六本木から学んだ“No.1”の絶対的価値

2018年12月17日夜、FastGrowのセミナールームには200名近い参加者が集結した。一般向けイベントに滅多に登場しない金子氏だけに、学生や社会人、起業家など多彩な顔ぶれが会場を埋める。前半は金子氏がこれまでの軌跡を振り返る形で話が進む。まずは、これまでどんなインタビューでもほとんど語られなかった大学時代の話題から。

金子学業一辺倒で真面目すぎた高校時代の反動もあり、大学時代はろくに勉強もせず、学校にもほとんど通わない生活を送っていました。学校に通わない変わりに主戦場としていたのが、当時、バブル真っ盛りだった東京・六本木。六本木のクラブに通い詰めるあまり、大学入学から数ヶ月もたたないうちに、クラブの黒服として水商売の世界に飛び込みました。

強面・辛口イメージの金子氏の意外な過去に、多くのオーディエンスが笑いながら共感していく。ただし、話の趣旨は単なる過去の武勇自慢ではなく、そのすべてがビジネスにおける心得につながっていくのだ。

金子どんな世界にもトップに君臨する人間がいます。当時からものすごく負けず嫌いだった私は、水商売の世界で上に昇っていくために、成功者をベンチマークし、彼らの行動分析を徹底的に行いました。そしてトップに上り詰める人間の素養に、ある共通点が存在することに気が付いたのです。

彼らの最大の共通点は、過去に分野を問わず、何かひとつの領域でトップを獲った経験があり、トップを獲る習性が身についているというもの。事実、水商売の世界でも、当然自分が1番になれると信じて疑わない連中ばかりでした。さらにいえば、彼らは先天的な才能に頼るのではなく、“正しい方向に正しい努力をする”という、過去の経験から後天的に体得した「正しい努力の仕方」を武器に、再現性をもってトップへと上り詰めていたのです。

こうした黒服時代の学びは、私の価値観に大きな影響を及ぼしています。シンプレクスには5DNAという、全社員で共有しているコアバリューがあるのですが、その1つが「No.1」。何かビジネスをやるならば、必ずその領域でトップを獲る。トップを獲れない領域には進出しないという価値観です。2番手では絶対に駄目なんです。なぜなら、シンプレクスはイノベーションを本気で志しているから。2番手以下は、いつも1番手に追いつくことを最優先します。

前例のない革新的なチャレンジにリソースを投じる発想も余裕もほとんどない。その代わり1番手の背中を見て、うまくいったことは真似ればいいし、失敗しようものなら回避すればいい。非常に楽で、リスクの低いビジネスができます。一方で1番手は、常に道なき道を切り拓かなければいけない。大変ですが、1番手になって初めて、イノベーションを起こす挑戦権を手にできるわけです。シンプレクスは長らく金融フロント領域における国内No.1を維持することで、その挑戦権を獲得し続けてきました。そして現在は、国内No.1を獲る過程で培った経験を活かし、再現性をもって世界No.1を獲得するべくチャレンジしているのです。

こう説明した後、くだけた表情で金子氏は付け加える。「要するに、どうせやるなら1番になったほうが断然面白いってことですよ。FinTechだろうが水商売だろうが、この原則は同じ。そしてうちの会社には、そういう発想の連中ばかりが共感をして集まってくれているということです」。さらに金子氏は、六本木の経験がもう1つのシンプレクスのDNAにつながっているという。

金子黒服時代のもう1つの学びとして、自分が対峙する相手にいかに“爪痕”を残すかという「間合いの取り方」があります。黒服として上に昇り詰めるためには、多種多様な客層が集うクラブで、日々発生する様々なトラブルをいかに早く収束できるかが鍵となるのですが、ちょっと前まで青臭いガリ勉くんだった私が、力技で切り抜けようとしても上手くいかないことは明白なわけです(笑)。

そこで自分の武器としたのが「間合いの取り方」でした。簡単に言えば、周囲が一目置くキーマンの懐に飛びこみ、相手の期待を超えるアウトプットを出すことで信頼関係を構築し、トラブルを未然に防ぐというもの。失敗の許されない張り詰めた緊張感のある場を幾度も潜り抜け、クラブに集う多種多様なお客様一人ひとりに“爪痕”を残していくという姿勢は、今のベンチャー経営でも活きています。

先ほど紹介したシンプレクスの5DNAの1つに、「クライアントファースト」というものがあります。誤解されがちですが、これは「お客様は神様」というような平身低頭な姿勢とは違います。むしろその対極といえるかもしれません。事実、お客様からは「シンプレクスは生意気だ」とか「価格が高い」と言われたりもします。けれども、お客様はシンプレクスを指名し続けてくれる。創業から20年たった今も、「生意気だし、価格は高いけど、やっぱりシンプレクスに頼むしかない」と思っていただけている。

なぜかといえば、他のどんな競合相手にも出せない付加価値を出すことで“爪痕”を残せているから。私たちはその付加価値に対する正当な対価、すなわちフェアプライスとして、他社よりも高いフィーをいただいているに過ぎません。大切なのは相手の期待を上回る付加価値を提供して、真に良い意味での“爪痕”を残せるかどうか。「今度また何かあったら、あの生意気なヤツらにお願いしよう」と信頼してもらい、リピートしてもらうことにこそ価値がある。シンプレクスではこの姿勢を“クライアントファースト”と呼び、徹底しています。

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「正しく努力した者は、高く評価されて当たり前」を体感したアクセンチュア時代

いよいよ話題は社会人になってからの金子氏の経験談に移った。コンサルタントを目指し、アクセンチュアに入社したきっかけは、大前研一氏の著書『世界が見える日本が見える』(講談社刊)に感銘を受けたことからだったという。当時のアクセンチュアには、金子氏同様“やんちゃ”な若者が集まり、成果を競い合っていた。

金子今では日本最大級のファームになって、業績でも他を圧倒しているアクセンチュアですが、私が入った頃はシステムコンサル中心で日本オフィスの人員も数百名程度。カリスマ的なコンサルタントがごろごろいるマッキンゼーなどに比べれば、若くて元気でよく働く集団として結果を出すしかない情勢でした。

当時の私といえば、コンピューターに触ったこともなければ、見たこともないという状況でしたが、入社早々に社運を掛けた大規模プロジェクトに配属され、幸運にも各代のエース級の先輩たちに厳しく檄を飛ばされながら無我夢中で働ける環境に恵まれました。ハードワークの甲斐あってか、アクセンチュアにある“スキップ”と呼ばれる飛び級制度により、2年目にして1年上の先輩と同じ待遇・裁量を得ることができ、10名近くの部下を持てるようになったんです。

おそらく、これが社会人になって最初のブレークスルー体験でした。正しい方向に正しい努力を積み重ねれば、それに見合うだけの報酬と立場を得ることができる。自分のやり方次第で、より上を目指すことが可能になる。そう思うと、仕事が面白くてしょうがなくなり、とにかく最速で駆け上がっていきたくなりました。

アクセンチュア自体が猛然と成長・拡大していく中、実力主義の評価システムから活力とやりがいを得た金子氏。学生時代に身につけた「正しい努力の仕方を体得し、泥臭く実行できる者だけが、再現性高くNo.1を獲っていく」という考え方がビジネスにも応用できるのだと確信していったという。そして、後に設立したシンプレクスでは、飛び級制度(スキップ制度)をはじめとして、アクセンチュア同様の“出る杭を伸ばす”実力主義の評価システムを採り入れたのだという。

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「0→1」と「1→100」では価値の桁が違う。ソロモンで痛感したイノベーションの意義

その後、“ウォール街の帝王”と称された外資系投資銀行、ソロモン・ブラザーズへ転職した金子氏は、当時世界の金融業界を席巻していた科学的手法を駆使したトレーディングの世界に心酔。所属するチームは、ITと金融工学を独自に融合させ、他の追随を許さない莫大な収益を上げていた。ある年、所属するチームに対し、80億円ものボーナスが支給されることになった。チームメンバーは30人ほど。金子氏ら若手も「80億円÷30人だから、1人あたり2億円はもらえるだろう」と皮算用していたという。

金子ところが蓋を開けてみたら、トップの人が40億円もらい、2番手の人が20億円もらって、残りをその他のメンバーで分け合うことになったんです。納得ができなかった私は、トップの人に率直に聞きました。「なぜあなたは1人で40億ももらえるんですか?」と。

すると、こう諭されました。「おまえは資本主義が何たるかを全然わかっていない。ビジネスの世界には2種類の人間しかいないんだよ。1つは何もない0の状態から1を生み出す人。もう1つが、1の状態を10とか100にする人。たしかにおまえらが頑張って100にしてくれたからボーナスが出たわけだが、そもそも最初の1を生み出したのは俺だろ? その1がなかったら、何も始まらなかったのだから、40億をもらうだけの権利が俺にはあるんだよ」。

正直、衝撃が走りました。考えれば考えるほど、その先輩の言う通りだな、と。たしかにアクセンチュアのときも、ソロモンのときも、私は“誰かが作った仕組みの中で効率よく成果を上げただけ”。このやり方ではすぐ上限が見えてしまう気がなんとなくしていました。だから、決めたんです。「よし、自分も1を100にする人じゃなく、0を1にする人になろう」と。つまりは、イノベーションを起こす側の人間になろうと心に誓ったんです。

この後、ソロモンでともに働いた仲間とともに金子氏はシンプレクスを起業するわけだが、それから20年、一貫してイノベーションを起こし続けることを使命として今に至っている。そして、話題はこの日のメインテーマである「起業家ではなく、事業家たれ」へと移っていった。

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シンプレクスのミッションは「再現性高く、イノベーションを起こし続けること」

金子「じゃあ、イノベーションって何なんだ?」という話題について聞かれる機会は今でもよくあります。「シンプレクスの技術力があれば、ゲーム業界でも大儲けすることもできるでしょう」なんてことを、いまだに言う人もいます。そういう時、私の返答はいつも同じです。「たしかに才気溢れる人がひらめきで生み出したゲームが、バンと大当たりすることはあるでしょう。それだってゼロイチなんだからイノベーションなのかもしれない。でも、そのゲームが大当たりしたからといって、その開発者の作品が次もまた当たるとは限りませんよね? 再現性が高くないものに、命をかけて挑むことは少なくとも私にはできません」。

この日の話の中で度々登場した「正しい努力の仕方を体得し、泥臭く実行できる者だけが、再現性高くNo.1を獲っていく」という原則。これは「蓄積したノウハウが成果に直結しづらいビジネス」には必ずしも当てはまらない。10年、20年と努力して技術や発想力を磨いてきたエンジニアやプロデューサーがいたとしても、ある日学生が思いつきで開発したゲームが一躍大ヒットし、時の人として祭り上げられてしまう可能性もあるゲーム業界……せっかく人生の大半の時間を仕事に費やすのであれば、持って生まれた才能や運で勝ち負けが左右されるビジネス領域ではなく、正しい方向に正しい努力を重ねることで蓄積したノウハウが、大きな成果に直結するビジネス領域で勝負をしたい。それが金子氏の価値観だ。

金子私は「Work is Life」という人生観の持ち主です。継続性をもって正しい方向に死ぬ気で努力し続ければ、成功確度が上がるWorkを得ることで、自分の人生を幸福なものにしたい。

私はシステムの仕事がしたくてアクセンチュアに入ったわけではないし、トレーディングの仕事に携わりたくてソロモンに入ったわけでもありません。いま結果的にシンプレクスはこの2社の強みをかけ合わせたIT×金融の領域で事業を行っていますが、これも別に強い想いがあったからではありません。IT×金融の領域は、「ノウハウある企業が勝ち続けられる領域」だったから選んだまでです。お客様から努力を正当に評価していただける領域で、再現性ある形で、社会にインパクトあるイノベーションを起こし続けようと思っているからこそ、企業という体裁で、信頼し、尊敬し合える仲間とチームを組んでチャレンジしているんです。

「会社を起ち上げて、一発当てて、儲かったら社長だけ退任して、あとの人生は悠々自適」という最近流行りの価値観を否定はしません。でも、そういう人も起業家と呼ぶのだとしたら、私は違います。私は、社会にとって意味ある事業を継続的に生み出す、事業家でありたい。

会社を興して資金調達をしながらバリュエーション(企業価値)向上に躍起になるのではなく、その会社でしっかり売上と利益を上げ、事業を継続成長させながら、再現性高くイノベーションを生み続ける企業を創りたいんです。もし将来起業したいという方や、既に起業した方で、私の話に共感してくれる方がいるならば、「こじんまりした起業家ではなく、事業家を志して欲しい」。私が皆さんに一番伝えたかったことです。

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「創業メンバーが20年辞めていない」ことが経営者として一番の誇り

1時間に及ぶ濃密なスピーチの後、質疑応答が始まった。従来の平日夜間開催のイベントであれば、このタイミングで退席者が続出するのだが、この日は驚くほどの残留率。質疑応答だけで、さらに1時間を超える展開になっていった。

質問者1良いリーダーになるには、どうすればいいとお考えですか?

金子チームとして仕事に取り組む際に、強い当事者意識を持って「自分がコミットして、絶対にアウトプットを出すんだ」という覚悟と責任を常に背負うことではないでしょうか。メンバー全員がこうした思いを共有していたなら、そのチームは最強になれる。リーダー役を任されて初めてリーダーとしての振る舞いを考えるのではなく、いちメンバーにすぎない時期から「プロジェクトを成功させるにはどうしたらいいのか」を、当事者感覚で考え抜いていくことが大事だと思います。

質問者2これから就職活動が本格化します。金子さんならどうやって入社すべき企業を見極めますか?

金子私は「何をするか」ではなく「誰とやるか」を軸にして企業は選ぶべきだと考えています。先程もお伝えしたとおり、私も業務内容に興味があったからアクセンチュアやソロモンに入社したわけではありません。

たまたま縁あって入った会社がそういう事業をしていたというだけ。それよりも大きかったのは、どちらの会社にも尊敬できる偉大な先輩や、素晴らしい仲間がいて、そのおかげで夢中になって切磋琢磨を繰り返せたことなんです。素晴らしい人に出会える場であれば、ガツッと頑張りたくなるし、必死で頑張れば成長できるということを実感してきました。

実際、シンプレクスの場合も、「金融の仕事がやりたいからシンプレクスに入りたい」という人よりも、「シンプレクスで出会った先輩社員みたいになりたいし、一緒に働きたい」と思ってくれる人が多数現れてくれるように採用活動を続けてきました。もしも皆さんも「誰とやるか」を軸に就職活動をして、最適な場を見つけようと思うのならば、やり方は簡単です。

その会社の2・3年目の先輩社員とガッツリ話をしてみればいい。「ちょっと失礼かも」と思ってしまうような、相手の価値観や本音が見えるような質問をバンバンぶつけて、ろくな答えが返ってこないようならばやめればいいし、「あ、この人はすごいな、面白いな」と思える先輩にたくさん出会えたなら、その企業を真剣に検討すればいいと思います。

質問者3金子さんの社長としての一番の誇りは何ですか?

金子創業メンバー5人が20年間誰も辞めていないこと。これに尽きます。創業時にメンバー全員で、「自分たちが他のメンバーの実力についていけていない、と感じたら潔く名乗り出て、役員から降りよう」という約束をしていました。実際、ある創業メンバーは自分よりも部下の成長が勝っていると感じ、役員を降りました。しかし、彼はいまでも、自分が採用した、自分より年下の上司が率いるチームで活躍してくれています。創業メンバーが20年もの間、誰も辞めない組織でいられていることは、私の経営者人生において最も誇れることです。

質問者4金子さんがいま最も注目している企業を教えてください。

金子何人かの経営者に聞いたら皆が同じ答えを言うと思いますが、Amazonですね。いま超巨大な企業と異なる点があるとすると、複数のビジネスモデルでの成功を既に実現している点と、オフラインを絡めた泥臭い事業構築もしっかりやりきってきた点の2つでしょう。今後も自社サービスを介して、世界中のありとあらゆる購買データを取得していける可能性を秘めている。これだけのビッグデータがあれば、まだまだEC事業も進化するし、いまよりもっと多くの事業領域にも進出できるはず。

創業事業であるEC事業以外にも成功したビジネスモデルを構築できているAmazonというチームであれば、今後10年で企業価値が何倍、何十倍になれるポテンシャルを持っていると言えます。それに、彼らは意外にも泥臭いことをしっかりやれる。法律も地勢も異なる世界中の国々で、即日配送を可能にする体制をこんな短期間で築き上げるのは容易なことではありません。相当細かく複雑な交渉と、オペレーションの改善が必要だったはずです。インターネット上だけで完結しない、物流網やデータセンター、無人コンビニの構築といったオフラインを絡めた事業展開もできるからこそ、Amazonは無限の可能性を秘めていると思います。

質問者5組織がどんどん大きくなればベンチャー気質というものを維持するのは困難になりますよね?シンプレクスではどうやってベンチャースピリッツを維持しているんですか?

金子「そもそもベンチャーって何なんだ?」という定義づけを、はっきりさせておきたいのですが、少なくとも私はベンチャーを小さい会社のことだとは思っていません。メディアなどもそうですが、何かというとベンチャーと大企業とを対立軸に置くから、「大企業じゃない会社=中小企業がベンチャー」みたいな解釈が常識のようになっている場合も多々あります。それなのに、他方で「俺はベンチャーに行ってバリバリやります」みたいな声も多い。

おそらくこの場合はベンチャー=中小企業という概念に基づいてはいませんよね? じゃあベンチャーって何なのか?私の解釈では「既存勢力では生み出せない付加価値を生み出せる会社」がすなわちベンチャー。シンプレクスと似たような事業をしている企業は世界中にいくつもありますが、私たちは他社には真似できない付加価値を創出し、事業として成立させているという確信があるから「ウチはベンチャーです」と言い切れる。

ちょっと前置きが長くなりましたが、ご質問の通り、それでもなおベンチャーと呼ばれていた会社の多くは、成功して規模が大きくなり、歴史が長くなるに従って、チャレンジングな気質や姿勢が鈍ってきます。シンプレクスも例外ではないと考えていますし、何年かに一度の周期で、私自身、「このままでシンプレクスはベンチャーであり続けられるのか?」と不安を覚えたりしてきました。いまもまさに、そういう曲がり角にいます。

今日のイベントの冒頭でも「東大生が選ぶ就職注目企業ランキングにおいて、ベンチャーで唯一ベスト10に入っているのがシンプレクス」だと紹介してくれましたし、私としてもこの事実を素直に嬉しく思う部分はあるのですが、同時にとても怖く感じてもいます。

ランクインしているのはいずれも尊敬に値する企業ばかりですが、中にはウチとまったくカルチャーが異なる企業もある。学生の中には、こういうランキングをうわべだけインプットして、複数の会社を併願する人もいるかもしれない。でも、シンプレクスは今日ずっと話してきたように、ある意味で尖った人間ばかりが集まっているチームです。必死になってNo.1を獲得し、その上で道なき道を暗中模索しながらイノベーションを目指そうという集団に、ベンチャーの対極にあるようなカルチャーの会社に魅力を感じエントリーシートを出すような人間が入ってきたらどうしよう……そういう不安が頭をもたげてくる。

ベンチャーとして成長して、人財育成でも成功して、ブランドができればできるほど、「フツーな人も近寄ってくる」リスクが発生するわけですから、私としても採用チームには常々「勘違いした併願者は絶対採るな」と言っています(笑)。なるべく多くの人にシンプレクスという会社を知ってもらおうと努力してきたし、そのおかげで世の中が注目するランキングに入れてもらえたりしています。

でも、多くの人に知られれば、今言ったようなリスクも発生するし、社内の雰囲気が変わってしまうリスクも生まれてくる。ですから、こうして経営者がちゃんと時々「このままの組織、人財戦略でいいのか?」と不安になる、ということもベンチャー気質の維持には不可欠だと思うようにしています。そんな私自身、「不安だなあ」で止まっていてはイノベーションなど起きないので、2019年にはこれまでにない取り組みとして、可能性を秘めた若手起業家への出資や提携も検討しながら、シンプレクスのミッション達成に近づく方法があるのかどうか、たくさんの人に会いながら模索しているところです。

以上の他にも数々の質疑応答が行われた後、イベントの最後はフリートークの懇親会となったが、これまた1時間を超えた。ストレートな受け答えを続ける金子氏を囲む人垣は夜10時を過ぎても途絶えることはなく、金子氏自身が多くの参加者に“爪痕”を残し、会場を去っていった。

こちらの記事は2019年01月16日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

森川 直樹

写真

花井 智子

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金子 英樹
  • シンプレクス・ホールディングス株式会社 代表取締役社長(CEO) 
  • シンプレクス株式会社 代表取締役社長(CEO) 
公開日2023/03/08

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