INTERVIEW

セールスチームを5部門に細分化。プロフェッショナリズムを志向するSmartHRに学ぶ、セールスの極意

リソースが限られるスタートアップにとって、セールスチームを戦略的に創り上げていくことは難しい。
短期的な業績向上を目指すあまり、メンバーを増やすことで売上アップを図る人海戦術や、
有能なセールスパーソンに頼る戦い方を選んでしまうケースもあるかもしれない。

営業戦略を考えていくための参考として、前年比売上約3倍を誇る、ある急成長企業のセールス組織を紹介したい。
サービス開始から3年でスタートアップから大手企業まで幅広く導入されている、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を開発・提供する株式会社SmartHRだ。
同社のセールス部門は、チームを5つの小セクションに細分化し、部門ごとにスペシャリストを配置するという組織体制を取っている。

有効なセールス手法は商材によって異なるものの、その組織づくりから学べるものは多い。
今回、SmartHRのサービス開始直後、1人目のセールス職としてSmartHRにジョインしたVP of Sales・大辻昌秀氏に、
どのようにしてセールス組織を創り上げていったのかをインタビューした。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA

インタビュイー

大辻 昌秀 (おおつじ・まさひで)

株式会社SmartHR 営業部長

大辻 昌秀

おおつじ・まさひで

株式会社SmartHR 営業部長

大学卒業後、医療機関向けITソリューションのセールスとしてキャリアをスタート。商品開発のコンサルティングやスタートアップの立ち上げ、Webの受託制作などを経て、1人目のセールスとしてSmartHRに入社し、チームの立ち上げを行う。現在はセールスグループ25人のマネジメントを担っている。

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アップデートされない商品のセールスに、限界を感じていた

SmartHRにジョインする前も、Web広告会社やシステム開発会社でセールスとしてのキャリアを積み重ねてきた大辻氏。顧客から課題をヒアリングし、改善を提案するセールスの仕事に魅力を感じていたが、クラウドに比べ柔軟な運用ができない、パッケージを売り込んでいく「売り切り型」スタイルには限界を感じていたそうだ。

大辻お客様からの要望をサービスに反映できないことに、もどかしさを感じていたんです。開発チームを抱え、ユーザーからのフィードバックをもとに自社サービスを開発・改善していけるような会社で働きたい。そんな想いを次第に強めていきました。

志を胸に転職活動をしていた2015年、SmartHR(当時は株式会社KUFU)に出会う。スタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo」の中でも注目を浴びる、創業3年未満のスタートアップによる「スタートアップバトル」でSmartHRが優勝し、引き合いが急増。セールスが必要とされていたタイミングに、6人目の社員として入社することになった。当時の既存メンバーはプロダクト開発サイドしかおらず、大辻氏が初のビジネスサイドのメンバーという状況。日々商談に明け暮れていたという。

大辻それまで所属していた会社では、アウトバウンドで新規開拓していくスタイルのセールスが基本でした。なので、お問い合わせをいただいてすぐにアポイントメントが取れる状況には驚きましたね。アポイントメントを取りつけるのに労力がかからないからこそ、「クロージング率を高めることに専念しなければ」という意識を強く持っていました。

BtoBSaaSのセールスは未経験でしたが、お客様の要望と開発側の事情を両方汲んでコミュニケーションするスタイルは、売上目標を達成するためだけのセールスとは違うので、日々充実していました。

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セールスチームを5部門に細分化。効率化のカギは「スペシャリスト」

現在25名で構成されるSmartHRのセールスチームは、大辻氏の入社当初から、いかなる変遷を辿ってきたのだろうか。入社直後はCEO宮田氏との2人体制、その後7ヶ月間は大辻氏1人で全てをカバーしていた。入社後7ヶ月経過したタイミングで、引き合いの増加に対応するリソースが足りなくなり、メンバーを増やしたという。

まずは、大辻氏が商談に集中するために、セールスの業務効率化を担う「セールスサポート」を採用した。続いて、増え続ける問い合わせに効率良く対応していくため、いただいたお問い合わせから商談化までを担う「SDR(Sales Development Representative)」職を設置。

次に、各々のセールスメンバーに得意分野に専念してもらうため、都内を中心に訪問する「フィールドセールス」と、地方を中心にWeb商談を行う「インサイドセールス」に分化させた。そして、セールスの効率化やスキルの底上げを担う「営業企画」職を設置し、現在の体制となったそうだ。(現在は、セールスサポート2名 / SDR9名 / インサイドセールス4名 / フィールドセールス7名 / 営業企画2名に大辻氏を加えた25名体制。)

大辻課題が発生するたびに最適な解決方法を考え、既存メンバーの配置変えや新メンバーの採用を繰り返していった結果として、各メンバーが自分の役割に集中できる現在の体制に辿り着きました。

役割や目的を明確にさせることで職種ごとの業務変数が減り、効率化しやすくなるという。

大辻個々のメンバーに、徹底して専門性を磨いてもらいたいんです。フィールドセールスのメンバーには、「フィールドセールスでSmartHRを売る」ことを一番の得意にして自信を持ってほしい。実際、優秀なフィールドセールスのメンバーにインサイドセールスを任せたところ、あまり成果が出なかったこともあります。ですから、自身の得意分野をさらに伸ばしてほしいと思っています。

個々の役割に集中させつつも、チームとしての機能や役割は変わらないので、他部署との連携もスムーズにできている。

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継続利用のために他部署との連携を緊密化

大辻氏が転職時に期待していた「開発チームへのフィードバックと、それに応じた改善」についても、効率的な仕組みを構築している。当初はメンバー各人からの要望をそのまま開発チームへと伝えていたが、セールスメンバー増加に伴いクライアントからの要望も増え、対応しきれなくなった。そこで、導入支援から満足度向上までを担う「カスタマーサクセスチーム」も含めビジネスサイドからの要望をツールにまとめて開発側に共有し、プロダクトマネージャが対応可否を判断する体制をとる。そのツールを見ることで、ビジネスサイドのメンバーも要望の対応進捗を確認できる。

大辻要望をツールに入力する際は、「なぜそれをしたいのか」お客さまの運用環境や対象規模まで、しっかりと伝えるようにしています。ほしい機能だけでなく、それを求めている根本的な理由から共有することで、汎用的に実装されるようになるんです。結果的に広い範囲のお客さまの利便性を高められることになります。

リード獲得をミッションとするマーケティングチームとは、SDRチームが密に連携。SDRチームがヒアリング時の温度感をしっかりとマーケティングチームにフィードバックすることで、マーケティング施策を改善し、より質の高い商談に繋げることができる。

さらに、お客さまが上手く運用できず、解約になることを防ぐため、カスタマーサクセスチームとも緊密に連携している。セールスチーム側から、「契約時のヒアリングで不安に感じられていたポイント」「運用時にフォローしてほしい部分」を伝えて、契約後のコミュニケーションを最適化させてクロージングする。新規契約の売上額を追っているセールスは、過剰に期待をもたせてでも受注したいと思ってしまいがちだが、SmartHRのセールスチームはお客さまの課題解決に手を尽くすという。

大辻SmartHRのセールスは、受注後どのように運用されるかまで考えながら、お客さまとコミュニケーションしています。そのために、メンバーと2週間に1回行う1on1ミーティングでは、「売れれば良い」という考え方にならないようにと伝えていますね。

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営業時に、運用後を想定した課題解決を提案

他の部門と密接に連携したうえで、顧客の課題に優先順位をつけて解決していく手法を取るのがSmartHRのセールススタイルだ。言わばコンサルティング的な手法ともいえる。ヒアリングした顧客の労務課題を、現行のSmartHRの機能ですべて解決できるとは限らない。顧客がいま本当に解決すべき課題はどこにあるのかを考え、開発マイルストーンと照らし合わせて最適解を探る。

大辻お客様の要望はしっかりとヒアリングしますが、その全てにお応えすることは難しいです。より多くいただいた要望から対応していくので、少数のご要望だと実装されないケースも出てきてしまう。そこで、お客様の期待値とSmartHRが提供できる機能のミスマッチが起きないように、「ここまではできるけど、ここからはできない」とお伝えして、理解していただくことを心がけていますね。

もうひとつ重視しているのが「仕組み化」だ。セールスチームを分化させていったように、生じた課題に対して場当たり的に対応するのではなく、恒久的な解決策となる「仕組み」をつくることを意識しているのだ。

大辻属人的な部分を徹底して排除するため、今期は「仕組み化」をチームのミッションとしています。問題の根本となる原因を探ることで、本質的な課題解決に繋がって、同じような問題の発生がなくなると思うんです。

そして、チームの土台となるカルチャーとしては「価値観」を最重視している。会社のビジョンやミッションに共感し、入社後に体現できる人材を採用しているので、個々のメンバーがスピード感を持って適切な解決策を取れるという。

大辻ものすごく仲良いですよ、みんな。目標も無理な数字を課すのではなく、各々のありたい姿やミッションから逆算して「頑張れば達成できる」くらいに設定しています。各々が最大限に力を発揮できるよう、メンバーの得意分野や意欲を考慮して、能力を発揮してもらうことも意識しています。

だからこそ、課題が生まれてもすぐに自発的に議題に上げてくれますし、数時間後には解決されているといったスピード感で進んでいけるんです。

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「SaaSのセールスならSmartHR」を目指したい

今後の営業戦略としては、サービス開始当初は、スタートアップやIT企業がメインターゲットになると想定していたが、現在は業界や企業規模を問わず、導入されているという。

SmartHRは、社会保険や雇用保険といった入退社に付随する煩雑な手続きの効率化を可能にするため、すべての企業に顕在的なニーズがあり、働き方改革が煩雑な業務効率化を後押ししている。将来的には、できるだけ少人数で目標達成できる効率的なチームをつくり、SaaSセールスにおけるトップランナーを目指したいと大辻氏は語る。

大辻営業を増やすことで売上をアップさせる手法は、どの企業でもできるかもしれませんが、人材の獲得が難しいのもまた事実です。プロフェッショナルなチームで効率の良い仕組みを創り上げることで、安定して目標を達成できるチームにしたいんです。

大辻また、最近はSaaS業界が盛り上がりを見せており、カスタマーサクセスなども注目を集めていますが、セールスはスポットを浴びないのでノウハウの共有も少ない。参考にしようとすると、国内ではSalesforceをはじめとする大手SaaS企業を見るしかない状況です。

とはいえ、Salesforceのような大組織のノウハウをスタートアップがそのまま活用するのは難しいですよね。だから、SmartHRがあらゆるフェーズで体験した成功や失敗をもとにノウハウを言語化し、「SaaSのセールスならSmartHRを参考にしよう」といった状況を目指したいです。そうすることで、SaaSのスタートアップ界隈をもっと盛り上げていきたいですね。

セールスを強化しようとするとき、短期的な売上目標を達成するために場当たり的な解決策に走ってしまう例は少なくない。しかし、各フェーズごとに、体制を変えながら模索してきたSmartHRの例に倣うと、必ずしもそれがベストではないケースもあると言えそうだ。リソースが限られているスタートアップのセールスチームこそ、個々がプロフェッショナル意識を持ち、「効率化」を徹底することが有効なのではないだろうか。

インタビュイー

大辻 昌秀 (おおつじ・まさひで)

株式会社SmartHR 営業部長

大辻 昌秀

おおつじ・まさひで

株式会社SmartHR 営業部長

大学卒業後、医療機関向けITソリューションのセールスとしてキャリアをスタート。商品開発のコンサルティングやスタートアップの立ち上げ、Webの受託制作などを経て、1人目のセールスとしてSmartHRに入社し、チームの立ち上げを行う。現在はセールスグループ25人のマネジメントを担っている。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。東京大学(教育思想)→某AIスタートアップ(マーケティング・事業開発)→現職。関心領域は、ビジネス・テクノロジーから人文知まで。

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2019年01月07日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。