トップマーケターは経営者であれ──「P/L責任と一歩先のチャレンジを」西口一希の脳内に、ブルーミー戸口が切り込む

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インタビュイー
西口 一希

1990年にP&Gへ新卒入社、マーケティング本部でブランドマネージャーやマーケティングディレクターを歴任。2006年からロート製薬で執行役員マーケティング本部長(CMO)を務め、『肌ラボ』を日本一の化粧水に。2015年にはロクシタンジャポンの代表取締役に就き、2016年のグループ過去最高利益達成に貢献し、アジア人初のグローバル エグゼクティブ コミッティ メンバーにも選出される。2017年にSmartNewsへ参画し、日本および米国のマーケティング担当 執行役員として累計ダウンロード数5,000万、月間利用者数2,000万人を達成。国内3社目のユニコーン企業までの急成長を牽引する。ここ数年は著書執筆のほか、社外取締役として複数社の経営やマーケティングを支援する。

戸口 興

法政大学理工学部卒業。学生時代よりRetty株式会社を初めとする複数のスタートアップ 及び UXコンサルティング会社にてマーケティングやデジタルサービスのUI/UX分析業務に従事。その後、一部上場企業の新規事業にてCtoCサービスの立ち上げを手掛けた後、独立しEC事業を運営。2018年2月に株式会社Crunch Style(現ユーザーライク株式会社)へ参画。「ブルーミー(bloomee)」の事業全般を管掌する取締役CMOとして活動。

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若くして、P/L責任を負う立場に立てるマーケターがどれだけいるだろうか。そのプレッシャーたるや、すさまじいものがある。

「特にスタートアップは、うまくいかなかったらその時点で終了、というところがある。緊張が解けた瞬間はほとんどない」と語るのは、ユーザーライク(旧Crunch Style)取締役CMOの戸口興氏。同社が手がける花のサブスクリプションサービス『bloomee(ブルーミー)』急成長の背景には、変化のスピードが極めて速いマーケティング領域において、決して軽くない意志決定の連続がある。

2020年半ばから同社のアドバイザーを務める西口一希氏は、支援を決めた理由に「事業の可能性」と併せて「戸口さんが名実ともにCMOとして意志決定権を持っていること」を挙げる。自身もまた、P&G在籍時の20代のころからブランドマネジャーとしてP/L責任を背負ってきた。

「ある意味、“野武士”のようにやってきた」というユーザーライクが、組織全体に体系立った事業成長のセオリーを組み込もうとしている。そのど真ん中にいる戸口氏と、支援する西口氏が、マーケターとして、より経営に近いポジションへと成長できる環境と必要な素養について議論した。

  • TEXT BY TOMOKO TAKASHIMA
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未開拓の価値が大きい「花」。
サブスクは、産業変革のための手段

花のサブスクサービス『ブルーミー』が好調だ。1回わずか数百円から、旬の花がポスト投函にて届く仕組みで、手軽に“花のある暮らし”を始められる。運営するのはスタートアップのユーザーライク。現在までに、累計約40億円の資金調達を実施している。

先日、FastGrowにて代表取締役の武井亮太氏にインタビューしたところ、同社の強みの一端が「ユーザー起点でのサービス改善」を徹底していることにあると読み取れた。現在、ブルーミーの事業責任者を務めるCMOの戸口興氏も、続く記事にてユーザー起点をいかに重視しているかを語ってくれた。

それは、単にユーザーのニーズを盛り込めばいいわけではない。エンジニアやHRなども含めた30人ほどの全メンバーがユーザーヒアリングを担当し、その価値観やライフスタイルを深く理解した上で打ち手を検討。持続的な事業成長へと結びつけている。

戸口もちろん、これまでずっと順風満帆だったわけではありません。むしろ、これは厳しい、打つ手がないと思うことの連続。特にスタートアップは、どれだけ皆でがむしゃらにやってきても、伸びなければ事業をクローズするしかない世界なので……。事業を率いている自分の責任、ユーザーさんや社内に対する責任の大きさに、いつも向き合っています。

今年で30歳になるという戸口氏は、前職や前々職を含めてスタートアップの経験が中心で、ユーザーライクでは20代で事業責任を負う立場を経験してきた。現在、アドバイザーとしてブルーミーを支援するコンサルタントの西口氏もまた、20代のころからP&Gでブランドマネジャーを務め、P/Lを背負ってきた。

西口だから、戸口さんの気持ちはよくわかります。その立場にひるまずに、スピード感ある意志決定を担っている姿勢は、確実に事業成長の一因だと思うし、私がアドバイザーに入らせてもらった理由のひとつでもあります。

名前ばかりで決定権のないCMOもいらっしゃいますが、そうした方とタッグを組むと、結果が出るのが5倍は遅くなる。なので、戸口さんとなら自分がブルーミーの事業成長に貢献できそうだと思えたんです。

西口氏はP&Gやロート製薬、スマートニュースなどを経て、2019年より事業コンサルティングと投資活動を行っている。競合を避けるため、基本的に1業種1社に絞り、現在25ほどの事業を支援。戸口氏とは2020年、ユーザーライクのテレビCM展開を支援していた『ノバセル』(ラクスルが展開する事業の一つ)の田部正樹氏の紹介で出会ったという。

戸口僕は西口さんの著書も当然のように読み、顧客起点の考え方に以前から強く共感していたので、初めてお会いしたときはとにかく緊張したのを覚えていますね。

西口私の方は、最初は「若くておしゃれな方だな」という印象が強かったんですが(笑)、話すとすぐに、戸口さんが真摯に事業に向き合っていることがわかりました。

事業自体にも、とても共感しました。実際、私もずっと自宅で利用していますよ。花の良さや効能は昔も今も変わらないと思いますが、花き(かき)業界はIT化が不十分な点などでビジネスの構造的に遅れを取っており、特に顧客の手に届くまでの流通がネックだと思いました。その分、ブルーミーに可能性を感じました。

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顧客を適切に分類して理解する「顧客起点」の考え方

そもそも、ユーザーライクが大事にしている「ユーザー起点」と、西口氏が著書などで一貫して提唱してきた「顧客起点」の考え方には共通点が多い。顧客の目線を重視し、顧客を第一に考えるといった方針は、多くの企業が掲げるところだ。しかし、どうしても「当社のプロダクトはどう受け入れられているのか」「どうしたら買ってもらえるのか」といった方向性で考えがちで、企業側の視点による悪影響を捨てられないことが多い。自社と顧客との関係性しか視界に入っていない場合、顧客を本質的に理解することはできないのだ。

顧客にとっては自社プロダクトも「複数あるうちのひとつ」に過ぎず、競合どころか、自分たちがまったく気づいていない代替品も視野に入っているかもしれない。その前提で、顧客の生活や価値観を捉え、自社プロダクトがどのような便益や独自性を提案すれば「価値」を見いだしてもらえるかを考える。具体的には、プロダクトの認知・購買経験・購買頻度などによって顧客を5つないし9つのセグメントに分け、その心理を深掘りして、打ち手につなげていく。

併せて、組織全体に顧客起点の考え方を“共通言語”として根付かせ、持続的な事業成長へと導くのが西口氏のセオリーだ。それを実装しつつあるのが、ユーザーライクの現状だと戸口氏。体制の整備と、顧客解像度の向上という2つの観点で、進化していると語る。

戸口僕らはある意味、野武士のように我流で事業を推進してきました。2020年夏に初めてテレビCMを放送したときも、見よう見まねで効果測定などを試したものの、継続的に運用できる体制が整っていなかった。そうした部分が、西口さんに入っていただいてから改善し、組織全体がアップデートしつつある実感を持てています。

もうひとつ、ユーザーさんの解像度も、ぐっと向上しました。直接のヒアリングを重視していたとはいえ、本当にどんな人が顧客なのか、何がきっかけで認知や初回購買に至っているのか、といった部分まで分析できていなかったんです。これから接触したい人も含めたターゲット顧客全体を適切に分類し、今ヒアリングしているユーザーさんはどのセグメントの人で、どのような心理変化が起きているかを洞察していけるようになって、顧客を見る目が養われたと思います。

西口どの企業でも顧客を追いかけていますが、適切な分類ができていない場合が多いと思います。どんな会議でも、だいたい「お客さんが……」と大きな主語で語られて、そのお客さんはどういう人かと問うと経営から現場までそれぞれ違う答えが返ってくる、みたいな。

昨日初めて購入した人なのか、ずっとロイヤル顧客の人なのか、離脱しようとしている人なのかで、顧客の心理と行動はまったく違います。その前提がそろわないまま議論しても、違う言語で話をしているようなもので、意味がありません。

そうすると、経営は経営、財務は財務、マーケ、営業とそれぞれ部署ごとに個別最適された意見が飛び交うようになります。そこに顧客はいませんよね。顧客を見失ってしまう事態は、スタートアップでも大企業でも同じように起こります。

すべての意志決定は、顧客に価値を見いだしてもらうことを目指した「便益」と「独自性」の提供のためにあります。それを念頭に、適切な分類と深い顧客理解をベースに「誰に、何を」提案するのかを考え抜くのが、顧客起点の事業への実装だと考えています。

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守りに入るな、何歳になっても修羅場こそが成長につながる

ブルーミーがテレビCMを放映し始めて数カ月経ったころから、戸口氏は西口氏の支援の下、顧客を5つに分類する「5segs(ファイブセグズ)」の分析を開始。まだブルーミーを認知していない顧客から、ロイヤル顧客までを分けて把握し、適切な施策への落とし込みとその効果検証を継続して進めている。テレビCMや動画広告のPDCAを回し、その成果は着実に会員数や継続率などに表れている。

戸口それでも、CM後のデジタルマーケティングとの連携が全然うまくいかなかったり、クリエイティブを変更したいのに時間が足りなかったりして、その度に西口さんと策を練ってきました。正直、「これ、終わったなぁ……(笑)」と感じることもありました。

でも印象的なのは、そういうとき、西口さんは何だか嬉しそうにも見えるんですよね(笑)。何度か一緒に窮地を切り抜けて、苦境こそ長い目で見れば事業成長のチャンスだというのが、肌感で少しわかってきました。

西口嬉しいなんて言ったらコンサルタント失格ですが(笑)、でも自分の経験を振り返ると、やっぱり苦境のときほど成長していたと思うんです。なので、戸口さんが「終わった」と思っても、それは全然終わりじゃない。そこからが始まりであり本番でありの、いい時期だと言えますね。

事業が伸びているときは、その反面、個人としては成長していないのかもしれません。孫正義さんの言葉ですが「脳みそがちぎれるほど考える」ときこそ、いちばん成長しているはずです。

華々しい経歴や業績を持つ“成功者”も、必ず失敗している、と西口氏。ずっと勝ち続けている人などいないのだ。まさに「修羅場」をくぐり抜けてこそ、大きく成長する。事実、西口氏も手痛い失敗を経験しているという。

西口P&G時代の失敗は数知れずで、特にもう30年近く経つのに、未だにそのときのことを考えると体が硬直するんですよ。でも、それでも終わりじゃなかった。その後も何度も失敗するわけですが、だんだん胆力がついてきます。

むしろ、年を重ねるほど、挑戦することを意識しないといけないと思います。人間、固定化すると視野が狭くなって、その領域の常識に知らず知らず捕らわれるようになります。個人としても、30代くらいだと家庭を持ったり子どもが生まれたりして、否応なしに思考が保守的になるんです。既知の事項の中でしか、勝負しなくなる。

これは、老化です。そういうときこそ、飛び込まないといけないと思います。

固定化しない、という点を、西口氏は現在のコンサルティングの仕事でも常に意識しているという。BtoC、BtoB問わず、さまざまな業種のアドバイザーを務めるが、同じ業種は3年までを目安としているそうだ。

戸口西口さんは本当に多種多様なマーケットを見ているので、それぞれの市場を広い目で俯瞰しながらも、いざ顧客の心理を洞察するとなったら顧客の視点に一気に入り込むことができる。そのふり幅にいつも驚き、学ばせてもらっています。

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権限は、獲得「する」もの・「されていく」もの

前段で、「CMOといっても名ばかりで意志決定権を持たないこともある」との話があった。また、本人がいくら「責任のある立場、権限を持てる立場に就きたい」と思っても、今の環境でそれを勝ち取れるかどうかは、実力次第だろう。プレッシャーの強い立場ほど成長できるのは自明だが、事業成長より個人の成長が優先される場はあまりないはずだ。事業成長に貢献すると見込まれてこそ、自己の成長の幅を最大化できるのかもしれない。

西口中間層と経営層、あるいは現場と経営層があまりうまくいっていない組織では、現場サイドから「権限委譲してほしいのに経営が理解してくれない」という不満をよく聞きます。ただ、現場から社長までいろいろな立場で経営を見てきた経験からすると、現場サイドから「権限を委譲してくれ」と要求して奏功したケースはほとんどありません。

奏功するのは、明らかに「権限を渡したほうがいい」と経営が判断するとき。受ける側は想定外だったり戸惑ったりすることも多いですが、それでも役に就けば、上が見込んだだけあって、だいたい結果は出るんです。

戸口すごくわかります。求められているレベルの成果をそのまま出していったところで、権限移譲につながるわけではないと思うんです。常に「求められている以上」を意識し、狙って動き続ける。そういう存在がいたら、「あれをお願いしよう」「これをやってもらえたら助かる」と自然に考える。経営に携わらせていただいてるなかで、そういうものなのだと強く実感しています。

役割を拡張したいと思うのなら、とにかく“一歩先”を考え続けてほしいですね。

権限が与えられないから結果が出ない、というのは捉え違いだ。むしろ、経営者の立場だと「権限はどんどん委譲したいもの」だと西口氏は話す。そう判断するに足る実力と信頼があるか、普段の会話や仕事内容から思考を考察して、思考力もマインドセットも十分だと確信したら「失敗するかもしれなくても任せたくなる」という。

しかも、それは単に今任されている仕事で結果を出すだけでは不十分だ。結果を出すのは前提として、経営サイドに認められ、より経営に近いポジションに就くには、今の自分が任されている仕事の“その先”を見なくてはならない。担当者ならマネジャーの視点を、マネジャーなら部門長の視点を、CMOならCEOの視点を踏まえて、その上で自分は何ができるのかを考える。それが、期待以上の仕事につながり、結果として「任せてみたい」という信頼を勝ち得ることになる。

西口自分の上司の期待を超えていこうという意志は、今のポジションより経営に近づいて、より大きな責任を担っていくのに不可欠だと思います。権限は移譲されるものではなく、獲得するもの。権限移譲の手前で圧倒的な仕事をしていたら、経営としては「任さざるを得ない」ですね。

戸口氏も、キャリアの浅かったころの西口氏も、そうして権限を獲得してきたのだろう。任される責任が大きくなるほど、当然ながら厳しい場に身を置くことになる。だからこそビジネスパーソンとして成長し、自身の提案が顧客への貢献につながる喜び、事業成長に直結する喜びを一層味わえるのではないだろうか。

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これから求められるマーケターの資質は「顧客心理の洞察」

自己成長や事業成長にかける思いが原動力となってキャリアを切り拓いていくのは、時代を超えても変わらない“生き方”だと言えるだろう。一方で、ことマーケティング領域は市場環境や生活者が変化するスピードが速く、マーケターに求められる資質や素養も刻々と変わっているのが現状だ。

たとえば、メディア環境の変化。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌の「4マスメディア」が主な広告媒体だった時代は終わり、スマートフォンが浸透して、もはやデジタルがすべてを内包する時代に突入している。「“デジタル”とひとことで言っても、顧客接点は無限。マスかデジタルかという議論は意味を成さない」と西口氏は指摘する。

同時に、デジタルマーケティングを筆頭に、顧客の動きが数字で見えるようになったがゆえの弊害もある。A/Bテストをひたすら回してCTRやCVRを追いかけ、ある商品がヒットすれば類似商品を出し、KPIをただ追いかける。気づけばコストが積み上がり、売上は立っていても利益率は低下しているケースもめずらしくない。

戸口AというKPIを伸ばす、となったらとにかく施策に一点集中してしまい、どのような心理変化が指標Aを左右するのか、顧客の心を意識しなくなっていく。西口さんはいつも「経営において顧客心理がブラックボックス化している」と指摘されていますが、KPIの数字をとにかく追うのがまさに「ブラックボックス化」なんだと、並走してもらう中で実感するようになりました。

顧客心理を洞察し、どうしたら態度変容や行動に結びつくのかの仮説を立て、施策に落とし込む。それこそ、発展が速く機械化や自動化も進むマーケティング領域で、必ず求められる能力だと言える。

西口今となっては笑い話ですが、新卒でP&Gに入社したときは週次の売上データが電話帳のような紙の束で届いていて、私はその入力スピードを磨いていたんです。PCにどれだけ早く打ち込めるか。それがデータ支給に変わったのは衝撃で、「俺のスキルはどうなるんだ!」と思いましたよね(笑)。

まさに今、デジタルマーケティングの領域でそうした業務がたくさんあると思います。自分が“スキル”だと思っていたもの、例えばリスティング広告やSNS広告の運用ノウハウ等が、明日にはAIによって代替されてしまうかもしれない。だから、自分の仕事がどのような価値を持つのかを、常に考えておく必要があると思います。

ある意味、人間でしかできないことに今こそこだわるべきなのかもしれないですね。顧客の話を聞き、買っている瞬間を見て、プロダクトの何に顧客が価値を見いだしているかを理解することに頭と時間を使った方がいい。人間の心を理解する力や洞察する力をAIが身に着けるのは、さすがに相当先でしょう。

戸口「誰に、何を」提案するのかのWHO&WHATはマーケターが見つけ、「どのように」伝えるかのHOWは自動化の力を借りる。そうすることで、成果が出る表現をかなり効率的に絞り込めます。

ブルーミーの一つの例で言えば、現時点までの顧客分析で「20代独身女性・花をスーパーなどで片目で見ながら『いつか買いたいな』と思って3年ほど経っている」人に一定のコミュニケーションを図ると、初回購買につながる確率を高められることがわかっています。課題は、そのコミュニケーションをクリエイティブとコピーに落とし込むことですが、これは機械学習が助けになるので、試行回数を増やしていきます。

ただし、WHOとWHATが必ず先にあることは忘れないように、と肝に銘じています。BtoCで顧客層は20~60代に広がり、感性に訴える花というプロダクトを扱うブルーミーの事業は、生活者や世の中全体の変化を受けやすい。なので、そうした変化に誰よりも敏感にならなければ、と思っています。

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マーケターよ、今、本当に“一歩先”の挑戦ができているか?

年々守りに入ってしまう前提で、挑戦し続けること。今の仕事の先を、今より経営に近いポジションの視座で見ようとすること。そうした意識で現在の業務にあたるのも大事だが、キャリアアップのために、両氏は「より重い責任を負う環境に身を置くこと」を提示する。先の権限移譲の話のように、もちろん「この範囲を任せられる人物だ」と認められることが条件になるが、それこそ必要なのは挑戦する姿勢だ。「最初は力不足でも当然」と西口氏は話す。

西口いろいろなパターンがあると思いますが、早くスキルを身に着けるなら、最初から全責任を負えるようなところに行くのがいいと思います。自分の経験も踏まえて、やはりいちばん勧めるのは、P/L責任を持つことです。

もちろん、いきなりキャリアとかけ離れた大きな責任を負うのは無理でしょうし、企業の状況や文化にもよりますが、大企業でもスタートアップでも必ず誰かが何らかの責任を負っています。そのポジションを獲得しようという意志が大事です。

また、いずれP/L責任を持ちたいと思ったら、まずは自分のお金で小さな事業を運営してみると、少額でもしびれるくらいの経験ができると思います。私は学生時代に家庭教師の派遣業を運営していたのですが、何十万円と持ち出しがかかった末に初めて2,500円の利益が振り込まれたときは、本当にうれしかったですね。

P/L責任を持つと、ありとあらゆる選択肢を常に考えるようになる。マーケ担当、営業担当、開発担当……という担当レベルの視野ではなく、全てのセクションが気になってくるはず。無意味な投資、非効率な動きをしているかもしれないと感じる部署があれば、意見をしたくなって当然だ。営業には営業の、財務には財務の理屈がある。その中で「どうしたら気持ちよく動いてもらえるか」という対社内コミュニケーションの手腕もまた、経営に近づくほど求められる素養だろう。

西口すべての資金の投資、人的リソースの投資、会社としてやるべきこと。自分と関係ないことも含めて、顧客に関係することは「ひとつの無駄も許せない」という恐怖感に縛られます。そんな環境にいると、おのずと経営者の視界が開けてきます。

粗削りでもいいんです。何歳に何を、と計画してばかりいると、あっという間に30になり35になり、挑戦が怖くなりますから。30代の方のやる気をそぐわけではないのですが、自分や周囲の同僚を考えても、挑戦するなら早いほうがいい。20代でほぼキャリアが決まる……といっても過言ではないので、30代で「経営に近づきたい」と思うなら、20代が追い上げてくることを自覚しながら腹を括ってトライしてほしいです。

まだ業務が細分化していないスタートアップは、視野が広がると思います。一方で、大企業だと業務が細分化しているがゆえに、誰もやっていない仕事がたくさん落ちていたりする。そこを全部拾って、自分の成果にしていくのもひとつの手です。

挑戦できる場所へと移ることに加えて、西口氏がキャリアアップのためにもうひとつ提案することがある。それは、「P/L責任を持つようなシビアな経験をしている上司を持つこと」。やや残念な言い方かもしれないが、若いころのキャリアほど、上司の影響は大きいだろう。

西口たとえば戸口さんのように、若くして私から見ても相当苦労されている人の下につくと、やはり見える景色は違ってきます。私の実体験からも、そうですね。

それから、P&Gで若いころに切磋琢磨した同僚をはじめ、周囲の熱量の影響も大きかった。一緒に事業に取り組む仲間のレベルやモチベーションによって、図らずも自分の視野が決まってしまうところもあると思います。その点でも、成長したいならそういう人ばかりの場所へ行かないと、安きに流れてしまう。

戸口それ、とてもよくわかります。以前、ある大規模な企業の新規事業部で仕事をする機会が少しだけあったんです。志はすばらしかったのですが、事業や成果に食らいつく姿勢が、僕とはちょっと違っていた。温度差があって、馴染めなかったんです。その後、独立してEC事業を身銭で立ち上げて運用することになるんですが、この時の経験がP/L責任の感覚を養っていたと感じています。

今、ユーザーライクは正社員30人ほどの少数精鋭ですが、本当に皆が必死。この環境にいること自体が、刺激になるのではと思います。スタートアップの良さは、事業規模がまだ小さく人数が少ないだけに、自分の働きが事業成長にダイレクトに響くところです。一人の活躍で、大きく伸びる。もちろん、ミスをしたときの打撃も同じくですが。

西口いいですね!その必死さが、絶対に今とこれからのユーザーライクの成長につながっていくと思います。言い換えれば、顧客に感じてもらえる価値を大きくしていける。つらい局面もまだ多いと思いますが、同時におもしろいはずです。

自分の成長を最大化したいというマーケターの方には、可能性が無限だと思える若い時期に、そんな場所を経験してほしいですね。

現状維持で利益が出る環境は、安心で安泰だ。しかし、そこで成長できるのか。今より少しでも広い視野を、高い視座を持つことにつながるのか。常に自分を高められる環境に身を置き、進んでシビアな経験を積むことにいかに価値があるか、戸口氏の実感のこもった話と西口氏の助言からうかがえた。両氏の話に背中を押されたマーケターの挑戦が、スタートアップの次なる未来を切り開くことを願う。

こちらの記事は2022年03月14日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

高島 知子

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