新参者が、不動産業界の“当事者”として
「新築神話」を切り崩す

インタビュイー
角 高広

1989年、大阪生まれ。立命館大学法学部卒業後、(株)Speeeにて不動産流通メディア「イエウール」立ち上げ。事業責任者として業界NO.1メディアに成長させる。その後イタンジ(株)にて、経営企画を中心に、nomad事業責任者、人事、広報、経理と、様々な領域を兼任した後、独立。2018年1月、不動産業界における課題解決を、不動産会社として行うために、(株)すむたすを創業。既存のビジネスモデルと先進技術の組み合わせにより、新しい形の不動産会社を目指す。

関連タグ

日本ではこれから人口が減っていくことが分かっているにもかかわらず、住宅新築の勢いは衰えず、既存の住宅は有り余るばかり。

そんな中、従来の「買取再販事業」のビジネスモデルをアレンジして、消費者主体の業界変革を目指す「株式会社すむたす」が2018年、スタートする。

  • TEXT BY YASUHIRO HATABE
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
SECTION
/

純粋に「不動産業界を変えたい」という想い

2017年のこちらの記事でインタビューした角高広氏が、イタンジを退職して2018年1月に「株式会社すむたす」を設立した。彼がこれまでに関わってきた不動産業界の中でも、「買取再販」を事業とする会社だ。

角はかつて株式会社Speeeに所属し、社内ベンチャーとして不動産売却の査定サイト「イエウール」の立ち上げに関わり、事業責任者として業界NO.1に成長させた。その後2017年に、不動産×テクノロジーの会社、イタンジ株式会社に転職。

そこから1年経たずして、自ら新しい会社をつくった。角は、不動産に関わるビジネスへの思い入れをこう語る。

不動産のマーケットが非常に大きいことは、自分が関わりたいと思う一つの理由です。そこで動く金額の規模という意味ももちろんありますが、それ以上に、あらゆる人に小さからぬ関わりがある領域だということが大きい。

「衣食住」は人が幸せになるのに欠かせない要素だと思いますが、この中でも「住」の選択、住まい選びの重要度が飛び抜けています。

「衣」なら、買った服が気に入らなかったら別の服を買えばいい。「食」なら、美味しいものを食べる時もあれば、美味しくないものに当たる時もある。

でも「住」の場合、特に賃貸でなく住宅を購入するのは“一発勝負”であり、多くの人にとって長い人生に関わる一大事です。気に入らなくても、簡単に買い替えたりできませんから。

そういう意味で、「住」の領域、つまり不動産というマーケットが大事だと思ったんです。

とはいえ、彼が立ち上げた「イエウール」もイタンジも不動産領域のビジネスだ。なぜ、そこから出て、新たに起業しなければいけなかったのか。

社会的な背景を見れば、中古住宅の流通を増やさなくてはいけない、業界を変えなければいけないことは明白。だからこそ4年前に私は「イエウール」という事業の立ち上げに0から携わりました。

「イエウール」という事業は、数年で業界NO.1メディアにまで成長を遂げました。次に、最新のテクノロジーを用いて不動産業界を変えていきたいと考え、その分野でのトップ企業であったイタンジに転職をしました。この2社を経験し、不動産業者への支援者としての立場ではなく、当事者として業界を変えていきたいという考えに至りました。

「イエウール」もイタンジも、不動産領域のビジネスには違いありません。ただ、「イエウール」は広告、イタンジはAIやSaaSなどのテクノロジー、どちらも不動産会社のビジネスを“支援する”立場です。

両社ともに志が高く優秀な人が多い会社で、私自身もすごく居心地が良かったのです。しかし、実際に不動産領域でビジネスをしていると、支援者の立場には、先進的で、業界を変えていけるような企業が既にマーケットに多数存在している一方で、当事者である不動産会社にはそう言った企業が少ないと感じていました。そして、当事者が増えない限りは中古住宅の流通を増やせない、そう思って自身が“当事者”になることに決めました。

SECTION
/

日本の“新築神話”を解体する

中古住宅の流通を増やさなくてはいけないことは「明白」だと角はいうが、ここで日本の中古住宅のマーケットついて把握しておきたい。

日本はアメリカやイギリス、フランスなどと比べて、住宅売買の市場における中古住宅の比率が著しく低い。アメリカでは8割以上が中古住宅、イギリスで約9割、フランスでも約7割が中古住宅の取引なのに対して日本は、中古住宅の取引は1.5割程度にとどまる。

【出展】総務省「平成25年住宅・土地統計調査」・国土交通省「住宅着工統計(平成26年計)」などより国交省作成

新築住宅のほうが売れるので、既存の中古住宅はそのままに、どんどん新築物件が建てられる。人口減少局面に入った日本がこのままの状態で行けば、当然既存の住宅のストックが増加し、空き家になる。

実際、空き家の増加は日本全体としての社会問題になりつつあり、「そろそろ社会として受け入れられない水準になってきている」と角は危惧する。

日本ではどうして中古住宅が伸びないのか。角は、そこに余るほどある中古住宅の活用が進まないことの根本理由に「新築神話」があると見ている。

「新築神話」は、住宅を供給する不動産業界の側にも、住宅を買う消費者の側にもあります。

供給側の論理としては、「新築のほうが利益を乗せやすく、短期的に儲かる」ということ。また、業界の構造上、新築を起点として、中古住宅を仲介・再販するという流れが出来上がっており、そこに従事する人も多い。ビジネスモデルが大きく変わると、仕事を失う人も出てくるため、その構造を捨てにくいのです。

また消費者側の「新築神話」は、「新築のほうがなんとなく気持ちいい」という感覚的なものが大きい。さらに、良い中古住宅がマーケットに多くないことも、神話が根強く残る要因の一つになっています。

中古のほうが価格面では新築よりもコストは抑えられるので“お得感”はあるはずなのですが、お得だと実際に感じられるほどには物件の「質」が伴っていないんですね。

かといって、中古住宅を取得して、DIYなどでリフォームを施すような人は日本ではほとんどいません。リフォームを業者に頼むと、安く中古を買ったはずなのに結局は高くつく。その上、リフォーム自体が失敗するリスクもある。結果として、中古で買うくらいなら、多少高くても新築を買うという人が多くなっています。

これだけ国土が狭く、人口が減っていく日本で、アメリカと1年間で販売される新築戸数がほぼ同じなんですよ。もはや正気の沙汰じゃないとすら思いますね。

そうした住宅をそうした住宅を取り巻く業界・社会の背景を踏まえて、業界を変えたいと思った角が着目したのは、不動産の「買取再販事業」だった。 このアイデアは、Speeee時代の新規事業調査チームで着想を得たが、Speeeでは当時の事情展開の状況等を鑑み実施を見送った背景があった。退職後もそのアイデアを自身でブラッシュアップを続け、起業に至った。

SECTION
/

買取再販事業に着目した理由

ここにたどり着いた理由はシンプル。質が良く、安価な中古住宅があれば、人は買い始める。「中古を買って良かった」と満足する人が増えてくれば、中古住宅を扱う会社も増えていき、マーケットが形成される。さらに市場が大きくなれば、業界も変わらざるをえなくなる。そうした「消費者主体の変革」の道筋が、角の頭の中にはある。

その起点となる「質が良く、安価な中古住宅」を流通させるために、“当事者”になる必要があったともいえるだろう。

さて、「買取再販事業」とは一般には聞き慣れない言葉かもしれない。

買取再販とは、中古住宅を売却したい人から買い取り、リフォームを施し、価値を足して、買いたい人に売るビジネスだ。「住宅(すむ)」に価値を「足す(たす)」ことから、角はこの会社を「すむたす」と名付けた。

中古住宅の売買の一番シンプルな形は、「売りたい人」が自分で「買いたい人」を探し出して直接取引する形だ。ただ、売りたい個人が自分で条件の合う買い手を探すのは非常に難しく、中古住宅を買いたい人が売り手を探すのもまた同様に困難である。

ゆえに、間に不動産仲介会社を立てて取引するのが最も一般的。不動産取引の場合は、売り手側の仲介と、買い手側の仲介が存在する。

従来の買取再販会社も、基本的にはその流れに乗っている。「売りたい人」から「仲介会社(売り手側)」を通じて物件を買い取り、リフォームを施して価値を高めた上で、「仲介会社(買い手側)」を通じて売りに出し、中古住宅を「買いたい人」に販売する。

この場合、売り手も、買い手も、仲介会社に仲介手数料を支払う。仲介手数料は物件の価格によって異なるが、最大で取引価格の3%+6万円。

買取再販が間に入る場合は、取引の起点となる「売り手」から最終的に「買い手」に物件が渡るまでに、仲介手数料は最大「4回」発生する。

従来のビジネスモデル

すむたすのビジネスモデルは、従来の取引の流れとは根本的に異なる。まず、「売りたい人」から直接購入し、「買いたい人」に直接売る。その際、仲介手数料は取らない。リフォームで物件の価値を高め、その付加価値への対価を利益として得るということである。

すむたすのビジネスモデル

そうすると、これまで最終的な買い手に渡るまでに発生し、購入価格に乗っていた仲介手数料分は安く購入できることになる。中古住宅が「質の割に高くつく」と思われている課題が解決するのである。

バリューアップに際して工務店・リフォーム会社の利益は削らず、従来通り、またはそれ以上の支払いをしても十分な値下げが可能ということだ。

そして、「業界を変えたい」と思っているのは角だけではない。

現在、日本国内の中古住宅市場は約4兆円の規模と推計されている。そのうちの約1兆円が、買取再販の市場だ。

政府は、2025年までに中古住宅市場全体を4兆円から8兆円規模へ倍増させるという定量目標を掲げている。その中でも、中古住宅流通・リフォーム市場活性化の起爆剤になり得るとして買取再販に注目し、税制・金融面の制度整備を進めている。

現在、買取再販は中古住宅市場全体の4分の1程度に過ぎませんが、今後その占める割合はさらに高まり、おそらく数兆円規模になるのではないかと予測しています。

SECTION
/

すむたすが提供するコアな価値とは

すむたすのビジネスは、「仕入れ」「バリューアップ」「販売」の3つのフェーズに分けられる。

「仕入れ」については、機械学習を用いた独自システムの構築により、査定を完全自動化したいと角はいう。

一般的な査定サイトは、あくまで“簡易”査定であり、提示される額は「おそらくこれくらいの額で売れるだろう」という概算だ。他社の場合は売却が決まるまで概ね2週間くらいかかるのが通常で、売れない場合は査定額よりも低い価格で売る場合もある。

すむたすの場合は、物件の場所や階数、向きなどの情報と、過去に実際に取引されたデータからAIが買取額を即時に提示し、その額で実際に買い取る考えだ。

ただ、実態と異なる物件情報が入力される可能性もあるため、最終的な契約前に一度、査定時に提供された情報と実際の物件が相違ないか、社内の調査員を派遣して確認は行う。「最短3日程度で買い取りを決定したい」と角はいう。

「バリューアップ」に関しては、工務店・リフォーム会社をネットワーク化していく。まず都内で30社ほど加盟店になってもらい、そこに同時・同条件でリフォームの発注を行うシステムを構築するそうだ。各社はそれを受けて、自社の繁閑の波に応じて入札する形だ。

ただし、すむたすの買取再販においてリフォームの品質は、提供する価値そのものであり、ビジネスの生命線である。そのため、必ずしも安い価格を提示したところに発注するわけではなく、独自のクオリティスコアを設けて加盟店を評価し、それと価格との掛け合わせで適した発注先を決定する方針だ。

「販売」に関しては、これもまた業界の通例とは真逆をいく発想であるが、現状では広告を打たない予定だという。

住宅のような高額の商品を買う方は、事前に情報収集をしっかりされるものと理解しています。特に、中古住宅を買おうと考えている方は、価格もさることながら、室内のデザインや、どういうリノベーションがしてあるかをとても気にされます。もう一つの特徴として、高額商品ほど人は「ストーリーで買う」ものと考えています。

そういう方に関心を持っていただくためには、一般的な広告、物件一つ一つの良さを訴求していくよりも、もう一段上の、広報・PRに注力することが効果的だと考えています。

とにかく広告コストを抑えようという意図でなく、広報・PRの予算はしっかり取って、「すむたす」という会社のビジョン、当社のビジネスモデルそのものの良さに関心を持っていただき、支持していただき、そこから販売につながるという流れを当面は目指します。

SECTION
/

ビジョンの実現確度にこだわる

角は、「すむたすの“強み”は、買い取り(仕入れ)時も、再販する時も、仲介会社を通さないこと」だと説明する。

しかし、先に触れたように、従来、買取再販会社も仲介会社を通じて中古物件を買い取り、リフォームした後は、やはり仲介会社を通じて販売してきた。

売り手から直接買い取り、買いたい人に直接売るということは、すなわち仲介会社を介さないということでもあり、軋轢が生ずることも想定できる。

僕はこれまでも不動産領域に関わってきましたが、不動産業を営んできた訳ではありません。あくまでマーケティング、テクノロジーを駆使するスタートアップという立場でした。別業界のロジックを持ったまま、不動産業界の外から新参者として入り込んでいくことに、大きな意義があると思っています。

すむたすは、REAPRA Ventures(参考記事)の出資を受けてスタートする。

REAPRAは、医療・介護の領域で事業を行うエス・エム・エス創業者の諸藤周平氏が同社代表取締役を退任し、2015年にシンガポールで設立した事業投資会社だ。そのREAPRAが、日本国内での事業立ち上げ・投資を行うのがREAPRA Venturesである。

そのREAPRA Venturesから出資を受けたのは、なぜか。

これから私は、歴史あるビッグマーケットの変革に挑みます。基本的には、業界各社の皆さんとは、共に消費者のほうを向いて業界を良くしていきたいと考えています。

そこへ新参者として、業界が出来上がっている強固な構造と特有のロジックを素知らぬ風で入って行くことが大事だとは思っていながらも、そこでうまく渡り歩いていくためには、「後ろ盾」が必要だと思ったのです。ある種打算的に考えた部分はありますし、そのことは出資を受ける前提として伝えています。

実をいうと、いくつかのベンチャーキャピタルとお話をさせていただいた中で、投資条件がもっと良いところがなかったわけではありません。でも、事業の実現可能性を重視した場合に、REAPRAの出資を受けることが最適と判断しました。

すむたすは設立したばかりで、共に歩む仲間を集めるのはまさにこれからだ。今、求めるのは業界経験の有無、そして職種や専門性を問わず「不動産業界を変えたいと思っている人」だ。

私自身、不動産会社の社員としての経験があるわけではありません。 大事なのは、すむたすのビジョンやミッションに共感できること、業界を、世の中を良くしていきたいというエネルギーがあることだと思っています。

そのため、過去の経験や現在のスキルよりも、未来を良くしていきたいというエネルギーを大切にしています。それさえあれば是非すむたすにジョインしていただきたいです。

もちろん既に専門性の高いスキルをお持ちの方も歓迎しています。 こと営業に関しては、私は誰にも負けない自信がありますが、それ以外で何か特別秀でていることがあるかというとそうでもありません。

経営、ファイナンス、マーケティング、採用、広報、デザイン、開発…どれも点数でいえば70点くらいでしょうか。いや、開発は30点くらいですね。ちょっと盛りすぎました。 でも、ビジネス側の業務はどれでもある程度のレベルはできるということです。

ジョインしてくれる方が持つ専門性に応じて私のほうが柔軟に役割を変えていくこともできますので、「一緒にやりたい!」と思う方にはぜひ手を挙げていただければと思います。

こちらの記事は2018年02月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

畑邊 康浩

写真

池田 有輝

おすすめの関連記事

Sponsored

DXに必要なのはビジョン・戦略、そして「人に妥協しないこと」だ──壮大なリアル事業を変革し始めた東急不動産ホールディングスのデジタルエキスパート集団TFHD digitalとは

兼久 隆行
  • TFHD digital株式会社 取締役執行役員 
  • 東急不動産ホールディングス株式会社 グループDX推進部統括部長 
  • 東急不動産株式会社 DX推進部統括部長 
公開日2024/03/29

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン