【徹底解剖】ベンチャー、PE、戦略ファーム出身者も集う“丸亀製麺”トリドール。そのM&A戦略

インタビュイー

大学院在学中に公認会計士試験に合格。修士課程を修了後、大手監査法人にて監査業務に従事。
その後、国内証券会社系のプライベートエクイティファンドにおいて、電子機器メーカー、外食企業等のバイアウト投資およびその後のハンズオンでの経営改革を経験。
2014 年に株式会社トリドールへ入社。2016年に執行役員に昇格し、2017年に取締役に就任。

衣川 卓宏

東京大学経済学部卒業後、プライスウォーターハウスクーパースにて人事・退職給付関連のプロジェクトに従事。3年勤務した後、バックパック1つで世界26ヶ国を1年半かけて放浪。帰国後、ベイカレントコンサルティングにて、オペレーション改善等に従事。その後は、WEBサービスのスタートアップに移り、ECサービス事業責任者として、バリューチェーン改善や新規事業立ち上げ等を指揮。2017年4月より、トリドールに参画し、新規事業立ち上げ支援、マーケティング支援業務等を担当。

原田 悠

早稲田大学大学院修了後、戦略コンサルティング及びベンチャー投資を行うドリームインキュベータに参加。大手製造業企業を中心に、新規事業戦略構築及び実行支援、北米におけるイノベーション拠点新設プロジェクト等にマネジャーとして従事。コンサルティングサービス以外にも、100%子会社(物流ベンチャー)の経営に参画し、オペレーション改善・システム構築を主導。戦略コンサルティング業務に5年従事した後、2017年よりトリドールに参画。トリドールでは、海外事業(北米・欧州)を担当し、M&Aに向けたリレーション構築/ソーシング/バリュエーション/交渉やグループ組織再編、子会社管理を担う。

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誰もが知る「丸亀製麺」をはじめとした、外食産業のリーディングカンパニー、トリドール。

メインの“うどん屋”からは想像しがたいが、現在事業投資を加速させている。それをリードする経営企画室には、あらゆる業界のトッププレイヤーが集う。

同室メンバーである取締役 小林寛之氏、 衣川卓宏氏、 原田悠氏の3名に、転職に至った経緯やそこでの仕事の実情、トリドール社のM&A戦略を語ってもらった。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
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投資家でもあり、起業家でもある

まず、皆さんのプロフィールとトリドールに入社した背景を教えてください。

小林私は大学院在学中に公認会計士の試験に受かり、大手監査法人に務めていたのですが、3年目を迎えるころには、出来上がった数字を見る監査ではなく、数字が出来上がる前の経営に携わりたいと思うようになっていました。

そこで日系PEファンドに転職し、メーカーや外食といった分野に投資。ハンズオンでの経営を経験しながら5年が経ったころ、ファンドが終了するタイミングで再度転職活動を開始したんです。そのタイミングで弊社代表の粟田と出会い、ビジョンの大きさと絶対にやりきるという気迫に惹かれてトリドールに入社を決めました。

原田私はビジネスの世界で人や社会がどう動いているかを幅広く理解したいという理由から、大学院卒業後、戦略コンサルティングから事業投資までを手がけるドリームインキュベータに入社しました。

5年間の在籍時には、製造業を中心に事業戦略立案や、アメリカでのイノベーション拠点立ち上げに携わったりしました。転職を意識したのは小林と同じく大きなプロジェクトが終わった時。コンサルタントとして脇役に終わるのではなく事業に直接携われる働き方ができる環境を探した結果、トリドールに辿りつきました。

衣川私も新卒ではコンサルティング会社に入社したんですが、原田のような崇高な理由ではなく、「3年働いてお金を貯めて旅をしよう」と決めて入社し、実際に3年で退職。1年半の旅に出ました。帰国後は、一旦コンサルティング業界に戻ったものの、旅の途中で出会ったベンチャー企業の代表に誘われる形で、事業責任者を2年ほど務めました。

前職のベンチャーでは大きなミッションやビジョンに惹かれて入社したのですが、ベンチャーであるからこそ、市場環境等の影響を受けやすく、純粋にミッションだけを追究し続けられない苦しさも経験しました。そのため、明確なビジョンのもと、成長し続けていて、自由なカルチャーがあり、様々なチャレンジができる、という条件で企業を探し、縁あって、トリドールに入社しました。

それぞれの前職と比較して、トリドール経営企画室での仕事の魅力はなんでしょうか?

原田 自分が描いた戦略の成否を、本当の意味で最後まで見届けられることでしょうか。私は戦略コンサルタント時代に、自分で描いた戦略がうまくいくかどうかの答え合わせが出来ないことにもどかしさを感じていました。しかし今は自分の考えが正しいのかどうか、マーケットからダイレクトに反応を得ることができます。

投資家でもあり事業家でもあるので、常に結果が出るかどうかのプレッシャー/不確実性と向き合っています。大変ではありますが、非常に刺激的。毎日がそんな感覚です。

投資も戦略構築も事業推進も、大きな裁量を持って、自らの判断を元に行えることが、トリドールで仕事をする1番の面白さだと思っています。

衣川ベンチャー在籍時と比較すると、事業成長のことだけをしっかり考え続けられるのは楽しいですね。

ベンチャー企業の場合リソースが限られているので、事業拡大以外の業務に相当な時間が取られて、事業や売上を伸ばすことに集中できない場面もあります。トリドールであれば各方面のスペシャリストが揃っていて人手不足に悩むこともなければ、お金や設備といったリソースが足りずに悩むこともほとんどありません。

原田大きなプロジェクトを推進する際に、その全てを自分でやる必要がないのは事業会社の大きな特徴です。ホールディングスの本社部門やプロフェッショナルファームの力を借りたり、事業子会社、海外現地法人の経営陣と力を合わせたりしながら進めることになります。

衣川ベンチャーのように1人が複数ロールを担う環境で事業を0から生み出すことは確かに魅力的です。ただ、その経験はトリドールでも可能です。例えば、EC事業を行っている子会社のバルーンは社内ベンチャーとして、0から生まれました。

もちろん、ある程度大きくなってきたサービスをもう1段階グロースさせるフェーズから関わることもできます。どちらの選択肢も取れる可能性があるのは魅力的だと思います。

小林PEファンドとの比較で言うと、買収して企業価値を高めるという観点では共通していますが、トリドールは基本的に売却はしないスタンスのため、より長期的なコミットメントを持って事業を行えます。

また、私たち3人はトリドールホールディングスの経営企画室に所属しているので、投資先だけでなくトリドールグループ全体の企業価値も高めていかねばならない、というミッションも併せ持っている点でも異なっています。

これから投資先が増えれば増えるほど、ホールディングスの機能は拡充しなければなりませんから、投資先だけでなく、ホールディングスという大きな事業会社の課題も解決しなければならない。大変ですけど、1粒で2度おいしいキャリアです(笑)。

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PEファンドとVCの中間の投資スタンス

トリドール社が行うM&Aにはどのような特徴がありますか?

小林M&Aの事業領域は必ずしも飲食に限りませんが、飲食領域であればトリドールが丸亀製麺で培ってきた“マスマーケットでの多店舗展開”という事業ノウハウが活きる企業が買収先として選定されることが多くなっています。

マスマーケットでは大衆性、普遍性がキーワードになるので、クイックサービスレストランはトリドールが出資・買収するターゲットとなりやすいカテゴリーの一つです。その中でも、いつも行列ができるとか、並んでも食べたいといった競争優位性があって、その領域における“ブランド”になっていけそうな企業が当てはまります。

衣川一般的な企業が事業投資を行う場合、どうやってシナジーを生み出すか?がまず議論されると思いますが、トリドールの場合はそうではありません。

ほとんどの場合、買収先・出資先企業と生み出すシナジーが“多店舗展開のノウハウ提供による事業拡大”であるため、企業選定に集中でき、スピーディに意思決定ができるという点も強みになっています。

原田PEファンドとベンチャーキャピタルの中間の性質ではないでしょうか。これから大きく伸びていきそう、多店舗展開・グローバル展開が実現できそうな企業に対して、基本的にはマジョリティ投資を行って、並走して未来を一緒に創っていくのがトリドールの投資スタンスです。

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店舗ビジネスの事業基盤でスタートアップの成長を加速

お金の出し手は国内でも増えてきました。そんな中で、トリドールの出資者としてのユニークさはどこにあるのでしょうか?

原田トリドールは丸亀製麺事業を通じて、店舗ビジネスを運営する上での事業基盤を持っていることです。ベンチャーキャピタルやPEファンドの場合、目に見えないネットワークや知見を提供しますよね。経営自体は基本的には買収先のリソースの中で行うしかありません。

それに対してトリドールは、調達、店舗開発、人材採用、オペレーション構築等を1000店舗レベルで運営できるリソース/仕組みを保有しており、こうした機能を買収先に供給できます。

小林つまり、開発、製造、流通、小売など外食を含め一般的に事業の運営に必要な全てのバリューチェーンが揃った会社がトリドールなんです。これまで仕入れや製造・販売も行うし、出店場所も自分たちで見つけてきてビジネスを拡大してきました。

通信会社や商社、ネット系企業は持っていないリアルビジネスに関わる製造・出店・販売ノウハウが私たちの強みになっています。

時代の潮流としても、米国や中国では有名なIT企業が小売企業を競って買収しています。ITの領域で成功を収めたそのような企業が、実店舗に巨額な資金を投資している現実を見ると、ネットだけでは補えない何かがリアルビジネスにあるのだろうと思います。

トリドールはリアルビジネスに関わる強いプラットフォームを持っているので、それ利用すれば、ベンチャーやスタートアップといった企業の成長速度を何倍にもできる可能性があるはずです。

原田投資する側も今後はお金の出し手としてのユニークネスをはっきりさせないといけない状況になっていくと思っています。今のような経済トレンドだと、出資したくても出資できない、という投資家過多な状況が生まれつつある。

そのようなときに、投資家としてどんなアセットを持っているのか、どんなことができるのか、を明確に提示できることが出資を受け入れてもらうために重要です。

その中でも、トリドールはかなりユニークなポジションを取れているといるのではないでしょうか。トリドールと同じリソースやノウハウを提供できる事業会社やベンチャーキャピタルは、あまり思い付きません。

そのような出資者としてのユニークさが、直近の1年半で6社の買収(国内3社、海外3社)につながっているのですね。

衣川企業としてのユニークさに加えて、ソフト面の強さもあります。ベンチャーにいた私から見ても、社長の粟田の意思決定は速い。1,000人を抱える企業の社長ながら、ベンチャーの優秀な経営者に似ている印象ですね。

小林私が投資検討しているときにも、ベンチャー企業やベンチャーキャピタルの方々から「上場企業なのになんでこんなに投資決定が早いの?」とよく訊かれます。

原田さらに特徴的なのは、トリドールで実現するアイデアのほとんどはボトムアップでメンバーから生まれているということです。ボトムアップでメンバー全員からの知恵を募りながらも、スピードを落とさない経営スタイルをうまく確立できています。

アイデアを粟田にぶつけにいって、やると判断したら全社員でその実現に向けて動いていく。「やる・やらない」の意思決定も相当なスピード感ですね。ビジョンや目標に向けてやるべきことであればまずは「やる」という決断が下されます。どうやるかというHOWの部分は後から考える事のほうが多い。

自分がやるべきだと思うことを伝え、それが正しそうであれば、すぐに「やろう」という話になって会社が動くので、「自分が経営者だったら何をするか」を、無意識に常に考えてしまう。経営者を目指す人材にはぴったりな環境です。

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M&Aと新規事業で“ネクスト・ライフスタイル”を生み出す企業へ

最後に、M&Aも駆使して達成したい、今のトリドールの目標を教えてください。

小林現在、世界の外食企業トップ10に入るという目標を掲げています。壮大な夢に聞こえるかもしれませんが、粟田は「できるかできないか」ではなくて「どうすればできるか」を考え続けられる人。全世界で6,000店舗という具体的な目標に今でも徐々に近づいてきています。

加えてトリドール自身、外食産業にこだわらず、ライフスタイルを提供できる企業に変わっていかなければなりません。

小林コンビニが普及したり、ECサイトでなんでも購入できたりするようになった現代だからこそ、単に“モノ”ではなく、もくもくと湧き上がる湯気、揚げたての天ぷらが陳列されるシーンなども含めた「手づくり・できたての本格的なうどんを日常的に楽しむ」というライフスタイルそのものを提供したことが、丸亀製麺の成功につながっている。

しかしいまの時代、外食産業を始めとしたどの業界でも、一気に右肩下がりに突入するときがやってきてもおかしくない。

そんな時代であってもグローバルで見た時に、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)やイケアのような企業は、ライフスタイルそのものを提供し、人々から愛され続けていますよね。トリドールも同様に、外食だけにとらわれず、消費者に“ネクスト・ライフスタイル”を提供できるような企業に変貌していきたいと思っています。

こちらの記事は2017年12月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

写真

池田 有輝

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