連載エースと呼ばれた20代の正体──若手のノウハウ大全

「領域侵犯」で自分の立場を確立せよ──ラクスル平光竜輔の“エースたる所以”

平光 竜輔
  • ラクスル株式会社 ラクスル事業本部 / グロース事業統括 / エンタープライズ事業部(部長) 

新卒でラクスル株式会社にプロダクトマネージャーとして入社。カスタマーリレーション部でオペレーション改善・プロダクト開発を行ったあと、印刷ECとサプライチェーン基盤のプロダクト開発に従事。その後、大企業獲得を目的としたエンタープライズ事業部を立ち上げ。新規プロダクトの開発、セールス、マーケティングなどを担う。現在は、当事業の事業部長として事業全体を管掌。

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会社のなかでひときわ活躍している社員がいる。群を抜いて優秀な社員がいる。そんな“エース”と呼ばれる人間は、いかにしてエースになったのだろうか──。

20代エースの正体に迫る連載企画「突撃エース」の内容を元に、本記事ではそのエースたる所以を考察した。

第一回は、ラクスル株式会社で新卒入社4年にして事業部長になった平光竜輔氏。彼の経験を掘り下げていくなかで、独特の「仕事への向き合い方」が見えてきた。

  • TEXT BY TEPPEI EITO
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必要なのは「売るスキル」より「作るスキル」?

学生時代は野球に打ち込み、甲子園への出場も果たした平光氏。しかし高校卒業とともに目標を失い、大学に進学してからは強い喪失感のなかで無為徒食の生活を送っていたという。

そんな堕落した毎日に危機感を感じた彼は、再び自分を奮い立たせるため、インターンとしてアッションに入社。マーケティングツールの販売を主事業としていた同社で、セールスとして働いた。辛いテレアポの毎日。深夜まで残っての資料作成。大学の講義中に仕事をすることも少なくなかったという。

そうやってがむしゃらに働くうちに、少しずつITについて、そしてWeb業界についての理解を深めていった。当時、業界内ではWebサービスの売却事例が多発しており、それを見ていた平光氏は、「今後必要なスキルはプロダクトを“売る”スキルではなく、“作る”スキルだ」と考えるようになったのだ。

“開発サイド”への転向を決意した同氏は、サイトビジットにインターン先を変更し、エンジニアとしてプログラミングの勉強に打ち込んだ。

そして、学生時代に「ビジネスサイド」と「開発サイド」両方の経験をした彼が新卒で入社したのが、ラクスルだ。プロダクトを自分で作りたい。でもWeb/ITだけで完結しないような、バリューチェーンの長い事業に関わりたい。まさに“両サイド”の経験を持つ彼ならではの考えで、同社プロダクト開発部門にジョインした。

入社後はカスタマーサポートでキャリアを開始し、2年目からはマイページリニューアル等の大きなプロジェクトを複数担当するようになる。

そして入社4年目の年、新規部署の立ち上げというビッグプロジェクトに任命された。業務内容は、経験のあるプロダクト開発だけではなく、組織づくりやマーケティング、営業と多岐にわたった。

現在同部署の部長である彼にとって、もはや担当領域は「ビジネスサイド」でも「開発サイド」でもない。むしろ、セールスやエンジニアといった部署メンバー間の意見をまとめる側の立場なのだ。

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領域侵犯で、「〜サイド」にとらわれない高い視座を

企業内における「ビジネスサイド」と「開発サイド」との対立は、これまでに幾度となく取り上げられてきた。収益重視と品質重視、ミクロ視点とマクロ視点、具体と抽象……。二者間の深い溝にはさまざまな原因がある。

こういった問題を経営課題と捉えることももちろんできるが、一個人としてはどのように捉えるべきだろうか──。

“両サイド”の経験を持ち、現在は事業責任者という立場で組織をまとめる側に立つ平光氏曰く、スタンスを取ること、つまり自分の立場を明確にすることが重要だという。

そんなこと、耳が痛いほど聞かされている?「はいはい、待ってましたそんな視聴者の心の声」と言わんばかりに、くだんの件に対して独自のある論理を展開してくれた。それが「領域侵犯」だ。

入社4年目の年、彼は新しい部署であるエンタープライズ事業部の立ち上げを任された。ここには新規プロダクトの開発や組織マネジメントはもちろん、マーケティングや販売も含まれていた。これまでプロダクト開発しかしてこなかった同氏には、大役過ぎたかもしれない。

しかし、結果的にこの経験が彼にとっての大きな転換点となる。

自らマーケティング戦略を考え、セールスとしてクライアントに会いに行き、部署メンバーの採用まで行った。自分の領域だと考えていた「プロダクト開発」の域を出て、経験したことのない業務に取り組んだのだ。

すると、これまでになかった視点が生まれてきた。例えばプロダクト開発において、これまでは「良い商品をつくれば売れる」という“開発サイド”にありがちな考え方を持っていたが、セールスを経験することによって「売りやすさ」を考えるようになったという。

いくら良い商品でも、クライアントに理解されなければ買ってはもらえない。あたりまえのことだが、こういった些細な点で“ビジネスサイド”と“開発サイド”の対立が生まれてしまうことは言うに及ばない。

また、セールスとしてクライアントのニーズをヒアリングしていくと、実に多種多様な個別課題があることに気付かされる。しかし、それを“開発サイド”の視点で抽象化してみると、意外にもたったひとつの根本的課題に集約されることもある。

こういった経験を経て、彼は「自分の立場」を確立するためには、領域侵犯によって視座を高める必要があると考えるようになったのだと言う。

立場を確立させるということは、ただ「〜サイドだ」と言って、自分の意見に固執するということを指しているのではない。むしろそれは対立を生む。

ひとつの領域から作り出される「わがままな意見」ではなく、領域侵犯によって作り出される「高い視座」こそが、プロジェクト成功の鍵を担う立場の確立につながるのだ。

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領域侵犯の現実的な落とし所

プロジェクト成功の秘訣を知った平光氏が、事業部長として意識していること。それは、「情報の非対称性の解消」だ。

先に述べたとおり、プロジェクト成功の鍵は領域侵犯にある。しかし実際、各メンバーがそれぞれ別領域の経験をするのはかなり難しいだろう。

セールスがプログラミングを勉強し、デザイナーがテレアポしてクライアントのニーズを聞き出すなんて……生産性の悪さはもちろん、個人のモチベーション低下にもつながりかねない。

だからこそ同氏は、経験できない分、メンバー全員の経験や考えを共有し、メンバー間での情報の非対称性をできるだけ解消しようと努力しているのだ。

事業部長はもちろん、PdMやBizDevといった立場の人間は、プロジェクトの中心に立つことが多いため、自然と情報が集約されてくる。一般的には、そうやって情報を集約して各メンバーへの指示を行い、プロジェクトを進めていくことが多いだろう。

しかしこの進め方は、些細なコミュニケーションのズレによって、舵取りを誤ってしまうというリスクがある。また、平光氏が考えるような建設的な意見交換も起きづらいだろう。

情報を一部の人間に集約させるのではなく、メンバー間で共有させる。中心的な立場にいる人間に求められることは、いかにスムーズに、そして対立を生まずに「共有」を進めるか、ということだと平光氏は話す。

実際、同氏の部署ではセールスチームとプロダクトチームによる定例のMTGを実施し、それぞれの経験や意見を共有しているのだという。セールスからはn=1のお客様のリアルな声を、開発部門からはプロダクトコンセプトや開発の進捗状況などについて、スムーズな共有によって情報をメンバー全員に行き渡らせる。こういったチーム作りにおける考え方にも、全員が自分の立場を確立し、自分の意見を持つべきだという彼のスタンスが反映されているように感じる。

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自分の領域から外に踏み出す勇気こそが「エース」を生む

平光氏の考え方を聞いていると、“〜サイド”という立場の決め方はずるいのではないかと思えてくる。

自分たちのポジションを固定し、対立する立場をつくり、相容れない理由を列挙し、正当化する。それはただ、違う領域に踏み出す危険を冒さず、相手の意見を理解する努力を怠っているだけなのではないだろうか。

彼はそこから一歩踏み出した。

最初のインターン先で、Webサービスを自分で作りたいと思いたち、次のインターン先ではセールスからエンジニアに転向した。しかし、ビジネスサイドと開発サイドを経験した彼は、Webに閉じることのない、社会のインフラのようなサービスを作りたいと思うようになった。

エンジニアに憧れていた頃の考えと、エンジニアを経験したあとの考えが変わっているのだ。

勇気を持って領域外に踏み出すことで、高い視座を獲得することができる。この考えは、プロジェクトの進め方だけではなく、個人のキャリア形成においても当てはまるものがあるのかもしれない。

同氏は取材の途中「自分は飽き性なだけかもしれませんけどね」と恥ずかしそうに話していた。しかし、“ただの飽き性”を“チャレンジングな領域侵犯”へと昇華し、さらにそこで得た経験を次のフィールドで生かすことができる人は稀だ。

取材のあと、ラクスル執行役員の高城氏からいただいた平光氏についてのコメントには、次のように書かれてあった。

「非連続な成長によって、短期間で事業家になった」──。

短期間で“事業家”になることができた非連続な成長の正体はきっと、そういうところなのだろう。

こちらの記事は2022年03月31日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

栄藤 徹平

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