連載私がやめた3カ条

盲目的にセオリーを受け入れるな──Azoop朴貴頌の「やめ3」

インタビュイー
朴 貴頌

慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、2010年に株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。2015年に家業である中古トラック専門商社、株式会社日光オートに入社したのち、2017年5月に株式会社Azoopを設立。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、トラック運送業向けに車両売買プラットフォームや業務支援SaaSを提供している株式会社Azoopの代表取締役社長、朴貴頌氏だ。

  • TEXT BY TEPPEI EITO
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朴氏とは?
運送・中古車業界DX化の旗振り役

同氏が持つ起業家精神の最深部には、学生時代の原体験がある。

小学生の頃からアイスホッケーをしていた彼は、高校1年生のときに県選抜の国体候補生に選ばれた。しかし国籍の問題で参加資格を得られず、出場できなかったのだ。これに対して、まわりの協力者とともに文科省へ抗議文を送り、高校3年生のときには参加が認められたのだという。

このとき彼は、「挑戦する人の選択肢や可能性を広げられる存在になる」と心に誓った。

大学卒業後はリクルートに入社し、起業家精神を絶やすことなく29歳で退職。経験を生かしてHR領域での起業を考えていたところに、中古トラック売買の会社を経営する父親からの誘いがあった。

そこでしばらく働いた朴氏は、中古車流通の非効率さや、業界としてのデジタル化の遅れに気づき、この領域での起業を決意。2017年に株式会社Azoopを立ち上げ、「トラッカーズ」のブランドで広く運送・物流業界のDX化を推進している。

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ユーザーニーズの思い込みをやめた

従来、中古トラック流通では売買完了までに多くのプレイヤーが間に入っており、かなりのマージンが抜かれてしまっていた。加えて、オフラインでしか売買されることがないという昔ながらの商習慣もあったという。

ここに着目した朴氏は当初、わかりやすくCtoCの売買プラットフォームを立ち上げ、問題解決に努めた。さらに、このソリューションによって海外のユーザーにも喜んでもらえると考え、英語版サイトまで立ち上げた。

しかし蓋を開けてみると、プラットフォーム上での売買発生率が想定を大きく下回っていたという。

問題に直面した彼は、自らの推測によるユーザーニーズを捨て、メインターゲットとなる運送会社に足しげく通い、入念なヒアリングを実施。そこで見えてきた"実際の"ニーズは「売りたい時期に売り切りたい」ということだった。

既存のサービスでは売買成立までのリードタイムが読めず、このニーズを満たすことができないと考えた同氏は、新しいサービスを作り直した。これこそが、現在同社のメインサービスとなっている『トラッカーズオークション』だった。

売買発生率が低いということは、シンプルにユーザーに求められていないということ。そのまま続けていても中古車流通のメインストリームになるのは難しいと感じたんです。表面的な課題に着目してソリューションを提供しても、本質的な課題が別にあったりする。重要なのは、本当のユーザーニーズを把握することだと思います。

起業するにあたって、社会問題とその解決方法とをひとくくりにして考えてしまうことがある。しかしその社会問題の解決策として、最初に考えていたものが最適解になるとは限らない。自分の推測を過信せず、ユーザーの声を聞きながら真のボトルネックを探し続けることこそ、起業家には必要なのだと朴氏は気づいたのだ。

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セオリーに従うのをやめた

一般的にスタートアップでは、プロダクトを1つに絞るのが好ましいと言われている。これは、リソースの分散を防ぎ、経営戦略をブレさせないためだ。株式市場や企業価値(時価総額)向上の面においても、事業ポートフォリオを組むとコングロマリットディスカウント(多くの事業を抱える企業の企業価値が、各事業ごとの企業価値の合計よりも小さい状態のこと)されてしまう、といった話もよく聞く。

しかし同社は、こういったセオリーを知りながらも、マルチプロダクト戦略へと舵を切った。もちろんこの決断には理由がある。

そもそも、弊社のように業界に特化したバーティカル(垂直型)なプラットフォームプレイヤーには、まだ正解と呼べる経営戦略が確立されていないと思っているんです。実際、上場している企業も多くないですしね。

それと、我々は運送会社にフォーカスしているので、TAMがそこまで大きくありません。業界特性もあって、オンラインマーケティングではなくフィールドセールスによる顧客開拓をしていることからも、クロスセルを前提としたビジネスモデルによって、「限られた市場で網羅的にシェアを取りきる」という戦略のほうが適しているだろうと考えたんです。

この方針は結果として、顧客との粘着力を高め、LTV向上につながっているという。

経営者にとって、自分を過信せず、他者の意見に耳を傾けることが重要だと前述した。しかし、だからといって盲目的なセオリーへの迎合が肯定されるわけでも、もちろんない。「バランスが大事」というのはまさにこのような点なのだろう。

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競合他社を意識しすぎるのをやめた

合理的な判断によってマルチプロダクト戦略を選んだ同社だったが、順風満帆というわけではなかった。2021年4月に立ち上げたドライバーの求人サイトである『トラッカーズジョブ』を、同年7月、わずか3ヶ月でクローズしたのだ。

ニーズがなかったのではない。むしろ多すぎるくらいあったという。それでもクローズしたのには2つの理由があった。

ひとつは、組織的な問題だ。当時、同社はすでに3つのプロダクトを持っており、『トラッカーズジョブ』は4つ目のプロダクトだった。現場では「どのプロダクトにフォーカスすべきか」がブレてしまい、メインサービスであった『トラッカーズオークション』の売上も伸びなくなってしまったという。

朴氏はこの経験から、組織体制の重要性を再認識した。しっかりと分業体制を整え、各人のミッションを明確にする。「人の強みを生かす」という点を重要視した理想の組織図を作り、採用もそれに沿って進めているそうだ。

『トラッカーズジョブ』をクローズさせたもうひとつの理由として、事業モデルに対する葛藤があったという。

『トラッカーズジョブ』は、トラック運転手の人材紹介がメインだったんですが、入社後の早期離職率が非常に高かったんです。事業を継続することで、いわゆる"お金儲け"はできたと思いますが、運送会社の組織体制や、業界の体質といった根本的な問題から目を背けたまま継続しても意味がないのでは、と思ったんです。

利益率の高い人材紹介の事業、それもニーズがあることがわかっている中での撤退。この苦渋の決断によって、朴氏は「意思決定の基準を明確にすることができた」と話す。その基準とはつまり、「我々がやるべきかどうか」だ。

それまでは競合他者を執拗に意識して、「他社製品にはない」、もしくは「他社製品にあるから」というだけの理由でお客様が求めていない機能まで開発してしまい、結果的に使いづらいプロダクトになってしまうこともあったという。

意思決定の基準を他社に求めていては、いつまでたってもブレてしまう。本当に大事なのは、お客様が喜ぶかどうか。そして、それを我々がやるべきかどうか、ということだと気付きました。

自分の考えに固執せず、まわりの意見に振り回されず、ただ一点にお客様を見つめる姿勢。この徹底したユーザーファーストの考え方は、冒頭で紹介した学生時代の経験が強く影響しているのだろう。あのとき協力してくれた大人たちのように、いつか自分も人のために力を尽くしたいと決意したその思いを、今もなお途切れずに持ち続けているのだ。

こちらの記事は2022年02月18日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

栄藤 徹平

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