連載私がやめた3カ条

「代打オレ」が、社員の成長を止める──カラダノート佐藤竜也の「やめ3」

インタビュイー
佐藤 竜也
  • 株式会社カラダノート 代表取締役 
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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、妊娠・育児中の方向けのアプリや中高年向けの健康管理アプリなど、さまざまなヘルスケアサービスを手掛ける株式会社カラダノートの代表取締役社長、佐藤竜也氏だ。

  • TEXT BY TEPPEI EITO
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佐藤氏とは?
モバイル×ヘルスケアで生活インフラを

1984年茨城県で生まれた佐藤氏は、学生の頃から「将来は起業しよう」と考えていたという。

慶應義塾大学に入学した同氏は、株式会社フラクタリスト(現ユナイテッド)にインターンとして入社。当時まだ10人程度だった同社で、総務、経理、営業と幅広い業務を経験し、新規事業の立ち上げまで行った。そのときの事業が、モバイルSEOだ。

日々携帯で検索されるワードを見ていた彼は、ヘルスケアに悩みを持つ人の多さに驚いた。そして、それを解決するサービスがまだないことに気づき、この分野での起業を決意。株式会社プラスアールを創業した。これが今の株式会社カラダノートだ。

それから約12年後の2020年、同社は東証マザーズに上場した。今回の取材では、創業から上場までの過程で佐藤氏が「やめてきたこと」について聞いてきた。

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社員に好かれようとするのをやめた

「人に好かれたい」という思いは、多かれ少なかれ誰もが持っている。自分が立ち上げた会社に入ってきてくれた社員には、なおさらだろう。

同氏も創業からしばらくの間、社員に喜んでもらいたい、好かれたいという思いが強かったという。誕生日にはプレゼントを贈り、子供の誕生日までお祝いをする。業績が良くないときでも、自分の給与を下げてまで社員の給与を上げていたとか。

しかし結果として起きたのは、社員の“ビジョン喪失”だった。

佐藤いろいろなものを際限なく与えているうちに、社員のみんなが与えられることに慣れてしまったんです。リソースが底をついて与えられなくなったとき、みんなから「なんで与えてくれないんだ」とクレームを受けました。気づけばみんな「会社のビジョンのため」ではなく、「与えてくれるから」仕事をしている状態になってしまいました。

この経験を経て、彼は社員に好かれようとするのをやめた。与えるのもやめた。結果、一部の社員は会社を去ってしまったそうだ。しかし、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。業績が危なかった同社はこれを機に好転したという。

佐藤氏曰く、「好かれたい思いがなくなったわけではない」。ビジョンに向かって仕事をして、会社が成長して、自分に返ってくる──。そういう好循環が生まれたときに、「ああ、佐藤についていって良かったな」と思ってもらいたいのだ。

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ネガティブシンキングをやめた

資金をショートさせることなく、常にワーストケースを考えて行動する。スタートアップ経営者にとっては重要なリスクヘッジ思考かもしれないが、得てしてそれはネガティブ思考にもなる。

同氏も例外ではなく、数年前まではネガティブな感情に支配され、取り組むべき業務に集中できないことも多かったという。「こうなったら会社が傾くのではないか」「退職した社員に悪く思われているんじゃないか」……と。

エグゼクティブコーチングのおかげで自分を俯瞰的に見つめる技術を会得した彼は、ネガティブシンキングの悪循環から脱することができたという。そして、結果として次のような思想に至った。

カラダノートにおける自分の役割は「社長」であり、「社長」の役割は最も長期の会社の絵姿を考えること。 もちろん、社長として資金面のリスクヘッジはする。時間を設けて、ワーストケースを考えることもあるという。しかし、社長の主たる役割はそこではないので、頭を切り替えて長期の絵姿を考える時間を意識的に作るようにしているそうだ。

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「代打オレ」をやめた

他にやめたことがないか尋ねてみると、佐藤氏は「『代打オレ』をやめた」と話してくれた。要するに、「社員に任せた仕事で何かあっても最後は守ってあげようという考え」をやめたのだ。

なぜやめたのだろうか。むしろ社長として素晴らしい姿勢なのではないだろうか。

佐藤この考え方は、表面的には優しく見えるかもしれません。しかし続けていると、社員に「まあ失敗してもいいか」という甘えが生まれてしまいます。社員を守っているつもりが、いつしか社員のプロ意識を下げてしまっていたんです。社員の成長機会を奪っているとも言えますよね。

もちろん会社が傾いたときには組織として守ろうと思っています。でも個人として過度に守るのは社員にとって逆効果なんですよね。

社員を守るという姿勢は、ともすれば社員の責任感を弱め、結果として会社の成長を止めてしまう。それに気づいた彼は、社員を尊重し、仕事を任せ、過度にカバーしすぎないようにしたのだという。

会社のビジョンである「家族の健康を支え 笑顔をふやす」という“ゆるふわ”なイメージとは裏腹に、社員から好かれたいという欲を捨て、個人の感情を排除し、過保護的なフォローをやめた佐藤氏。

上場までの苦しい道のりのなかで、彼は気づいたのだろう。社員のため、会社のため、社会のために自分が求められていること。それは、あらゆる結果を自責し、自分自身が経営者として進化し続けることなのだと。そうした胆力と力強さが、佐藤氏の表情から感じられた。

こちらの記事は2022年03月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

栄藤 徹平

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