連載私がやめた3カ条

創業当初の手法に囚われず、組織の「今」を見つめた決断を──スタメン代表取締役大西 泰平の「やめ3」

インタビュイー
大西 泰平
  • 株式会社スタメン 代表取締役社長執行役員 / CEO 

1984年生。大阪府出身。筑波大学卒業後、大手広告会社などを経て、2014年よりITベンチャーのベトナム拠点事業責任者として、海外子会社をゼロから2年で200名を超える拠点として立ち上げる。帰国後、取締役として、加藤、小林と共にスタメンの創業に参画。創業事業であるTUNAGを事業部長として統括するとともに、営業、マーケティング、デザイン、開発、財務などの幅広い職能を活かした全社最適な経営戦略の推進を担う。スタメンがグループ経営に移行したタイミングに合わせて、2023年1月より代表取締役社長を務める。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、エンゲージメントプラットフォーム『TUNAG』を運営する、株式会社スタメンの代表取締役社長 大西泰平氏だ。

  • TEXT BY HOTARU METSUGI
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2023年1月に代表就任。新たなリーダー・大西泰平氏とは?

従業員エンゲージメント向上に必要な機能が揃ったエンゲージメントプラットフォーム『TUNAG』を運営するスタメン。

そんな「エンゲージメントの追求」に心血を注ぐ企業の代表を務めるのが、大西泰平氏だ。

彼は、新卒で入社した大手広告代理店を経て、モンスターラボでベトナム拠点事業責任者に就任。ゼロから2年で200名を超える拠点として海外子会社を立ち上げた。

その後、エイチーム時代に長く最年少取締役を務めていた加藤氏とともに、2016年にスタメンを共同創業。大西氏は取締役副社長に就任した。

想いや考えを発散し、新たなアイデアを生み出す加藤氏と、加藤氏のアイデアを具現化し、事業として成長させる大西氏によって生み出されたのが、エンゲージメント向上のオールインワンプラットフォーム『TUNAG』である。

社内コミュニケーションを活性化させることに特化した『TUNAG』は、当時の「働き方改革」の追い風によって、当初は予想していなかった「外食産業」における店舗の現場に刺さった。店舗拡大のために、スタッフの確保を命題とする外食産業において、スタッフを定着させる「エンゲージメント」には強い需要があったのだ。PMFを達成した『TUNAG』は、その後も順調なグロースを続け、2018年12月期には全社売上高が1億円に到達。企業成長を牽引する主力プロダクトとなった。

そんなスタメンは、今まさに変革期を迎えている。2023年1月に大西氏が代表に就任したのだ。そして、名古屋の本社とは別に、東京に開発拠点を新設。本格的な東京進出に伴い、さらなる事業拡大を目指す。

大きく成長したスタメンの看板を代表として背負うこととなった大西氏が、事業をさらに成長させるため、今何に力を注いでいるのか。エンゲージメントのプロフェッショナルである彼に、セオリーに囚われないリアルな経営論を伺った。

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「なんでも自分でやること」をやめた

チャレンジングな目標を掲げ、達成し続け、事業を成長させていくためには、上司から部下へ業務の権限委譲を図らなければならないタイミングがやってくる。

しかし、能力値が高く、幅広い業務に携わることのできる上司ほど「部下に仕事を任せるよりも、自分でやったほうが早い。しかし、自分にはもっと取り組むべきことがたくさんある」といったジレンマに陥りやすいだろう。

スタメン代表である大西氏も、そんなオールマイティーなビジネスパーソンの一人だった。

大西営業からプロダクトデザイン、IPOの準備に至るまで、自分で手を動かして、何でもカバーできるのが、自分のビジネスパーソンとしての武器だったんです。

そう語る大西氏だが、社長に就任したことをきっかけに「自分で手を動かすこと」をやめたという。

大西自分で手を動かして、目の前の課題を解決できる能力によって、パフォーマンスを発揮し、これまでのキャリアを築くことができたという自負があります。

しかし、代表という役割になったとき、自分の「何でもできる」という能力は、今後レバレッジの効く武器ではないと気が付きました。

共同創業者の加藤が「0→1」で事業アイデアを生み出す仕事を担っているのに対して、僕が担っているのは、そのアイデアに肉付けして、具体的に事業へ落とし込むという、いわば「10→100」や「100→1000」なんですよね。

しかし、今後の事業成長を考えると、僕が担っていた「10→100」の過程には、事業の隅々まで目を光らせることができ、必要があれば各方面にフォローに回れるミドルマネジメント層の存在も必要です。

現在、スタメンにはミドルマネジメント層が一番手薄になっているので、僕が手を動かすことに時間を費やしてしまうと、事業のどこかに穴を空けてしまうんですよ。

大西氏にとって「何でもできる」という武器は、これまでと同じ形で使ってしまえば、企業成長を続けるための組織マネジメントに支障をきたす。

しかし、そんな武器は大西氏が「自分で手を動かすのをやめる」と決意したことで、「何でもやってきたからこそ、どんな局面でも具体的なアドバイスやフォローができる」という、経営者としての新たな武器に自ら進化させた。

現在は、自分で手を動かすことはほとんどない。あるとすれば、突発的なトラブルが起こった場合や、メンバーに経験のないまったく新しい取り組みでプロジェクトが前に進んでいかないような特例のみだ。

「なんでも自分でやること」を手放した大西氏だったが、それでも「自分でやったほうが早い」と感じることはあったそうだ。そんな葛藤と、どう折り合いを付けたのだろうか?

大西任せきる怖さはもちろんありました。そこで、質と量のバランスを意識するようになったんです。

プロジェクトの目標数値に対して達成度合いがうまくいっているときは口を挟まず、メンバーの意思に委ね、うまくいっていないときは、どんどん意見を言います。目標数値を常に握ることで、質を担保できていると考えていますね。

目標数値の定期的なモニタリング以外にも、プロジェクトの状況を正確に把握するため、週に1回の各担当役員との面談は欠かさず行っている。常にメンバーと目線をすり合わせながら、直にプロジェクトに関わる部分は任せ、危機感を察知する「アラート」の役割を担うための余力を捻出しているそうだ。

大西リーダーは、いざというときには、独力での課題解決力を見せられる存在でいられることが重要だと思っています。誰でも、自分より明らかに仕事ができない相手から指示や指摘を受けるのは嫌ですよね。

日ごろから現場と目線を合わせて、具体的な指摘やアドバイスをするだけでなく、緊急時は僕自身も手を動かして、チームを支える。

そうすることで、普段の業務は、僕が能力的にできないからメンバーに任せているのではなく、事業をスケールさせるために力を借りているのだと示すことができます。

だからこそ、メンバーたちも僕のマネジメントに納得できて、適切にフィードバックが届くようになるんです。

重要な局面で、代表として課題解決力を見せることができる彼の意見だからこそ、チームメンバーは真っ当なフィードバックとして受け入れられるのだ。

これまでのキャリアに裏打ちされた実力を持つ大西氏が、マネジメントを通じて社員とのエンゲージメント(信頼関係)を築くことができる理由が伺えた。

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「何でもアジャイル」をやめた

大西僕たちは、人と組織で勝ちたいんです。

大西氏は創業当初から現在に至るまで、そう言い続けてきた。会社の真の競争力になるのは「人と組織の力」すなわち、「エンゲージメント」だと考えるスタメンでは、エンゲージメントを「会社と従業員および従業員同士の信頼関係」と定義し、人と組織が永続的に成長する仕組みを作ってきた。

大西エンゲージメント(信頼関係)を築くためには、会社とメンバー、そしてメンバー同士がお互いにコミットし合うことが重要です。

小さな約束の積み重ねやコミットメントの繰り返しが、根本的なエンゲージメントを高めていくうえで欠かせないことなんです。

そう語る大西氏が、自社のエンゲージメントを高めるためにやめたのが、意外にも「アジャイル」だった。

スタートアップやベンチャーなど小規模の組織であれば、経営において迅速さに価値をおいたアジャイルの手法を採用するケースが多い。

事業をさらに拡大させていくフェーズにあるスタメンが、あえて「何でもアジャイル」をやめた理由は、エンゲージメントに必要な「コミットメント」にあると語る。

大西弊社では1年を3つのタームに区切り、4ヶ月ごとに目標設定と昇給評価を行う『ピリオド制』を採用しています。

創業から4年ほどは、ピリオドの期間に関わらず、アジャイルを強く意識して、随時柔軟に戦略や目標設定、組織編成などに手を加えていました。

しかし、事業が拡大し、メンバーが増えていくにつれ、ベンチャーのスピード感を維持しながら、「変更を加える」という移行コストを払っていくことに難しさを感じていたんです。

また、何に対してもアジャイルをやりすぎると、メンバーが何にコミットメントすればいいかわからなくなるんですよ。頻繁すぎる変化は、それだけで社内のエンゲージメントを下げる原因になります。

そこで、4ヶ月間のピリオド期間中には組織編成を変えたり、目標設定を変えることを原則禁止にしました。どんな取り組みも一定期間走らせてみないと、結果を判断することができません。逆に1年以上目標を変えずにいると、目標自体が形骸化するケースが多い。

だからこそ、4ヶ月はミッションやKPIを変更せずに走りきり、コミットメントを示し、最終的な結果を振り返る。そんなデトックスを繰り返す形が僕たちにとってはちょうどいいんです。

このピリオド制によって、もう1つの成果があったそうだ。それは「冗長な会議」をやめられたこと。

スタメンではほとんどの会議や打合せを30分単位で設定するよう規定されており、不要な会議は極力減らせるよう努めてきた。

しかし、それでも放っておくと会議は自然と増えてしまうものであることを大西氏は問題視していたのだ。日々行われる組織運営や事業運営に関わる会議は、意思決定の重要なステップでありつつも、真面目な企業ほど1度始めた会議を、不要だと判断しやめるのは難しい。

そこで大西氏が代表に就任してからは、4ヶ月のピリオドを終え、振り返りをするタイミングで各会議の必要性をジャッジし、不要と判断した場合は中止するよう働きかけている。

これらの取り組みを始めたのは、大西氏が事業部門全体を見るようになった2021年ごろからだそうだ。

大西柔軟で機敏な変化は大事ですが、コミットメントに必要な期間を作るためにあえて変更を加えない鉄の意思を固めることを推進しました。

会社の成長フェーズに合わせて戦略を組み換え、チームメンバーと強い信頼関係を築きながら、「変化」と「継続」を自在にコントロールする大西氏。彼は、まさに理想のリーダー像を体現しているように感じる。

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「全体最適」をやめた

東京開発拠点の新設と、大西氏の就任。スタメンがさらなる成長の兆しを見せていることは明らかだ。会社が大きく変化するとき、組織もまた大きな変化を見せる。

大西氏は今後のスケールを考え、「エンジニア組織の拡大・強化」を目指すと語った。

大西これまでは会社を創業した名古屋に本社を置き、名古屋を中心とした組織編成を行ってきました。しかし、このまま名古屋のみで採用活動を行っているだけでは、事業が成長するスピードに陰りが見えてくる可能性があるかもしれない。特に、エンジニア組織の拡大スピードは不十分になっていく恐れがあると考えるようになりました。

フルリモートで全国各地のエンジニアを採用することも検討しましたが、業務においてオフラインでのコミュニケーションの機会を大事にする我々にとって、得策ではありません。

そこで、東京開発拠点を新設し、名古屋と2拠点でエンジニア組織の拡大を目指すことに決めたんです。

東京にはたくさんのエンジニア人材がいる。だが一方で、その分、大手企業からメガベンチャーまで競合となる企業は多い。

エンジニア採用の難易度は格段に上がるが、ここで優秀なエンジニア組織をつくれるかどうかが社の命運を握る。大きな壁を前にして、大西氏は組織経営の考え方を前提から変えることにしたのだという。

大西これまでは会社全体を見て、最大公約数を見つけるように全体最適を考えてきました。しかし、エンジニア組織の拡大に対する課題感が大きくなってからは、エンジニア組織のパフォーマンスが最も向上する個別最適を優先し、それを達成できるような全体最適を図るようにしたんです。

個別最適によって、他の部分で多少の痛みを伴うとしても、トータルで考えたとき、エンジニア組織にプラスに働くほうが事業成長に繋がるため、結果的に他の部署にとってプラスになると思い、考え方を切り替えました。

では、全体最適からエンジニア組織への個別最適に変えたことによって、具体的に業務はどのように変わったのだろう。大西氏は2つの事例を教えてくれた。

大西一つは、定例ミーティング時間の変更です。これまで弊社の全体会議は毎週月曜日の午前9時半からに設定されていました。

しかし、エンジニアチームの勤務をコアタイムフレックスに切り替え、午前11時〜午後17時でコアを設定したため、全体会議もコアタイム中の午前12時スタートに変更することにしました。

週初めの朝に全体方針を確認することが大事だと考えるメンバーももちろんいましたし、ランチタイムに被ってしまうことを懸念に感じるメンバーもいたかもしれません。

ですが、エンジニア採用での競争力強化を目的として、コアタイム制に切り替えたからには、全社での会議体のあり方もそれに合わせて形を変える必要があると考えて、変更に踏み切りました。

そしてもう一つ。個別最適のために大きく変化させたのは、自社の開発サービスすべてを社内で実際に使用する“ドッグフーディング”を全社で取り組むのをやめました。これも、開発者体験を優先する施策です。

弊社の文化として、主力商品である『TUNAG』を自社内でも使い倒すことにより、機能改善に繋げたり、お客様に自信を持って提案できる状況を作ってきました。

しかし、デプロイやレビューといった、プロダクト開発において重要な業務を滞りなく進めていくために、SlackやGoogle カレンダーを使って開発効率を高める必要性もあるという意見がエンジニアチームから上がってきたんです。

今までの社内文化を揺るがす決断でしたが、優先すべきは開発者体験だと考え、自社プロダクトのフル活用をあえてやめると決めました。もちろん、それでもTUNAGは社内の様々な場面で活用を続けているので、開発者体験とのバランスが重要だと今は考えています。

大西氏の話を伺って、経営とは決断との戦いなのだと改めて感じた。その決断の答えが吉と出るか凶と出るかは、神のみぞ知る。

先が見えない状況で大きな決断を下すとき、共に働く仲間に着いてきてもらうには、確かな実力と積み上げた信頼関係が必要不可欠だ。

そのどちらをも持ち合わせた新たなリーダーである大西氏によって、スタメンはどのように飛躍していくのか。変革を遂げるスタメンと彼の活躍に、今後も注目していきたい。

こちらの記事は2023年07月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

目次 ほたる

2000年生まれ、東京出身。家事代行業、起業、スタートアップ企業の経理事務、ライターアシスタントなどを経て、2019年にフリーランスとして独立。現在はライターとして取材やエッセイの執筆を手掛けるほか、ベンチャー企業の広報部に参画している。主な執筆ジャンルは、ビジネス・生き方・社会課題など。個人で保護猫活動を行っており、自宅では保護猫4匹と同居中。

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