連載私がやめた3カ条

“イケてる雰囲気”はもういらない──TENTIAL中西裕太郎の「やめ3」

インタビュイー
中西 裕太郎
  • 株式会社TENTIAL 代表取締役CEO 

プロサッカー選手を目指していたが、突然の病にかかり、夢半ばでサッカーを諦める。ビジネスで世界を変えようと決意し、プログラミングを学び、インフラトップの創業メンバーとして参画。WEBCAMPの事業責任者を務めた。その後、リクルートキャリアへ最年少社員として入社。事業開発などに携わり卒業。2018年、スポーツ領域で起業したいという思いから株式会社TENTIALを設立。スポーツウェルネス領域にて、メディアとD2C事業を行っている。元プロサッカー選手播戸竜二がCSOとして参画したり、プロテニスプレイヤー西岡良仁選手から資金調達などを行う。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」略して「やめ3」。

今回のゲストはスポーツ・ウェルネス領域に特化したD2Cブランド『TENTIAL』を展開するTENTIAL代表取締役CEO、中西裕太郎氏だ。

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中西氏とは?:ウェルネス界の最前線を走るアスリート起業家

中西氏はこちらの記事にもある通り、サッカーのインターハイ出場経験を持ち、かつてプロ選手を目指すほどの実力の持ち主。だが心臓疾患により断念せざるを得なくなった。遺書を書くほど自らの人生を見つめ直した末、中西氏が次なるフィールドに選んだのはビジネスの世界だった。一念発起してプログラミングを独学で習得。当時最年少でリクルートキャリアに入社し、2018年にTENTIALを創業した。

スポーツ界の情報格差を是正しようと立ち上げたスポーツメディア『SPOSHIRU』がヒントとなり、人々が“足”に持つ課題に取り組もうと、アスリートの知見を活かしたインソール開発を始めた。これがD2C事業の始まりだ。マスク特需も追い風に業績はうなぎ上り。高齢化、健康増進が叫ばれる中、日本でも注目を浴びつつあるウェルネス領域で存在感を大きくしている。

そんな順風満帆のTENTIALだが、中西氏は次のステップに舵を切るつもりだ。何を辞め、どこに向かおうとしているのか──。中西氏の“悪目立ちしない哲学”を探った。

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“イケてるスタートアップ感”をやめた

他の追随を許さない成長速度、誰もが耳にしたことのある圧倒的認知、若さとパワーがあふれるメンバーたち──。いわゆる「イケてるスタートアップ企業」とはこうした華やかで眩しいイメージを抱く読者も多いはずだ。だが世の中には星の数ほどの企業が存在する。埋もれてしまわないように、起業家なら自身の企業をひときわ明るく輝いて見せたくなるのは当然かもしれない。

ところが中西氏は、敢えて目立とうとするのをやめた。どういうことか──。一つは、メディア露出を絞ったという。メディアに取り上げられるかどうかより、いかにミッションやビジョンに近づいているかを気にかけるようになった。もう一つは、周りのスタートアップと比較しなくなったという。

なぜ思考が変化したのか。その理由は、確かな実績にあるのかもしれない。現在取り扱う商品は、血流促進をサポートするリカバリーウエア、アイマスクや入浴剤など多岐にわたり、インソール以外の商品も堅調に伸びている。昨年9月には総額5億円を調達し、ECモール事業の立ち上げも見据えている。

中西自信を持てたからかもしれないですね。ウェルネス領域で絶対に勝てるなと思ったんです。未来の仕込みを淡々と、敢えて自分たちのペースを守ってやっていこうと。

オフィスを構えるのは、D2Cスタートアップのメッカといっても過言ではない渋谷だ。そんな渋谷から移転を計画しているという。「なんとなく渋谷が良いと思っていましたけど、見栄だったのかもな、という感覚もあります」と笑う。

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職種で採用するのをやめた

職種別に人材を募集するのが採用の常識だ。事業規模が拡大するにつれポストは細分化していく。活かせるスキルやポテンシャルを備えているか?目標への達成意欲はあるか?

あらゆる角度で根掘り葉掘り質問しながら、人物像を見極めていく。「この人ならウチで活躍できそうだ」。そう確信をもって採用したはずなのに、お互いに想定通りの活躍が実現されることは、そう容易いことではない。頭を抱えている経営者や採用担当者は多いはずだ。

中西氏は、そんな“王道”に一石を投じる。OKRをベースにした採用にシフトし始めたのだ。現在のTENTIALでも職種別に求人を出しているが、その裏側にはOKRが設定されている。通常OKRといえば、在籍するメンバーのミッションや期待役割、重点指標を可視化する仕組みだが、中西氏はまだ在籍していない、将来ジョインするメンバーにも適用しているのだ。

中西会社の課題に対して人を充てるという考え方です。今までの採用は、感覚的に“面接してみて、信頼できれば大丈夫”と思っていました。たとえば、マーケティングチームをできる人にお願いしたいよね、というような感じで。色眼鏡もあったかもしれません。

でも、それでは誰がどんな役割を背負って業務遂行しているのか、わからなくなっていたんですよね。個人のミッションを可視化した結果、マイクロマネジメントも不要になり、一人ひとりがプロフェッショナルのように働く環境が、より強化されましたね。

事業に対する現場からの改善提案数も増え、OKR起点の採用に、中西氏は手応えを感じている。

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マスク依存をやめた

市場の変化をいち早く捉えることは経営者にとって必要不可欠だ。ただでさえ変化の激しい時代に新型コロナウイルスが出現し、ここ数年で産業構造は未曽有の変化を遂げている。ニーズの高まったモノといえば、マスクはその代表格といえよう。

TENTIALでもマスクのラインナップは豊富に展開している。昨年は年商のうち9割ほどを占めていた。だが今期、マスクの売り上げは全体の1割未満だという。マスク以外の商品の割合が前年に比べて飛躍的に伸びているのだ。血流を改善するリカバリーウェア「BAKUNE」シリーズをはじめ、眼精疲労に効果的なアイマスクや、脳を活性化させる成分を配合したプロテインなどが続々と登場している。

なぜ波に乗っていたマスクに注力しなくなったのか。中西氏はこのように切り出す。

中西僕らは、ウェルネスを健康に対する前向きな行動と定義しています。したがって、健康に前向きに投資する行為全般が僕らの事業ドメインになり得るんです。

D2C事業を立ち上げたのは、ユーザーに心身ともに健康になるためのプロダクトを届けるためだ。身近な必需品であるマスクの需要は思いかげず伸びたものの、あくまで事業領域の一部に過ぎない。原点に立ち返り、時流に左右されない本質的な健康を追いかける必要性に気付いたのだ。

中西氏は更なる伸びしろも認識している。中西氏の描く未来は何か。

中西“TENTIAL=医療、科学、エビデンス”というような、本質的な会社という部分が弱いなと思っていて。健康に対して本気で向き合っている会社でありたいというのはありますね。世の中のビジネスパーソンの生産性を上げることがゴールです。全世界の働いてる人のコンディショニング、体を気遣うことに注力していければいいなと思っています。

“スポーツと健康を循環させ、世界を代表するウェルネスカンパニーを創る”。これが中西氏の掲げるビジョンだ。

敢えて飾り立てず、壮大なビジョンに一歩でも近づくことだけを考えて日々邁進すること──それが成長続けるスタートアップであるための、一番の近道なのかもしれない。

こちらの記事は2022年02月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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