連載Bic Picture──創業者たちが描く、スタートアップの壮大な未来絵図

混戦のHR業界、toC思想が勝利のカギ?
「ワークテック」で働き方を変える、アクシス末永が語る未来絵図

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インタビュイー
末永 雄大

新卒でリクルートキャリア(旧リクルートエージェント)入社。リクルーティングアドバイザーとして様々な業界・企業の採用支援に携わる。その後、サイバーエージェントに転職し、アカウントプランナーとして最大手クライアントを担当し、インターネットを活用した集客支援をおこなう。2011年にヘッドハンター・転職エージェントとして独立。2012年アクシス株式会社を設立し、代表取締役に就任。月間40万人の読者が読む転職メディア「すべらない転職」の運営やキャリアに特化した有料パーソナルトレーニングサービス「マジキャリ」など多岐にわたるキャリア支援サービスを展開。転職エージェントとして20代向けの転職・キャリア支援を行いながら、インターネットビジネスの事業開発や大学・ハローワークでのキャリアについての講演活動、ヤフーニュースや東洋経済オンラインでの寄稿など幅広く活動している。

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スラング「Bic」。Big(=大きい)という意味を持つ一方、中身を伴った大きさ、という意味もある言葉だ。スタートアップ起業家のBic Pictureを探るのがこの企画連載だ。

「企業ではなく個人に向いたHR(人材)企業があってもいいんじゃないか」。そうした想いのもと、転職相談メディア・転職エージェント業、キャリアコーチング事業などを複数展開するアクシス。一般的に、人材業界のビジネスモデルはBtoBであり、お金をもらう相手は企業だ。そんな中、アクシスは転職者からお金をもらうユニークなビジネスモデルを展開している。

「個人を向く」というアクシスの姿勢に対し、綺麗ごとを言っていると感じる人もいるかもしれない。そんなあなたも、この記事を読めばきっと、印象は変わる。

今回は、アクシスの末永雄大氏が描くBic Pictureから、数あるHR(人材)企業の中で、そして事業創造集団として、アクシスが「勝てる」理由について探っていく。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「日本版Linkedlnを作りたい」が創業の原点

末永目指しているのは、転職エージェントでもなければ、営業力で勝負する人材会社でもなく、あくまでワークテックカンパニー。いわば、働く個人のキャリアという観点からサービス・プロダクトを次々と作りだす、HR業界のP&Gのようなマーケティングカンパニーです。

そう話すアクシス代表取締役の末永氏。「もともと大学卒業時に作りたかったのは、日本版Linkedln(リンクトイン)なんですけどね」と振り返りながら苦笑いする。最近、あるスタートアップが同じようなことを謳っているが、末永氏はかなり前にその構想を持っていたということになる。原点にあるのは、学生時代に経験したSNSの立ち上げだった。

末永2004年、大学3年生のころに学生団体に属していまして、別の団体にいる友人と一緒に、学生に特化したSNSを作ったんです。半年ほどで、3万人ほどの学生が口コミで集まりました。ただ、マネタイズが難しかった。当時立ち上がってきたmixiやGREEも赤字で、SNSはビジネスにはならないとも言われていたんですよね。

そんな中、SNS業界をウォッチしていて可能性を感じたのがLinkedlnでした。当時はまだまだ、アメリカ国内でだけ使われていたフェーズでしたが、このSNSが捉えていたのは「転職市場」。「これはマネタイズを考える上で非常に参考になる」と感じました。

日本でビジネスをやっている先輩がたは「SNSはユーザーが集まりこそすれ、ビジネスにはならない」と言っていましたが、これならいけるのではと。そこで、日本版Linkedlnを作りたい思いから、転職市場に興味を持ったんです。

転職市場やWebマーケティングを学ぶため、末永氏は新卒でリクルートエージェント(現株式会社リクルートのHRエージェント領域)に就職する。起業を見据え、役員や人事部長に「3年で起業したい」と伝えながらの会社員デビュー。東京、京都で中途採用領域の法人営業に携わった。いずれは起業という思いはあれど、ビジネスモデルの可能性はまだ広く残していたという。

末永日本版Linkedlnを作りたいという想いは変わらず持っていたのですが、起業するのではなく、リクルート社内で作るのもありかな、とも考えていました。実は、リスクヘッジを考えがちな性格なんですよね。また、さまざまな経営者にアプローチできる環境下で働いていたこともあり、全然別のことにチャレンジする可能性もありました。

3年後にリクルートを退社し、サイバーエージェントを経て独立。この当時も、SNSに限らずいろいろな事業を考えていました。ひとまずキャッシュを稼ぐために紹介業を始めましたが、キャリアエージェントをメイン事業にしようと思っていたわけではなかった。紹介業はいわばライスワークに近い認識で、世の中へ大きく価値貢献できるような伸びる事業を狙いたい想いがあったんです。

さまざまな人に事業の話を聞いて回る中、私より1年早くソーシャルゲームで起業した人のもとを訪れる機会があり、会社があるマンションの一室で「ソシャゲってまだ伸びるんですか?」と問いかけました。すると、彼は儲かるかどうかではなく、事業に賭ける想いを語ってくれたんです。自分が恥ずかしくなりましたね。

単に伸びるか、儲かるかどうかという次元で考えているようでは、ビジネスを続けていくことはできないだろうと反省しました。当時の私は30代に入ったタイミング。彼と同じくらい本腰を入れて取り組めるものを見つけなければと焦りました。一生かけて取り組みたいと思える課題は何だろうと考えた結果、HR業界に立ち戻ったんです。

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トレンドが変わる中で個人に向けた価値提供をしていきたい

HR業界と言っても、幅は広い。この業界で事業を展開していくことを決めた末永氏は、その中でどのようなBic Pictureを描いているのだろう。この問いに答える前提として、末永氏は今のHR業界には3つのトレンドがあると語った。

末永1つ目は、日本社会が高度経済成長期から続けてきた年功序列が崩壊していること。勝ちパターンを追えば成功するキャリアを歩めるわけではないという状況があります。会社には依存できないから、自分自身でキャリアを考えなければと感じるビジネスパーソンは増えています。

2つ目は、インターネットとそれに伴うSNSの発展による、価値観の多様化です。会社に縛られずに働いている知人が発信している内容を見ると、「青々とした隣の芝生」と感じるわけですよね(笑)。そうしたものが見えやすくなった結果、「自分も新しい働き方や生き方を模索しよう」と考える人が増えました。

そして3つ目は、日本の人材業界のサービス、商品、市場が成熟しているということ。成熟するとどうなるかと言うと、営業力かマーケティング力で強引に伸ばす、もしくはセグメント特化するしかなくなる。

特に、「市場の成熟化」の文脈で懸念を指摘する。「市場の過密化によってユーザー価値を無視した行き過ぎた差別化になってしまっている」と言うのだ。

末永私たちとしては、転職という人生の大きな意思決定を、仕組みとしてサポートできる存在でありたいと考えています。ただ単に転職先が決定すればいいだけではなく、その人のその後の長い人生にとって良い意思決定をできたかどうかが大事です。

今のHR業界は、ユーザー側から見れば、大量の求人を自動で送りつけたり、電話のみでヒアリングもなく求人応募回収をしたりするなど、人材会社側の都合を押し付けるような差別化ばかり追求しているとも言えます。これは、日系メーカーが家電のリモコンのボタンをやたらに増やしているのと同じこと。嬉しい変化ではありません。

個人の価値観はより多様化し、選択肢は増えていきます。これは一部の強者にとってはチャンスとなりますが、多くの人にとっては「キャリアの勝ちパターンはなく、自由だよ」と言われたところで、どうしていいかわからない。

ではHR業界で新規事業などできないではないか、という疑問を口にしようとしたところ、先回りするように末永氏はまた語り出した。

末永市場が過密化しているとはいえ、これはあくまで「企業側を向いたサービスは」という前提の話です。違う部分に余白があります。

実は転職者側や働く個人に寄り添ったサービスはまだあまりないんです。これまでのHR業界では企業からフィーをもらった方が儲かるから当たり前ですね。キャリア形成の複雑性が日に日に増す中で、個人を向いて価値提供をしていきたいというのが、私たちの想いであり、私たちを動かす原動力なんです。この領域で、テックも含めた新規事業を次々に立ち上げていく、唯一無二の企業になっていくんです。

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我々の戦略は働く個人が回遊できる生態系を作ることだ

あくまでこれまで一般的だった企業側を向いたサービスではなく、働く個人に対して価値を提供していきたい。このBic Pictureを、末永氏はどのように実現させていくのだろうか。

末永私たちはあくまで個人に寄り添った存在として、ユーザーである働く個人目線のサービスを拡充させていきたいと考えています。企業側が主語の「HR」でなく、働く個人が主語となる「ワークテック」と領域を捉え、個人に寄り添った事業やサービスを次々と展開していくことで、事業群という大きな仕組みで、転職・就職市場はもちろん、それ以外の働き方に関連した市場を開拓・活性化させたい。

従来型のサービスにはすでに大手がいますし、セグメントに特化したプレイヤーもそれぞれ大きく育ってきています。さらには日本市場そのものが成熟・縮小していく中で後発のスタートアップが勝つには営業力やマーケティングで数字を伸ばし続けるしかないわけですが、目先の面談数やKPIを追う競争では、転職者個人が犠牲になってしまいます。

だから、我々は働く個人のニーズに合わせたサービスを複数提供していきたい。ユーザー一人ひとりが、ワークライフを軸に自社のサービスを複数使ってくれるような生態系を作っていきたいですね。

経営面で考えると、これは我々のサービス内をユーザーが回遊することで、ユーザーごとのLTVが上がることに繋がります。同時に、顧客一人当たりの獲得コスト、CPAが下がる。これでビジョンの実現と同時に経済的合理性を担保したいと考えています。

なお、この我々の戦い方は、既存プレイヤーからすると非効率だと思われるでしょう。「それよりも売上100億円を取れるようなマーケットをやろう」という話になると思うんですよね。でも、日本のこの時代に、AIやロボティクスといった領域の話は別として、果たしてそんなマーケットはあるのかと。

一つひとつの事業やサービスは小粒でもいいから、ミッションを実現して同時にきちんと経済的合理性を担保しながら成長し続けられる戦い方が良いのではないか。そう思うんです。

また、転職者個人側を向いた領域、ワークテックという捉え方をすれば、空白地帯が広がるからこそ、新規事業を開発する余地も大きい。

末永既にHR事業を展開している企業から見れば、働く個人側のニーズにはビジネス的な旨味がないというだけなんです。これから参入しようという企業から見れば、働く個人側のニーズは宝の山です。

現在大きく収益に貢献してくれている『マジキャリ』は、転職前提でなくキャリア相談がしたいというニーズに応えるかたちで産まれた有料のサービスです。ビジネスモデルは旧来のHR事業と正反対なわけです。しかも、中途での入社半年で業界未経験でのメンバーの提案で立ち上がりました。

このように、「ユーザーを中心とした事業群」を創るのがアクシスだ。HR Techではなく、「ワークテック」と自らを表現する所以は、ここにある。

また、「サービスは小粒でも良い」とあったが、将来に見据えるのはもちろん、大きなマーケットである。

末永候補者に価値提供できるサービスを増やしていくことで、多様な切り口の個人の働き方のデータ、すなわちワークデータを取得できます。これは「働く」という部分の周辺領域において、特にマニアックなデータになるため、ユーザーに対する立体感や示唆が出てくる。

これを武器にできれば、いずれ既存のHR業界に再参入するときにも、単なる営業力での市場のリプレイスではなく、後発でも差別化できる要素になると思っています。

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エクイティは目的ではなく手段

アクシスの特徴の一つが、自己資金で事業を展開していることだ。華々しさと可能性の大きさを感じさせる「〇億円調達」といった話題は、アクシスにはない。周りのスタートアップ企業が資金調達をしていく中、焦りや不安はなかったのだろうか。

末永起業して間もない頃、友人である起業家仲間と飲んでいると「調達しないのか」と聞かれることが多々ありました。暗に「調達しないとベンチャーじゃねえよ」と言われているなと感じていましたが、エクイティ調達できる=ベンチャーというロジックが、彼らにどれだけ深堀りしてヒアリングしてみても正直わからなかったんですよね(笑)。

もちろん、エクイティファイナンス自体を否定するわけではないのですが、その必要性に対してロジックや目的が明確だったかというと、そうではない企業も以前は多かったように感じていたんです。億単位の出資を受けていた友人たちも、なんだか「起業したならエクイティ調達をしなければならない」という雰囲気やムードに呑まれているようにも見えたんです。

ただ、話を聞く中で成長を焦る気持ちもあり、「なんとなく調達した方がいいのかなと」感じたことも。行ったり来たりしている感じでしたね(笑)。

結局、しっかり事業を成長させられているので、私には必要なかったと今ははっきり言えます。手段の一つとして、エクイティなり借入なりを選べばいいだけ。なので今後は検討の余地もあるわけです。

5年前、エクイティをしようと思えばできたと思うか。この問いに、末永氏は「できたと思う」と答える。しかし、利益やデット(借り入れ)など他の手段があるためにエクイティをする必然性がなかった。エクイティをするのかどうかを判断する上で、あらためて考えたのは「会社の本質」だという。

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「末永商店」からマーケティングカンパニーへ

働く個人に向けたサービスを拡充していきたいと語った末永氏。今後について聞くと、「末永商店から脱却し、僕自身は無色透明になりたい」と不敵な笑みを浮かべた。

末永社員数が20~30人ごろまでは、ある意味でサークルのような雰囲気で、よく言えば青春、悪く言えば属人的に向き合ってきました。

一人ひとりに会って話すことも物理的にできる範囲でしたし、経営者の求心力で引っ張ってきたという感じだったんですね。50人超に差し掛かった今、そうした「末永商店」的なものから、今後は脱却していきたい。

今でも、「末永というキャリアアドバイザー・転職エージェントが、法人化しただけ」という見られることが多いのですが、実はすでに3年ほど、現場には出ていないんです。私は無色透明化して、現場主導で新規事業が立ち上がっていくようにしたい。

先ほど話した『マジキャリ』も、私は起案した社員の壁打ちに応じた程度でした。こうした事例を増やしていきたいと思っています。そのため、今はメンバーに事業を立ち上げてもらえるような基盤を整備しています。いわばロケットの発射台のようなものですね。「新卒でも提案していいんだよ」という想いを伝えるだけではなく、提案しやすくなる社内ルールや仕組みを整備しています。

HR業界は、スタートアップの参入も多く、新規事業を手掛ける会社の絶対数はかなり増えている感覚がある。その中にあって、アクシスの特異な環境について、末永氏は以下のように語る。

末永HR業界には営業会社的な企業が多く、弊社にもそういった側面がないわけではありません。しかし、繰り返しですが、私たちは営業力でなく、マーケティング力と事業開発力で勝負していきます。

つまり、目指す姿はテックカンパニーなんです。社内でもデジタルマーケティングやエンジニアリングを内製するのが当たり前となっています。俯瞰的に市場やビジネスモデルを考えつつ、泥臭く実行していきたい人には、うってつけの環境だと思いますね。

人材会社のビジネスモデルは、BtoBが圧倒的に多い。しかし、「顧客を向いて、コミュニケーションを取り事業を作る」という末永氏の話から、BtoCのビジネスモデルを取り入れることにこそ、新たな勝機が潜んでいるように思える。末永氏も「マネタイズがBtoBになっている事業もあるというだけで、BtoBの企業だとは思っていない。『個人を向いています』と、クライアント企業さんにも明確に伝えていますよ」と最後に明かした。

個人商店から、ワークテック領域のP&Gに。エクイティに頼らない盤石な財務基盤のもと、ロケットを発射させる準備を着々と整えている。

こちらの記事は2021年12月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

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