22歳、12.5億円でイグジット。
Candle金氏がつくる次の未来とは
2016年10月、東京大学在学時に創業した株式会社Candleは、約2年半でクルーズ株式会社に事業を売却。
社長の金靖征氏は当時22歳、売却額は12.5億円で、若手起業家として注目を集めた。
「起業家としての成功」といえる経験だが、なぜ早いタイミングでの起業とイグジットを行ったのか。
次は、世界的にも大きなインパクトを与える事業をつくりたいと意気込む金氏が考える次の未来とは。お話しを伺った。
- TEXT BY TOMOMI TAMURA
- PHOTO BY YUKI IKEDA
起業と経営は違う。ならば、早く起業したい
僕が起業したのは、大学3年生のとき。もともと家族や親族が何かしらのビジネスをしている経営者一族だったので、自分もいずれ経営者になると小さい頃から思っていました。ただ、学生起業をしようとは考えておらず、高校生までは「優秀な人と出会うために東京大学に行き、大手外資金融に入社しよう。そのあとはハーバードでMBAを取り、20代後半くらいに起業しよう」と、考えていました。
ただ、東大に入学後、TNKという起業サークルに入って気付いたのは、起業と経営は違うということ。起業はゼロから1を生み出しますが、経営は事業を継続・発展させるための職能です。
たしかに、経営者になるなら、MBAや外資大手金融での経験が生きるかもしれません。でも、起業にそういった経験はあまり影響しないのではないか、それなら早いタイミングで起業すべきではないかと思うようになったのです。
しかも、尊敬する経営者である、ソフトバンクの孫正義さんも早くに起業していることを考えると、とにかく早く起業したいと焦りに似た気持ちを抱くように。そこで、同じサークル仲間とクラスの同級生の3人で在学中の起業を目指しました。
近道は、環境を変えて、インプットの質を高めること
ゼロから1を生み出すために何よりも重要なのは「質の高いインプットの量」を増やすこと。なぜなら、同じ作業をするにしてもインプットの質次第で結果に1,000倍以上の差がでる時代だからです。そこで、とにかく人に聞く・会うのを意図的に繰り返し、自分たちの環境を変えるところから始めました。
事業面での助言をもらうためにも、VC30社くらいに連絡を取り、技術面は、インターネットサービスで出会った素晴らしい先生に2ヶ月間みっちり教えてもらうなどして、大学3年の2014年4月、僕たちはCandleを創業。
最初は、TNKサークルの授業内でのビジネスコンテストで優勝した家庭教師派遣サービスをやろうと考えましたが、話しをするうちに「これはうまくいかない」と判断。次にファッション領域のアプリをつくりましたが、これも中止に。
そして、2015年1月に、ファッション・メイク・ヘアスタイル・美容などのまとめが集まる女性向けメディアをリリースし、次いで、同年5月に女性向け動画アプリを立ち上げました。
この頃まで、Candleの事業はほとんど3人で作っていました。仲間を増やし始めたのは、2015年8月から。フルコミットのインターン生として、TNKサークルの後輩を3人採用したのです。
そこからは、インターンがインターンを呼び、ありがたいことに東大の中では「今を象徴する会社」という位置づけになり、何もしないでも優秀なインターンが集まるサイクルが生まれました。今は、最初に採用した3人のうち、1人はCandleのCOOに、2人はCandleを卒業して起業しています。
より大きなことをするために、22歳、12.5億円でイグジット
Candleがひとつの転機を迎えたのは、創業から2年半が経った2016年10月のこと。クルーズ社への事業売却を決めました。価格は12.5億円、僕らは22歳のときです。
当時、売却しなくても順調に業績を伸ばしていたので、数年後には上場できた自信があったし、メンバーもそう思っていました。だけど、僕らが見ているのは数年後ではなく、50年、60年先の未来。
未熟な僕らが小さく上場するのではなく、クルーズ社と一緒に新しい大きな挑戦をしたほうが、社会により大きなインパクトを与えられる存在になるのではないかと考えたのです。
僕は、上場して200億や300億円規模の会社をつくりたいわけではありません。少しでも利益を得るために、成功確率の高いビジネスで数億円単位の売上を積みたいとも思わない。目指しているのは、一人のビジネスパーソンとしての人生を終えるときに、自分が生きたことで生み出す、世の中の「幸福貢献度」を最大化することなのです。
それはCandleという会社が直接社会に与える影響だけではありません。僕やCandleを経て起業した人に憧れて、誰かが「起業」という選択肢を選び、世の中に新しい価値を生み出せば、それも幸福貢献度を大きくしていきます。
そのためにすべきと考えたのが、創業から2年半でのイグジットだったのです。仮に、僕が35歳のときにイグジットや上場をしていたら、社会的インパクトはなかったと思います。20歳での起業と22歳でのイグジットだったからこそ注目されたし、結果、集まってくる人や環境が変わり、発信力も大きくなった。 そちらの方が、最終的に与えるインパクトを大きくできる一歩だと思いました。
実際、このタイミングがきっかけとなり、学生起業家を増やすことにもつながりました。
1年で生み出した起業家「Candleマフィア」は12人
これまでCandleは、12人の起業家やCOOを輩出しています。ほとんどが約1年のインターンを経て、学生起業したメンバー。Candleマフィアと呼んでいます。
たった1年で12人を輩出した背景には、インターンをアシスタント的立場で雇用せず、責任者レベルの仕事を求めたことにあると思います。運営していたメディアを横展開し、それぞれにメディアの責任者を任せました。
事業を立ち上げ、実際の運用を経験してもらいながら、フィードバックを繰り返していく。同じものでも見方や考え方を変えたら課題が見つかるなど、視座を高める育成にこだわった結果、自信をつけたメンバーが、イグジットの前後で独立しました。半数はTNKサークルの後輩で、もともと「いずれ起業したい」と考えているメンバーだったのですが、何より嬉しかったのは、起業しようと思っていなかった人たちの独立です。
たとえば、メディアのライターとして採用した学生は最初、普通に就活をして、安定した人気の老舗企業で働きたいと言っていました。しかし、インターン1年後には、自分で事業をやりたいと言って独立。「終活ネット」というサービスを立ち上げて、すでに1億円を調達したと聞きました。
「起業」という選択肢を与えられたこと、ゼロから1を生み出す人を輩出できたことは、僕にとっても大きな自信になりましたね。
社会での挫折経験は本当に必要なのか
これらの経験から実感しているのは、社会人を経験する前の学生起業には、余計なバイアスにとらわれずに挑戦できるメリットがあるということです。
仮に僕が当初の予定通り、大手外資金融に就職して、ハーバードでMBAを取る人生を選択していたら、果たして本当に起業できたか分かりません。世界には優秀な人がごまんといるわけなので、その組織に入ってトップを取れない挫折を味わうと、自分を信じて心からトップを目指す起業なんてできなかったかもしれない。
企業に就職していろんな知識を得て、成功や挫折体験を味わうのはもちろん素晴らしいのですが、逆にそれらの経験がジャマになることもあると思うのです。
学生だから起業のリスクは少ないですし、失敗したら別の道に進むことだってできます。遊んでいた時間を仕事に置き換えるだけなので、「一大決心をしての起業」というわけでもなく、「自分で稼ぐ」経験が乏しいからこそ、お金に執着せずに大きいことだけをやろうと考えられる。
社会での小さな挫折経験を積み重ねていないからこそ、ナンバーワンになることを諦めないですし、心から世界一を目指せると信じられるのだと思っています。学生起業したマーク・ザッカーバーグやビル・ゲイツ、もちろん孫さんも同じかもしれません。
これから全力投球で挑戦するのは、「暗号通貨・ブロックチェーン」領域
事業売却後、Candleの組織改編と、継続して事業成長を続ける仕組みを構築し終えた今、新しく挑戦し始めているのは、暗号通貨・ブロックチェーンの領域です。既存の事業からは完全にはなれて、現在、数人の仲間とフルコミットで取り組んでいます。
もちろん成功するかはわかりませんが、世界で認められるようなメガベンチャーになるのなら、大きなトレンドに乗らないと、世界トップになる可能性すら得られません。何か隙間を埋めるビジネスや、市場が成熟しつつあるビジネスをしても、トップにはなれない。お金儲けをしたいのではなく、本気で世界を取りに行くために、この領域に賭けることを決めました。
インターネットの黎明期、多くの人が「インターネットって何?」と言っている状況の中で、その大波に乗った人たちが世界を変えたのと同じように、暗号通貨、ブロックチェーンもこの先に何か可能性がある領域であり、挑戦するに値すると思います。
インターネットが幻想ではないように、ブロックチェーンも幻想ではありません。とにかく、この波を信じて、時間とお金を投資したいと考えています。
まだ詳しくはお話しできないのですが、2018年の早いタイミングで世に出したいと考えているので、楽しみにしてほしいです。
ゼロから1を生み出す人を増やしたい
僕が事業を生み、世界のトップを目指す理由は、前述した「世の中の幸福貢献度を最大化するため」です。
霊長類最強女子と言われる吉田沙保里選手がいたことで、彼女に憧れる人が集まり、優秀な選手が生まれ、日本のレスリングが世界で脚光を浴びるほど強くなったのと同じことを、僕はスタートアップや起業家の領域でやりたい。
スタートアップはかっこいい、起業はかっこいいと思う人が増えれば、停滞している日本経済に大きなインパクトを与えるはずです。その起爆剤となるような、尊敬される、憧れる組織・プロダクトをつくり、起業のハードルを下げ、たくさんの人にゼロから1を生み出して欲しいと考えています。
10年前なら、スタートアップで働くことにリスクがあったかもしれません。だけど、今は選択に躊躇する理由がまったくありません。
だから、学生や若い人には特に、もっと自分の可能性を信じて、大きなことにチャレンジしてほしい。そのチャンスがあるスタートアップを選ぶ人が増えたら、日本はもっと良くなると信じています。
こちらの記事は2018年01月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
田村 朋美
写真
池田 有輝
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