日本でもブームはすぐそこ?
急成長する「eスポーツ」市場を開拓する海外スタートアップ4選

格闘ゲームやサッカーゲームの腕前を競う「eスポーツ」の人気が急速に高まっている。プロ選手や運営団体、スポンサードを表明する企業も表れ、サッカーや野球と同じように「競技」としての地位を確かにしつつある。

日本では認知されはじめたばかりだが、海外では先駆例もある熱い市場。本記事は、この分野でいち早くユニークなビジネスを展開している海外スタートアップ4つを紹介する。

  • TEXT BY KAYO MIMIZUKA
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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成長続ける世界市場 日本でもじわり注目

前提となる市場規模から押さえていこう。ゲーム市場調査会社のNewzoo(ニューズー)によると、2018年にeスポーツ市場は約9億ドル(対前年比38%増)に成長し、視聴するユーザーは全世界で3.8億人に上るという。東京五輪が開催される2020年には、市場は14億ドル規模に到達すると予想されている。

欧米や韓国ではすでに、大会放映料やグッズ販売などを通して「ビジネス」が確立している分野だ。スター選手が億円単位の賞金を稼いでいる事例もあるという。

一方、日本では大きなブームの波が来ているとは言い難く、「ゲームはスポーツなのか」という声も聞かれる。だが、世界的な盛り上がりを背景に、普及に向けた取り組みも増えている。2018年2月には、既存3団体が合併して「日本eスポーツ連合(JeSU)」を設立。KDDIやサントリーなど6企業がスポンサーに名を連ねており、eスポーツ選手が国内外で活躍するための環境整備や、eスポーツの普及を進めていく方針だ。

また、2018年3月には吉本興業もeスポーツ事業に参入し、日本人選手を中心としたプロチームの運営やeスポーツ大会を開催することを発表した。ゲーム業界外からの参入がさらに広がれば、ビジネスが広がる可能性もあるだろう。

吉本興業が2018年3月に行った記者会見の様子

eスポーツは、ゲーム業界が次の一手として注目する分野でもある。2018年9月開催の「東京ゲームショウ2018」では、eスポーツがイベントの柱の一つとなっている。ゲームソフトメーカーがトップ選手を招いた大会を開催し、対戦動画の世界配信も行われるという。

さらに、2019年1月には日本とサウジアラビアによる初の国際親善試合が開かれる。サッカーゲーム「ウイニングイレブン2019」や格闘ゲームの「鉄拳7」など3ゲームが競技タイトルに決定し、賞金総額は3,000万円。2022年に中国で開催されるアジア競技大会でも正式競技として採用が決まったほか、国内でも大会やイベントが目白押しだ。

国内でも動きが加速する中、海外ではeスポーツ分野を開拓するスタートアップが登場し始めた。どんなビジネスモデルを展開しているのか、事例を紹介していきたい。

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高校でeスポーツの「部活」を普及──PlayVS

PlayVS

最初に紹介するのは、PlayVS(プレー・バーサス)。米国で高校対抗のeスポーツ大会を運営するオンラインゲーム・プロバイダーだ。

eスポーツが盛んな米国では、アメリカン・フットボールやバスケットボールなどのスポーツと同様に、多くの大学でゲーマーの育成プログラムや奨学金がある。一方、高校レベルでは競技を行う仕組みやルールが整備されていなかった。

PlayVSはそこに目を付け、米国内の高校スポーツを統括する「全米州立高校協会(NFHS)」と提携。高校にeスポーツの部活を作ったり、試合スケジュールを管理したりするためのプラットフォームを提供している。

登録するには、生徒1人につき月16ドルの支払いが必要になる。TechCrunchによると、今秋から少なくとも18州の5,000校で、約500万人の高校生を対象に、eスポーツが正式に導入される見込みだという。

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ゲーマー同士をつなぐ──DreamTeam

DreamTeam

チーム戦も多いeスポーツ。DreamTeam(ドリーム・チーム)は、一緒に戦うチームメンバーを募集し、管理するためのサービスを提供している。

同社によれば、約2.5億人のゲーマーがプロフェッショナルとしてのキャリアを模索している。一方、互いに情報を共有できるプラットフォームは少なく、プレイヤー同士がつながったり、マネージャーやコーチを探したりすることは困難だという。

DreamTeamはブロックチェーンとスマートコントラクトの技術を活用し、eスポーツのチーム構築をサポートする「初のネットワーク」だと表明している。

ユーザーはトークンを使って、賞金やチームメンバーの給与を支払える。トーナメントや練習試合の情報にアクセスできるほか、チームデータの管理分析も可能。また、登録しているゲーマーのスキルを1から10で評価する「レーティング・システム」もあり、より評価が高いユーザーほど強豪チームからスカウトされやすくなる仕組みだ。

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映画館がゲーム会場に!──Super League Gaming

Super League Gaming

ゲームは家の中でプレイするもの、というイメージがないだろうか。

2014年に設立されたSuper League Gaming(スーパー・リーグ・ゲーミング)は、アメリカ各地の映画館を会場にして、アマチュアゲーマーの大会を運営している。ゲーマーが同じ場所に集結し、巨大なスクリーンに試合の様子を映しながらプレイすることで、オンライン対戦では楽しめない一体感を味わえるという。

Varietyによると、当初は子ども向けのゲーム大会開催から始まったが、現在はニューヨークやロサンゼルス、シカゴなど、12都市対抗のリーグ試合を開催している。その地域性も特徴で、地元のスポーツチームを応援するような感覚だろう。

Super League Gamingは試合のチケットを販売し、映画館と利益を折半する。これまでにないゲーム体験を提供すると同時に、観客数が減少している映画館にも新たな収益を生んでいる。日本でも、地域に根ざした場所を活用し、ゲームを通じたコミュニティ作りや、地域同士の交流につなげる取り組みは可能かもしれない。

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ファンとの交流を盛り上げる──Quarterback

Quarterback

さらに、プロとして活躍するeスポーツ選手とファンを直接つなぎ、マネタイズを支援するサービスもある。運営するのは、今年に入って250万ドル(約2.8億円)の資金を調達したロサンゼルス拠点のスタートアップQuarterback(クオーターバック)だ。

同社が運営するサービスでは、選手が自分自身の「ファンクラブ」を作り、既存プラットフォームを通さずに直接ファンと交流できる。

ほかの有名選手との対戦を配信できるほか、ファンに毎日ゲームチャレンジを課し、賞金や特典を出すことも可能。ゲームをプレイしていない「オフ」の時間も活用し、サポートしてくれるファンをつなぎとめる仕掛けだ。ファンにとっても、プロゲーマーをより身近に感じられる場になるだろう。

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ゲームを通じたコミュニティ構築を

Newzooによると、2018年の日本ゲーム市場全体の規模は、米国、中国に次ぐ第3位と見込まれている(前年比15.1%増の192億ドル)。主流はモバイルゲームだが、ユーザーの1人あたり消費額は北米の約1.5倍、西ヨーロッパの2.5倍に上る。ゲームは日本の「お家芸」とも言えるだけに、その熱量は高い。

今回紹介したスタートアップはそれぞれ異なるアプローチでビジネスを展開しているが、eスポーツを通じて地域コミュニティや人のつながりを構築し、ゲームの新しい楽しみ方を提供している点では共通していると言える。一方で、世界保健機関(WHO)は「ゲーム障害」を新たな疾患として認定しており、ゲーム依存に関する懸念があるのも事実だ。

日本でも少しずつeスポーツへの注目は高まっている。こうした議論にも目を向けながら、海外事例を参考にビジネス機会を見出すことが可能かもしれない。

こちらの記事は2018年10月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

耳塚 佳代

ライター、翻訳者。1985年生まれ。元通信社英文記者

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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