認知症の早期検出AI、地域活性をめざすワークシェア。
社会課題への“想い”で駆動する注目スタートアップ──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、ジョージ・アンド・ショーン株式会社、Rsmile株式会社(登壇順)だ。
- TEXT BY HARUKA FUJIKAWA
- EDIT BY HARUKA MUKAI
ジョージ・アンド・ショーン株式会社
認知症の早期検知AI、高齢者の見守りデバイス
最初に登壇したのは、高齢者の見守りデバイスやAIによる認知症の早期検知サービスを手がけるジョージ・アンド・ショーンのCEO 井上憲氏だ。
井上氏は「少しだけ優しい世界を創ろう」をビジョンに掲げ、2016年3月に起業した。背景には、認知症の祖母の迷子を家族総出で探した経験があった。
井上2014年に、一緒に暮らしていた祖母が認知症を発症しました。迷子になる回数も増えていって、その度に外へ探しに行く。家にいても心配が尽きませんでした。
当時、他社の見守り用デバイスも利用していたのですが、使いやすさに改善の余地があると思っていて......。もともとIT業界で事業開発に携わっていたこともあり、周囲と協力し、見守り用デバイスの試作品を作ってみたんです」
試作品への反応に手応えを感じた井上氏。同じように困っている人にもデバイスを届けるため、会社を立ち上げた。
第1弾の事業が、なくしもの防止・見守りサービス『biblle(ビブル)』だ。biblleでは、小型のタグとスマートフォンをBluetooth接続すると、タグの位置情報を表示したり、ブザーを鳴らしたりできる。
Bluetoothで接続しているため、本来は50mの範囲内しか位置情報を把握できないが、ユーザー同士がすれ違った際のデータをもとに範囲外の位置情報も表示できる。
タグ自体にGPSが搭載されていないため、小型かつ電池の持ちもよい。子どもや高齢者を見守るためだけでなく、なくし物を探すためにも利用されているそうだ。
biblleを主要事業としながら、集めたデータを元に認知症をめぐる研究にも取り組んでいる。例えば、NTT西日本や北陸先端科学技術大学院大学との共同研究で、軽度認知症を早期検知するAIを開発している。
井上軽度認知障害は60歳から70歳の間に発症しやすいものの自覚症状が出づらい。早期に発見できれば3、4割が回復すると言われているのですが、病院にかかろうという意識がないため、発見が遅れるんです。
私たちの研究では、移動データや睡眠サイクルから生活習慣や行動を分析することで、周辺症状から検知できないかを検討してきました。
現在、検知精度は認知症で95%、MCI(軽度認知障害)が81%です。検知精度はまだ医学的な診断の数値には及びませんが、およそ2週間から1か月という短期間でのデータから検知できるという点が評価され、先日ケンブリッジ大学で行われた感情分析の国際学会で論文採択されました。
この春からは、認知症の早期検知サービスの事業化に向けて動き出している。プレAラウンドでの調達も開始した。
常勤社員や兼業社員、新卒社員の採用も進めている。「社員は90%が兼業」で、井上氏自身も創業時から変わらず日本オラクル株式会社で働いている。「稼がなくちゃいけないという焦りがないからこそ事業にフォーカスできる。兼業だからこそ本質的な課題に専念できるし、事業のスピード感が鈍ることはない」と力強く語った。
Rsmile株式会社
非効率な“不動産業界の軽作業”を、
地域主体のワークシェアサービスで解決
続いて登壇したのはRsmile代表取締役の富治林希宇氏。不動産業界に特化したワークシェアアプリ『COSOJI(コソージ)』を開発・運営している。
COSOJIでは、不動産の掃除や点検、草刈りなどの担い手を探す依頼者と、スキマ時間を活用したい地域住民をマッチングするアプリだ。
依頼者はアプリで仕事の種類や内容を入力するだけ。働き手はアプリから好きな仕事を選び、面談やシフト提出なしで仕事を始められる。
富治林不動産を持っている方や管理会社のなかには、30分から1時間程度で終わる軽作業を毎回業者に発注する費用や手間がかさみ、悩んでいる人が多くいます。コストに見合わず軽作業が後回しになっているケースもある。
一方、ライフスタイルに合わせてスキマ時間に好きな時だけ働きたいという声は多い。
両者をマッチングすることで、不動産業者の業務効率化と地域住民の雇用促進、いわば“仕事の地産地消”を実現できればと考えています。
富治林氏は建築を学び、不動産管理事業や不動産ファンド事業などに携わってきた。地域の不動産再生や古民家のリノベーションを手がけるなかで、「業者や地域住民など、不動産に関わるあらゆる人にとって快適な世界を提供したい」と考え、起業にいたった。
2020年の5月に創業し、11月にはジモティとF venturesと資本提携を結んだ。2021年1月にローンチし、2月の登録業者は400名、働き手側のユーザーが1700名。「広告は一切出していないが、紹介やクチコミでじわじわと数字を伸ばせている状態」だという。
富治林氏は、引き続き「街への想いのある働き手を集めていきたい」と展望を語る。
富治林働き手の登録段階でのスクリーニングは、スキルと同じくらいマインドも重視しています。そのほうが本人も気持ちよく働けますし、質の良い仕事ができると思うからです。
今でも、働き手は半分くらいが『街が好き』や『掃除が好き』という方。それでも依頼者からの仕事への評価は平均して5点満点中で4.5を維持できています。今後も双方にとってより良いサービスを育てていきたいです」
社内のメンバーも不動産業界に対して強い「想い」を持った人が集まっているという。富治林氏は「ハートドリブンな仲間が揃っています」と表現した。さらなる成長に向け、エンジニアやマーケター含め、積極的に仲間を募集している。
第36回目となったこの日は、テクノロジーを活用した社会の課題に向き合う2社が集った。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年04月01日に公開しており、
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1998年生まれ、広島県出身。早稲田大学文化構想学部在学中。HRのスタートアップで働きながら、inquireに所属している。興味分野は甘いものと雑誌と旅行。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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