時代を変えるデジタル化には、“ソフトウェア”と“BizDev”の両取りが不可欠──LayerX・ラクスルの若き事業家が語り合う

登壇者
牧迫 寛之

大阪大学法学部卒。グリー株式会社に新卒入社し、決済・基幹システムのプロジェクトマネージャーを担当。2014年より株式会社Gunosyに参画。複数の新規事業開発を推進後、投資先であるインドネシア・ジャカルタにて事業会社で3年間のハンズオン支援。 帰国後の2018年、LayerXに参画し、2019年執行役員就任。ビジネスサイドの責任者としてバクラク事業の立ち上げを担当。

木下 治紀

東京工業大学大学院 電子物理工学専攻 卒業。LSIの高速化・省電力化の研究に従事。2016年にラクスルに新卒1期生として入社。現在は事業開発責任者として主幹事業領域の更なる成長に注力。以前は集客支援事業部にて商品開発・サプライチェーン開拓、オペレーションの業務効率化を担当。

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「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを掲げ、印刷や物流といった産業の変革プラットフォーム事業を展開するラクスルと、「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに、法人支出管理SaaSやLLM関連事業を展開するLayerX。

この2社から事業責任を担う執行役員を招き、どのように産業DXを進めてきたのか?どのような社会変革をしようとしているのか?そこで活躍するBizDevとはどのような存在なのか?といったテーマについて、2023年8月のFastGrow Conferenceで対談を実施した。

共通しているのは「スピード」「テクノロジー」「視点」といったスタートアップならではの事業開発思考。そしてそれを基にBizDevが担うのは「非連続的な事業成長を生むための意思決定と実行」だ。

これらについて具体的な実践例を含め語ってもらった。これから社会変革に携わりたいと考えている学生や20代の若きビジネスパーソンにとっては必読の対談だ。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
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産業DXはまだまだ途上。「ソフトウェア」の力で「仕組み」から変革を起こす

──まずは両社の取り組む課題と、そこに対するアプローチを教えていただけますか?

木下ラクスルの祖業である印刷プラットフォーム事業の領域では、多重下請け構造、アナログな商習慣といった「受発注構造」に非効率性があります。

日本の印刷業界は大手2社が出荷額の大半を占める寡占市場で、中小印刷会社に外注するという下請け構造が続いており取引コストが高い。また、エリアごとの相対の営業による受注が主流で、納品に至るまでに、デザイン決め・校正・試し刷りなどの工程をユーザーと印刷会社の営業担当者、工場の現場担当者の間で何度もやり取りを行う必要があり、手間と時間がかかるのが特徴です。

木下ラクスルはこうした課題に対し、インターネットの力で効率化していくことを事業の根幹としています。

牧迫LayerXは、企業がお金を扱う一連のやりとりの非効率性を大きな社会課題と捉えています。その課題に対して、横断的にソリューションを提供しています。

こうした支出管理のソリューションはテレビCMなどで目にする機会が多く、「既にDXが進んでいる領域では?」と感じるでしょう。しかし、現実は手書きやFAXといったアナログ手法で管理している企業が日本全体の約50%にのぼるんです。

アナログとは過酷なもので、100社いたら100通りの経理や会計の仕方があると言われています。ここに生じている非効率な業務を、ソフトウェアの力で抜本的に効率化し、日本全体の生産性を「バク上げ」する。LayerXは現在、こうした取り組みに力を入れています。

──2社が向き合っている社会の実態を伺うだけでも、日本の産業DXにはまだまだ大きな伸びしろが感じられますね。

木下そうですね。なのでラクスルグループは印刷以外にも梱包材や物流、広告、コーポレートITなど複数の産業領域で事業を展開し、日本のあらゆる非効率に対しプロダクトの力で仕組みから変えていく挑戦をしています。

牧迫同じく、LayerXも支出管理だけでなく、デジタル証券やアセットマネジメントを取り扱う事業を三井物産らとのジョイントベンチャーで展開したり、ChatGPTを主とした大規模言語化モデル(LLM)に関する開発を行ったりと、コンパウンドスタートアップとしていくつもの社会課題を同時に解決しようと取り組んでいる最中です。

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「スピード」「テクノロジー」「視点」。
産業DXにおけるスタートアップならではの勝ち筋

──両社の取り組みを見て「それは大企業などの既存プレイヤーでも実現できることなのでは?」と感じる方もいそうです。こうした疑問に対して、スタートアップならではの勝ち筋を教えていただけますか?

牧迫私の考えは「スピード」と「テクノロジー」です。大企業を主とした既存プレーヤーでは、ビジネスモデルの急変化や、最先端技術の柔軟な活用がしにくいでしょう。なぜなら、長年にわたって積み上げてきたアセットがあり、その前提が意思決定に強く作用するからです。

木下従来の業界では構造的に難しく、テクノロジーの活用によってこそ新たな仕組みや価値を生み出せる、そんな領域を見出すことだと感じています。ラクスルの場合、具体的には、小口注文に対応する少量多品種生産に最適な仕組みを構築するということでした。

──両者の考えについてもう少し、具体例とともにお聞きしたいです。

牧迫これはLayerXならではの考えでもありますが、「プロダクトは会社のカルチャーを映し出す」と捉えています。

弊社の場合ですと、「プロダクトの力でお客様の課題を解決したい」という想いを持ったメンバーたちが、「すべての経済活動を、デジタル化する。」というミッションに向かって団結して取り組んでいます。

しかし大企業になると、リソースの調整はできたとしても、その組織規模ゆえ「なぜやるのか」「どんな想いを持って取り組むのか」という側面においてはすぐに一致団結することが相対的に難しい。それが、生み出される事業やプロダクトの提供価値にも影響を及ぼしてしまうのではないかと思っています。

──「プロダクトは会社のカルチャーを映し出す」、たしかにそう感じますね。LayerXの場合は、具体的にどんな特色があるのでしょうか?

牧迫我々の場合はUX、圧倒的に「使いやすい」プロダクトづくりを心がけています。象徴的な点を挙げると、BtoCのプロダクトづくりにおいて当たり前になっているような「使いやすさ」をBtoBの領域に持ち込むというのがLayerXならではのこだわりです。

従来のBtoBソフトウェアも、機能面は非常に優秀なものが多く生まれていました。ですが「使いやすさ」の工夫がBtoCプロダクトに比べると進んでいませんでした。

そこで、LayerXはBtoCのプロダクトづくりに精通しているメンバーを中心に開発を進めています。すでに、我々のプロダクト『バクラク』シリーズを導入いただいたお客様からは「明らかに使いやすく、迷ったり悩んだりという社内相談がほとんどなくなりました」というお声を頂いています。

──BtoCの概念をBtoBに持ち込む。目の付け所がユニークな取り組みですね。では、ラクスルの木下さんはいかがでしょうか?

木下「少量多品種生産の仕組みを作った」というのを、背景も含めて具体的にお話しさせていただきます。印刷業界では長らく、大企業の大口注文に応えるための大量生産を前提としたサプライ構造になっており、小ロット・多品種生産への対応が構造的に難しい状況でした。一方で、中小企業のお客様をはじめニーズは存在していたため、そこに適したサービスを構築できれば世の中に広まると考えていました。

勿論、大手のアセットを活用すれば実現は可能だったと思いますが、大口注文を前提とする企業からすると案件当たりの単価が10倍以上異なりますので、わざわざ新たな設備投資を行って取り組むほどの合理性を感じにくい領域だったと感じます。

印刷産業も歴史が長く、今の産業で最適化されていることは勿論沢山ありますし、我々がそこを取り組んでも価値は出せないので、産業とインターネットを跨いで新たな価値を生むことが可能な領域にフォーカスをしています。

──どうもありがとうございます。両社とも、構造的な理由から大企業には実行しづらいアプローチで産業DXに挑んでいる点がユニークですね。

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今までにない「新しい価値」「新しい変化点」を生み出せるのが、産業DXにおけるBizDev(事業開発)人材だ

──それでは最後のアジェンダです。産業DXの中で変革を生み出す「BizDev(事業開発)人材」として活躍していくためには、ビジネスパーソンとしてどういったことを意識する必要がありますでしょうか?

木下ラクスルではBizDevを「事業や組織の変化を生み出せる人」と定義しています。

具体的に言うと、事業責任者であれば、“なりゆき”の成長に対してどれだけの変化を生むことができたか?を問われます。

年5億円の売上成長をする事業が次の年も同じ成長ペースであれば失格で、10億~20億円といった非連続な成長ができる形を生み出すチャレンジをしてこそBizDevであると考えています。

もちろん簡単なことではなく、チャレンジの中では失敗も多いです。それを乗り越えながら、課題設定から実行までを一気通貫でやりきるための、強いオーナーシップが重要であると思っています。

──「事業の変化点を見つけて変えられる人がBizDev人材である」。ラクスルらしい考え方ですね。こうした機会は新卒や20代の若手でも得られるのでしょうか?

木下BizDevとしての成長は、機会提供が全てだと思っているので、積極的にチャレンジをしてもらいます。これまでの具体的な実績としては、事業KPIの非連続改善を目指したオペレーションの自動化プロジェクト、新規領域参入のための事業立ち上げのリーダーなどがあります。

今後も事業を更に拡大していくにあたり、機会は増えていきますので、より一層新卒・若手の方にとっては良い環境になっていくと思っています。

──ありがとうございます。LayerXにおいても「BizDev人材」の定義と共に、活躍している人材像をお聞きしたいです。

牧迫我々も基本的にはラクスルさんと同じです。「これまでの延長にはない未来を創る」「1〜3年後を見据えた価値を創る」といった、経営目線を持って事業を担える人がBizDev人材であると思います。

なぜなら、既存の事業だけを行っていては必ず衰退する時が来るからです。だからこそ、LayerXは常に新しい事業を生み出し続ける意志*を持って取り組んでいます。このように、常に新しいモメンタムを生み出していける人がLayerXにおけるBizDev人材ですね。

*……代表福島氏が「事業を生み出し続ける意志」について語ったインタビューがこちら

──使う言葉こそ違えど、両社の考えは同じ方向を向いていそうですね。若手の活躍事情においては、LayerXではいかがでしょうか?

牧迫『バクラク』事業における本格的な新卒採用はこれからなのですが、LayerX全体で見ると、学生インターンを含め多くの若手がすでに事業責任を担うようなポジションで活躍しています。

たとえば2019年にインターンとしてジョインしてそのまま新卒入社したメンバーの1人である田本英輔は、三井物産らとのジョイントベンチャーに出向し現在は投資銀行部門の部長を務めています。入社4年目ですが、同業界の40代が担うような重責を持って事業を推進しています。

──両社とも、新卒からBizDev人材としてバリバリ活躍していける環境があるのですね。ではなぜ、そうしたBizDev人材が両社では生まれてくるのか、工夫していることがあればお聞きしたいです。

牧迫LayerXとして「目指していきたい」という想いも込めて、二つあります。一つ目は、ユーザー価値とP/L責任を明確に両立させること。二つ目は、事業家として広い視野を持てる組織横断的な責任範囲があることです。

先ほども言った通り「経営目線で事業を担う」のがBizDevなので、P/L責任を明確に持つことによって最も筋の良い意思決定をし続けられるようにしています。現在、LayerXでは半年に1つ新プロダクトをリリースしていこうと目標を掲げているのですが、単に顧客価値のあるプロダクトを生み出すだけでなく、立ち上げ推進者に対してはP/L責任も含めて任せることが基本です。

その中で「組織横断的な意思決定」も重要になってくるので、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスといった組織の壁をとにかく低くしているんです。普段から仕事のアサインとしても、横断的な思考になるような機会の渡し方をしています。

たとえば、自身の主幹業務がマーケティングだとしても、どういうプロダクトだとセールスが扱いやすいのか、顧客価値を高めるにはカスタマーサクセスとしてどんな伴走をすべきなのか、などといった領域にまで携わることがよくあります。BizDev以外のメンバーもみな、「事業を伸ばすためにはどうすべきか」を俯瞰して考えていくのが当たり前になるようにしているんです。

──「事業全体を俯瞰してみる機会」がキャリアの浅いうちからあることも、BizDevや事業家人材にとって重要な点ですね。同じく、ラクスルではいかがでしょうか?

木下ラクスルでも、組織としての在り方が大きく関係しています。ラクスルの場合はビジョンのもと、間接費に関係する複数産業の変革を目指しているので、さまざまな領域・さまざまなフェーズの事業機会が共存しています。BizDevとして経験を積む多様なチャンスがあるということです。

また、単に事業を生み出しては任せて、の繰り返しだと再現性がありません。そうではなく、BizDev同士が、既存事業で培った「成功の型」「変革の型」をシェアしていく仕組みやカルチャーが備わっているという点もありますね。

そうした環境の中で、経営陣を含めて壁打ちや議論をしながら、事業の立ち上げからチームの組成、グロースまでを一気通貫で進めていくことで、BizDev人材として成長していけるのだと思っています。

──お二人ともありがとうございました。では、これからのラクスルとLayerXは、BizDevあるいは事業家人材を目指すにあたってベストフィットな環境だということでよろしいでしょうか?

牧迫 はい、それは自信を持って言えます!

木下そうですね、この機会を通じて、皆さんとお会いできることを楽しみにしています。

こちらの記事は2023年12月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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