レイター?いや、ここが始まり。今こそ“どシード”フェーズだ──上場を見据えるファンズが、次のステージに向け挑む「攻めの仕組み化」を、新CHRO藤田大洋氏×CFO前川氏が語り合う

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前川 寛洋

HRスタートアップで執行役員を務めた後、2020年にファンズに参画。取締役CFOを務める。総額80億円以上の資金調達を主導した他、M&A、IPO準備等を幅広く管掌。2023年にFunds Startupsを創業。2024年より、全国7行の大手金融機関から出資を受けて総額38億円のベンチャーデットファンドを設立。その他、スタートアップ推進議連、全銀協、新経連等のスタートアップ関連の会合に有識者として参加し、スタートアップ市場の発展に従事。直近では国内最大級のスタートアップカンファレンスIVS2026の企画責任者も務める。

藤田 大洋

立教大学社会学部卒業後、ITベンチャー企業を中心にHR部門立ち上げや創業社長の引退に伴う経営・組織変革を担ったのち、2017年から株式会社ツクルバに在籍。執行役員CHRO 人事本部長として、同社のIPOや事業・組織のグロースをリードする。2026年6月、ファンズの執行役員CHROに就任。

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シリーズEラウンドの調達を経て、連結での従業員数は約150人規模となったFinTechスタートアップ、ファンズ株式会社(以下、ファンズ)。同じフェーズの企業と比較すれば人数規模こそそれほど大きくはないものの、多様なモデルの事業を抱え、すでにコングロマリットの様相を呈する、特異な企業組織となっている。

一般的に、このフェーズまで成長した組織には、ある種の安堵と退屈が漂い始める。上場のタイミングが迫る中、アジャイルな戦い方は終わりを告げ、ガバナンスの進化を目的とした「守りの仕組み化」が進み始めるからだ。

だが、今のファンズが進めているのは「攻めの仕組み化」なのだと、経営陣は強調する。その背景には、こんなエピソードがある。

「未上場企業としてはレイターフェーズでも、上場市場から見れば“どシード”の存在でしかない」

CFOの前川寛洋氏は、投資家から言われたこの言葉に刺激を受け、まさに今、初心に立ち返り、“どシード”の企業として「攻めの仕組み化」に気を吐いているのだ。

そもそも、未上場時には難しいとされてきた多事業展開を既に軌道に乗せ、利益創出の道筋も立ち始めている点で、従来のスタートアップ像とは一線を画す存在となっているファンズ(そんな現在地を先のシリーズEラウンド1st Close時の記事で網羅的に確認している。合わせて参照してほしい)。ここから一体、どのような新たな挑戦をしていくというのか。

本記事は、新たなフェーズに差し掛かった中で、次章のキーパーソンとして同社へ参画しCHROに就任した藤田大洋氏と、これまで人事領域を管掌していたCFO前川氏の対談。二人が思い描き、走らせ始めた「攻めの仕組み化」の思想と実態から、新たなスタートアップグロース論を考えるヒントを得てほしい。

  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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1,000万人規模のインフラを見据えたファンズの「複合型成長戦略」

グローバル展開や壮大なビジョンを掲げるスタートアップは星の数ほどある。しかし、その「掛け声」に見合うだけの確かな実態を伴っている企業が、果たして日本にどれだけあるだろうか。

以前は株式会社ツクルバの執行役員CHROとして、上場前後の従業員約30~300人規模への急拡大期を人事面から牽引した藤田大洋氏。ここ1年ほど、複数社の人事・組織まわりを支援する中で、そのうちの1社だったファンズの実態に衝撃を受けたと振り返る。

藤田海外展開や多事業展開で、本当に上手く成長し続けている日本企業は、まだ決して多くないですよね。スタートアップとなると本当にごくごくわずかだと思います。

そんな中、ファンズの現場からは、「リアルな成長実態とモメンタム」を感じたんです。目指す方向感に対して、各子会社・各事業のリーダーたちが誠実に、本質志向でビジネスを引っ張り、伸ばし切るところまでコミットし続けている。しかもそれが当たり前という感じで、非常に高い水準が存在する組織になっている。

これまでさまざまな企業さんを支援してきた経験からも、芯の強さを持つ組織だと感じたんです。

心からそう感じ、刺激を受けたことが、参画の決め手になりました。

この藤田氏の評価に、CFOとして全体の財務戦略を描く傍ら、新規事業であるグループ会社・Funds Startups株式会社(ファンズスタートアップス)の代表も兼務する前川氏は笑顔を見せる。

前川極端な話、シード期であればとにかくバッターボックスに立ち、大きく夢を語ることが求められます。アーリーフェーズも、その夢に向かっている勢いや想いこそが重要になる。

しかし、上場も迫るレイターフェーズでは、定量的にも定性的にも「本当に大きな会社になれるのか」という点で、かなり現実的な議論が交わされることになります。

だからこそ、大洋さんのようなトップ人材に見極められ、選んでもらえる会社であったという事実は、成長戦略や財務の責任を担う立場としても、非常に手応えを感じられる嬉しい出来事でした。

では、プロのCHROをも唸らせたファンズの「実態」とは何か。それは、彼らが描く「ロマン(大義)とそろばん(財務戦略)」が、経営層からメンバー層にまで、1本の美しい線として繋がっている点にある。

描く未来の実現に向け、日本社会全体のお金の不安を根底から覆すためには、ごく一部のユーザーが使うニッチなサービスでは意味がない。

前川日本の総人口約1億2,000万人のうち、少なくとも1,000万人規模の方々に日常的に使っていただけるインフラにならなければ、社会課題を解決していく事業にはなり得ません。

この1,000万人のユーザーを獲得するためには、少なくとも3,000億~4,000億円という膨大な事業資金が必要になると試算しています。

なお、これはあくまで今考えられる到達点からの逆算で導き出した、最低限の通過点であり、私たちはその先にあるさらなるスケールを見据えています。ですが、とにもかくにもまずは、社会的インフラとして機能するために、分かりやすい指標として、1,000万人に使われるサービスを早く実現しなければならない。

この巨額の資金は、VC・市場からの資金調達だけに頼るものではない、と前川氏は続ける。

前川ここからは、自分たちの事業を通じて手元に残る利益をできるだけ多く創出し、それを倍増させていくことで、投資資金を確保し続ける必要性も強くなります。それに、自社で生み出すキャッシュが大きくなっていくからこそ、資本市場のダイナミズムを最大限に活用した大規模なファイナンスも非連続に拡大していくわけです。

仕組みとしてその成長スパイラルを組織に組み込まない限り、掲げているミッションはただの夢で終わってしまう。

だからこそ、築き上げてきた強固な顧客アセットをレバレッジさせていくかたちで、ファンズ不動産やFunds Startups、さらには『Funds』プラットフォームのグローバル展開など、収益性が高く、当社のビジョンを実現するための事業を同時多発的に立ち上げた。

こうして複数事業を掛け合わせ、資本とアセットの増殖速度を最大化する「複合型戦略」を進めているのです。

Funds Startupsの動きについてのインタビューはこちら

シリーズEラウンド1st Close時の取材記事はこちら

藤田前川さんの言う通り、私たちが掲げる大きなビジョンは、上場後の資本主義経済のゲームルールの中で、事業を徹底的に急成長させ続けられなければ、達成できません。

だからこそ、株式会社PKSHA Technologyさんとの資本業務提携によるAIエージェントの導入や、優秀なハイレイヤー層の獲得など、物事を前倒しで実行していく必要がありますし、それを支える「組織の構造」を今ここで一つの仕組みとしてつくり上げていくことが、私の最大のミッションだと思っています。

多事業戦略は見事に的中し、各領域の優秀なリーダーたちが持ち場を目一杯牽引することで、ファンズは全社的に爆発的な成長を遂げている。だが、その一方で前川氏は、組織づくりの観点で、OSの刷新に不安も覚え始めていたという。

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多角化フェーズで露呈した全体最適の乖離と、組織OS刷新への予兆

事業のポテンシャルが先行して爆発的に伸びた結果、組織には何が起きたのか。外部から参画したCHRO藤田氏の目に映ったのは、一般的な組織論では到底片付けられない、特異な複雑性だった。

前川資本集約型のファンズプラットフォーム事業、労働集約型の色が濃い不動産事業、資本集約型でリードタイムの長いベンチャーデット事業、そして海外案件。力学やフェーズが異なるこれらの事業をまとめて、一つの目線や全社一律の人事制度という「全体最適」で進めていたのですが……俯瞰する立場からは、なんとなくもどかしさも感じるようになっていました。

藤田よく言われる「100人の壁」といった次元では収まらない複雑さを内包していて、すごくレアな状況だと感じました。

事業のポテンシャルが先行して急激に伸びた分、組織開発や人事マネジメントの成長が追いついていないような場面がちらほら見られるようになっていたんです。

これは近い将来、事業をさらに伸ばしていく上でのボトルネックになりかねない。これが、ファンズで私がまず挑戦しようと思った、重要なきっかけになりました。

前川氏がぼんやりと感じていた不安に先回りするかのように、藤田氏は次々と課題を指摘する。

これらの根本的な原因は、「組織が未熟だったから」ではない。むしろ、各領域のリーダーたちが優秀に育ちすぎたがゆえに引き起こされたものだった。

藤田ファンズ代表の藤田のスタイルは、各領域のプロフェッショナルを信頼して権限を託す「分散型リーダーシップ」です。そのおかげで、各所のリーダーたちが目一杯事業を引っ張り、伸ばしてきました。

その結果、全社横断の視点が相対的には弱まる傾向にあると感じていました。いわば「各領域ごとに権限を持ったリーダー」が社内をリードする状況になっていたのです。

これ自体が悪いことというわけではありません。ただ、俯瞰的な視点での統制がまだ不十分な面があったため、何か歪みが生まれると、それが一気に拡大し、大きな危機につながるリスクがある状態だったというようなイメージです。

この組織状態はむしろ、複数の事業が切磋琢磨しあって売上成長を追うフェーズであれば、素晴らしい勢いを生むものだったはず。しかし、上場も見据えた複合型戦略で、利益創出の比重も高まるフェーズとなれば、話は変わる。

前川各現場での「部分最適」と、私がイメージする「全体最適」に、差が見え始めました。まさにジレンマですね。

そもそも私たちが扱っている金融ドメインは、事業構造が複雑になりやすく、参入障壁は常に高い。これから本格的なAIネイティブの時代が来た時、この複雑で強固な独自の事業基盤を持っていることが、真にAIを活かして勝てる最強のアセットになるはずだと感じているんです。なので、その強みを活かすための戦い方のスタンスをもっと会社全体で再検討したいと思っていました。

ですが、実際には少し進めにくさを感じていたのが実態です。

上場を見据えて最終的な利益(ボトムライン)を確保し、次の投資に備える段階になると、あちらを立てればこちらが立たないという「経営のトレードオフ」の思考も必須になる。

藤田トップライン(売上)の成長だけを追うフェーズなら、分散的なスタイルでも大きな問題はありません。しかし、全社で利益をしっかり確保するフェーズになると、部門レベルの意思決定者が多数存在していることが、調整コストを爆発的に膨らませてしまう。お互いをリスペクトするカルチャーが特徴で、相互に尊重しあう力学により、なおさらこのコストは大きくなっていた。

トップダウンで力任せに縛れば、各事業の成長スピードは死ぬ。かといって放置すれば、調整コストで自滅する。そんな状況を冷静に見極め、一つひとつ着実に改善を進めていったのが、藤田氏というプロフェッショナルだったのだ。

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他人に渡すのが「本当に怖い課題」を、トップCHROに託せた理由

「部分最適と全体最適のジレンマ」で、組織の摩擦や意思決定の遅れが少しずつ見え始めたファンズ。早いタイミングでこの複雑な状況を解消するため、藤田氏が提示したアプローチは極めてシンプルで、鮮やかなものだった。

それは大きく分けて二つ。「経営陣のフォーカスをはっきりさせる」「難しい意思決定こそ巻き取っていく」というものだ。

藤田まず前提として、ファンズのように、抱えている事業のビジネスモデルが多様なグループ経営においては、バリューの多様化が重要になります。

グループ全体でのミッション・ビジョン、あるいはパーパスは、トップダウンの議論で進めるべきですが、事業を合理的に推進するための行動指針として「バリュー」を捉えるなら、各事業の特性や目指すROIによって異なるべきです。

たとえば、営業が重要なファクターとなり続ける労働集約的なビジネスと、プロダクトドリブンなグロースやそのためのアセット構築が重要なビジネスとでは、どういう組織でどういう行動がROIを高めるのか、まったく異なるはずだからです。

全社一律のルールで縛るのではない。各事業が勝つための「独自のバリュー」を実装し、自律的な成長を促す。しかし、これを経営トップが実際に権限を手放して再構築することの間には、大きな壁がある。

前川これまで自分たちで築いてきた蓄積を否定するような権限移譲や組織変更には、実はすごく勇気が必要で、経営層にとっては怖いことなんです。アーリーフェーズなら勢いでいろいろ変えられるかもしれませんが、レイターフェーズになるとそうもいきません。

理屈では分かっていても、いざ進めようと思うといろいろな感情が出てくるのだと気づきました。

藤田そうなんですよね。たとえば、商談やプロダクト開発など、ビジネスプロセスの一部を任せるという話なら、正解とされる進め方も比較的言語化されており、委譲しやすい。また、部門単位の組織再編についても比較的考えやすいと言えるかもしれません。

一方、会社の在り方を根本から考え直すような企業理念や組織風土の再構築のような、正解がわかりにくく、重たい意思決定が想像される仕事になると、まったく異なる話になります。どうしても、変えるにあたって生じそうなデメリットを懸念して、結果として対処が後手になってしまうことが起こりやすいんです。

経営に携わる人なら誰しも、そういった「他人に渡すのが特に怖い課題」を持っていると思うんです。

でも、ファンズがこれ以上のスケールを目指すには、経営陣が事業戦略の本丸に強くフォーカスする必要性が高いと感じました。特に、代表の藤田雄一郎さんやCFO前川さんの脳のリソースは、何よりも貴重なものです。

だからこそ、と前川氏は続ける。

前川私にとって大洋さんは、まさにその「他人に渡すのが特に怖いアジェンダ」を、本気で信頼して委譲できる相手だったんです。重たい課題を正面から巻き取ってくれたおかげで、私は改めて、経営・財務戦略や、Funds Startupsのグロースに、しっかり集中できるようになりました。

藤田私からすれば、経営陣には経営判断として本質的に重要な方に集中してもらえる環境をつくること自体が、自身の貢献価値として最重要だと考えていました。

経営全体がさらに複雑化していくわけですから、最もレバレッジの効くところに最大限の時間とマインドシェアを割くことが合理的な経営のはず。

なので、前川さんが人事・組織の課題に過度に時間を割かれずに済む状況をつくることを第一に動いてきました。

【Before】分散型リーダーシップの限界
前川CFO:膨大な調整コストに
脳を全方位へ奪われている
▲ 調整コストの爆発 ▼
(リスペクトゆえに摩擦が生じる)
部門最適の罠:
各事業リーダーが並列で乱立する
▼ 藤田大洋氏による「重たい課題」の奪取 ▼
【After】新組織OS:自律と統合
CHRO藤田氏がハブとなり
組織課題を統合的に解消していく
(各事業は独自のバリューで自律駆動する)
▼ 解き放たれた経営の余白 ▼
【前川CFOの全集中】
財務戦略や資本市場の攻略へ
ディープフォーカスする

取材内容を基にFastGrowにて作成

そう、藤田氏は、アジェンダを「委譲された」のではない。「奪いに行った」のだ。このスタンスも、信頼を生むキーとなっていたわけだ。

二人の生々しい信頼関係こそが、ファンズが多角化のカオスを抜け出し、再び非連続な成長軌道に乗るための最大の原動力となり始めている。

藤田私が経営層から人事・組織のアジェンダを巻き取ったように、ファンズにはまだまだ「誰かが奪うべき巨大なアジェンダ」が各所に転がっています。

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お金・事業・組織の時間軸──成果創出に数年を要する文化変革の前倒し実行

藤田氏が自ら「渡すのが怖いアジェンダ」を奪いに行き、急ピッチでコングロマリット経営のOSを書き換えているのには、明確な理由がある。それは、彼らが見据えている上場(IPO)と、それに伴う「ゲームルールの劇的な変化」だ。前川氏がまずその前提として、レイターフェーズにおける資本市場の現実をこう語る。

前川会社に期待されるものが根本から変わったと、すでに強く感じています。スタートアップ初期フェーズ向けのVCから、機関投資家や個人投資家へと、株主の構成が大きく変化するからです。株式会社である以上、その所有者は株主。株主構成が変わるということは、当然求められる経営の在り方が変わるわけです。

当初は事業が成立することを証明するためにも、将来的な利益の先行指標となるトップライン(売上)の成長が評価されますが、レイターフェーズになってくると、今後どれだけの利益が残るようになっていくのかという現実的な結果指標たる「利益の効率性と成長性」が厳しく求められるようになります。

この物差しの変化は、経営陣の肌感覚として強烈なものだった。

前川CFOとして投資家と対話する中で準備する内容も、全く変わりました。あくまで体感ベースの数字としてお聞きいただきたいのですが、アーリーの頃は定性的な話が8割、定量的な話が2割くらいでした。しかしレイターでは、予実をはじめとする定量的な話が8割、定性的な話は2割程度と、まったく逆の構成となっているようなイメージです。

未上場の頃は株主の流動性は限定的かつ会社が決めることが可能ですが、上場すれば一気に流動性が解放される。ゆえに毎日のように株主が入れ替わることを踏まえ、解釈が必要な定性的な情報ではなく、誰が見てもすぐに評価できる定量的な情報の重要性が高まるのは必然ですよね。このように自分たちの経営OSをアンラーンしていく必要を強く感じました。

トップラインだけを追っていれば許された時代は、とうに終わった。これからは利益を確保し、シビアなトレードオフの決断を下し続けなければならない。そして、上場すると市場からの監視の目はさらに厳しくなり、大胆な組織の構造改革や痛みを伴う意思決定は極めて困難になるとも言われる。

だからこそ、上場市場における“どシード”の手前である今のフェーズのうちに、できるだけ多くの歪みを解消し、組織OSを進化させておく必要があるのだ。

ここで「まだ上場前だから時間はたっぷりある」と考えてはいけない、と藤田氏は力を込める。経営の変数を「時間軸」という残酷な視点から考えると、見える景色は変わってくる。

藤田大きな目標から逆算してアクションをコントロールする際に、「お金」「事業」「組織」の3つに分けて見通していくことが大事だと考えています。これらは、成果が出るまでの時間軸が全く異なります。たとえば、資金調達によってお金は増える、これは一番早く結果が出る類のものになります。一方で、事業の立ち上げや成長は、1〜2年という中間的な時間軸です。

そして、最も時間がかかるのが、組織なのだ。

藤田「組織づくり」や「組織文化の変革」、そしてそこに不可欠な「キーマンの採用」。これらは数年単位の時間がかかる、最も足の長い要素なんです。

数年先のミッション・ビジョン達成に向け、時間を巻き取っていくためには、こうした組織の課題に、いかに早いタイミングで着手し、後回しにせずにやり切るかが、何よりも重要な勝負になります。

前川こうした広い視野と、豊かな経験を基に、状況を見極めて動いてくれるので、本当に助かっています。私の視座もどんどん引き上げてくれていて、とても心強い存在です。「まさに救世主だ……」と感じることがよくあるくらいです(笑)。

お金は調達できても、人は急には育たない。文化は一朝一夕では変わらない。ファンズが今、旧来のアジャイルでスタートアップ的なOSを敢えて壊し、意思決定やコミュニケーションの在り方の再設計、MVVの再定義、人事制度の見直しといったドロドロとした変革を急いでいるのはそのためだ。

「仕組み化は、上場後にもうまく進められるだろう」と高を括っている暇はない。1兆円企業へと至るための最も難易度の高い取り組みに目を向け、着実に進めようと、この2人は奮闘している。

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過去の経験をアンラーンする──コングロマリット経営のOSを書き換える挑戦

藤田先ほども少し触れましたが、前職のツクルバを卒業した後、あえて一度、会社への所属をやめ、半年間くらいのサバティカル期間(仕事を積極的にしない期間)を経てから、複数のスタートアップの組織づくりを外部CHRO的なポジションで支援・フォローしていました。そんな中で、1年ぐらい経った時から、自分の経験してきたことが複数社に関わることで形式知化され、再現性をもって取り組める自信や挑戦心が湧いてきて、再び企業に所属していろいろとトライしたいと思うようになってきました。

正直、前職を卒業した時は、スタートアップのCHROのようなポジションに戻る想定はしていませんでした。でも、いくつかの会社と話をする中でファンズに出会い、その決意が変わりました。

自分のこれまでの経験に基づく貢献だけではなく、全く経験したことのない複雑な分野で、自分自身を「アンラーニング」しながら総合的にチャレンジすることもできる、最高の環境だと思ったんです。

すでに上場企業のCHROを経験した人物でさえ、決意を翻してまで正社員として飛び込んだ。それほどまでに、今のファンズにはハイレイヤー層を知的に興奮させる挑戦環境がある。

藤田氏と前川氏の二人は、このフェーズのファンズに飛び込むことで得られる「3つの強烈な経験(キャリアの果実)」について、誰よりも本気で面白いと感じ、熱狂している。

1.「出来上がったOSを回す側」から「OSを書き換える側」への進化

一つ目は、誰かが作った仕組みを保守するのではない、自らの手で企業OSを根底から書き換える経験だ。「すでに出来上がっている仕組みを回すのはつまらないが、カオスすぎるだけのアーリーフェーズもしっくりこない」。そんなマネジメント層にとって、事業の非連続な成長に合わせて「攻めの仕組み化」をゼロから設計・実装する経験は、過去の焼き直しが一筋縄には通用しない、ヒリヒリするような挑戦になりそうだ。

経営層・事業責任者層での権限委譲は進みつつあるが、各事業・各子会社の現場の中でミドルマネジメント層・メンバー層にまで委譲が進むような自律的な仕組みづくりはこれからが本番である。

2.「分散」から「統合」へ切り替えるための規律の設計

二つ目は、一般的なシングルプロダクトのスタートアップなどでは得られない、コングロマリット型の経営における「自律と規律」を設計する経験だ。藤田氏はこの特異な環境の魅力をこう表現する。

藤田ファンズは今、シングルプロダクトの拡大体制とは異なる、複雑性と面白さが解放されたステージに入っています。各事業が自律的に利益を出し、グループの中で期待される成長を達成するために、個別の行動指針をマネジメントのレバーとしてどう扱い、統合していくか。経営のコンテキスト、現場、グループ間など、さまざまな文脈を統合して判断・構想できる人物が、これから一番活躍できるフェーズになるんです。

3.日本の限界を突破する「1兆円企業」のトラックレコードへ

前川私自身、何が面白くてファンズをやっているかというと、解くべき課題の難度が高く、解決できた時に社会に与えるポジティブなインパクトがものすごく大きいからです。そして今、その未解決だった課題があらゆる経済環境の変化によって本流化しようとしており、その特等席に我々がいるのだと確信しています。

さらには、ビジョン・ミッションの大きさ、事業の多角性、そして、その実現に向け目指す世界観から逆算し着手すべきあらゆる成長戦略にチャレンジできるポストが常に新出されること。こんな面白い会社は他にないと、本気で思っています。

一般的にレイターと言えば“完成された”と言われますが、冒頭に申し上げた通り、我々は上場市場に挑戦する“どシード”企業であり、ここからがミッション・ビジョンを達成するための本番とも言っていい。これからの挑戦はこれまで以上に最高にエキサイティングなものになると確信しています。

例えば、安定や道筋のある上場企業のマネジメントレイヤーで、既存のミッションやビジネスモデルの中、確実な成長を追い求める5年間。それに対して、過去の成功体験をアンラーンし、複雑な多角化企業のOSを自らの手で書き換え、日本市場の限界を突破する1兆円企業創出のコアメンバーとしてヒリヒリするような充実感を感じながら駆け抜ける5年間。どちらが、自身のなりたい姿に近づく道となるだろうか?

もちろん、人それぞれ、さまざまな考え方がある話ではあるが、「より大きく成長できるかもしれない挑戦」を探している人も少なくないだろう。もしあなたがそうなのであれば、ファンズの現場こそ、魅力的な環境になるのではないだろうか。

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資本主義経済のダイナミズムを活用し、日本のスタートアップの限界超えへ

ファンズが1,000万人のユーザー獲得を見据え、痛みを伴う組織OSの書き換えに挑んでいるのは、単なる一企業のスケールアップのためだけではない。前川氏の視線は、日本のスタートアップエコシステム全体が直面している「分厚い壁」にも向いているという。

自社を大きくするだけでなく、日本の産業そのものを底上げしたいという強い想いから、個人として国内最大級のスタートアップカンファレンスの企画責任者などを務め、長年エコシステムに深く関わり続けてきた前川氏だからこそ、抱く危機感は人一倍強い。

前川実は、カンファレンスの登壇依頼でグローバルのトップ投資家たちに声をかけても、最近は断られるケースが以前よりも多くなっているんです。ある投資家からは「日本のマーケットには期待していない、投資しても規模が小さい、見るだけ時間の無駄だ」とまで言われました。

実際に国内市場に目を向けても、上場した後に株価が低迷していくケースが後を絶たない。日本のスタートアップという大きなダイナミズム自体に、ものすごいブレーキがかかっていると感じています。このままでは、挑戦の規模はどんどん小さくなり、ロマンが失われていってしまう。だからこそ、ファンズがこの壁を本気でブレイクスルーしていく意味は大きいと考えているんです。

目指すのは、当然、上場ゴールなどではない。上場によってアクセスできるようになる資本主義経済におけるダイナミズムを最大限に活かし、日本のスタートアップの限界値を更新する「1兆円以上を動かす企業」へと登り切ることだ。

前川上場後も含めて日本トップレベルの壁を更新できるスタートアップを生み出そうと考えてみると、なかなかうち以外の会社でそれを本気で描けるところはないのではないか……と、手前味噌ではありますが本気で思っています。参画してからのこの6年間、自社の可能性を疑ったことは一度もありません。

これまで赤字を掘りながら必死に事業を立ち上げ、必要な資金調達を行ってきて思うのは、「上場後に、資本主義経済のダイナミズムを活かして爆発的に成長させていくフェーズが来るのが、もう待ち遠しくて仕方がない」ということで。

経営陣が本気で仕掛けた、最高難易度のビジネス戦略と組織づくり。ここには、出来上がったシステムをただ回すだけの退屈な仕事など、一つも残っていない。そんな役割はもはや、存在しないのだ。

前川最近、「人生で大きなチャレンジをしたい」という欲求を持つ採用候補者の方とお会いすることもよくあるのですが「それならファンズしかないでしょ?」と、以前にも増して心の底から湧き出てくる強い気持ちでこの面白さを熱弁するようになっていて⋯⋯。

藤田面接や会食の翌日に候補者から「昨日の話なんですけど……」って熱い連絡が来て、当の前川さんは「昨日俺、何喋ったっけな?」って頭を抱えていること、ありましたね(笑)。我を忘れるくらいにかなり熱く語ってくれていますよね。

でも、それくらい私たちも本気で自分たちの可能性を信じていますし、一つひとつの事業が実際にここからどういう成長角度を描くかは、新しく入る方の「腕っぷし」によって変わる余白がまだまだあります。今まさに面白いフェーズで、オポチュニティにあふれています。

前川だからこそ、本当に「なんでこの面白いフェーズに入ってこないの?」というスタンスなんです、私は(笑)。

こちらの記事は2026年05月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

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