日本のために、スタートアップ界のフジロックを創る──Coral Capitalが国内最大のスタートアップキャリアイベントを仕掛けるワケ

インタビュイー
James Riney
  • Coral Capital Founding Partner & CEO 

Coral Capital 創業パートナーCEO。2015年より500 Startups Japan 代表兼マネージングパートナー。シードステージ企業へ40社以上に投資し、総額約100億円を運用。SmartHRのアーリーインベスターでもあり、約15億円のシリーズB資金調達ラウンドをリードし、現在、SmartHRの社外取締役も務める。2014年よりDeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。

2016年にForbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門で選ばれる。ベンチャーキャピタリストになる前は、STORYS.JP運営会社ResuPress(現Coincheck)の共同創業者兼CEOを務めた。J.P. Morgan在職中に東京へ移住。幼少期は日本で暮らしていた為、日本語は流暢。

津田 遼
  • Coral Capital Talent Manager 

早稲田大学法学部卒業。日本GE株式会社のファイナンス部門でFP&Aアナリストとして経験を積んだ後、グリー株式会社に人事として入社。グリーでは、中途採用、組織人事(HRBP)、米国子会社人事、社内活性、派遣採用/労務管理、BPOなどに従事した後、500 Startups Japanに参画。Coral Capitalでは500に引き続き、投資先スタートアップの採用支援とコミュニティ構築・運営を行なっている。

笹原 健太

司法試験合格後、弁護士として法律事務所に勤務。2013年に弁護士法人 PRESIDENTを設立。 「世の中から紛争裁判をなくす」という志を実現すべく、 17年に株式会社リグシー(現・株式会社Holmes)を設立。 現在は弁護士登録を抹消し、CEOとして同社の提供する契約マネジメントシステム「ホームズクラウド」の成長に向けて力を注いでいる。

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「誰もがファーストペンギンになるのは難しい。だからこそ、“ムーブメント”が必要だ」

2020年2月8日(土)、Coral Capital主催の日本最大のスタートアップキャリアイベント『Startup Aquarium』が虎ノ門ヒルズフォーラムで開催される。

・トッププレイヤーからスタートアップの今を学ぶ

・職種別にスタートアップでのキャリアパスを掘り下げる

・約30社の厳選されたスタートアップと1対1で対話する

この三つが一箇所で行える、スタートアップでキャリアパスを考えるには、またとない機会だ。スタートアップの採用支援を続けてきたCoral Capitalが開く日本最大のスタートアップキャリアイベント。この規模でやる意味を、Talent Managerの津田遼氏は「ムーブメント」という言葉であらわす。

その真意と起業家視点でみた本イベントの価値を問うべく、Coral Capital CEOのJames Riney氏と津田氏、投資先で登壇者でもある

株式会社Holmes代表の笹原健太氏に話を伺った。

  • TEXT BY YU SHIMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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VCだから提供できる「スタートアップの目利き」

Coral Capitalは、2年弱にわたりVCでありながらキャリア支援(スタートアップにとっての人材採用支援)を続けてきた。以前、FastGrowでも取材したように、同社はグリーで人事・採用を担っていた津田氏を招き入れ、支援を開始。大小様々なイベントや情報発信を通し、求職者と投資先のスタートアップの接続に尽力している。

彼らはVCでありながら、なぜ「人材採用」に力を入れるのか。その理由のひとつをJames氏は“強み”との相性を挙げた。

James長年スタートアップコミュニティで活動を続けてきたことで、横のつながりや深い関係性を築き、その中で一定の「発信力」を獲得できました。これは投資先にとっては大きな力になると感じたんです。

たとえば、一定規模に成長したスタートアップであれば単独でのイベントやミートアップでも人が集まるかもしれませんが、ステージが浅いとそうもいかない場合もある。そこに我々が力を貸すことで人を集められるようになる。実際に結果も出て、より力を入れ始めました。

Coral Capital Founding Partner & CEOのJames Riney氏

この責務を担うべくジョインした津田氏は、VCのビジネスモデルとしても、採用を支援するのは合理的だと考える。

津田我々のビジネスは、よいスタートアップを見つけて投資し、彼らが成功して利益が出てはじめて成功と言えるものです。人材紹介会社の場合は「入社による成果報酬」ですが、我々は「投資先が成功して成果報酬が出る」ビジネスモデルです。ビジネスの構造上としても、スタートアップと同じ目標に向け採用に力を入れられます。

James我々はスタートアップの「目利き」も仕事の一部です。月に数百件の投資相談を受け、命懸けで素晴らしいスタートアップを探し出し、何度も交渉を重ねて投資している。“成功する”と信じている証拠が必要だからです。ですから、Coral Capitalの投資先であるという時点で、「このスタートアップはイケてるよ」という裏付けになっています。

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スタートアップの採用に必要なのは、“流れ”だった

では、投資される側のスタートアップは、現在の採用市場やVCによる支援をどのように見ているのか。Holmesの代表取締役である笹原氏は、適切なマッチングにはコストが欠かせないと捉える。

笹原Holmesは2017年に創業し、採用を本格化させたのは2019年からなので、大きなトレンドの変化はお話しできません。ただ、ここ1年の経験では、しっかりとお金をかければ人は採れると感じています。逆に言うと、お金をかけずに採用するのは難しいのかもしれません。

笹原氏の言葉を受け、前職時代から採用市場に接してきた津田氏は、スタートアップにおけるキャリアの可視化も関係しているのではないかと続ける。

Coral Capital Talent Manager 津田 遼氏

津田スタートアップの数が増え、メルカリのような成功事例も増えました。さらに、各社のオウンドメディアによる自社に関する発信や、様々なマスメディアを通じた発信も増えることで、スタートアップでのキャリアが大きく可視化され、そこに興味を持つ人の母数と幅が広がってきていると感じています。

一方で、候補者の裾野が広がっているとはいえ、スタートアップへ飛び込むには「先例の少なさ」が足かせになる場面も見受けられると指摘する。

Holmes 代表取締役 笹原 健太氏

笹原裾野は広がっているものの、ファーストペンギンにはなりたくない人が多い。マジョリティとまではいかなくても、ある程度の“流れ”ができたあとに、ようやく動き出す人が多い。スタートアップへの関心は持っていても、実際に飛び込む、入社するといったことが増えるまではもうすこし時間がかかると思っています。

一昔前は、コンサルや投資銀行から起業したり、スタートアップへ転職したりする人が増えていきましたが、ここからは日本の大企業やレガシー産業にもその“流れ”が生まれていかなければなりません。

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作りたいのは、採用機会ではなく「ムーブメント」

流れ──この言葉こそ『Startup Aquarium』を企画する上でのキーワードだった。流れを生む上で、前例のない巨大イベントの開催が起爆剤になると津田氏は考えた。

津田『Startup Aquarium』は、スタートアップへのキャリアチェンジの「ムーブメント」をつくりたいという意志のもと企画したイベントです。これまでも数十人、数百人規模のイベントは開催してきましたが、700名規模は初めて。虎ノ門ヒルズフォーラムの5階を貸し切り、色々な形で発信を続けているのも、ムーブメント作りのためです。

正直、会場費やチケット料金を踏まえると、完全に大幅な赤字です(笑)。それでも規模を大きくし、登壇者もパネルの中身も最高峰にしたのは、参加される方に「どんなイベントに行ったり、どんな記事を読んだりするよりも、ここに行けばスタートアップキャリアについて一番理解を深められる」と感じてもらい、一歩を踏み出してもらうためです。

Startup Aquariumをきっかけに、様々な領域にいる多くの優秀な方がスタートアップへのキャリアへの理解を深め、真剣に考えてくれるようになれば、中長期的に日本のスタートアップエコシステムに大きな良いインパクトを与えられると確信しています。

津田氏の“確信”の通り、Startup Aquariumはスタートアップキャリアへの理解をしっかり深められる設計が施されている。最たる例が会場構成だ。大きく三つの目的に沿って会場を整備した。

一つ目はスタートアップの最前線を知るエリア。企画としては、「メインパネル」と「Elevator Pitch」が該当する。前者は働き方やキャリア、市場の未来が語られ、後者は選抜された起業家のピッチを体感できる。いずれもスタートアップとVCの第一線で活躍する面々が登壇する。

二つ目は自身が関わる、もしくは今後関わりたい職種の知見を深めるエリア。「職種別パネル」と「職種別交流ラウンジ」が用意されている。前者では、スタートアップでキャリアを積むトッププレイヤーが専門領域ごとに登壇。バックグラウンドを踏まえたキャリア観を語る。後者では、参加企業の社員が参加し、現場の声を交えながら近い距離で深掘りできる場だ。

三つ目は、より検討を深める「個別スピード面談」。参加企業の社員と1対1で10分間の面談をセット。応募フォームを記載したり、オフィスへ足を運んだりする手間なく、その場で各企業とつながれる。

津田このイベントは、僕自身がスタートアップのキャリアを考えるにあたって知りたかったことを、そのまま形にしたものです。

メインパネル、Elevator Pitchで、様々な規模・領域のスタートアップの生の声や、そしてエコシステム全体を見ているベンチャーキャピタルの話を聞いて俯瞰的な視座を得た上で、自分が興味ある職種のパネルを聞いて具体的な業務内容や醍醐味を知り、職種別交流ラウンジや個別面談で実際に対話することでさらに理解を深めていく。

スタートアップでのキャリアを考え始めたばかりの方から、転職活動中の方まで、エンジニアから、セールス、人事まで、参加者の方のそれぞれのニーズに合わせて、イベントを活用しきれるように設計しています。

スタートアップにとってもイベントへ参加する価値は大きい。適切な検討フェーズの候補者に適切な情報を提供でき、多くの人と対話する機会はそう得られるものではない。

笹原そもそも、登壇させてもらい、スポットライトに当たる機会自体が貴重です。加えて、この規模のイベントを自分たちで開催しようとすれば、集客だって容易ではありません。参加者の質も大切ですが、母集団を形成できる多くの人との出会いは採用には欠かせませんから。

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ムーブメントが“村”を拡張し、日本に挑戦する文化を生み出す

このムーブメントを通し、津田氏が見据えるのは“村”にも喩えられるスタートアップコミュニティの拡張だ。

津田日々素晴らしいスタートアップがたくさん生まれていますが、どのスタートアップにも共通するのが圧倒的な人手不足。もっと多くの優秀な人がスタートアップにジョインすることで、日本のスタートアップエコシステムはもっと力強くなれ、日本経済・日本社会にもっと大きなインパクトを与えることができるようになります。

同時に、働く個人の目線に立っても、スタートアップ界隈が「村」であることは大きな機会損失になっています。

僕自身、元は村の民ではありませんでしたが、振り返ると周りにいた大手やメガベンチャーの方の中には、本当はスタートアップに適性としてはマッチしているものの、そこでの機会を十分に知らず、出会いもないため、そういった選択肢を取れていない方が多くいたなと感じています。

有限の人生、自分の強みと興味を最も開花させられる仕事ができた方が、絶対に楽しい。日本のスタートアップエコシステム、日本経済、そして優秀な個人のキャリアのためにも、我々はこのスタートアップ村を、もっと大きくしていく必要があると考えています。

北米で育ち、日本で起業したJames氏も、日本におけるスタートアップのキャリアを、より身近なものにしたいと想いを語る。

James学生時代の友人は、結構な割合がスタートアップに挑戦しています。起業する人もいますし、急成長するスタートアップにジョインする人もいる。環境要因もあると思いますが、そこまで珍しい話ではありません。ですが、日本に来て「起業する」と当時の同僚に話すと、とても心配されました。

ここには社会的な背景の違いがあると感じています。こうしたムーブメントを通し、「スタートアップでチャレンジする」というマインドを、もっと日本にも根付かせられるといいなと思います。

そのため私としては、今回のイベントは「フジロック」(FUJI ROCK FESTIVAL)のような「誰でも参加できるスタートアップのお祭り」をイメージしています。

取材の最後、津田氏にどのような人がイベントに合うかと問うと、「『スタートアップでのキャリアに興味があるけど、でも(活躍できるか不安 / カルチャーフィットするところが見つからない / 今後成長していくか不安……)』と、「でも」がつく人がピッタリ」だと教えてくれた。

当日は12時〜19時の7時間開催。この時間を費やし、自らネットでリサーチしたり会社を回ったりするよりも、圧倒的に濃密な時間をStartup Aquariumで体験できるはずだ。

こちらの記事は2020年01月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

島田 悠

1986年生まれ。京都大学大学院工学研究科博士後期課程単位取得中退。人材系広告代理店に入社し、チェーン展開する企業のアルバイト・正社員採用に携わる。その後、フリーライターとして独立。主に人材系記事や科学解説などのライティングを行う。

写真

藤田 慎一郎

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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