AI時代、私たちはどんな仕事に情熱を注ぐのか──ラクスル・kubell最年少執行役員が語り合う、オーケストレーターとしてのBizDevキャリア

Sponsored
インタビュイー
桐谷 豪

大学在学中より創業フェーズのスタートアップに参画し、ジョイントベンチャー設立や複数事業の立ち上げに従事し、ユニコーン企業へ。その後、AI系ベンチャーである株式会社ABEJAへ入社し、データ関連サービスの事業責任者を担う。2020年10月に株式会社kubell(当時 Chatwork株式会社)に入社し、BPaaSのサービス立ち上げ責任者を務めたのち、2024年1月より執行役員に就任。インキュベーション領域を管掌し、新規事業の推進とR&Dを担当。2025年7月に執行役員CSOに就任、2026年1月より現職。

木下 治紀

新卒第1号として、2016年にラクスルに入社。入社後は印刷事業の事業開発、DM事業責任者、新規事業の立ち上げを経て、2021年より株式会社ダンボールワン(当時)へ出向しPMIを担当。経営統合を完遂し、取締役COOとして事業統括。現在は、印刷・集客支援事業 及び エンタープライズ事業を管掌。

創業以来増収を続け、300万以上のユーザーIDを抱えるラクスル株式会社(以下、ラクスル)。祖業の印刷領域の調達プラットフォーム事業からさまざまな多事業展開を進め、直近では中小企業向け金融プラットフォーム『ラクスルバンク』を立ち上げるなど、周辺事業領域を急拡大させている。さらに2026年5月にはMBOによる株式の非公開化が完了、大胆な投資により、大きな事業変革を進めていく構えだ。

一方の株式会社kubell(以下、kubell)も、新規事業のBPaaSがARR20億円を超え(2026年3月末時点)、ビジネスチャット『Chatwork』との両輪で、社会変革×急成長を本格化させるフェーズに入った。その裏側での生成AIの活用は業界でもトップレベルの先進性を誇り、劇的な進化を遂げようとしている。

そんな両社の中核を担う、執行役員の木下氏と桐谷氏。確固たる実績を持つ完成された経営人材に映るかもしれない。しかし、AIという未知の大波を前にして、彼らもまた絶対的な正解など持ってはおらず、試行錯誤の毎日だという。本稿では、彼らの等身大の葛藤と、綺麗ごとなど一切ない実体験からの思想を紐解いていく。

20代のあなたは今、AIツールを仕事に取り入れ、どんなタスクも滞りなく進められる。そうして成果を出せるようになったからこそ、心のどこかで「もっと本気で熱中できる仕事がしたい」「人間が出せる真価、インパクトのある成果を残したい」と、キャリアに対しても焦燥感や虚無感を感じてはいないだろうか。

そんな状況を打破するヒントとして、二人が「自分が知っている安全圏」を飛び出し、変化と成長機会の複利を手にしてきた軌跡はから、これからの時代の「キャリアの選択」の参考に役立つだろう。

このAI時代にどう生きるべきか。ぜひ本記事を新たなきっかけとして、捉えなおしてみてほしい。

SECTION
/

AIをどれだけ使いこなしても、最後は「スタンス」で差がつく

木下意外と、この数百人規模の企業で取締役や執行役員になっている方、僕らくらいの世代ではまだあまり多くないですよね。

桐谷そうですね。同世代だと起業家は多いですが、あまり居ませんね。

1990年生まれ
木下 治紀
2016年〜
ラクスル(株)
2023年9月
執行役員に就任
 
 
 
 
 
※ラクスル(株)は連結での従業員数791人
(25年7月末:25年10月提出 有報より)
1993年生まれ
桐谷 豪
2015〜2019年
スタートアップ
2019〜2020年
(株)ABEJA
2020年〜
(株)kubell
(旧Chatwork(株))
2024年1月
執行役員に就任
※(株)kubellは連結での従業員数735人
(26年3月末:26年12月期1Q決算資料より)

従業員数700名を超える規模へと成長した両社のようなスタートアップにおいて、30歳前後で執行役員を務める存在はまだそう多くはない。木下氏は新卒入社からラクスル一筋でBizDevとして事業成長を牽引し、桐谷氏は複数社を渡り歩きながら積み重ねた多様な経験を基にCSOとして経営戦略を統括する。

異なるキャリアパスから執行役員というポジションに至った二人。実は今、あらゆる仕事の現場にAIが入り込む時代を前にして、キャリアや経営戦略に対し、共通の脅威を抱いている。

木下まず、これまで専門的な知識やスキルを武器にしてきた仕事のあり方そのものが、AIの登場と発達により、大きく変わっていく。この流れは、思っていたよりも速いスピードで、いろいろな領域に進んでいきそうな感覚を持っています。

桐谷私も社内でそういう話をよくしています。「開発職と非開発職の境界線が曖昧になっていくこと」など、毎日のように大きな変化が恐るべきスピードで起こっています。私たちも含め、一人ひとりが今後のキャリアを考えなおさなければならないと思います。

一例を挙げるなら、AIが労働力を代替し始めているため、「HR(Human Resources)」という概念自体が変わっています。業務領域の考え方や、そこで必要な能力は大きく変わる。今まで通りのスキルと経験だけでは、新たな時代の業務が成り立たなくなると考えています。

AIを含めたテクノロジーの活用法を具体的に理解できていなければ、これからの時代は採用もできないし、人材の適切な配置もできなくなっていく。それはつまり、事業運営上でも非常に大きな影響を与える話ですよね。

木下そうですね。進化した最先端のAIには、ビジネスの根本的なコスト構造そのものを変えてしまうインパクトがある。どう考えても、AIが人よりも大きな価値を生む場面は多くなる。

ラクスルも、これまでは組織人数を一定増やしながら事業を拡大していくモデルがメインでした。ですが、これからは単にAIで業務を置き換えていくという発想にとどまらず、業務プロセスや組織のあり方そのものを根本から見直し、これまでの「当たり前」を壊して新たな構造にをつくり替えていかなければならないと感じています。

私たちの事業領域にも、最初からAI前提の組織構造で挑んでくる少人数のAIネイティブ企業が続々と登場してくるはずです。そうした変化に先んじて自らのビジネスモデルやコスト構造を再定義できなければ、新たな投資のスピードや競争力全般において、後れを取ってしまう。そんな切実な危機感がありますね。

桐谷よく言われる議論ですが、AI時代には特定の機能に固執せず、複数のファンクションを横断して事業全体を設計できる「オーケストレーター」的な力が必須になるというのは、本当にその通りだなと思います。

たとえば、マーケターがプロダクトマネジメントを学べば、今なら生成AIを使ってエンジニアリングの対応まで、一部は進めることができるようにもなりやすい。

AIというのは特定の知識ではなく、あらゆる能力を拡張するための「メタスキル(一つ上のレイヤーの能力)」なんですよね。AIがあるからこそ、未知の領域の学習・経験が一気に進むという状況が生まれていて、個人差が広がりやすくなっているという指摘もある。

ロジカルシンキングやコミュニケーションができないと仕事をうまく進められないというのと同じように、AIもまた、全ての仕事の前提となる力として捉えるべきだと思っています。

「専門性・価値」の発揮法の変化
【機能の深耕】
特定領域のスペシャリスト
以前からの仕事の仕方
身に着けた専門性を基に、担った経験のある業務を何度も担い、確実かつ高品質な成果を残し続ける
AI時代に求められる変化
より高度でスピーディーなアクション・判断、より深いドメイン知識の発揮など
【領域の横断】
オーケストレーター (BizDev)
以前からの仕事の仕方
事業課題を特定し、未経験領域でもキャッチアップして成果に直結するアクションをし続ける責任を網羅的に負う
AI時代に求められる変化
メタスキルとしてAIをフル活用し、複数の領域で同時多発的に意思決定・アクションを起こし、よりスピーディーに事業全体を構築・設計・運営していく
時代が変わっても不変の価値基盤
「結果への執着」 「オーナーシップ」 「意思決定力」

複数の専門領域を横断し、事業全体の「構造」を設計しながら、非連続成長を実現し続ける力。 実のところ、ラクスルはAIが登場するずっと以前から、非連続成長のために越境するのを当たり前に進めるロールとして「BizDev」を定義し、事業戦略・組織戦略の中核に据えてきた。

木下氏はまさにそのBizDevの一人としての経験から、今の状況を俯瞰的に分析してもいる。

木下こういった外部環境の中、あたり前にAIと共存しながら事業全体の構造から変革を起こせる人材が、今後さらに必要になってくると思います。

一方で、今だけの話ではなく、過去の市場変革時でも同じことが言えるのかなと。

例えばインターネット黎明期や、SaaS市場の急成長の時も同様で、「ビジネスの結果を出すためのアプローチ方法や環境(OS)が変わった」だけとも言える。

ツールをどう使いこなすかの、使い手側の意思決定力や、結果に対して向き合うスタンスなど、ビジネスの真価はほとんど変わらないものだと思っています。

桐谷おっしゃる通りで、ツールを使いこなす以前に、「結果に対して執着を持てるか」や「利益を生むためのオーナーシップを持ち切れるか」のほうが常に重要だと思います。「結果を出すために必要なことは、わからないことも含めて全部やる」というスタンスの中に、AIの活用も位置付けられるはず。

AIというスマートな道具を手にしたからといって、ビジネスの複雑な前提条件や現場の泥臭い課題が消えるわけではない。むしろ、結果から逃げない覚悟こそが、ツールを真の成果へと結びつける。

もちろん、「スキルや経験」が土台であることは今も変わらない。そのうえで、そのAIというツールをどう使いこなすかを決める「意思決定力」や、結果に対する「スタンス・オーナーシップ」の比重は、これまで以上に大きくなっていると言えるのかもしれない。

捉え方と活用の視点
目的・スタンスに応じた「AI活用の2つのアプローチ」
タスクの効率化
基盤アプローチ
AIの捉え方
日常業務や規定タスクをスピーディーに処理する「実行ツール」
活用シーン
既存の業務範囲における作業時間の削減、精度向上、コスト構造の最適化
得られる成果:確実な生産性向上
能力拡張・領域創出
事業拡張アプローチ
AIの捉え方
未知の領域の学習・実行を爆速化させる「メタスキル(拡張器)」
活用シーン
専門外の課題解決、複数ファンクションの統合、新事業立ち上げ
得られる成果:新たな事業価値の創出

木下強いオーナーシップを持ち続けられる人なら、AIについても勝手にキャッチアップして、結果を出すために使いこなしていくはずです。逆に、スタンスが不十分で役割を背負い切れない人は、どれだけAIのスキルがあっても、結果を出し続けることはできないと思うんです。

桐谷同感です。我々も採用基準でこの観点についてさらに注力するようになりました。ようやくラクスルさんに追い付いてきた感覚です!

木下いやいや、変な謙遜はやめてください(笑)。kubellさんもずっと見てましたよね。

SECTION
/

変化の激しい環境であらゆる仕事をやり抜く経験が、より一層重要に

桐谷ところで、私たち二人が、相対的にはそれなりに結果を出して執行役員になっているのだとして、なぜそうなれたのか、振り返るといかがですか?

木下やっぱり印象に残っているのは、Day1から価値を出すことを求められ続けていたことですね。

新卒入社初日の夕方に「今日はどんな価値を出しましたか?」と聞かれたんですよ。その時の私は「いや、研修を受けてただけなので、価値を出すなんて……」という感覚で(笑)。

ですがそうして始まったキャリアだったことが、「毎日、価値・成果を出し続けるんだ」というスタンスをかたちづくった部分はあると、私個人の振り返りとしてはあります。

でもこれはあくまで極端な例であり、今のラクスルでは、新卒入社初日にこんな聞き方はしませんよ(笑)。

桐谷おもしろいですね、さすがです。私なりに解釈すると、「価値・成果を出すために毎日働く」ということを大事にしていたということであり、そのためにどんな仕事をするのかというところは、選り好みなんてしていなかったということですよね?

木下おっしゃる通りですね。

桐谷私の知人の、スタートアップで20代を泥臭くやり切った経験を持つ人たちは、どんどん出世して、経営層に近づいていっています。その共通点はやはり、「仕事を一切選ばなかった」ということだと感じるんです。

落ちている仕事を、とにかく全部拾いに行く。この姿勢が、個人の成長をつくっていく。

もし、ほんの数年先のキャリアパスを気にして、「この業務は、自分の強みにつながるのだろうか?」なんて考えて、選り好みしてしまう20代がいたとしたら、非常にもったいないことだと思います。

効率を重視し、自分に役立ちそうな仕事を考えて選択していく姿勢は、賢い立ち回りに見えるかもしれない。しかし、そのスタンスによって、結果的にキャリアの限界が規定されてしまう可能性がある。複数社を渡り歩き、さまざまな役割・業務のあり方を経験してきた桐谷氏は、ここに強い想いを持つ。

桐谷20代後半になると、周りの友人・知人に、専門性を身につけて職人のようになっていくキャリア戦略をとる様子が目立ち始めました。

その中で役割を拡張したり、マネジメントレイヤーに進んだり……。当然、年収も上がっていきます。そんな姿を見て、強烈な焦りを感じた時期もありました。

ですが、自分がそこを目指したいわけではないのも事実でした。いろいろと煩悶しながら私が言語化したのは、「何でもできるスーパーゼネラリストこそが、真のスペシャリストである」ということ。組織マネジメントや戦略について学び、経験し、その道で経営レイヤーに上がっていこうという意思を固めたんです。

過去に所属していたスタートアップ企業やABEJAは、成長が著しい市場に身を置く会社だったこともあり、常に新しい挑戦にあふれていました。その中で、自分の担当や役割に縛られず、こぼれてくるボールをとにかく拾って拾って拾いまくる……するとだんだん、一つひとつの点と点がつながっていって線になり、面になっていくように、マネジメントや戦略といった仕事を担うための経験としてまとまっていったんです。

木下桐谷さんらしいエピソードですね。ラクスル一筋の私も、似た部分があるかもしれません。私も20代の頃、「このままのキャリアでいけばある程度のポジションと年収は得られるかもしれない」と感じ、仕事に対して少し停滞感を感じた時期がありました。

でも、キャリアのためにこの会社に残り続けているわけではなかったし、「何の仕事をやるか」というジョブの中身へのこだわりもなかった。このことがむしろ、良い方向に影響しました。

シンプルに、「成長を続けるこの事業の中で、役割は変えながら、目の前にある事業の課題を何とかしていく中で、視界が開けていくかもしれない」と捉えなおすことができたんです。結果論かもしれませんが、これが本当に良かった。

新卒入社直後は、マーケティングやプロダクト、オペレーションなど各主要部署の責任者、そしてその後は統括的なポジションとして事業責任者や子会社COOの肩書で、何でもやってきたようなキャリアです。人事・採用や経理なども含め、非連続成長に必要なことであれば、タイミングに合わせて柔軟に取り組んできました。

「何でもやる」が最強の専門性になる
── ラクスル木下氏・kubell桐谷氏の役割拡張の軌跡 ──
木下氏(ラクスル)
1社の中でカオスに飛び込み
役割を無限拡張
2016年 [新卒・CS担当]
泥臭い裏方オペレーション
背負った重責:
問い合わせ・見積り・CM手配
2017〜2018年 [カテゴリMgr]
越境する「ミニCEO」
背負った重責:
部署間のグレーゾーンに全介入
★ 経営幹部のReady状態
2019〜2020年 [事業部長]
実質的な経営者
背負った重責:
複数カテゴリ統括、P/L責任
2021〜2023年 [子会社COO]
カオスなPMIの陣頭指揮
背負った重責:
組織崩壊の立て直し、人事制度
2023年8月〜 [執行役員]
屋台骨である全事業を統括
桐谷氏(kubell)
激動の市場で違和感から逃げず
戦略を牽引
〜2020年 [ABEJA等]
違和感と向き合う原体験
背負った重責:
JV立ち上げ、泥臭いBizDev
2020年〜 [新規事業Mgr]
事業立ち上げでの顧客憑依
背負った重責:
SaaSの限界を超える成長構造の構築
★ 経営幹部のReady状態
2022〜2023年 [実質戦略トップ]
構造的障壁の突破
背負った重責:
BPaaSの本格拡大、全社のリソース配分
2024年〜 [執行役員 / 現CSO]
全社変革を牽引

桐谷とはいえ、「自分の役割外の仕事も拾いに行こう」と言うと、「コスパ・タイパが悪い」と警戒されてしまうこともあるそうです(笑)。気持ちはわかります。ですが、敢えてそれは否定したい。

仕事を選り好みしないことは、会社に尽くすためというより、「自分の想像の範囲内で賢くまとまってしまう自己」を破壊する手っ取り早い手段になるんです。

木下わかります。自分の得意なことや予測できる範囲のことだけをやっていれば、失敗はしないし効率的です。でも、それだとあっという間に成長の上限を迎えてしまい、「虚無感」を覚えることになる。私も思い当たる節があります(笑)。

だからこそ、あえて自分の専門外に飛び込む。小手先のハック手法などで最適化されかけている自分の枠を強制的に壊すために、カオスな環境を利用する感覚は、非常に大事なことだと思います。

目の前の事業を伸ばすために、自らの役割を限定せず、あらゆるボールを拾い続ける。その過程で必然的に他部署の領域に踏み込み、点と点が繋がり、事業全体を俯瞰する視座が養われていく。

木下氏・桐谷氏は、所属する企業・組織のかたちは大きく異なるものの、キャリアの中での立ち振る舞い方やスタンスには、似た部分が多くあったようだ。

SECTION
/

「肩書が変わったから、今日からやることを変えよう」では遅い理由

こうして「何でもやるキャリア」で経営の立場に至ったこの二人は今、若手の育成やアサインメントを進める側の立場となっている。

木下マネジメント側の立場になると、より一層、スタンスの重要性がわかってきますよね。

特に、具体的なアサインを検討する段階になると、「この人のスキルや経験は足りているだろうか?」といった能力面よりも、「この人は逃げずにしつこく向き合っていけるだろうか?」というスタンス面ばかりが気になります。

桐谷わかります。ラクスルさんでは「Readyな状態にある」みたいな言い方をされていますよね。我々も以前からそういう考え方で育成やアサインをしてきたのですが、とても良い言語化だと感じて、最近、改めて使わせてもらっています(笑)。

木下言語化するくらい、そういうスタンス面を会社としても大事にしてきました。

いくらスキルや経験が十分であっても、オーナーシップを持ち切れないように見えたら、重要な役割は任せられません。その準備が精神的・心理的に万全な状態に見えるほどにオーナーシップを発揮している人を「Readyな人材」のように表現しているんです。

抜擢される人の共通点は、STEP2の挑戦
STEP 1
足元を固める
自分の今任されている仕事を
当事者意識を持ち100%やり切る。
STEP 2:Ready(準備完了)
枠からはみ出る
自分の担当外の課題も自ら拾い、
周囲の領域にも越境して価値を出す。
STEP 3
肩書が後から追いつく
すでに仕事を回している実績が認められ、
自然と役職・肩書がつく。

桐谷私自身も、kubellでCSO(最高戦略責任者)という肩書がついたのは2025年のことですが、実質的にはその管掌領域の仕事を、さらにその2年ほど前から自ら手を動かして起案したり、戦略議論に入ったりしていました。自分で言うのも気恥ずかしいのですが、間違いなくReadyな状態ではあったと思います。

「肩書が変わったから、今日からやることを変えよう」ということって、実はあまり多くないんじゃないかと思うんです。すでに取り組んでいる状態のところに、後から肩書や役職がついてくる、そういうキャリアが、スタートアップにおいては一つの理想だと言えるのではないでしょうか。

木下本当にそうですね。「立場が人を育てる」という言葉もありますが、それは、受動的なアサインからできるわけじゃない。本当に成長し続ける人は、何か新しい肩書や役職がつく前から、すでにその範囲の仕事をやっていることがほとんどだと思います。

事業にコミットしつつ、上昇志向みたいなものを持っているのなら、自然と自分の領域からはみ出ていく。周囲も普通にそれを認めている。そういうものなのだと改めて感じますね。

自分の担当範囲を全うした上で、さらに事業・組織のために枠をはみ出す。そんな仕事を自然と進めていく中で、抜擢や昇進がある。その積み重ねが、強い事業/企業をつくっていく。スタートアップが目指すべきはまさにこの仕組みだろう。

桐谷そういうスタンスの発露として、「現状に対してポジティブに文句を言う」人も、僕はけっこう好きなんです。

「じゃあ、ぜひやってみてください!よろしく!」と、オーナーシップを渡して、やってもらう。だいたい、大失敗するか大成功するか、どちらかになります。いずれにせよ、その個人にとっても組織にとっても、良い経験になります。その次につながります。

ただし、自分の役割範囲をちゃんとやらずに、あれこれとはみ出すようなことばかり言う人は違います。そういう人にオーナーシップは渡せませんよね。

ありがたいことに、私が普段接するメンバーはみな、組織で自分の意見を通すための立ち回りをよく理解してくれています。自分の足元をおろそかにしていたら上には登れないとわかっている。その上で、文句を言ってくれる(笑)。そういう、ちょっとヤンチャな人たちが、成果を出して、抜擢されていくものなのだと思います。

SECTION
/

変化の少ない産業の中で仕事をしていては、現状維持のキャリアになる

ここまでは、自分のいる環境でいかに真摯かつ実直に取り組むか──というスタンス面の話が多かった。だが意外にも、この二人は「身を置く環境も、結局は重要だ」とも語る。

どれほど泥臭くボールを拾い、自らの役割をはみ出す強い覚悟を持っていたとしても、その熱量を投下する場所を間違えれば、努力が実を結ばない可能性もあると強調する。

桐谷個人のスタンスやポテンシャルは大前提としてもちろん重要です。その上で、それらをきちんと活かすために、「身を置く環境」として良い選択ができるかどうかも非常に重要だと、私は強く思っています。

極論を言えば、「一番美味しい経験を積むことができるタイミングの事業領域(≒市場)に入り込めている」ということだと思うんです。

私自身、とにかく社会のマクロトレンドとして、変化点が大きい場所を選び、重心を移すキャリアだったわけです。こう言うと、ジョブホッパーみたいでネガティブに見る人もいるかもしれませんが、非常に良い経験を積むことができたと感じています。

具体的に紹介すると、ファーストキャリアは2010年代後半で、電力自由化という非常に大きな法令改正で新たな市場が生まれたタイミング。ABEJAに入社した2019年は、今の生成AIの一つ前のAIトレンドの時期と合致していました。

そして今のkubellは、生成AIという過去最大級のメガトレンドの中心で、事業を営んでいる企業なんです。LLMそのものを開発していたり、AIの価値をはっきり実感できるサービスを提供していたりするわけではありません。ですが、ビジネスチャット『Chatwork』を基盤に、BPaaSをはじめとした複数の新規事業の掛け合わせにより、日本全国の中小企業が「あれ、気が付いたら、AIのおかげで無駄な仕事がなくなり、生産性の高い状態になってた。裏でkubellがいろいろとAIで代替してくれていたんだ」という世界線をつくることができる、唯一の立ち位置を取れているという自負があります(*)。

*……この戦略の詳細はCOO福田氏との対談で詳述しているので参照してほしい

変化点を見極め、一番“美味しい”市場に入り込むというキャリア戦略も重要だと、桐谷氏ははっきりと語る。だが、この論点では、木下氏は転職をしていないからあまり関係がない話なのではないか?と感じる読者もいるかもしれない。しかしそんなこともないと、木下氏自身が語る。

木下ラクスルの「印刷」や「調達」といった事業領域は、デジタル化やAIといったトレンドによって、非常に大きな変化が起き続けています。そうした変化を、業界を牽引する形で起こしながら成長してきたのがラクスルです。

なので私自身、担う役割は常に変わっています。桐谷さんと同じく、変化点の大きな環境に身を置き続けてきたと言えるわけです。

そんなキャリアを振り返ってみると、自分の事業が成長し続けていることも、新たな挑戦を続けるために大事な要素でしたね。

桐谷そうですね。事業あるいは市場が成長/変化していることは大事な要素だと思います。誤解を恐れずに言うと、全てうまくいったとは言いにくい。ですが、当時の環境の中での事業づくりにコミットできたことは、これ以上ないほどに素晴らしい経験になっています。

そう、選んだスタートアップの事業が、必ずしも成功するとは限らない。そもそもスタートアップとは多産多死型の事業モデルを取ることがほとんどであり、自分一人の力ではどうにもならない部分が当然出てくるだろう。

異なるキャリアながら、実は共通する「4つのスタンス」
木下氏の道
一社を極める
(ラクスル一筋)
事業成長と共に自分の役割を
自ら変え続ける歩み。
桐谷氏の道
環境を変える
(変化へのダイブ)
変化の大きい市場の波を
次々と乗りこなす歩み。
▼ 共通のスタンスに収束 ▼
1. あらゆる業務を拾う
仕事を選り好みせず、誰も手をつけていない課題に進んで挑む。
2. Ready状態
肩書がつく前に、すでに次のレイヤーの動きを体現している。
3. オーナーシップ
結果が出るまで絶対に逃げない執着心。
4. 変化率MAX
変化の激しい「美味しい市場」に身を置く。

桐谷もし今、私が学生に戻ったとしても、きっと同じようなキャリアを選ぶと思います。いつの時代であっても、キャリアの初期から「変化量の大きな場所」に飛び込むことが一番大事だという確信があるからです。スタートアップでも大企業でも、事業がうまくいくかどうかなんて事前には誰にもわかりません。そんな予想に頭を使うよりは、市場・領域として変化が大きいことを確かめる方がはるかに重要です。

木下私は正直なところ、全く同じ道を選ぶと即答はしにくいですね(笑)。ラクスルだって当時は、たくさんあるスタートアップのうちの1社でしかありませんでしたから、ここまでの道半ばで倒れる可能性も当然あったわけで、今の成長フェーズに至れたのはラッキーだった側面も少なからずあります。結果論で自分の選択を100%正当化するのは少し違うかなと。

ただ、桐谷さんが言う通り「事前の成功予測が不可能(時の運も絡む)」だからこそ、結局のところ「いかに変化率の高い環境に身を置くか」で選ぶしかない、というのには、心から同意します。市場の変化さえ見極められれば、仮にその事業自体が成功しなくても、そこで得た経験や視座はその後のキャリアに絶対的なプラスになりますから。

桐谷そして今で言えば、変化の大きな領域になるのは、間違いなくAIネイティブな環境なんじゃないでしょうか?単に社内の業務効率化のツールとしてAIを使うのではなく、事業モデルの根幹や日々の業務プロセスそのものにAIが組み込まれているような環境ですね。

そんな環境に身を置いて、AIによって生み出されるさまざまな価値を、自社あるいは顧客のアウトカム(利益や売上などの明確な成果)につなげていく。その試行錯誤を繰り返していくことで、非常に大きな成長ができると思います。

木下そうですね。どれだけ優秀な人でも、変化が少なかったり、アウトカムの創出につながらなかったりする環境で仕事をしていては、現状維持のキャリアになってしまうのではないでしょうか。

キャリアに良い影響を与える挑戦機会は、変化の大きな市場環境に身をおいてこそ、生まれ、手にできるものだと思いますね。

その上でもう一つ、「会社への想い」というのも、非常に重要なことだと、改めて感じています。

意外に思う読者もいるかもしれない、この「会社への想い」。どういうことだろうか。

それは、生まれ始めた「AI時代、もはや会社に所属する必要性は、弱まっているのでは?」という風潮に対する、この二人からの強烈な危機意識にもつながっている。

SECTION
/

なぜ1人で稼げる時代に、あえて「会社」で熱狂すべきなのか

木下僕のキャリアの根本には、会社が目指すビジョンへの強い共感がありました。

ラクスルのビジョンは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」。数十年以上の時間軸で変わらず追い続ける“北極星”のようなものです。これに対する強い共感があるからこそ、キャリア面では短い時間軸で悩んだり迷ったりしたとしても、前に進み続けていける。

だから、会社に所属して、挑戦を続けているのだと思います。

桐谷私も、会社のビジョンやミッションへの共感が、より大きな意味を持つようになっていると感じています。

桐谷私は複数社を経験してきたわけですが、今のkubellでCSOという立場になれたのは、「社外から、新たな知見をもってやって来たから」ではありません。前職までの経験はもちろん活かしながら、kubellという変化の激しいこの環境の中で泥臭く事業に向き合い続けました。

入社してから3年3カ月で執行役員になったので、もしかしたら「たった3年で?」と思われるかもしれませんが、市場環境の変化が激しいベンチャーですから、非常に大きな成長を感じた3年間でした。

1社で腰を据え、集中して取り組む中で、個人の成長という観点でも大きな「複利」を得られるのだと実感しています。

そうして今、改めて思うのは、極論のようになってしまいますが、1人で働いている感覚になってしまうと、だんだん寂しくもなっていくのではないか、ということです(笑)。

敢えて、会社に所属する意味というものを問い直してみるといいかもしれません。

多くの場合、他者との繋がりには重要な意味があるのだと思うんです。会社という組織で、同じ目標に向かって努力し続ける仲間がいる状態は、本能的にも求めているものの一つなのではないかと感じます。

木下会社に所属せず、自分の周囲にいるほんの数人との関係性の中で幸せに生きていくという人ももちろんいると思います。そういう人を否定するつもりはありません。

ですが、せっかくの人生で、世の中に何かしらのインパクトを残したいという想いを持つ人も少なくないはず。そのためには、やはりある程度の組織規模とアセットを有する環境でやる必要がある。そのために、会社という枠組みがあり、人や投資が集まる。その中で、大きなことを成し遂げようとする挑戦を、改めて面白いと感じています。

桐谷同じ目標を持った人が集まって、一生懸命頑張るからこそ、仲間になり、絆が生まれていく。そういう関係性を構築するために頑張る対象として、「仕事」というのはすごく良いものだと感じるんですよね。

「仕事」の価値は、「絆を感じる仲間を増やし、人生を豊かにしていくこと」だと、この二人は改めて捉えなおしているわけだ。

たとえば、学生時代なら部活や受験勉強が、仕事の代わりに、仲間との絆を強めるものとなるだろう。だが、それらはせいぜい2~3年という時限が存在する。大人になってからは、仕事を通して、10年以上という長い時間軸で絆を構築していけるのだ。この挑戦をしないのはもったいない、と、この二人は強く確信しているようだ。

木下そんな時代だから、会社組織を運営する“経営者”の存在意義は、より大きなものになっていくと思います。ビジョンやミッションを考え、目標に落とし込み、組織をつくって前に進めていく。そのかじ取りは経営者の役割。

となると、会社という枠組みをより大きな意味のあるものに定義していく責任がある。それができる経営者のもとには、自然とヒト・モノ・カネ・情報といったリソースが集まり、さらに強い組織になっていくのでしょう。私自身もその経営陣の一人として、さらに気を引き締めていかなければなりません。

桐谷会社に求められるのは、短期的な成長だけでなく、中長期的な成長や社会課題解決です。世界的に課題が山積するこの時代において、それはより強まっていると思います。世代をまたぐような長いアジェンダに向き合い続け、社会や産業の変革に貢献し続ける企業になっていけるかどうかが問われています。

そんな時代だからこそ、20代のうちから常にヒリヒリするような変化の激しい環境に身を置き、仲間と共に仕事に熱狂できることは、幸せな人生につながっていくはずだと本気で思っています。

AIがもたらすカオスな時代。個人のスキルだけで器用に稼ぐことも、条件の良いポジションへ身軽に移り続けることも容易になった。だからこそ、「どう働き、どう生きるか」の正解はますます見えづらくなっている。

木下氏が「今の成長フェーズに至れたのはラッキーだった側面もある」と率直に語ったように、どれだけ優秀であっても、選んだ事業が必ず成功する保証などどこにもない。キャリアにも人生にも、絶対的な正解など最初から存在しないのだ。

しかし、結果が事前には誰にもわからないからこそ、木下氏・桐谷氏の二人が体現している生存戦略が光る。それは、「あえて圧倒的な変化の波がある環境(美味しい市場)に飛び込み、自らの役割を限定せずに泥臭くフルコミットする」という生き方だ。

コスパやタイパといった個人の最適化を手放し、不確実な未来に対して、会社という枠組みを使って仲間と共に熱狂する。一見泥臭く見えるそのスタンスこそが、結果として想像以上の抜擢や、圧倒的な成長の「複利」を生み出していく。

あなたはどんな環境を選び、誰と熱狂するか。不確実性を恐れず、自らの枠を壊して本気で事業に向き合い続ける一歩を、新たに踏み出してみてほしい。

こちらの記事は2026年08月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。