転載 経営ハッカー

急成長スタートアップは知っておきたい、資金繰り改善のテクニック集──広告業界CFOが語る"生き残るため"の経営術とは

華やかな「広告」の世界では、いくつもの会社を巻き込んで大きなプロジェクトをやってこられた方が多いだろう。

しかし、そのプロジェクトの「お金の流れ」を考えたことはあっただろうか?仕事で大きな結果を残して独立しても、広告業界の独特ともいえる資金繰りに苦しめられている経営者は少なくない。

今回お話を伺ったのは、Ogilvy & Mather Japan合同会社の椎名氏、株式会社オノフの松久氏、株式会社GO の松崎氏の三名。CFOやCOOという領域で、華やかな舞台の上というよりは縁の下で会社を支えている。

特に創業まもないベンチャー企業にとって、資金繰りや経営管理に割けるリソースは限られている中、CEO の苦労も熟知している御三方に、お金に関して意識しておくべきこと、役割の違いなどを訊いた。

(聞き手:freee株式会社 金融事業部 木本俊光)

  • TEXT BY HIROAKI TAKAHASHI

本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

左から、株式会社オノフ 松久氏、Ogilvy & Mather Japan合同会社 椎名氏、株式会社GO 松崎氏

椎名Ogilvy & Mather Japan合同会社(以下、Ogilvy) CFO兼COOの椎名です。前職は経営コンサルティングの会社ですが、12 年前に当社に入ってからは自分でCFOとしての仕事も勉強しながらやってきました。

松崎私は新卒でデザイナーとして就職したのですが、そのあと方向転換して税理士を目指しました。それからは事業会社や会計事務所で働き、経営や財務のコンサルタントとしての独立を経て税理士事務所を開業しました。弁護士事務所・社労士事務所とグループで運営していて、税理士事務所の代表を務めています。

GOは2年前に創業し、当初は顧問税理士として、その後依頼を受けてCFOとして参画することになりました。

松久私は新卒で大手の通信会社に入社し、人事から始まって業務管理、経理・財務など幅広く担当させていただきました。2年ほど前にオノフという会社に参画しました。CFOとしての仕事だけではなく新規事業や経営管理のような業務も含めて担当しています。

松崎松久さんが入社された当時は、代表がお金を管理されていたのですか?

松久そうですね。ただ、ベンチャー企業であれば仕方のないことですが、当時は主担当もおらず、きちんと管理はされていませんでした。

景気が良いときはそれでも経営できますが、どうしても悪くなったときが心配になります。私が入ったときは、まず1年と3年の事業計画を立てて、足りなくなったときには銀行から資金調達ができるように決算書を「細かく」「正確に」つけるといったことから始めました。

本日はまさに当時のオノフさんのような状況を想定して、経営者が知っておくべきこと・意識すべきことを掘り下げていければと思います。

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「入金までは長いが、先払いの出費が多い」状況に悩まされる

私(聞き手のfreee 木本)は広告営業の経験があるのですが、広告業界に身を置いていても、営業やプランナーなどフロントの社員はお金の流れまではなかなか意識しづらいと感じます。プロジェクト中も大きなお金が動いていることはなんとなくわかるのですが、いつ・どんなお金が動くのですか?

椎名クライアントからの依頼に応じて、協力会社と一緒にメディアやイベント、クリエイティブ制作などの手段を通してプロジェクトを進めていくという基本的な流れを例にします。

椎名売上は、最近ですと毎月フィーをいただく形よりは作業完了の段階で請求する形が多いです。プロジェクト自体が長い案件もあり、特定のモノを納品して請求するという話ばかりでもありません。売上が入金される前でも、プロジェクトに必要なものがあればその都度、取引先や出稿先への支払いが必要です。

松崎当社は現在ではフィーの案件も多いですが、広告業界に入った当初は、まず入金されるまでの長さと支払い金額の大きさに驚きました。ありがたいことに当社は創業一年目から大きな仕事をいただけたのですが、売上が入るのは半年後で、先に数千万規模の支払いが必要になりました…(苦笑)。

椎名規模などに関わらず、短いプロジェクトでも入金までに3~6ヶ月はかかると思います。

松久 当社も3~6ヶ月は見越していますね。

椎名コストの大小はプロジェクトの種類にもよります。当社ですと一番はメディアへの支払いだと思います。特にオフラインだと支払いが先になり、金額も大きいです。少し前には、億単位のPO(発注)が週に1,2本届くこともありました。

松久オフラインだと資金繰りが苦しくなるのは間違いないです。

当社はSNSなどオンライン方面に注力しているので、オフラインに比べるとキャッシュ・フローは回りやすいです。それが Web 業界の強みであることは間違いないと思います。

椎名オフラインの話はメディアだけではありません。弊社のアクティベーション事業では、グッズの発注やイベントも行うのですが、オフライン施策は総じて額が大きく、支払いタイミングが早いです。

6ヶ月ぐらいのプロジェクトでも、下請け法もあるため、弊社が先にイベント会社さんや会場費を数千万単位で支払いを済ませます。しかし、弊社は作業完了タイミングでクライアントに請求するので、キャッシュの状況には今も毎週注視しています(苦笑)。

松久当社もイベントを組み合わせることがありますが、会場費・人件費などの出費は、感覚的に私たちよりは請求が30日は早い。状況によってはクライアントに直接イベント会社さんと契約してもらうことを仕事の条件にすることもあります。

クライアントや発注先が実績がある大手企業なら金融機関も取引先も待ってくれることがありますが、そうでない場合は代理店のような企業が一時的に信用を肩代わりすることになります。そうなると、キャッシュ・フローが悪くなる上、リスクも背負うことになるので慎重にならざるを得ません。

椎名取引先の信用は非常に気にされますね。複数の会社と同時契約することも少なくないですし、クライアントの発注条件として信用調査が必要なことも珍しくありません。

広告業で資金繰りの注意が必要なコスト

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CFO・COOによる、毎月の入金を安定させるテクニック

お話を伺っている限り、常に大きい金額を先払いする余裕はもちろん、複雑なお金の流れをコントロールすることが求められますね。

椎名当社では、アイデアの提案や、ツールの導入、コンサルティングに近い形で早めに作業完了できるプロジェクトなどを並行して進めて、入金が平均的に生まれるようにしています。

あとは、契約の結び方が大切ですね。「プロジェクトが続いていても、ここまでの作業が完了した段階で一旦請求します」と合意しておくことで、資金繰りを楽にすることができます。

松崎契約書は重要ですね。きちんと契約書をクライアントと締結しておけば、その契約書をもって金融機関で短期の手形貸し付けをしてもらうことも可能です。実際にそれで資金繰りを良くした経験もあります。

創業直後は3〜6ヶ月先に入金される状況は厳しいので、ファクタリングも有効です。大企業との取引は手形決済なので、手形割引も使いました。

松崎手数料が差し引かれてしまうので一般的にはもったいないという認識かもしれませんが、GOという会社の成長を考えると、入金を待つよりも回転を早めたほうが良いと判断しました。すごい成長曲線を描いているときにブレーキがかかってしまうくらいなら、割引程度であれば大したコストではありません。

松久事業が伸びている時の資金繰り対策として、外部からの資金調達という選択肢はなかったのですか?

松崎優先度はファクタリングと手形割引のほうが高いです。借り入れは返済が一般的に5~7年の計画になるので、それだけ長い期間のコストに対応するような資金調達方法を選んでいます。

当社の場合、プロジェクトを回しながら人材を採用する、新しいオフィスをつくるための資金として、融資も活用しています。

松久GOさんの経営者のお二人はクリエイティブディレクターとプロデューサー出身と伺いましたが、ファクタリングや銀行からの融資などの手段に抵抗がなかったんですか?

松崎本人たちに丁寧に説明した上で、金融機関へも最初は私が同行して説明しましたし、抵抗はなかったと思います。

一般的には “借金” というとネガティブなイメージを持たれがちですが、融資を受けられるのは会社の信用があるからです。

松久創業期のように資金繰りが安定しない場合は、「継続して入金があるか」「予定が立てられるか」が示せると、心理的な安心だけでなく対外的な信用も得られると思います。

松久スポットでの契約が多くなる業界ではありますが、たとえば通信会社の “通信料” のように3年間で毎月100円ずつ入ってくる契約があれば、単に継続的な入金になるだけでなく、この契約があれば確実に3,600円を借りることもできます。

借入をするかどうかは別として、予定を立てられれば、経営の計画を考える上でも楽になると思います。

松崎当社がレベニューシェアで報酬をいただく「サクセスシェアリング」でのプロジェクトは、成果が出始めると松久さんが仰るように継続的な収入が実現できます。当然ながら成果が出るまで資金繰りは悪くなるのですが、GOのミッションを体現する重要なプロジェクトですし、事業の大きな柱のひとつにしていきたいと考えています。

GOの提供するサクセスシェアリング(WHO WE ARE:GOホームページより)

松久ただ、サクセスシェアリングだとそもそも入金まで6ヶ月以上かかりますし、請けた時点での資金繰りは厳しくなりますよね。

松崎そうですね。ですので、今は現実的に何件までをサクセスシェアリングにチャレンジできるか、通常のプロジェクトにどれだけ工数を割けるかを調整することが私の役割だと思っています。

広告業での資金繰り改善テクニック

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CEOとCFOは「同じ未来を、異なる時間軸で見据えている」

クリエイターが独立起業する際は契約の結び方などもまだ身につけていないと思いますが、まずはどういうことを意識すればいいでしょうか?

松久個人的には、キャッシュ・フロー経営に尽きるのではないかと思います。

広告代理店で働いていて、資金繰りまで理解されている方は多くないと思います。まずは1年か3年の目標と、大まかな “コスト”・“売上”・“手元資金” を決めて、その範囲に収まっているか、どれくらい超えるかを意識するところから始めればいいと思います。

松崎きちんと重要な指標を見ていることが大事、ということですね。

私もCEOに大まかな数字の状況は把握してもらっていますが、クリエイター出身の方も多いので、細かい数字管理は経験豊富な方に任せられるほうが良いと思います。

松久1円単位まで細かく見る必要はないですし、委託してもいいとは思いますが、意思決定をする人間がお金の流れやキャッシュフローを全く把握していない状態は避けてほしいです。

松崎なるほど。

私は、広告業界ではCEOとCFOの役割をきっちりと分けた方が経営的にはベターだと思っているのですが、オグルヴィさんやオノフさんではCEOとCFO、COOの役割をどうお考えでしょうか?

椎名当社の規模ですと、CFOやCOOでも細かい数字まで見ることは難しいです。グループ会社も銀行口座も複数あるので、資金が減っているところを埋められるキャッシュプールがあるか、借入枠を使う必要があるか、グローバルプロジェクトの為替のインパクトはどれくらいかといった、より影響が大きい部分の意思決定が重要です。

椎名規模が何百人にもなると、給料が出るときは出金が増えるので、その月末のタイミングでどのプロジェクトからどれほど入金があるかも常に見ています。

松崎会社が成長するほど、プロジェクトを進める中での出金だけでなく給与の額も大きくなりますよね。

椎名人材が弊社の価値の源泉なので、もちろん払える状況にはしていますが、社員にとっては一番心配な点の一つですよね。

ただ、私はCEOにもその入出金のレポートまで見てほしいとは思いません。やはり表に立つ人間として、会社の外に出て大きな案件を持ってきてほしい。「仕事を受注したあとのことは私たちに任せてください」という気持ちです。

松久オグルヴィさんは大企業ですが、特にベンチャー企業のCEOはそうあるべきだと思います。

企業の経営管理は習熟してくると、コストを削って利益を出していくことの繰り返しにもなっていきます。経営者にとって「数百万円のコストを削る」ことと、「数億~数百億の売上/収益を伸ばす」ことはどちらも大事ですが、ベンチャーほど後者のミッションが重要だと思います。

松崎当社の代表の二人も、やはり魅力的な目的地を設定してくれます。私にはできないことですが、逆に彼らは目的地へのガイドは苦手です。

ですので、CFOとしての私の役割は、会社が目指す地点に向けて道をつくり、ガイドをすることだと思っています。

松久CEOとCFOはボーダレスではありつつ、見るべき時間軸が違うのだと思います。CEOとCFOが同じ時間軸でものを見るようになった瞬間に停滞してしまうので、お互いに「また面倒な話を持ってきたな」と思う関係性でなければ成長していないことになります。

松久私が案件を見る際はどうしても短期的な収益やキャッシュを見てしまいがちになるので、CEOには5~10年後の話を持ってきてもらいたい。それが価値のある話であれば、面倒だとしても「実現までの道作りは任せろ」という気持ちです。

椎名面倒な話…確かにありますね。

松久たくさんありますよね(笑)。

椎名ありますね。想像していないことがよく起きます。この会社に12年いますが、毎日違うことをやっているような気がしています。ただ、それが仕事のやりがいでもあると思います。10年もいると、経験の乏しかった社員が活躍するまでの過程を見られるのも、新しい喜びですね。

松崎先輩方と話ができて本日は大変勉強になりました。

税理士としての私個人も「チャレンジする人を増やして、継続できるようにする」ことをミッションにしているので、今後独立される方々に伝えていきたいと思います。

以下:記事で紹介した資金繰りテクニックが、freeeならもっと簡単・便利に

こちらの記事は2019年03月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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富山県高岡市出身。地方国立大学の工学部から音楽業界を経て、複数の IT 系事業会社にてマーケティングとクリエイティブの境界を消しながら "PR Editor (ディレクター)" として働く。「21 世紀における Public Relation とは、オープンソースの情報の塊である」という思想のもと、Web サイト・メディア、LP・SNS 広告、動画、プレゼン資料などの企画・制作業務を通して企業ブランドを編集する。
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