マネーフォワード菅藤氏が語る、資金も人材も足りないスタートアップこそオフショア開発を行うべき理由

登壇者
菅藤 達也

1978年、東京都出身。ソフトウェア開発会社や自身の起業で東南アジア開発拠点を立ち上げる。2017年11月、マネーフォワードへ入社しベトナムでのオフショア拠点開設を主導。現在、マネーフォワード執行役員 提携/M&A戦略担当・クラビス代表取締役CEOを務める。

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スタートアップの成長において、事業をドライブさせる「BizDev」の果たす役割は大きい。しかし、必要とされるスキルセットが多岐にわたるからか、BizDevの育成ノウハウはあまり体系化されていない。

その課題意識を背景にラクスルが呼びかけて始まった、日本を代表するスタートアップ企業群によるBizDev育成の取り組みがある──「BizDevBootCamp」だ。freee、ランサーズ 、マネーフォワード、ラクスル、ユーザベースが5社合同で行い、各社の選抜者たちが、経験豊富な講師陣から成長の要素を学んでいく。

5回目となる今回のテーマは「海外拠点を活用した事業開発」。講師を務めるのは、マネーフォワード執行役員 提携/M&A戦略担当・クラビス代表取締役CEOである菅藤達也氏だ。

過去、ソフトウェア開発会社や自身の起業で東南アジア開発拠点を立ち上げた菅藤氏は、2017年11月に入社したマネーフォワードでもベトナムでのオフショア拠点開設を主導。

インフラの整備度合いや交通渋滞の発生状況など、立ち上げ時に考慮すべきポイントから、現地スタッフを「給与以外の価値」で採用する方法、採用後のコミュニケーション術まで、オフショア拠点立ち上げと運用について徹底的に解説した。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • EDIT BY YUKO TAKANO
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オフショア開発拠点はあえて「採用競合が多い国」に置く

オフショア開発は「リソースの確保」「コスト削減」「日本語以外の言語を使える人材の獲得」など、企業に多くのメリットをもたらす。

菅藤氏は「日本企業がオフショア開発を行う場合、拠点はアジアに置くべきだ」と語る。物価や人件費の抑制が期待できるため、コスト面でのメリットが大きいことと、日本からの距離が近いことが理由だ。その中でも、戦争を経て街が整備され、通勤が効率的な東南アジア諸国は、オフショア開発拠点に最適だという。

では、東南アジアで拠点を選ぶ場合、何を基準に検討すればいいのか。菅藤氏はGDPを国民数で割った「国民1人あたりの名目GDP」を重視すべきと勧める。一人あたりの生産性が「日本よりも高くなく、低すぎない国」が狙い目だという。

日本よりもそのスコアが高い国は、インフラが整っており、ビジネスを行いやすい環境が構築しやすい。しかし、人件費やオフィス賃料などのコストが高くつく。低い国はコストが抑えられる一方、インフラが整っていないために停電が頻発するなど、拠点運営のリスクが高くなる。

マネーフォワード執行役員 提携/M&A戦略担当・株式会社クラビス代表取締役CEO 菅藤達也氏

菅藤「経済は成長しきっていないが、未熟過ぎない国」がオフショア拠点の立地としては最適です。現在のアジアでは、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムが挙げられます。

また、実際の拠点開設では、「街」単位で考える必要もある。候補国で、最もGRP(域内総生産)の高い都市から検討を始め、第二位の都市、第三位の都市と、コストとインフラ整備の状況のバランスを鑑み、検討を進めていく。その際は、実際に街へ足を運ぶことが重要だという。

菅藤氏も候補地には必ず訪れ、街の様子を確認した。「電線がむき出しになっている街は、断線による停電が発生しやすい」「交通渋滞が深刻な街は、移動コストがかかり生産性が低くなる」など、実際に見なければ得られない情報があるのだ。

国単位で菅藤氏が考えた場合、現時点の最適解はベトナムだという。コストとインフラのバランスに加え、リソースを確保しやすいのが魅力だ。

ベトナム国民の平均年齢は31歳。また、15〜64歳が総人口に占める割合も70.0%と、東南アジア諸国でも高い水準となっている。若手の働き手が多いだけでなく、エンジニアが育ちやすい土壌もある。

キャピタル アセットマネジメント「アジア主要国のマクロ経済指標」より

菅藤ベトナムは日系企業だけでなく、欧米の企業も多く進出しています。優れた技術を持つ企業が発注するのですから、エンジニアたちの技術力は当然高まっていきます。

また、進出する企業が増え、需要が高い状態が続くと、供給も増える。エンジニアを志望する若手が続々と生まれるわけです。競合が多い土地だと人材獲得が難しそうだと感じるかもしれませんが、需要に応えるべく供給量も増加傾向にあるため、実は獲得しやすいんです。

また、親日国である点や、治安が良い点も、菅藤氏がベトナムを最適解だとする理由だ。

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オフショア開発は「受託」ではなく「ラボ開発」を選ぶ

次に言及されたのは、オフショア開発を検討すべきタイミングだ。菅藤氏は最適なタイミングに「創業期」を挙げた。資金も人材も足りていない時期だからこそ、オフショア開発の利点を活かせるという。

特に推奨するのが「ラボ開発」だ。発注者のオーダーに、受注側が完成責任を負ってオーダー通りに納品する「受託開発」に対し、「ラボ開発」はそれがない。エンジニアのリソースを提供することのみにコミットする、人材派遣に似たモデルだ。

菅藤氏がラボ開発を推奨する理由は、柔軟性の高さにある。創業期は、往々にしてプロダクトの方向性が二転三転するため、仕様書から変更になることもありえる。「ラボ開発」であれば、適切なリソース配分で十分に対応できる。

ラボ開発にも課題はある。プロダクトへのコミットメントを醸成しづらいのだ。ラボのエンジニアは自社に所属しているわけではないため、帰属意識を持ちづらい。しかし、企業が求めるのはプロダクトに愛を持ち、共に苦境を乗り越えられるエンジニアだ。

だからこそ、一定の資金が集まり、プロダクトの方向性も安定した際には、ある「覚悟」を持たなくてはならないと菅藤氏は語る。

菅藤ラボに所属している人材を雇用する覚悟です。リスクを負って、プロダクトにコミットしてもらうのです。

菅藤氏が主導したマネーフォワードのベトナム法人立ち上げも、ラボ開発から法人設立の流れを辿った。マネーフォワードは、かつてはラボ開発を行っていた。クオリティには満足していたが、開発のアクセルをより一層に踏むため、ホーチミンに法人を設立したのだ。

菅藤社員として採用するとなれば「私たちが目指しているのはこのような世界です。あなたも参加しませんか?」と、本人の意志を確認できるんです。会社のビジョンに共感してもらえれば、コミットメントを醸成できる。

しかし、法人化にもリスクはつきまとう。「撤退リスク」がその代表例だ。日本では従業員を解雇するハードルはかなり高い。海外なら解雇しやすいイメージを持ちがちだが、ベトナムも実態は日本と変わらないのだという。解雇できるのは3ヶ月の仮契約期間のみであり、それ以降は簡単にはいかない。

そのため、撤退を判断した後の現地社員との交渉は難航しやすい。また、海外特有の「政治的な税務リスク」も存在する。ベトナムにおいても、税務調査官から理不尽に納税を迫られることがある。支払いを見逃す代償として、驚くべきことに賄賂を要求されることもある。東南アジアにおいては、決して珍しいケースではないそうだ。

菅藤オフショア開発拠点を作る際は、どのようなリスクがあるのか知っておく必要があります。そして、現地の日系法律事務所や会計事務所と協力し、事前に対策を打っておくべきです。リスクヘッジに費やす資金は、出し惜しみすべきではありません。

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マネジメントは現地訪問を怠ると、オフショア拠点の崩壊を招く

自社で採用を行う際は、ビジョンへの共感度合いだけでなく、給与額にも細心の注意を払うべきだという。理由は2つある。

1つ目は、従業員間のトラブルを引き起こす可能性があるからだ。海外では社員同士で給与額を共有することに抵抗がない。社員によっては成果と給料の見合わなさを感じ、ストレスを溜める社員も出てくる。

そのため、マネーフォワードのベトナム法人では、年齢とスキルの2軸でマトリクスを作り、適切な給与額を設定する仕組みで運用しているという。

2つ目は、コストが際限なく上昇してしまうリスクのためだ。ベトナムにおける給与の提示額は欧米企業が最も高く、中国、韓国系に続き日系企業が入る。良い人材を獲得するために欧米企業に合わせた給与額を提示しようとすると、人材採用のコストに歯止めが効かなくなってしまう。

海外において高スキル人材を獲得するためには、給与以外の魅力を伝える必要がある。菅藤氏はその例として「訪日のチャンスがあること」を挙げた。年に一度の日本への出張が、東南アジアのメンバーにとっては大きなインセンティブとなる。入社を決めるきっかけになるほどだという。

また、菅藤氏は自らの失敗を通して学んだ、海外拠点メンバーに対するマネジメントの注意も説いた。最大のポイントは「現地に足を運ぶこと」。

菅藤一度、チームを崩壊させてしまった経験があるんです。かつて起業してオフショア拠点での開発を行っていた際、日本国内の業務が忙しく、半年ほど現地に行けない時期がありました。

チャットではコミュニケーションしていて、業務に支障はなかったんですよ。国内の業務が落ち着いた頃、間が空いてしまって申し訳ないなと思いながら、お土産をたくさん買って拠点を訪れました。

すると突然、全員から「辞めます」と言われたんです。とても苦い経験です。

その経験から、現地スタッフとも可能な限り直接コミュニケーションすることの大切さを学んだという。スケジュール管理や定常的な会議はオンラインで行いながら、定期的に現地を訪れる。現地では、メンバーと食事をしたり、1on1を実施したりするなど、対面でのコミュニケーションを取るべきだと語った。

また、マネジメントにおいては「英語での会話」も重要だという。日本語でコミュニケーションしようとすると、日本語を使えるメンバーが「伝道師」的な地位を得て、本来は不要な上下関係を生じさせてしまうのだ。日本語話者のメンバーが誤った情報を伝えてしまうことで、組織全体が誤った方向に進んでしまう危険も生じる。そのため、オフショア開発拠点では英語のコミュニケーションを徹底する必要があるのだ。

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人生の選択肢が広がった──オフショア立ち上げから菅藤氏は何を学んだのか

最後に菅藤氏から、今後オフショア拠点の開発を担う担当者へ2つのアドバイスが送られた。

1つ目は「自分の目的を、ドラマティックに伝えること」だ。オフショア開発を立ち上げる際は、多くの現地人と関わることになる。忘れてはならないのが「自分は外国人である」という自覚だ。

部外者である自分はなにを目的に訪れたのかを現地の人々に理解してもらえなければ、事業は進められない。理解を促すためには、「大げさなぐらいに想いを表現することが大事」だと菅藤氏。

菅藤ソフトウェア開発会社時代の16年前、バングラデシュで開発拠点の立ち上げを行った際は「創意」と書かれた掛軸を日本からのお土産として持参しました。

現地法人にプレゼンするときに掛軸を広げ、「これはクリエイティブマインドという意味だ。私はクリエイティブマインドを持って、みなさんと開発を進めていくためにここに来た」と伝えていたんです。

少し恥ずかしかったのですが、大げさだと思うぐらいの演出をつけ、相手に目的を伝えることで、受け入れてもらいやすくなったと感じています。

2つ目のアドバイスは「相手の環境を理解すること」。現地でビジネスを行うためには、「その国の歴史的背景」から理解しなくてはならないという。国が置かれた状況を理解したうえでコミュニケーションを取らなければ相互理解は進まない。相互理解が進まず、価値観を共有しないまま業務を進めてしまうと、無駄な衝突が起きかねない。

最後、菅藤氏はオフショア開発拠点立ち上げを通じて感じた「視野と人生の選択肢の拡がり」について語った。

菅藤シンガポール人と一緒にホーチミンに出張に行くと「ああ、懐かしい」と言うんですよ。シンガポールは経済的な成長を遂げ、整備が進んだ結果、とても快適な街になりました。その街に住む人々がホーチミンを見て、20年前のシンガポールのようだと感じている。

ということは、20年後、ホーチミンが現在のシンガポールのようになってる可能性が大いにあるんです。東京を超えるレベルになっているかもしれない。そう考えると、色んな国と仕事で関わることは、空間的にも時間的にも人生の選択肢が広がる感覚があるんです。

東京以外にも素晴らしい都市はたくさんあるし、今後も素晴らしい都市はどんどん生まれてくるんだなと。東京で暮らすことにこだわる必要なんてないなと思えたんです。20年後にはホーチミンで暮らしている可能性も十分ある。人生には多くの選択肢があることを、オフショア開発拠点の立ち上げを通じて学びました。

こちらの記事は2020年02月06日に公開しており、
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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

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編集

高野 優子

フリーの編集、ライター。Web制作会社、Webマーケティングツール開発会社でディレクターを担当後、フリーランスとして独立。

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長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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