あの大手企業技術者らも、起業を本格化?
愛知・名古屋がスタートアップの地になりつつある実情をまとめてみたらすごかった

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ものづくりの集積地として、トヨタ自動車やデンソーをはじめとした数多くの大企業を抱える愛知県。そんな愛知県で今、スタートアップ熱が高まってきている。

2019年には、イノベーターを生み出す拠点としての「NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE」や、廃校となった小学校をリノベーションしたインキュベーション施設「なごのキャンパス」を立て続けに開設。

産学官で連携したコンソーシアム(Central Japan Startup Ecosystem Comsortium)を形成し様々な取り組みを実施しており、2020年には愛知・名古屋及び浜松地域がスタートアップ・エコシステム「グローバル拠点都市」として選定された。

また、2024年に開業されるスタートアップ支援拠点「STATION Ai」の準備も着々と進んでおり、今後さらなる盛り上がりが期待されている。

そうした“新風”を巻き起こすための旗振り役を務めているのが、名古屋市経済局イノベーション推進部長の嶋久美子氏だ。今回は同氏に取材を行い、スタートアップ・エコシステム形成にかける熱い思いと、その実状について聞いてきた。

  • TEXT BY TEPPEI EITO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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数億円調達はもう当たり前。
愛知にスタートアップが少ないなんて言わせない

「愛知県発の企業」というと老舗の大企業を思い浮かべる人が多いだろうが、近年は新進気鋭のスタートアップも増えてきている。

例えば、すでに500億円超の評価額となっているティアフォーをご存知の読者は少なくないだろう。名古屋大学などで開発されたオープンソースの自動運転ソフトウエア「Autoware」を使った完全自動運転システムを汎用化させようとしている。

もっと若い存在では、名古屋大学発のプライバシーテック企業、Acompanyがある。「秘密計算」に関連するプロダクトやコンサルティング開発を展開しており、2021年6月には2億円の資金調達を実施。代表の高橋亮祐氏は、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2021」にも選出されており、その事業手腕を高く評価されている。

愛知県と、静岡県浜松市周辺で、グローバルな活躍が見込まれるスタートアップが、行政の支援を受けている(提供:名古屋市)

SyncMoFも名古屋大学発のディープテック企業のひとつ。ガスの貯蓄や分解、吸着などの機能を持つ新素材『MOF』の研究・開発を行っており、ガス資源利活用の期待が高まる今、世界的にも注目されている1社だ。

他にも、生活習慣病の重症化予防を手がけるヘルスケアベンチャーのPREVENTや、独自素材の『Thermalnite』を開発し熱問題の解決に挑む素材ベンチャーU-MAPなども名古屋大学発のスタートアップとして注目を集めている。

このように、愛知県のスタートアップには大学の研究機関から始まった企業が多い。一方で大手企業に勤めながら副業で起業するというケースも増えてきている。

例えば、フードロス問題解決のためにシェア冷蔵庫を開発するどんぐりピットや、AI活用のレコメンドマップを開発するNew Ordinaryは、大手企業のエンジニアが副業で立ち上げたスタートアップだ。

また、軽微事故検出のためのセンシングシステムを開発しているMobirtaは、大手企業のエンジニア田島昇一氏が、経済産業省の出向起業制度を活用して立ち上げている。

優秀な学生や大手ものづくり企業に務めるエンジニアが、スタートアップを立ち上げるという新しい動きが広まってきているのだ。

上に挙げた企業以外にも、愛知県周辺の注目スタートアップはまだまだたくさんある。

Central Japan Startup Ecosystem Comsortiumで活躍するスタートアップ

株式会社iCorNet研究所  治療効果が高く安全性の高い心不全・不整脈治療デバイス植込型医療機器『心臓サポートネット』の研究開発。
iBody株式会社  ヒトが持つ抗体産生細胞から、無細胞タンパク質発現系により抗体を取得する特許技術を活用した医薬品開発。
AGREEBIT株式会社  大規模な意見収集・集約・合意形成支援ができるAIクラウドサービス『D-Agree』の研究開発。
AZAPA株式会社  モビリティを中心とした機能・性能設計、制御最適化、計測適合などのソリューション提案。
株式会社ANSeeN  高感度・高精細を実現する直接変換型X線カラーカメラの開発。
株式会社オプティマインド  ラストワンマイルのルート最適化サービス『Loogia』の開発と提供。(過去の資金調達についての記事はこちら
グランドグリーン株式会社  名古屋大学発の接木技術及びゲノム編集等による新種苗創出事業、接木生産システム販売事業。
株式会社シルバコンパス  人材不足である薬剤師の調剤業務の分業化を可能にするピッキング支援システムの企画・開発。
ジーニアルライト株式会社  光学技術と電気回路設計技術を融合したPOCT医療機器及び生体計測センサの開発・製造販売、医薬品の販売。
株式会社SPLYZA  スポーツの教育的価値の向上を目的としたアマチュアスポーツ向けの映像分析ツールの開発、販売。
株式会社Sonoligo  「文化の発展」をビジョンとした文化イベントに気軽に参加できるサブスクリプションサービスを提供。
株式会社テラ・ラボ  無人航空機設計開発、コンサルタント業務、運行管理、観測オペレーション、災害時等地理空間情報取得、解析。
株式会社トライエッティング  サプライチェーン領域における業務特化型拡張知能(AI)技術の研究開発およびライセンス販売事業 。
パイフォトニクス株式会社  遠方に視認性の高い光パターンを形成できるLED照明『ホロライト・シリーズ』の開発・製造・販売。
株式会社Happy Quality  客観的データや農学理論に基づいた再現性の高い「データドリブン農業」を実現し安定生産を図る事業。
PDエアロスペース株式会社  宇宙機開発、宇宙旅行および附帯事業、宇宙輸送事業(宇宙港含む)。
ピノベーション株式会社  製造業向けIoTの研究、開発、アントレプレナー(外部起業家)支援企業。
株式会社Photo electron Soul  名大の研究成果をもとに、主に半導体検査装置用の半導体フォトカソード電子ビーム生成システムを開発。
株式会社プロドローン  産業用ドローンの研究開発・製造及び当該技術を活用したソリューションの提供。
株式会社ヘルスケアシステムズ  生活習慣のミスマッチをゼロにするための未病領域に特化した郵送検査事業とヘルスケア製品の臨床試験事業。
株式会社Magic Shields  高齢者の転倒による骨折を減らす、転んだときだけ柔らかい床とマット『ころやわ』の開発・販売。(FastGrowの取材記事はこちら
リンクウィズ株式会社  インテリジェントロボットシステムソフトウェアの開発・販売・技術コンサルティング。
株式会社LOZI  サプライチェーン全体を可視化する、QRコードをベースとした『SmartBarcode®』の開発。
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「CASE」という共通の危機感が、経済界も本気にさせた

今でこそ有望なスタートアップが増えてきている愛知県だが、これまでスタートアップがなかなか生まれてこなかったのは一体どうしてなのだろうか。

そこには、質実剛健な愛知特有の気風が影響していたと嶋氏は言う。

愛知県には大学も数多く存在しますし、優秀な学生さんも多くいらっしゃいます。一方で、トヨタ自動車やデンソーをはじめとしたグローバル規模の大企業も存在しており、協業を含めてスタートアップが生まれる土壌はもともとあったんです。 しかし、そうした環境ゆえに「優秀な人は大手企業に」という安定志向の文化が根付いてしまい、「会社を立ち上げる」というチャレンジングな選択肢が生まれてこなかったんだと思います。

ではなぜ、そんな愛知県でスタートアップ熱が俄に高まってきているのだろうか。

その原因は、自動車産業に押し寄せる「CASE」の波だ。「CASE」とは、Connected(接続性)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(シェアとサービス)、Electric(電動化)という4大潮流の頭文字を並べた造語であり、これはつまり自動車産業の大変革を表している。

愛知や名古屋では、これまで自動車を中心としたものづくり産業で安定的に発展してきましたが、「CASE」や「MaaS」といった言葉に象徴されるような産業構造の転換に直面し、新産業の創出が喫緊の課題となりました。

ここで重要だったのは、自動車産業の変革に伴うこうした危機感を、私たちだけでなく、大学や民間企業も同様に持っていたということです。共通の危機感を持つことで、目線を合わせることができ、産学官の「Aichi-Nagoya Startup Ecosystem Consortium」を組成することができました。

愛知県においてスタートアップ熱が高まってきているのは、こうした強固な協力体制を築くことができたからだと考えています。

名古屋市では「イノベーション推進部スタートアップ推進室」というスタートアップ創出に特化した組織が新たに生まれており、愛知県でも「スタートアップ推進課」という「課」が新しくつくられた。

他の行政団体や民間組織も含めると、融資を除いても年間予算は40億円以上。メンバー一人ひとりが、SlackやFacebook Messenger、Notionなどを使いながら密に連携を取りあい、前のめりに取り組んでいる。

スタートアップ・エコシステムの推進者と言えば「起業家とVC」のイメージがあるが、名古屋ではそこに「行政」「民間企業」「大学」が入り、バランスの取れた体制を築くことができているのだ。

コンソーシアムでは、グローバルに活躍するスタートアップを創出するため、実績あるベンチャーキャピタリストやアクセラレータ、大企業の新事業担当者等の外部有識者からの推薦に基づき、有望な企業を選定し集中支援を行うプログラム「J-Startup CENTRAL」を設立。これまでに22社の選定を行っている。

また、2022年2月にはコンソーシアムで連携し、東海地区最大規模のスタートアップの祭典「トッキンナゴヤ」をオンライン上で開催。学生や大学教授なども巻き込み、大いに盛り上がった。

こういったイベントも、これまでは中部経済連合会、愛知県、名古屋市、名古屋大学で各者ばらばらに実施していたという。

「産業の変革」という共通の危機感を持つことで、ばらばらだった産学官が足並みを揃えてスタートアップ・エコシステムをつくっていく機運が高まったのだ。

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スタートアップ・エコシステムを拡張させる“3つの施策”

愛知・名古屋からイノベーションを起こそうという動きが、民間企業や大学などを巻き込みながら大きな渦となり、結果として優秀なスタートアップが続々と生まれ始めてきている。

まさに嶋氏が言うように「連続的にスタートアップが生まれて」きているわけだが、そのための具体的な環境づくりはどのようにして行われているのだろうか。

コンソーシアムが実施しているスタートアップ支援のなかで力を入れている施策のひとつに「オープンイノベーション支援」がある。

愛知県には、大手企業や中堅企業が多いという強みを生かし、オープンイノベーションを促進するための支援を数多く実施しています。そのひとつが名古屋市が主催する「NAGOYA Movement」。スタートアップの成長を促すため、オープンイノベーションによる事業会社との共創を促進するプログラムです。マッチングはもちろん、その後の事業創出サポートまで、2年間を通じて伴走型支援を行っています。

直近の事例でいうと……地元の大手企業である東邦ガスと名古屋大学発ベンチャーTOWINGが協業し、「TOWINGが開発した高機能ソイルを活用した作物栽培に関わるノウハウ蓄積を目的とした実証試験」の実証を開始することになりました。他にも、2021年度だけで2つの案件がサービスローンチ、新規事業創出が1つ、実証実験が1つ生まれるなど成果が出ています。

上述した「NAGOYA Movement」以外にも様々な施策を実施している。例えば、中部経済連合会とタッグを組んで立ち上げたイノベーション拠点「NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE」。名古屋市のなかでも一等地といわれる栄地区に、起業や事業改革を進める人々を支援する施設として2019年にオープンした。

イノベーション拠点「NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE」内の様子

ここでは、新規事業担当者向けの人材育成プログラムや、グローバルVCのPlug and Play Japanと連携した共創イベントを開催するなど、積極的に交流の場を提供している。

他にも、起業家やベンチャーの育成拠点として名古屋駅に「なごのキャンパス」を開校。ここでは、参加者の交流を促すためのセミナーやピッチイベントが連日開催されている。

翻って、「海外展開支援」や「実証実験のサポート」にも力を入れているという。

愛知県、名古屋市等で「あいち・なごやスタートアップ海外連携促進コンソーシアム」を組成し、海外展開したい企業に対して、メンタリングによる課題の棚卸しや、ピッチトレーニングなどの支援を行っています。

また、愛知県では、アメリカやフランス、中国、シンガポールといった都市と連携し、現地の投資家や企業とのマッチングをはじめ、ノウハウ取得のための様々なプログラムを実施しています。そして、こうした海外との繋がりを一層強化していくため、2024年には国際的なイノベーション創出拠点として「STATION Ai」を開業する予定です。

一方で、スタートアップの事業を社会実装するための環境づくりにも注力しており、「Hatch Technology NAGOYA」というプロジェクトを立ち上げ、実証プロジェクトの費用負担や必要な調整等の幅広い支援を実施しています。もちろんこれは名古屋市のスタートアップだけではなく、全国のスタートアップを対象にしたものです。

愛知県や名古屋市だけで閉じてしまわずに、日本全国、世界からスタートアップや投資家を呼び込み、より強固なスタートアップ・エコシステムをつくっていきたいと考えています。

このようにCentral Japan Startup Ecosystem Consortiumでは、いくつもの拠点をつくり、幅広く継続的な支援を行うことによって、本質的な“面”での支援を実施しようとしているのだ。

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未来のスタートアップ創出のため、今から種まきを

この地域特有の共通の危機感が産学官の協力体制を生み、老舗大手企業が多いという強みを生かしてオープンイノベーション支援に取り組んでいる。まさにこの地域ならではの動きといえるだろう。

ではそれ以外に、地域特性とは関係なくコンソーシアムが進めているユニークな取り組みはないのだろうか──もちろんある。それが「人材育成」だ。

スタートアップ・エコシステムの形成にあたり、私たちが最も力を入れているのが「人材育成」です。この部分は他の地方自治体と比較しても強みになるでしょう。

先程お伝えしたように、これまで東海地方では大学発ベンチャーが少なく、起業を目指す学生も少数でした。それが好転するきっかけとなったのが、東海地区5大学による起業家育成プロジェクト「Tongali(トンガリ)」です。2016年に立ち上がったこのプロジェクトでは、東海地区を拠点とするイノベーティブな新規事業を生み出すことのできるトンガった人材を育成することを目的にしているんです。

さらに、2021年にはGAPファンドを実施し、大学の研究機関からスタートアップを創出させる後押しも行っています。

こうした活動の結果として、例えば名古屋大学では、大学発起業家数が、トンガリ立ち上げ時と比較して数多く生まれている。 さらに、人材育成の範囲は大学生だけにとどまらない。

名古屋市では、より早い段階で起業意識を持ってもらうため、小中高校生向けにも起業家育成プログラムを提供しています。金融教育やプログラミング体験など、普段学校では学ぶことができない「起業家的資質」と「起業家マインド」を養うような魅力的なプログラムを実施しているんです。

もちろん、大企業への就職を否定しているわけではありませんし、名古屋を出て都心で働くことを否定しているわけでもありません。仮に大企業で働くことになったとしても、起業家精神は必要になってきますし、いつか回り回って愛知県や名古屋市の発展に繋がればいいなという長期的な目線で取り組みを進めています。

既にあるスタートアップの支援だけではなく、スタートアップを立ち上げる可能性のある人材の育成にまで支援の手を広げている名古屋市。そうした長期目線での立体的な支援は、名古屋市ならではといってもいいだろう。

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スタートアップ・エコシステムを次のフェーズへ

共通の危機感によって強く結びついた産学官のコンソーシアム。それによって生み出される包括的な支援。結果として増えつつある有望なスタートアップの数々。愛知を中心としたスタートアップ熱の高まりは、ご理解いただけたのではないだろうか。

しかし、もちろん課題がないわけではない。このスタートアップ・エコシステムをより強固に、そして拡張していくためにやらなくてはいけないことはまだまだあると嶋氏は話す。

スタートアップを創出しその成長を支援していくにあたり、名古屋市や愛知県周辺だけでは対応しきれない部分もあります。

例えば資金面。創業時に活用できる補助金をはじめとした制度の拡充はもちろん進めています。ですが現状、愛知・名古屋に本拠地を置く独立系のVCはなく、CVCからの投資、あるいは大企業による直接投資がメインになっているので、スケール期の資金的支援を賄うのは限界があるんです。

他にも、先輩起業家が少ないため、スタートアップにとって重要な「メンタリング」などが行き届かないという不安も。同じような文脈で、スタートアップに特化した弁護士や会計士が少ないという課題もあります。

こうした、細かい課題をひとつひとつ解決していくことが、盤石なスタートアップ・エコシステムの形成に必要不可欠だと考えています。また、愛知県や名古屋市だけではなく、東京や、場合によっては海外との繋がりも強くしていきながら、シームレスに支援をしていくことも重要だと思いますね。

愛知には優秀な学生も多く、世界的な大手企業も数多く存在している。スタートアップ創出のための地盤は元からあった。名古屋市をはじめとしたコンソーシアムでは今、こうしたポテンシャルを有効活用しつつ、足りていない部分を埋めるために一致団結してエコシステム形成に取り組んでいるのだ。

イノベーション拠点「NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE」に集う、Central Japan Startup Ecosystem Consortiumコアメンバーの中経連、名古屋大学、行政のスタートアップ支援メンバー

スタートアップ・エコシステムとしての第一段階はクリアした。大変なのはこれからだ。これをいかに発展させるか──第二段階へと足をかけたコンソーシアムのこれからに注目したい。

こちらの記事は2022年03月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

栄藤 徹平

写真

藤田 慎一郎

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