「数字を“眺める”と“分かる”は違う、分からせる仕組みを創れ」
歴戦のプロCFO58歳がスタートアップの若者に“数字の意識”を植え付ける
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スタートアップの社会的影響力は高まりつつある。しかし、日本社会を動かすレベルの経歴を持つ“超大型”ビジネスパーソンが未上場スタートアップに加入するケースは、まだまだ稀だ。本記事では、そんなレアケースを紹介する。
輝かしい実績を引っさげた渡邉一治氏は、2020年7月、後払い決済市場を牽引するネットプロテクションズにCFOとしてジョインした。1980年代に監査法人で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の潮流の一翼を担ったのち、自ら立ち上げに従事したコンサルティングファームで、小泉政権下の省庁改革の機を見て急成長を実現。そして、業界トップシェアを誇る半導体製造装置メーカーの経営管理、名作ゲームのメーカーで知られるスクウェア・エニックス・ホールディングスのCFOを歴任……齢58にして、次のチャレンジに進んだ。
特別連載「信用経済社会におけるプラットフォーマー ネットプロテクションズ」では、事業/組織のあらゆる観点から、ネットプロテクションズを徹底解剖している。今回は渡邉氏にインタビューを実施。35年間、日本社会を支えてきた彼が口にした「事業を数字で見る」という言葉には、たしかな重みが込められていた──。
- TEXT BY MASAKI KOIKE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を支えた若手時代
渡邉氏の語りは、40年以上前にまで遡って始まった。中学で始めたサッカーにはまり、高校3年の春には東京代表として関東大会まで進出。しかし、すべての高校サッカー選手の憧れである冬の全国高校サッカー選手権大会に出る悲願は叶わなかったと、懐かしそうに語った。
サッカー引退後、わずか3ヶ月間の受験勉強を経て明治大学へと進学。次に見つけた目標は「ビジネスパーソンとしての専門性を身につけること」。社会に出た際に、最上位クラスの大学の卒業生に負けないようにするためだ。中でも、会計学のみならず経営学、経済学、会社法まで幅広い知見を駆使できる会計士に惹かれ、大学在学中に公認会計士試験に合格。国内トップの監査法人だった朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)に新卒入社した。
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が謳われた1980年代、日本企業は世界で輝いていた。渡邉氏はその一翼を担う松下電器(現パナソニック)の子会社であった映像機器・音響機器メーカーの日本ビクター(現JVC・ケンウッド・ホールディングス)の監査を担当した。
渡邉松下電器は、各事業部が製品開発から生産、販売、収支の管理までを一貫して担当する「事業部制」という画期的な管理会計の手法を取っていました。監査を担当しながらそれを間近で学べたことは、その後のキャリアの礎になっていますね。
また、親会社と子会社を単一の組織体とみなす「連結会計」制度が、日本で導入された頃でもありました。日本ビクターは世界中に子会社を持っており、それぞれの会計情報を集めていたのですが、全て英語なんです。これからは英語が必須だと思い、身につけていきました。
小泉政権下の行政改革に素早く反応。
時代の動きを見極めビッグジョブを
渡邉氏が「ベンチャー企業」に初めて接したのも、監査法人で働いていたときだ。IPOを目指す企業の支援も担当しており、上場準備企業の予算管理制度の構築や連結会計パッケージの設計を、ハンズオンでサポートしたという。そうして10年ほど上場会社監査やIPO支援に従事したのち、30代前半で、渡邉氏自身がベンチャー立ち上げに携わることになる。
朝日監査法人の提携先だったアーサーアンダーセンから、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)が分離独立したことを受け、全世界のアーサーアンダーセンでコンサルティング部門を設立する気運が高まった。その日本法人における立ち上げメンバーの一人として、上場準備企業へのハンズオン支援経験があり、英語力も高かった渡邉氏に白羽の矢が立ったのだ。
そこから一年半、アーサーアンダーセンのニューヨーク事務所でコンサルティングの基礎を学んだのち、国内で朝日アーサーアンダーセンの立ち上げに従事。7名でスタートし、10年かけて600人規模まで拡大させ、渡邉氏はのちにコンサル会社の最高職位であるパートナーも務めた。
渡邉新しい仕事を取ってきて、並行して受注した案件をまわして……その繰り返しで、まさにベンチャーそのものという状態だったと思います。自分で「やる」とコミットメントを見せれば、まどろこしい社内承認プロセスを経ずとも、動かせてもらえるカルチャーがありました。
特に印象に残っているのは、小泉政権下における省庁改革への対応です。特殊法人を独立行政法人化し、企業会計と競争的人事制度を導入して効率化するという動きがあり、それをいち早く察知して社内で対応チームを立ち上げました。競合コンサル会社に先行して営業を仕掛けることができ、その結果、10億円単位のビッグジョブが4本取れ、その功労もあってパートナーにも就任することができました。
日本を支えたプロフェッショナルが、
事業会社に求めた「3つの条件」
会計士、コンサルタントとして、時代を象徴する大規模プロジェクトに携わり続けてきたが、2003年、キャリアの転機が訪れる。上場会社にJ-SOX(内部統制報告制度)が導入されることになり、コンサルティング会社と監査法人の分離が求められたことで、監査法人へのカムバックを打診された。しかし、渡辺氏はこれを固辞。20年積み上げたプロフェッショナルファームでのキャリアを離れ、事業会社へ転職することを決意する。
渡邉監査は会計基準などの「箱」の中に収める仕事、コンサルティングは逆に「箱」から飛び出す発想が求められる仕事です。今さら箱の中に戻るようなことはしたくありませんでした。
そして、監査もコンサルティングもお客様の会社を外から見る仕事。それまでの経験や知識を活かして、今度は自ら事業会社の中に入って活躍してみたいと思いました。
渡邉氏が選んだ新天地は、半導体製造装置メーカーのディスコだ。「オファーをもらうまで全く知らなかった」というが、会社を選ぶ際のポイントを事前に定めていた。
まず、事業が強く、市場でトップシェアを占めていること。二番手以降はトップのフォロワー戦略を取らざるを得なくなり、面白い施策を仕掛けられないことを、数多くの企業を支援する中で体感していた。ディスコは、半導体の製造工程の一部分においてニッチトップを獲っていた。
そして、企業規模が大きすぎないこと。数万人規模の大企業やコングロマリット企業だと、事業の全体像が見えなくなる。全世界で2,000人規模でなおかつ単一事業のディスコは、「キーマンがFace to Faceで分かる」サイズ感で、この点もマッチしていた。
さらに、組織文化が強いこと。ディスコは意思決定の基準として「DISCO VALUES」を明文化しており、浸透させるための合宿を定期開催するなど、制度面にも反映していた。面接で訪れた際、案内してくれた入社間もない社員に「どんな雰囲気の会社ですか?」と尋ねたところ、「DISCO VALUESをあらゆる判断の基準にしています」と即答だったそうだ。昨今のスタートアップ業界でこそ、「バリューの浸透」が重視されるようになったが、2003年当時、そこまで徹底している上場企業は稀だった。
大赤字を計上した会社を、
CFOとしてV字回復に導く
ディスコでは、約6年間、経営戦略グループリーダーを務めた。「公認会計士」という看板も名刺からはずし、経営戦略分野で勝負した。上場企業だが同族会社でもあったディスコの経営陣の代替わりが行われ、本人のキャリアにも一区切りついた2009年、次なるチャレンジへ踏み出す。『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズで名高い、家庭用ゲームメーカーのスクウェア・エニックスに転職したのだ。
2008年のリーマン・ショック直後、多くの日本企業が業績を悪化させていく中で、数少ない「世界で戦える」領域がコンテンツ産業だった。スクウェア・エニックスはRPG領域では世界トップ、単一事業で企業規模も全世界で約3,000人とちょうどよく、なおかつ「最高の「物語」を提供することで、世界中の人々の幸福に貢献する」という理念にも惹かれた。
入社年度は過去最高益を計上。しかし入社3年目頃からグリーやディー・エヌ・エーといった新興企業を中心とするPCブラウザ向けゲームが勃興。従来型の据置型ゲーム機向けの作品に固執していたスクウェア・エニックスは時代の流れに乗り遅れ、2013年には大きな赤字を計上してしまった。
この赤字を契機に経営体制が見直され、渡邉氏はホールディングス会社のCFOに就任した。そこで渡邉氏は、「事業を数字で見る」カルチャーを根付かせるための一大改革を新社長とともに断行した。
渡邉もともと開発力がウリの会社であったがゆえに、開発部門が重視される傾向がありました。開発部門には「我々はよい作品を作ることが役割。販売や広告は営業部門の仕事」といった風潮が残っており、業績評価においても「いかによい作品を作ったか」が重視されていました。
そこで、プロデューサーに作品のトップライン(売上高)からボトムライン(利益)までの全責任を負わせ、評価も作品の利益をベースにすることとし、責任の所在を明確化しました。そして、あらゆる作品の収益データを社内で公表するようにしました。
すると、プロデューサーは開発から営業、広報まで、各部門を巻き込んで戦略を練るようになりました。全員が「良いものを作る」だけでなく、「どのくらい儲かるか」を意識できるようになり、業績もV字回復したんです。「意識の持ちようで、業績もこれだけで変わってしまうのか」と驚きましたね。
その後、高性能のスマホ向けゲームの普及により、本来の強みである開発力が再び活かせるようになったことにも後押しされ、売上高と利益は順調に伸びていった。
スクウェア・エニックスにジョインして10年、CFOに就任してから7年が経った2020年。58歳で、引退を考えてもおかしくない年齢に差し掛かっていたが、渡邉氏はさらなる挑戦に打って出る。まったくの異業種、かつキャリアでも初の上場を目指す企業での執務となる、ネットプロテクションズのCFOに就任したのだ。
渡邉ゲームビジネスの要諦をある程度掴めてきて、自分は楽をしているのではないかと感じるようになっていたんです。もっと自分が全力を出して貢献できるエリアがあるのではないか、世の中で私を求めている人がいるのではないか、そう思うようになりました。
挑戦機会を探しているうちに、ネットプロテクションズに出会った。ディスコのとき同様、全く知らない会社だったのですが、後払い決済というニッチ市場でトップを占める事業の強さ、マネジャーを置かずに各社員が自律・分散・協調して自走する「ティール型組織」というユニークな組織文化に惹かれ、入社を決めました。
「鏡」としてのCFOが、
21世紀の企業に必要不可欠な理由
渡邉氏がCFOとしてネットプロテクションズにもたらしたい「貢献」は、かつてスクウェア・エニックスのV字回復に寄与した「事業を数字で見る」文化の浸透だ。
渡邉CFOは、数字を用いて会社の現状を客観的に示す「鏡」としての役割を果たさなければいけないと思っています。一般的にCEOやCOOは事業を伸ばすことに長けている一方、それにのめり込むあまり、ともすると数字で事業の姿を見ることが疎かになってしまうこともあります。「鏡」となり、数字でありのままの姿を見せてあげて、自分では見えづらい長所や短所に気づけるよう補助してあげるのが、CFOの役割です。
そのためには、数字を見られるだけでなく、CFO自身も事業特性を理解している必要があります。
事業特性とは例えば、スクウェア・エニックスのようなゲーム会社でいえば、スマホゲームは作品一本一本を見ると当たり外れが大きいですが、ある程度まとまった資金を投下し一定数の作品をリリースすると、その中から一定確率でヒット作品が生まれる。そのヒット作品が他の作品で生じたマイナスを補って、全体でも大きな利益を達成するというファンドのような事業特性を持っています。
一方で据え置き型ゲームは、開発費も多額で開発期間長いことから、一発必中で確実にヒットさせなければいけません。なおかつそこから強いIPを生み出し、スマホゲームに展開してさらなる収益を重ねていく役割を持ちます。このように事業特性の違ったビジネスをポートフォリオとして組み合わせることで全体の収益の安定性につながるのです。
こうした事業特性を考えずに、目の前の数字だけ眺めていても、事業の成長に貢献しません。財務諸表は、事業を数字で表したものです。事業を知っていることと、数字を読み解けること。両者を兼ね備えてはじめて、CFOが務まるんです。
こうした役割は、20世紀の日本企業においては、そこまで重要度が高くなかったという。特に高度経済成長期からバブル期にかけては、ソニーのウォークマンに代表されるように、事業面で圧倒的なイノベーションを起こしていたので、細かく数値を見ながら改善せずとも成長できたのだ。それゆえ、経理部長のように「帳簿を管理する人」(ブックキーパー)さえいれば十分だったそうだ。
しかし、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代が終わり、激しいグローバル競争下に置かれている21世紀現在、悠長なことは言っていられない。ここ10年ほど、CFOという役割が社会的に認識され始めたことにも、そうした背景があると渡邉氏は語る。
渡邉事業の調子が良くてブイブイ言わせている会社でも、数字面をきちんと見ておかないと、いつか必ず苦労するときが来ます。事業の採算性を見ずに、感覚によるどんぶり勘定を続けていると、思い描いていた状態とかけ離れた状況になっていても気づけないんです。
ネットプロテクションズのポートフォリオとしては、ある程度安定した既存ビジネスである『NP後払い』で利益を確保し、それを成長段階にある『NP掛け払い』や『atone』に投資していく必要があります。『NP後払い』で稼げていればOK、といった単純な話ではありません。
事業特性としては、数パーセントの手数料ビジネスゆえの一取引あたりの利幅の薄さが挙げられます。したがって、取扱高を伸ばすこと、手数料率を安易に値下げせずに維持すること、債権の貸し倒れを起こさないことが大切になります。薄利多売モデルなのか、少ない数量で付加価値を高めて稼ぐモデルなのか……。
ネットプロテクションズはクレジットテックにより付加価値を兼ね備えた多売モデルを追求することになりますが、そのような事業特性を踏まえ、それを数字で可視化し続けていくことが重要です。
健全な問題意識や知的好奇心が、
「事業を数字で見る」力を育む
2020年9月現在の渡邉氏は、「事業を数字で見る」カルチャーを浸透させるべく、開発したフレームワークを研修を通じて全社へ浸透させる準備を進めているそうだ。入社して2ヶ月しか経っていないが、すでに手応えを感じはじめているという。
渡邉私が事業の数字を分析してメンバーに話すと、すぐに内容を理解し、今度は自分たちで分析しはじめる。そして事業の改善案を考え、アドバイスまで求めてくるんです。私と話す前後で、すでにランクが一つ上がっていることを感じました。
このスピード感は想像以上でしたね。見方さえシェアしてあげれば、どんどん吸収してくれる。私はもう年齢的には社会人生活の終盤に差し掛かっていると思うので(笑)、これまで培ってきた知見や経験を、世代を超えるDNAとして組織に残せたらいいなと思っています。
「事業を数字で見る」力をつけるためには、「健全な問題意識や知的好奇心」が必要だという。日々ニュースに接する中でも、漫然と受け流すのではなく、ものごとの背景や代替案を自分の頭で考え続け、そのプロセス自体を面白いと思える。そんな特性を持った人は、ネットプロテクションズが向いているかもしれない。
渡邉ネットプロテクションズは、まだまだ若い会社です。社員の半分以上を過去5年間で新卒入社してきたメンバーが占めており、若い力に支えられている。だからこそ、今後どういった成長を遂げ、どんなロールモデルが生み出されていくのか、非常に楽しみです。
まだまだ課題がたくさんある、裏を返せば伸びしろが非常に大きいこの会社を、事業を数字で見る力を身に着けながら一緒に作り上げていくことを楽しめる人に仲間になってほしいですね。
こちらの記事は2020年10月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
写真
藤田 慎一郎
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
特別連載信用経済社会におけるプラットフォーマー ネットプロテクションズ
11記事 | 最終更新 2020.12.29おすすめの関連記事
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