「成長したい」だけじゃちゃんと成長できない⁉
ベンチャー執行役員が“思考停止に陥る成長環境”に警鐘を鳴らす
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「成長」が何を意味するか、深く考えたことはあるだろうか。
特にビジネスシーンでは、無条件に「善きもの」として捉えられがちだ。しかし、後払い決済事業を中心にクレジットテック市場を牽引するネットプロテクションズで人事を担当する執行役員の秋山瞬氏は「『成長』はマジックワード。何も言っていないに等しい」と一刀両断する。
「フィンテック企業の多くは仕組みが出来上がっており、成熟期に入っているように見えるが、もはや成長環境ではないのか?」
本記事のインタビューは、この問いについて考えるために実施されたものだった。しかし、秋山氏はその前提に疑義を呈する。
新卒で社員数4名のHRスタートアップに入社して企業成長を牽引したのち、決済プラットフォームを運営するフィンテック企業の執行役員になった秋山氏。彼のキャリア論は、フィンテック企業への転職を考える読者のみならず、あらゆるビジネスパーソンに対して、重要な問いを投げかけるものだった──。
- TEXT BY MASAKI KOIKE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「成長したい」という思考停止ワード
「フィンテック企業はもはや成長環境ではない」といった見方について、どう思われますか?
秋山うーん、そもそもここで言う「成長」って何ですかね?
そういえば、人によってイメージがバラバラな気もします……。
秋山「成長」ほどマジックワード化している言葉もないと思うんです。厳しいことを言えば、漠然と「成長したい」と口にしている人は、キャリアについて考えているつもりかもしれませんが、実際には何も言っていないに等しい。
何のために、どのような成長がしたいのかによって、身を置くべき環境は変わってくると思っています。
まずは目的を定めることが重要、ということでしょうか?
秋山そうですね。スポーツで例えてみましょう。
漠然と「速く走れるようになりたい」と言っても、サッカー、野球、陸上など、競技によってもその目的が異なります。また、分かりやすく陸上競技だとしても、短距離走と長距離走では、つけるべき筋力やこなすべき練習メニューが全く違いますよね。つまり、「何のスポーツで、どう速く走れるようになりたいのか?」によって成長環境は異なるというわけです。
これはビジネスでも同じだと思います。一口に「事業づくり」と言っても、ビジネスモデルや事業規模によって、巻き込むべき人数や必要なスキルは大きく異なります。それにもかかわらず、「まずは数億円規模の事業をつくれる地力をつけてから、ゆくゆくは数兆円規模の事業を生み出せる力を身につけよう」といった発想になる人が多い。
短距離走が速くなれば、長距離走も速くなるわけではありません。両者が延長線上にないことは容易に想像がつくはずなのですが、なぜかビジネスになると勘違いする人が多いように思います。
どんなビジネスをしたいかによって、求められる要素も変わってくると。
秋山ハーバード教育大学院研究教授の心理学者、ロバート・キーガンが提唱した成人発達理論では、人間の成長は大きく二軸に分類されています。知識やスキルをつけていく「水平的成長」と、人としての器を大きくしていく「垂直的成長」です。
秋山たとえば、事業が急速に伸びている環境では、その拡大スピードについていこうとすると、否が応でも水平的成長を遂げていくことになる。一方で、内面的なリフレクションをする余裕が少ないため、垂直的成長がしにくいこともあります。
今の自分に必要な成長が「水平的」なのか「垂直的」なのかによって、身を置くべき事業フェーズや拡大スピード、周囲のメンバーの性質は大きく変わってくると思います。
「優秀な人に囲まれたほうがいい」という嘘
まずは自分が求めている「成長」の中身を明確にすることが大切だと。
秋山また、適切な成長のスタイルも、人によって異なります。自分より優秀な人たちに囲まれて、背伸びしながら食らいついていくのが合っている人もいれば、組織の中核メンバーとして、ストレッチする機会を得て試行錯誤することが向いている人もいます。
ちょっと私の話をしますと、実は昔から受動的な学びがすごく苦手で、学校の授業でもすぐに寝てしまうようなタイプでした(笑)。でも──こう見えて理系出身なのですが──能動的に仮説検証ができる実験や研究だけは楽しかった。
そうした経験から、自力で悩みながら前に進んでいくほうが自分の成長スタイルに合っていると自覚してはいました。なので、育成環境の整った大手企業ではなく、創業期スタートアップをファーストキャリアに選んだんです。
競争が激しい環境に向いているかどうかも、その人のタイプ次第ですよね。
秋山はい、仲間との間に構築できる関係も変わってくると思います。
前職のHRスタートアップは、みんなが同じようなスキルを持っており、横並びで走るライバルとして切磋琢磨しあう競争環境だったのですが、今いるネットプロテクションズは、異なる職種同士によるチームプレイ志向が強い。お互いの意向を尊重し、支え合いながら高みを目指していく環境なので、また違う関係が生まれていると思います。
この違いは評価制度にも表れていて、前職は完全に個人ごとの成果を評価していました。一方で、ネットプロテクションズは短期の成果というよりも、長期のミッションやビジョンを実現するために必要なコンピテンシー(行動特性・実践能力)で評価しています。
ネットプロテクションズの人は、同期との激しい競争環境より、チームの協力関係で成果を出す心理的安全性の高い組織に魅力を感じているということでしょうか?
秋山それはあると思いますね。ただ、この点に関して一つ言いたいのが、「競争しないこと」と「心理的安全性があること」は別だということ。最近は「心理的安全性の高い環境」を求める方も少なくありません。そうした環境と「競争のない生ぬるい環境」を混同しているケースも散見されます。
でも、それは誤解です。心理的安全性の高さは、本音で厳しく求め合える信頼関係がベースとなっています。むしろ安心して健全に競争し、高め合える環境のことを指すんです。
「心理的安全性」という言葉だけが、一人歩きしていると。
秋山よく聞く「裁量権」も同様です。一口に「個人の裁量」や「現場の裁量権」と言っても、任せる業務の性質で実態は大きく異なります。「すでにできる仕事を任せる」場合と「未経験でもチャレンジを推奨する」場合では、環境は全く違いますよね。
そして「成長環境」も、事業と、組織と、個人では事情が異なる点も大事です。事業が急速に伸びていても、組織としては崩壊寸前であるケースは珍しくないですし、個々のメンバーが育っているとも限りません。漠然と「伸びている会社に行きたい!」と意思決定するだけだと、自分にフィットした環境には巡り合えないと思います。
優秀な人に囲まれる環境、心理的安全性のある環境、裁量権のある環境……これらは必ずしも「成長」環境とは限らない、ということですね。
キャリア構築とは、「旗を立てて行動し、また決め直す」の繰り返し
求めている「成長」の中身、適しているスタイルによって、身を置くべき環境は変わってくる。でも、それはどうすればわかるのでしょうか?
秋山月並みかもしれませんが、まずは何よりも、自分を知ること。大切にする価値観、なりたい姿、ありたい状態──自分を知らずに、適切な成長環境なんてわかるはずがない。逆に自分を知ることができると、おのずと進む道も見えてくるように思います。
そのために必要なのは、自分の人生を振り返ったり、周囲の人にインタビューしてみたり、就活時にする自己分析のような手段になるんでしょうね。正直、ここに裏技や近道なんてものはないように思います。
まだ学生で働いたことがなくても、社会人経験が浅かったとしても、わからないなりに一旦は決めるしかないんです。自身が経験したこと以外は誰もわからない。だからこそ、「わからない」で思考停止せずに、とにかく何かしら旗を立てて行動していけば、絶対にフィードバックが返ってきます。それを材料に、また決め直す。その繰り返しこそが、キャリアをつくる。自分の体験からも、これまで関わってきた多くの方を見ていても、そう思っています。
精一杯考えてアクションしたことであれば、仮にうまくいかなくても「選んだ道を正解にしよう」というマインドになれる。でも、その意思決定が中途半端で、誰かに言われるがままに決めてしまったりすると、「こんなはずじゃなかった」と失敗を環境のせいにして後ろ向きになってしまう。
「ファーストキャリアに失敗したかも?」とモヤモヤしたとしても、その気づきがあるだけ幸運だと思いますよ。もしそれが全力で考えて決めた結果なら、次の意思決定の参考になる材料が増えたといえます。自分を知る情報を集めるためにも、将来的に変わっても良いので、まずは一旦決めなくては。
秋山さん自身は、どのように「決めて」きたのでしょう?
秋山もともと家業を継ぐつもりで育ってきました。でも、就職活動の直前に、自己破産することになってしまって……。いきなり「今後は何してもいいよ」となり、参ってしまいました(笑)。
でも、親を見て「会社が潰れても死ぬわけではない」と実感し、「1回きりの人生、やりたいことにチャレンジしよう」と思い直しました。だからこそ、社員が4人しかいない創業期スタートアップに、新卒で入社する意思決定ができたんです。
その後、社員数が60人近くまで増えたのに、リーマン・ショックの影響で10人近くまで減って……ジェットコースターのような日々を過ごしていきました。しかし、次第に属人的なHRビジネスだけではなく、別のスタイルのビジネスにもチャレンジしたいと考えるようになったんです。
そうしてプラットフォームビジネスに興味を持ち、ネットプロテクションズに転職することを決めました。
フィンテックの面白さは「プラットフォーマー化」にあり
ここまでのお話で「成長」にまつわるイメージを変える着眼点をいただけました。そのうえで、「フィンテック企業は土台が固まりつつあり、ゼロイチの立ち上げはしにくい環境」といったイメージを、どう思われますか?
秋山PayPayやLINE Pay、freeeやマネーフォワードなど、フィンテック企業といっても、規模も事業形態もサービス内容もさまざまです。「成長」と同じですね(笑)。それでも、あえてtoCもtoBもひと括りにして考えるなら……主力級のサービスをゼロイチで立ち上げるフェーズの企業は少ないと思います。
でも、プラットフォームとしての土台があるからこそ、ダイナミックでインパクトの大きいチャレンジがしやすい環境でもあると思います。顧客やデータが豊富に蓄積され、新しい取り組みに挑戦する土壌がある。金融サービスを入口に、レンディング事業や別領域に踏み出している会社も見られますよね。つまり、フィンテックのサービスを運営していると、新規事業を展開する際の拡張性が高い。
また、既存の金融機関と連携することで、ゼロからの起業では数十年かかるインパクトが、一気に生み出せると思います。
プラットフォーマーならではの面白みですね。
秋山ネットプロテクションズもプラットフォーマーです。そして、プラットフォーマーは誰にでも同じサービスを提供できるように、標準的な仕組みを構築する力が求められます。
前職のHRスタートアップは逆で、目の前の人を幸せにするために、属人的で個別化した対応を取るのが当たり前でした。でも、ネットプロテクションズでそのように動くと、プラットフォームとして多くの人びとに同じ価値を提供できなくなってしまう。再現性のないサービス提供は公平性を欠いてしまう可能性もあると学びました。なので、あらゆるステークホルダーを見渡して、全体最適の視点を持ち続ける必要があります。
いわゆる「保守・運用」のようなオペレーティブな業務が多そうな印象もあります。「地味で面白くなさそう」と感じる学生や若手も多いようです。
秋山もちろん、そうした業務も不可欠ですが、それってSaaS系スタートアップの「カスタマーサクセス」と似たような感じですよね。お客様の声に向き合って、より良い体験の試行錯誤を重ねていく。「より多くの顧客に影響(インパクト)を与えるための仕組みづくりの一貫」と捉えると、見え方は少し変わるかもしれません。結局は、意味づけや捉え方の問題なのかなと。
……と言いつつも、フィンテックは未成熟な領域でもあります。例えば、決済、仮想通貨、レンディングって、中身は全然違いますよね。でも、まだまだ黎明期でジャンル分けが確立されていないので、「ファイナンス×テクノロジー」で「フィンテック」とまとめられている。ぶっちゃけ、「IoT」と同じくらい粗い粒度の言葉なんですよ。
ネットプロテクションズもようやく「クレジットテック」と掲げ始めましたが、これからやっと個々の領域が確立されていく、チャンスに溢れたフェーズです。
フィンテックしたいなら、ネットプロテクションズじゃないほうがいい
チャンスに溢れているネットプロテクションズは、どのような成長環境にあるのでしょうか?
秋山実は「フィンテックで食べていきたい!」という方には、得られるものが少ない環境かもしれないんですよ(笑)。金融業界の出身者も少なく、正社員は「企画」と「マネジメント」を担い、実作業は専門的なパートナーにお願いする経営方針なので。
でも、金融業界の常識を持っていないからこそ、破天荒な取り組みにチャレンジできる。「後払い決済」をはじめ、普通に考えたら「無理でしょ」と思われる挑戦を突破してきたのが、ネットプロテクションズの歴史です。「つぎのアタリマエをつくる」を掲げ、業界や領域にとらわれずにチャレンジし続けられる環境なんです。
2019年11月には大規模アップデートを発表していましたが、現在はどんなフェーズなのでしょう?
秋山ネットプロテクションズは「三層経営」を大切にしています。
秋山現在は、第一層の土台が整ったフェーズ。第一層を国内外に拡大させるのはもちろん、第二層、第三層へ積極的にチャレンジしていけるので、あらゆる機会が生み出せます。
逆に言えば、「ある程度完成したフィンテック企業だから」と安定的な思考でジョインしたい人にとっては厳しい環境。「ミッション実現においてはまだまだ道半ばですよね、一緒につくっていきましょう」という気概の人がフィットすると思っています。
スタイルとしては、個々のメンバーが自律・変容していくことを重視しているので、単に自分だけスピーディーな水平的成長を遂げることを求めている人は、ネットプロテクションズには合わないと思います。一方で、人事や経営が環境を提供するのではなく、みんなで自発的に場をつくり、垂直的成長を遂げていくことを求めている人にとっては、良い環境と言えるのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、どちらが良い悪いという話ではありません。そもそも、万人にとって良い環境なんてありませんしね。自分を知り、自身のスタイルに合った会社を選び、自らが主体者となって成長環境をつくっていくことが、大事なのではないかと思います。
こちらの記事は2020年09月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
写真
藤田 慎一郎
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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