創業2年で累計30億円調達のOLTAに聞く、サービスを急成長させる「パートナー連携」と「UX設計」の戦略
巨大なマーケットが存在するにも関わらず、これまで目立つスタートアップが登場していなかったファクタリング(請求書買取)領域に、彗星の如く現れた企業がある。日本初のオンライン完結型ファクタリングサービスを提供する、OLTA株式会社だ。
同社は2019年6月、SBIインベストメント、ジャフコ、新生銀行、BEENEXTからの第三者割当増資により18億円、さらに複数の金融機関との融資を合わせ、合計25億円の資金調達を実施。今回の資金調達により、2017年4月の創業から2年間での資金調達額は累計30億円となった。
本記事では、OLTA代表取締役CEOの澤岻優紀氏と、取締役CSOの武田修一氏にインタビュー。あえてステルスで事業を進めた戦略から、金融機関等に与信審査システムを提供していく展望までを語ってくれた。
- TEXT BY HUSTLE KURIMURA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY TAKUMI OKAJIMA
「最終手段」ではなく、“攻めのファイナンス”としてのファクタリング
ファクタリングとは、自社の持つ請求書(売掛金、受取手形など)を、売却することによって現金化する資金調達の方法を指す。企業にとっては請求書の入金日よりも早く現金を手にできるメリットがあり、「借りない資金調達」とも呼ばれている。ファクタリング会社は現金化の際に、ユーザーや請求書のリスクに応じた手数料を得る。
OLTAが提供する「クラウドファクタリング」では、入金待ちの請求書(売掛金)をOLTAがオンラインで買い取り、審査が終わり次第、最短即日でユーザーへ資金を振り込む。ユーザーは期日に売掛先から入金があり次第、OLTAに返還する仕組みだ。
従来、大手金融機関が提供するファクタリングサービスは、数十億〜数百億円単位の調達案件がほとんどを占め、主に大企業向けの資金調達手段とされてきた。一方、中小企業向けのファクタリングサービスは小規模のノンバンクが中心で、対面式で高い手数料を徴求するなど課題があった。
対してOLTAのクラウドファクタリングは、請求書の買取金額に上限・下限を設定しておらず、手続きもオンラインのみで完結できるなど、中小企業でも利用しやすいことが特徴だ。
24時間以内に買取結果が分かることや、手数料が2~9%と業界最安値の水準であること、売掛先に知られないことなどが強みとなり、中小企業から強い支持を集めている。申込み金額は、サービス開始からわずか1年半で120億円を突破した。
澤岻従来の中小企業向けのファクタリングは、資金繰りがうまくいかなくなり、何も打つ手がなくなった企業がやむなく講じる「最終手段」として扱われてきました。私たちが目指すのは、会社がさらなる成長を目指して資金を得る“攻めのファイナンス”の手段として、ファクタリングを広めていくこと。
会社が事業成長しているときに売掛金を売却し、次の成長へと投資する。非連続な成長を振り返ったときに、「ファクタリングがあったから、ここまで成長できた」という企業を増やしたいんです。
これまでファクタリング領域で名をあげるスタートアップが登場していなかった理由を問うと、「環境が整っていなかったからだ」と澤岻氏は答える。2016年以降のマイナス金利によって銀行の収益構造が悪化し、FinTech企業との提携を積極的に進めて新たな収益源を生み出すという流れが起こっている。
「働き方改革が叫ばれるなか、地方の金融機関はRPAやSaaSの活用によってコスト削減をすることはできても、トップラインを伸ばしていく施策は打ち出せていないことが多い」と澤岻氏は指摘する。
武田氏は「融資という金融サービスが王道と認識されている業界で、伝統的な金融機関が一番手としてオンラインのファクタリング市場に参入することはない」と確信を持っていた。
武田銀行の人たちからすればファクタリングは「雑居ビルなどで見かける怪しげなサービス」くらいの認識です。大手金融機関が、そのような領域に参入しようという発想は、そもそも生まれません。
僕たちが事業のピッチをすると、「たしかにニーズがあるし、面白いサービスだ」と高く評価してもらえることもあれば、「ファクタリングはリスクがあるから、危険だ」と言われることもある。バイアスがかかっている領域だけに、今まで参入しようとする企業が少なかったのだと思います。
澤岻現在も、オンライン完結型のファクタリングサービスを提供しようとしているベンチャーは、私たちが観測してる限りでは弊社の他に見かけませんね。
大手金融機関がファーストムーバーとして参入しないということは、私たちのようなスタートアップが挑戦する意義があるし、このような業界の現状に課題を感じたことは起業の決め手にもなりました。これから、どんどん競合企業が登場してくると予想しています。
“協業”によって「与信審査の精度向上」と「中小企業へのリーチ」を狙う
澤岻氏は、OLTAのさらなる事業成長に向けて重要な要素は、「地銀をはじめとしたパートナー企業との提携」だと力説する。
その理由は、OLTAが得られる信用に関わるからだ。地方企業が金融サービスを利用する場合、サービス提供者の信用度といった、一見非合理的な基準でユーザーに選ばれることも少なくない。その点で、地銀は地方で多大な影響力を持っている。澤岻氏は地銀との提携を「壮大な借景マーケティング」と表現する。
さらに、地銀をはじめとするパートナー企業の協力を得ることで、与信審査の精度を高めるためのデータがより速く集まる。これが従来のファクタリング企業や追随する競合への差分になっていくと澤岻氏は見ている。
澤岻たしかに自分たちの資金で請求書を買い取った方が収益性は高まりますが、とにかくデータを集め、最大の競争優位性となる与信審査の能力を高めていくことが何よりも大切だと考えています。
地銀様も含め、顧客基盤やデータを既に持っている一方、「ファクタリング事業に参入したいけれど自分たちの力ではやり切れない」といった企業をどんどん巻き込んでいきたい。 企業規模は問わず、様々な会社と一緒にマーケットを盛り上げていくのが理想です。そのためにパートナーを増やしていきたいし、ファクタリング事業に新規参入する企業とも健全な競争をしていきたいです。
サービスの認知拡大を進める意味でも、他企業との提携は重要になる。「地方新聞に掲載されたり、地方企業とタイアップしたりすることが効く」と武田氏は話す。
武田僕たちが自力でファクタリングの良いところをアピールしても、一部の先進的なユーザーにしか届かないでしょう。地方に目を向ければ、「毎日の新聞や商工会議所の会報誌は読むけれど、ITニュースサイトはまったく読まない」といった経営者は数多くいます。僕たちの力だけでは、おそらく彼らにリーチできませんから、他の企業の力を借りることが大切なんです。その積み重ねが、「ファクタリングは当たり前」といった社会の実現につながっていくと信じています。
数兆円規模ともいわれるファクタリングのマーケットにおいて、ベンチャー1社だけの力でイノベーションを起こすのは難しいと彼らは認識しているのだ。
「はやい・かんたん・リーズナブル」。強烈なUXで、既存サービスの不便さをあぶり出す
OLTAのサービス戦略には、逆説的ともいえる方針がある。「強烈なUXを提供することによって、既存サービスが不便だったことに気付かせる」作戦だ。
既存の金融サービスは、供給側に優位な設計がなされていた。融資の回収可能性を高めるために、不動産を担保に取ったり、代表者個人に保証させたりといった契約も珍しくない。ユーザー側もそれらの不便さに対して、疑問を抱くことはない。しかし、OLTAが目指すような日常的に使い続けるサービスにとって、不便さは大きな障害になる。
武田従来のファクタリングは、中小企業向けの未回収リスクを織り込んだ、高い手数料のモデルが主流でした。「地方から東京の事務所まで面談に行かなければならない」などといった制約があり、少額の請求書を日常的にファクタリングで売却するような使い方は難しい問題がありました。
一方、OLTAは「はやい・かんたん・リーズナブル」なサービスを提供しています。オンラインでログインし、請求書をアップロードすると、すぐに買取の結果が分かって資金調達できる。手数料も業界最安値の基準です。必要なときに必要な分だけ、スピーディーに使いやすいことは、大きな強みだと思っています。
澤岻既存サービスの不便さを言葉で訴えたところで、おそらく何も変わりません。そこで、強烈なUXを提供することにより、ユーザーには無自覚的だった不便さに気づいてもらいたいのです。現在までにお客様からのクレームは極めて少ないです。それも、圧倒的な使いやすさや丁寧な対応をご支持いただけているからだと考えています。
OLTAは創業以来、利用率向上のために、固定観念にとらわれない親しみやすいデザインも追求し続けている。
澤岻デザイン全般において、ユーザーに親近感を持ってもらうための工夫を凝らしてきました。なかでも、創業時から特にこだわってきたのが、サービスのロゴやシンボルマーク等のCI。
犬を採用した現在のシンボルマークには、「資金繰りなど、経営者の皆様の日常に寄り添って伴走できるサポーターでありたい」願いを具体的に表したものです。実はこれ、創業時から2代目のCIなんです。最初のデザインも気に入っていましたが、既存の金融機関のように抽象的なアイコンを用いるのではなく、自分たちが提供できる価値がより分かりやすい、シンボリックなデザインを目指し、現在のデザインに変更したんです。
「ベンチャーが使うサービス」と思われないよう、あえて“ステルス”で事業推進した
前職時代、アサインされた仕事に満足しつつも、次第に「自分の事業をやりたい」想いが強まっていったという澤岻氏。会社に所属しながら起業準備をすることもできたが、「本業が忙しくて時間がない」という言い訳をしてしまう自分に気づき、29歳の誕生日の翌日、退職と起業を決意。その後、事業ドメインを探すなかで、前職時代の経験がきっかけとなり、ファクタリング領域にたどり着いた。
澤岻氏がそれまで支援していた大企業は株や社債といった様々な選択肢があるのに対し、中小企業の資金繰りに目を向けると、まるで『半沢直樹』の世界のように、銀行員に融資を打診する以外の選択肢がなかった。「テクノロジーを導入すれば、この現状を変えられるかもしれない」と感じたのだ。
2016年末に澤岻氏はビジネスマッチングアプリ「yenta」を経由し、ソニーでPlayStationなどの経営戦略に携わっていた武田氏と知り合う。初対面で意気投合したふたりは、ハッカソンやアクセラレータプログラムへ参加するため、武田氏が退勤した夕方以降の時間などで事業構想を固めていった。
市場調査のため、ファクタリングの利用経験がある人やファクタリング事業者にインタビューしたところ、提供されているサービスの不便さや、その現状を変えようとしない業界の姿が明らかになった。事業ドメインを決めてからは、銀行なども含めた関係者へ徹底的にヒアリング。集めた情報から業界課題を抽出していった。
2019年6月の資金調達以前、OLTAはリリースを出すこともなく、ステルスで事業を成長させてきた。競合が現れても負けないスコアリングモデルの精度向上と、プロダクトのUX改善を優先させる狙いがあったからだ。ステルスで愚直に本質的なニーズ検証を目指す経営スタイルは、エンジェル投資家である有安伸宏氏に学んだという。
地方の中小企業からのニーズの調査には、リスティング広告の出稿を活用。結果として、オンライン完結型サービスであっても利用が見込めると明らかになったが、事業の性質上、VCからの評価は賛否両論があった。
澤岻「請求書を自分たちで買い取る」と説明すると、どうしても「金融」のイメージが強くなります。出資したお金が請求書の買取資金として使われ、それが返ってこないリスクに対して、「そのビジネスモデルなら出資できない」と伝えられることも多かったです。
武田「いっそのこと、与信審査のシステムを銀行などに外販するビジネスに徹するのが良い」とアドバイスを受けることもありました。しかし、実際に請求書を買い取って、ビジネスとして成立している状態をまずはつくらないと、誰もそのシステムを信用して使ってはくれませんよね。だから、まずはすべて自社でやることにしたんです。創業半年のタイミングで僕たちの会社の方針を決める、大きな決断でした。当時からその決断を信じてベットしてくれたジャフコさんとBEENEXT前田ヒロさんには、本当に感謝しています。
「インテルのCPU」のように「与信審査システム」を提供し、マーケットの拡大を支える
澤岻氏は「将来的にOLTAの与信審査システムは、インテルのCPUのようになる」という。
PCのマーケットが広がっていく際、東芝やソニーといった主要なメーカーの多くがインテルのCPUを採用した。その結果、パソコンが普及すればするほど、メーカーに関係なくインテルのブランド価値が高まっていった。
OLTAも他社がファクタリングサービスを提供したいときに、インテルのCPUと同じように、黒子として与信審査のシステム部分だけを提供することを目指す。それにより、OLTAのブランド力も向上する。ファクタリングのマーケットで柔軟に立ち回り、市場そのものを拡大するべく、ファクタリングを提供したい他のプレイヤーと協業していく展望を描いているのだ。
武田私たちは今後、ファクタリングの要である与信審査システムの提供に注力していきます。地銀様などのパートナーには、ユーザー向けの審査のみならず24時間以内の審査体制などをパッケージで提供していきます。
一方でSaaSのパートナー企業などについては、ユーザーの方がたが普段お使いの画面上にファクタリング機能を実装するなど、UI/UX部分はパートナー企業と一緒につくっていく。自分たちのコアバリューである与信の部分を最大限に伸ばしながら、ファクタリングを普及させていくことが大切だと考えているからです。
巨大な市場規模を持つファクタリング領域でこれまで目立つスタートアップが登場しなかったのは、業界の環境が原因だったと分かった。そのような背景から登場したOLTAは、「マイナス金利の影響による銀行の収益構造の変化」という最適なタイミングを掴み、ユーザーが求めるサービスを愚直につくり込むことで事業を加速させてきた。事業ドメインを選定する際は、市場規模を推定するだけでなく、参入するのに最適なタイミングかどうかを見極める選球眼が求められる好例だろう。
こちらの記事は2019年09月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
ハッスル栗村
1997年生まれ、愛知県出身。大学では学生アスリートを取材し、新聞や雑誌の制作・販売に携わる。早稲田大学文学部在学中。
写真
藤田 慎一郎
編集
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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