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18-07-02-Mon

22兆円のペット市場で進む「飼育の効率化」── 欧米スタートアップ11選からみる最新トレンド

TEXT BY TAKASHI FUKE
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「効率」を求めるペットの飼い主たち

ペット飼育業界において、「効率化」が一つのキーワードとなりつつある。

『INDEPENDENT』の記事によると、犬の飼い主は年間で1,000マイル(約1,600km)の距離をペットと一緒に歩き回るという。また、週平均10回散歩に出掛け、1回の散歩時間は34分に及ぶという。これは年間で294時間も費やす計算になる。

一方で、飼い主がペットに時間的、体力的コストをかけられていないというデータも明らかになった。47%の人が天候の悪さから、39%の人が時間の余裕のなさから、20%の人が身体の疲れから散歩に出掛けない日がしばしばあると回答している。

こうした背景から、散歩の外注やミールキットを通じた食事管理、IoTを使った健康データ収集など、飼い主はさまざまな分野にお金を費やし、飼育をより効率化する傾向が出てきた。

本記事では効率化の観点をもとに、3つのカテゴリーからペット市場で活躍するスタートアップを紹介していきたい。

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犬の散歩版Uber ── 「Wag!」「Rover」 「DogHuggy」

1つ目のカテゴリーは、犬の散歩をドッグシッターに任せるオンデマンドサービスだ。

2018年1月、「Wag!(ワグ)」は「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を筆頭に、3億ドル(約330億円)という大型の資金調達をおこなった。この件を境に、世間の注目が一挙にペット市場に注がれた。

Wag!

競合の「Rover(ルーバー)」は、2017年3月に累計4,700万ドル(約51億円)の資金調達をした「DogVacay(ドッグヴァケイ)」を買収。2018年5月に入ってからは1.55億ドル(約170億円)の調達を実施し、Wag!を追随している。

Rover

なぜ、両社はここまで大型の資金調達をできたのだろうか。配車サービス「Uber」のビジネスモデルを他市場に持ち込み、拡大していったサービスは数多あるが、Wag!やRoverの規模にまで成長できるケースは稀だ。

考えられる答えは2つある。

1つは、厳しい採用基準とAIの活用だ。たとえば、老人介護者とのマッチングサービスを展開する「Honor(オーナー)」の事例が好例だろう。同社は老人介護サービスを受けたい顧客と、自社で採用した介護者をマッチングするプラットフォームを展開する。

ここで注目すべきはマッチングの仕組みだ。『BusinessInsider』の記事によると、Honorの介護者の合格率は5%と非常に低い数値となっている。こうした厳格な審査制度を敷くだけでなく、HonorはAIによるマッチング技術を活用している。

たとえば、顧客が中国系の高齢者だとしよう。その場合、介護者の中から、中国語を話せるのはもちろん、中国の文化や儀礼にも詳しい介護者がAIを通じてマッチングされる。顧客の属性に応じて、瞬時に介護者のプロフィールと照会し、高い精度のマッチングをおこなう。

AIによるマッチング効率の最大化は、Wag!やRoverでも同様のことがいえるだろう。

ドッグシッターは、老人介護ほど難しいタスクが要求されないため、比較的採用の敷居が低い。それでも「Rover」は公式ウェブサイト上で20%の採用率と明記している。『TechCrunch』の記事によると、全体のドックシッター数は約20万人という。質の高い人材を集める上で、AIを使ってドッグシッターと顧客とのマッチングをおこなっているであろうことは想像に難くない。

2つ目がロケーションデータだ。たとえば、Uberは、膨大な移動データを解析して、移動時間が最も短い効率的な道を常に提案できるようにアルゴリズムの精度を磨いている。

配車サービス同様に、犬の散歩コースのデータが集まれば、どの道順を辿れば最適な時間で散歩ができるのかを把握できる。事実、『The New York Times』の記事では、「Wag!」が犬のロケーションデータを常にトラッキングしている可能性について指摘している。

「データが資産」と掲げるソフトバンクにとって、投資先のUberやWag!から得られるロケーションデータと、そこから分析されるルート情報は価値が高い。ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先の1つでもある地図情報プラットフォーム「mapbox」とデータ連携をおこない、ビックデータ時代の情報インフラのポジションを狙っていることも考えられるだろう。

日本では、ペットシッターをマッチングするサービスとして、株式会社サイバーエージェントベンチャーズから投資を受けている「DogHuggy(ドッグハギー)」が挙げられる。

DogHuggy

同社がWag!やRoverのように、AIやビッグデータを用いた戦略を考えているかはわからない。しかし、マッチング精度を最大限にまで高める戦略をもとに、巨大なアジア市場を見据えた展開をすれば、さらなる大型調達に成功し、サービス拡大が望めるかもしれない。

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ペット向けサブスクリプション・ミールキット ── 「NomNomNow」「PetPlate」 「ollie」「The Farmer’s Dog」

2つ目のカテゴリーは、サブスクリプションモデルのミールキットだ。

ペットを家族同様に扱い、人間と同じ質の食事を与えたい、毎回ペットショップに通って安物のペットフードを買いに行きたくないといったニーズが急速に高まっている。このような二ーズを満たす、ペット向けのサブスクリプションモデル・ミールキット市場が成長を遂げている。同市場の代表格として挙げられるのが「NomNomNow(ノムノムナウ)」だ。

NomNomNow

2018年5月、「NomNomNow」は1,300万ドル(約14億円)の資金調達をおこなった。『Globe News Wire』によると、2016年12月から2017年同月までの成長率が6.5倍という。

サービス内容は非常にシンプルだ。犬猫問わず、各顧客がペット情報を入力する。そしてプロフィールをもとに、幾つかのレシピが提案されるので、配達前に事前に選択する。あとは食材の入ったダンボール箱が届き、真空パック詰めされている食事を与えるだけだ。利用料金は、小型犬で毎食3ドル、月額サブスクリプション料金は84ドルからとなっている。

競合には「PetPlate(ペットプレート)」「ollie(オリー)」「The Farmer’s Dog(ザファーマーズドッグ)」がある。いずれのサービスも、特徴的なのはオーガニック志向である点だ。

PetPlate

CISION』の記事によると、野菜の多い食生活をしたペットは平均して32カ月長生きし、犬は最大65%ほど癌の発生率を抑えることができるという。人間と比べて寿命の短いペットに、1日でも長く生きてほしいというニーズは高い。そのため、オーガニックミールキット企業の登場に伴い、安いペットフードを与え続けるこれまでの習慣が大きく変わろうとしている。

ペット向けミールキット市場は、どのような企業が生き残るか。1つの解がパーソナライズだ。

人間と比較して数倍もの早さで成長する犬猫たちは、年齢に応じた食生活の調整を細かくおこなう必要がある。ミールキットの場合、サービス登録時に、1度プロフィールデータを入力してしまえば、犬種や年齢に応じた、最適な食事の提案が可能となる。

こうしたパーソナライズ提案の精度を高め、十分なサービス価値を提供できる企業が生き残ると考える。この点、膨大なプロフィール情報を保有し、どの食事が好まれ、嫌われたのかなどの趣向データを幅広く集めているNomNomNowが1歩リードしているといえるだろう。

NomNomNowは、サービス拡大において先行し、パーソナライズ提案を通じてリテンション率の高い顧客をすでに多く抱えているからこそ市場を牽引できている。一方、後発のサービスが、いかに先行ミールキット企業を追いかけるのかという点において、2つの考えが浮かぶ。

1つは、前章で紹介したようなAIの要素を戦略に組み込み、より提案力を上げること。もう1つは、冒頭で述べたように、ペットに対して十分な時間を取れない顧客の問題を解決すべく、IoTとの連携が考えられる。

たとえば、1,000万ドル(約11億円)を調達した「Petnet(ペットネット)」には、ペットのプロフィールに合わせてパーソナライズ化した餌を与える自動ペット給餌器を提供している。こうしたIoTと健康志向のペットフード企業が連携すれば、顧客の時間節約志向と、ペットに対して質の良い食事を与えたいという2つのニーズを同時に満たすことができる。

Petnet

ペット向けミールキット市場でも、AIを用いるなど、独自の手法で提供価値を築く必要があるだろう。日本では「Oisix(オイシックス)」の通販サービスなどがこの分野に進出しているが、先進的な取り組みはおこなっていないように思える。ペットに高い予算設定が期待できるであろう日本においても、新しいペット向けミールキットサービスの登場が期待される。

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ヘルスケア市場の台頭 ── 「Vetted」、「PawPrint」、「Whistle」、「Vet’s Eye」

3つ目のカテゴリーは、ヘルスケア市場だ。ペットの健康管理を手軽に、かつ効率的におこないたいという飼い主のニーズも増している。

ペットは話すことができないため、飼い主は何か異変があればすぐに獣医師に駆け込んでしまう。しかし、『TechCrunch』の記事によると、89%もの症状が、自宅で治せる軽いものだそう。そこで登場したのが、オンデマンド獣医師派遣サービス「Vetted(ベテッド)」だ。

Vetted

同社は一律99ドル(約1万円)から獣医師を必要な時に自宅に呼ぶことができる。2017年8月に330万ドル(約3.6億円)の資金調達を実施。地元の信頼できるネットワークから選ばれた獣医師が派遣される。

2018年6月現在、ロサンゼルスのみで展開をしており、90分以内に駆けつける体制を敷いている。仮に処方箋が必要となったとしても、市販価格と比べて25~40%ほど安い。競合にはオンラインチャットと動画診療に特化した、遠隔医療サービス「Treat(トリート)」がある。

モバイルアプリやウェアラブルデバイスを通じた健康管理にも注目が集まっている。

PawPrint(ポープリント)」は、獣医師からの診断書や公式の健康診断記録をアプリ上で管理できる。処方箋が必要なペットがいる場合、服用が必要なタイミングに通知がくる。最も便利な点は、公共施設などで狂犬病の注射を打っているかなどの記録を求められた際に、アプリ情報を公式記録として提示できることだ。

PawPrint

ペットの首輪に装着する「Whistle(ウィストル)」はロケーショントラッキングと、健康データの収集ができる。「ペット向けのFitbit」といえるだろう。

Whistleは、ペット向けヘルスケア市場において事業を成功させた好例だ。同社は2016年、ペットフードメーカーの「Mars Petcare(マーズペットケア)」によって買収された。得られた健康データを分析し、時代のニーズにあったペットフードを開発するための買収であった。

仮にWhistleユーザーのアプリに、ペットの現在の健康情報をもとに、パーソナライズ化したペットフードの提案ができれば、高いコンバージョンを望めるだろう。

ここで大切なのは、収集した健康データを最大限活用していることだ。この点、VettedやPawPrintも、収集したデータを活かして、健康志向を高めるペット用品のレコメンドやパーソナライズ提案など、横展開をおこなえるかもしれない。

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大切なのは効率化とデータ活用

Grand View Research」のデータによると、2016年の世界のペット市場規模は1,300億ドル(約14兆円)。2025年にかけて年間平均成長率は4.9%と予測されており、2,020億ドル(約22兆円)規模にまで達する見込みだ。また、「矢野経済研究所」と『事業構想』の記事によると、日本のペット市場規模は1.5兆円にのぼる。

テクノロジーの発展や、シェアリングエコノミー概念の登場により、従来の飼育手法が大きく変わり始めている。20兆円を超える世界市場では、AIの活用やパーソナライズ提案、データ活用をもとにした効率化が進んでおり、同じトレンドは日本市場にもやってくるであろう。

このトレンドの中で、ペット向けサービスを提供する企業は、単なるマッチングプラットフォームの運営や、データ収集にだけ努めていては、成長戦略は描けない。獲得したデータを駆使して、顧客が持つ非効率の問題を解決するのかという姿勢に重きを置くべきだ。

本記事で紹介したスタートアップを参考に、日本でも多くの先進的なペット企業が登場することが期待される。

[文]福家 隆

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