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国内スマートロックの第一人者フォトシンス河瀬、さらなる“発明”を予告
「未来を思い浮かべて未来を作る」
世界初の後付型スマートロック「Akerun(アケルン)」のアイデアは、友人同士の飲み会で生まれたものだった──。
ちょっとした遊び心で始まったプロジェクトが、予想外の反響を受けて、法人化から約半年後には総額4.5億円の資金調達を実現。
飛ぶ鳥を落とす勢いのIoTベンチャーだ。
- TEXT BY MISA HARADA
事業を作る前に、まずは旗を上げ市場を作る
河瀬小さい頃から発明家になりたかったんです。
河瀬は、傍らに置いた「Akerun」に目をやり、そう語る。小さい頃から理科研究や工作が好きで、周りをあっと驚かすモノを作るのが大好きだった。
“何かを作りたい”、その情熱はいつしか事業への興味に移っていった。新卒でガイアックスを選んだのは、新規事業や起業への意欲が高いユニークなメンバーたちに惹かれたからだ。
入社3年目にして、ソーシャルメディアを活用したインターネット選挙運動の事業を担当。2013年、初めてネット選挙運動が解禁されたタイミングということで、河瀬は全キー局から取材を受けるほどの時の人となった。

代表取締役社長 河瀬 航大
河瀬実は選挙については当時全然詳しくなかったんですけどね(笑)。でも僕がネット選挙について発信していくと、『河瀬はソーシャルメディア専門家だけど、選挙についても話せるらしい』といろんなセミナーに呼ばれ始めて、自民党で講演をするくらいになったんです。
そうすると、いろんな政治家の先生からフィードバックがあって、政治の知識もどんどん入ってきた。そうしているうちに、ネット選挙が解禁される頃には、選挙にも詳しい河瀬が出来上がりました。その経験によって、とにかく“旗を上げる”ことの重要性に気づいたんです。
ネット選挙運動を通じて、河瀬は、“市場から作る”とはどういうことか、肌で感じることができた。
当時はまだネット選挙事業が盛り上がるかも不明な状況。その中で、自らネット選挙の長所・短所を外部発信してメディアに取り上げられることにより、自民党から大口発注を獲得したり、ガイアックスの株価が最大で50倍に膨らんだりといった目に見える結果につながっていった。
河瀬最初に事業から作り、自社サービスを宣伝したところで、メディアにとっては全然面白くないし、ネット選挙事業もここまで盛り上がってなかったかもしれない。まずこういう市場があるんだ!という旗を大きく掲げた上で、そこにフィットするように事業を生み出す、という感覚は非常に大事だなと。そこに気づけたのは、ガイアックスにいたからこそです。
アプリとモノが繋がる時代が来る
「Akerun」の発想は、ガイアックス時代、大学の友人たちとの飲み会で生まれた。「鍵をなくして困った」「冬場は寒いので、カバンから鍵を取り出すのが一層面倒だ」といった雑談の中から、「いつも持っているスマートフォンで鍵が開けば……」というアイデアが降りてきた。
飲み会には、パナソニックやソフトバンクの社員といったメンバーが混在。そこからさらに友人の友人も巻き込み、合計10人程度でプロトタイプをいとも簡単に完成させる。
一方、当然苦労もあった。ハードウェアの量産設計方法は、ソフトウェアの開発と違って、ノウハウがほとんどWeb上になく、町工場やアドバイザーの方々に相談し、なんとかAkerunを量産開発までこぎつけた。
プロトタイプ制作にも関わった創業メンバーの1人、小林は、もともとIoTに強い関心を抱いていた。
学生時代に起業し、シェアハウスのポータルサイトを運営していたが、プログラミングを勉強するために同サービスをクローズさせ、GMOグループに入社。1年で退社した後は、ANYTIMESの技術責任者をはじめとして、複数社のスタートアップ創業期における技術支援を行った。
そうして創業フェーズのスタートアップに携わるうち、自らも起業への意欲が再び沸いていることに気づく。そしてある日、海外市場の動向をチェックしていたとき、アプリとモノを繋げることの可能性に気づいた。
小林どんなにすごいアプリを作っても、もう世の中は驚かないってわかっていました。ただ、アプリと何かモノを実際に繋げたサービスは、シンプルなものでもめちゃくちゃ驚き感動してくれるんです。これは面白い、アプリとモノが繋がる時代が来るぞと思っていたときに、たまたまスタートアップのイベントで知り合ったのが河瀬でした。面白いアイデアがないか彼と話し合ったとき、一番ニーズがマッチしたのが鍵のIoT化だったんです。そこから数日後には、もうプロトタイプを作り始めていましたよ。
製品を作ろうとする中で、何件もの工場に依頼を断られた。しかし、こういった商品はとにかく早くリリースすることが大事。そのため工場から「2年くらいかかる」と言われたところを「3カ月で出したい」と伝えて怒られることもあった。
河瀬工場には戦後を知るご年配の方々が多く、海外にモノ作りの勢いで負けている今、モノづくりがわかっていなくとも『こんなものを作って世界を変えたい』という熱い思いを持っている若者というのは応援しがいがあったのではと、今振り返ると思います。若者にノウハウを教えれば、もう1度日本がモノづくり大国の座を奪還できるかもしれないと期待を込めて、最後はいろんな方が協力してくださいました。

6カ月をかけて無事製品が完成。そしてメディアに「Akerun」が取り上げられると、予想を超える反響が届いた。記事が出る前日に「念のため」と思い突貫で容易した1ページだけのWEBサイトに記載した問い合わせ用メールアドレスには、その日だけで100件以上の連絡が届いたのだ。
出資や業務提携を希望する声も届き、メンバーたちは“とんでもないことになった”という感覚に打ち震えていた。
「『Akerun』でコーヒー豆を挽いてみた」
介護業界や民泊、オフィス・一般家庭用とさまざまな用途の可能性を持つスマートロック。
「数億円規模の資金調達があったからこそ、2年もの間、スピーディに広告経由でのABテストを実現できた」と小林が語るとおり、現在ではWEB広告でのABテストの結果、オフィスでの導入ニーズが一番高いと判断。法人向けでの導入シェアを拡大していくことを目指している。
今後もスマートロックの需要の高まりが予想されるが、社員たちは、社名が「Akerun」ではなく、あくまで「フォトシンス」であることを忘れていない。
小林会社としてまだ始まったばかりなので、『Akerun』自体は最初のプロダクトくらいに思っていて、これからフォトシンスとしてガンガンいろんなものを作っていきたいんです。

共同創業者 小林 奨
もちろん、開発者として「面白さを世の中に」という姿勢も忘れていない。社内のエンジニアの1人は、「『Akerun』の機能を利用してコーヒー豆を挽いてみた」「『Akerun』でトースターをIoT化してみた」というブログを趣味として公開。
保守的な会社であれば「自社製品をオモチャにしている」と叱られてしまいそうだが、こんなチャレンジを笑って楽しむのがフォトシンスのカルチャーだ。
社内のちょっとした雑談の中から、エンジニア主導で、「もうできちゃいました」と「Akerun」と同期した勤怠管理システムが生まれたこともあった。
小林フォトシンスのエンジニアは、本当にモノを作るマインドが高いんです。会社全体として、好奇心と挑戦を同義で行っている社員が多いですね。うちの企業文化として“挑戦”というのは重要視しています。ただ単に作業が得意な人よりは、何かしら挑戦したいことがある人が加わってくれたらいいなと思っています。
“思い”と“巻き込み力”があれば人や資金はついてくる
そんな伸び伸びとした雰囲気の会社を率いる代表の河瀬は、小林いわく、「しっかり主張し、リーダーシップを発揮してくれる、リーダーとして頼れる存在」だ。
そんな河瀬が仕事で重視しているのは、“想い”と“巻き込み力”。先述の通り、まず旗を上げ、市場を作ることを大切にしているが、そのために最初から潤沢な資金は必須ではないと語る。
小林まず想いが先行しないといけません。周囲を巻き込む力があれば、たとえその時点で商品やサービスはなかったとしても、メディアも巻き込んでファンを作ることができる。フォトシンスも「Akerun」を発表してスマートロックの第一人者になったことで、4.5億円の資金調達が実現したんですから。

何かの第一人者になることは資金調達という意味でも重要なのだが、河瀬は何より、第一人者となること自体に喜びを感じている。
「初めて『Akerun」でドアを開けたときの身震いするような感動を今でも覚えています。「未来を創るってこういう感覚なのかな」と本気でワクワクしたと、少年のような眼差しで、しかし冷静に話してくれた。
河瀬未来を思い浮かべて未来を作っていく。それを世の中に提供する。お客さんも、この商品でこんな楽しい世界がやってくるというビジョンを共感して購入してくれているんです。フォトシンスは、そういう商品をどんどん作って、未来に感動を与えていくようなモノ作りをする会社でありたいんです。皆がワクワクするようなものを、これからも作っていくつもりですよ。
フォトシンスの企業理念は、ずばり「つながるモノづくりで、感動体験を未来に組み込む」。自分たちが今、未来を作り出しているという実感が同社のエネルギーとなっている。
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