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OKRの成否は、「企業カルチャー」が握る。
Resily堀江氏に聞く野心的目標達成への道

インタビュイー
堀江 真弘
  • Resily株式会社 代表取締役 

大学院在学中より1年間のインターンを経て、2012年4月にSansan株式会社に入社。その後「Sansan」のスマートフォンアプリ担当プロダクトマネジャーとして、 アプリリニューアルのUX設計をリードする。2017年6月にSansanを退職し、共同創業者のエンジニアとResily株式会社を創業。

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「会社の“Objective”をアップデートする手段──それがOKRです」

インテルが開発した目標管理手法『OKR』。Googleの成長をドライブしたことで知られ、今やAmazon、Facebook、Slack、Netflixといった名だたる企業が採用。国内でも数年前に関連書籍が立て続けに出版されるなど注目を集め、導入が進む。

しかし、「OKRは単なる目標管理手法として捉えるべきではない」と語るのが、OKRの導入・運用コンサルティングや、運用支援プロダクトを提供するResily代表の堀江真弘氏だ。

「DXや働き方改革と同じくらい、組織の生産性を変革する可能性を有す」「コロナ禍でフルリモートになった組織でこそ、必要性が高まる」と語る同氏に、目標管理にとどまらないその可能性と、使いこなすコツを訊く。

  • TEXT BY MIHO SAKIYA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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OKRで会社は劇的に変化すると知った

OKRは“Objective and Key Result”の略称。「野心的なゴール」といわれるビジョンに基づいた定性目標「Objective(O)」と、Objectiveの達成を定量的に計測する数値目標「Key Result(KR)」を組み合わせ、目標達成の進捗を管理する。

単なる目標管理手法として捉えられがちなOKRだが、その本質は組織文化の変革にあると堀江氏は指摘する。

堀江OKRは、組織内の誰もが優先事項を理解し、向かうべき対象に迷いなく取り組める組織文化を創るものです。DXや働き方改革などで労働生産性の向上に注目が集まっていますが、どんなに効率化が進んでも適切な対象に労働力をつぎ込まなければ、結局はムダになってしまいます。

OKRは全社の目標を可視化し、そこから各部署、個々人に至るまでの目標に紐づけます。それによって、会社のトップから末端まで、”進むべき方向”と“進むべき理由”を理解できます。

“向かうべき先”への意識が組織に浸透すれば、“目的と活動”を紐づけ、全員が自走できる。この文化を組織に浸透させるのが、OKRなんです。

堀江氏には、OKRの威力を肌で感じた原体験がある。前職のSansanでのことだ。同社はOKRを2015年末から導入していたが、転機はプロダクトのコンセプトを刷新した2015年に訪れた。

Resily株式会社 代表取締役 堀江真弘氏

堀江それまで、Sansanは「営業を強くする名刺管理」というコンセプトを打ち出していたのですが、代表が「企業全体のインフラになる」という言葉に変える決断をしたんです。それに紐づいて新しいObjectiveが設定されると、各チームの議論の内容が一変しました。

例えば、企業のインフラになるならプロダクトとしてどうあるべきなのか。従来の営業部署だけではなく企業全体で使ってもらうには、どの担当者に売り込めばいいか。そうした話し合いと戦略立案、実行までがさまざまな部署で自発的に起こるようになったんです。その結果、驚くべき数字の伸びを記録しました。

一般的にOKRは全社に公開されるため、正しく運用すると経営レイヤーの視座がメンバーにも伝わり、今まで発生しなかった議論が活発になる。また、会社が目指すところやアクションの優先度の認識が一致し、コミュニケーションのズレが発生しにくくなる。

Sansanはこれにより、既存の延長線上ではない的確な目標に向かうことができた。そのため、各メンバーや部門間で建設的な話し合いが行われ、スピード感を持ってビジネスを進められたと考えられる。

とはいえ、同社でもOKRは常にうまく運用されていたわけではない。先述の変革の後、社員数が増加すると再びコミュニケーションのズレが発生することもあった。

OKRは、全社はもちろん、各部署、個々人までそれぞれにセットしていく。ゆえに、事業部やメンバーが増えると構造が複雑になり、全体像や進捗、各チームのアクションプランを俯瞰するのが困難になっていくのだ。

OKRがビジョンの実現を助けることは間違いない。ただ、その運用に簡単ではなく、成功体験を持つ組織ですら失敗することもある。それを実感した堀江氏は、OKRの可能性と実践について正しく伝えるために、Resilyを創業した。

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野心的な目標を達成する、OKRへのコミットメントとは

ただ、OKRはその言葉こそ知られているものの、従来浸透していたMBO等に比べれば、活用している企業は多くない。その理由を堀江氏は三つに分けて分析する。

堀江一つ目は、そもそもOKRが「単なる目標管理手法」だと捉えられていることにあります。先述の通り、OKRは会社の文化を変え、生産性向上につながるもの。その価値がまだまだ伝えきれていません。

二つ目は、“目標管理”と“評価制度”は紐づけなければいけないという誤解です。OKRは目標管理のみで導入し、評価とは切り離すべき。ですが、この原則が理解されておらず、「評価制度まで変えるのは難しい」と敬遠されてしまっている。

三つ目は、成功事例がしっかりと伝え切れていないこと。一つ目に近い内容ですが、目標管理としての成功例や効果は徐々に出てきているものの、企業文化を変えるような事例はまだ流通していない。これは我々も強く伝えていかねばと、特に課題に感じているところです。

同時に、OKR自体の導入ハードルもある。例えば、Objectiveには「達成できないのが当たり前なくらい大きく、メンバー全員がワクワクする目標に設定すべき」というルールがあり、定期的に目標を振り返る習慣づけが必要など、従来の目標管理手法よりも“決まりごと”が多い。それらを使いこなせず、“導入したがうまくワークしなかった”という声も聞く。

同社はこうした企業のコンサルティングに取り組んでいる。そのポイントを紐解こうと話を伺うと、堀江氏は「OKRをやるべきでない企業もある」という前提を述べた。

相談を受けても、「今はやるべきでない」と判断することもあるというのだ。その理由は、OKRが企業文化の変容を求めるからだ。

堀江OKRが企業文化にフィットしない場合、経営者とメンバーにとてつもないストレスがかかります。ビジョンが浸透していない企業がその一例です。メンバー視点で見れば、それまでと全く違う方向性が伝えられ、実行させられることになるかもしれないわけですから。

OKRの成功にはビジョンに基づくトップのコミットメントが重要なのだ。だから、ビジョンが浸透していない企業でOKRに取り組むのは難しい。「そういった企業ではOKRに限らず、目標管理というものは形骸化しがちな側面がある」と堀江氏は言う。導入のタイミングや、「自社にマッチする目標管理法なのか?」という点はしっかりと考慮する必要がある。

それでも、組織を変革する必要があると考えてOKR導入を検討しているのであれば、当然やるべきだと、堀江氏は力強く言う。「企業は何かしらの目的を掲げ、それを達成するための組織だと考えると、目標管理は必須ではないか」との考えを示す。

そして導入を決めたならば、最も重要なことは「経営トップによる本気のコミットメント」だと指摘する。トップがOKRの必要性を強く宣言し、それを折に触れて伝えていくことなどが欠かせないという。そうでなければメンバー側は、自分たちが向かうべき方向を正しく認識することができないからだ。

堀江スタートアップ・ベンチャー企業の導入支援や、私自身の会社を立ち上げていく過程で痛感したのは、「ビジョンは、伝えているつもりでも社員に伝わっていない」ということでした。

社員はてんでばらばらに仕事をしていて、放っておくと動物園のような状況が生まれてしまう。そうならないために、まずはビジョンを浸透させなければいけません。そして、それに紐づいた仕事を遂行してもらうために必要なのが、目標管理なんです。

OKRをセットすれば、メンバーは目指すべきビジョン(Objective)と、フォーカスすべきアクション(KR)の二つを行き来しながら日々の業務と向き合うことになる。

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野心的で適切な「Objective」を設定するコツ

では、実際にOKRを導入・運用する上で企業はどのような点に苦労するのか。数々の企業をサポートしてきた経験から堀江氏は、導入で発生する課題は大きく二つだと指摘する。それは、「野心的なObjectiveを設定できていないこと」と「人事評価と関連づけてしまうこと」だと言う。

前者でつまづく人が多い理由は、「野心的」の解釈は人によるため、どのように設定すべきか戸惑ってしまうことにある。堀江氏はそれを乗り越える鍵は「会社の存在意義や事業の目的を社員に知ってもらい、前提情報をそろえること」にあると言う。

各々の目標を考える上での前提(例えば、会社が目指す姿や、個別具体のKPIやKGI、そこへ向かうための戦略など)がずれるからこそ、アウトプットとして設定される「Objective」もずれる。それを避けるべく、ResilyではOKRの導入に際しては、メンバーが集まって目標等の前提情報をインプットする機会を用意してもらうという。

数時間にわたるワークショップを実施することもあれば、企業によっては合宿を開く場合もある。集まったメンバーには、各々が考えたObjectiveを遠慮なく出してもらい、それらを素材に擦り合わせていく。

堀江多くの場合、その場で出るObjectiveはバラバラです。財務目標やマーケティング上の目標、チームの学習プロセスやビジネスプロセスなど領域がばらけることもありますし、掲げる大きさも異なる。ただ、それらがいずれも目標であるのは間違いありません。ですから、我々はその目標を「取り組むべき順番や領域」や「達成すべき時期」などで整理し、目指すべきものに対してどう取り組むかの道筋をつくっていく。

例えば、ビジネスプロセスを改善してからチームの学習目標を達成し、それができれば財務目標の達成もしやすくなるといった順番があるかもしれません。また、「売上30億」と「売上100億」という目標が出たとき、前者は来年達成すべき目標で、後者は3年後に達成すべき目標と時間軸で整理できる。そのプロセスに参加することで、「目指したい状態」や「目標をどう達成するか」といった前提が、全員の中で擦り合っていくんです。

もう一つのハードルは「人事評価と関連づけてしまうこと」だ。OKRと評価を切り離すべき理由は、達成困難とも思える「野心的なObjective」を掲げにくくなることにある。「Key Resultが未達だと給与にも反映されるのでは?」といった恐れを抱いて萎縮してしまうのは想像に難くない。しかし、それではOKRの「会社の野心的な目標に向かってメンバーを団結させる」という効果が薄れてしまう。

しかし堀江氏は、人事評価との関連づけを一概に否定するのではなく「会社の制度やカルチャーによって、導入初期は既存の人事評価と関連づけているのが良いケースもある」と明言する。

堀江「評価と関連づけるべき段階の会社」はあるけれど、「ずっとそれを続けるべき会社」はないと考えています。どのような会社もいずれは切り離すべきです。

実際にOKRがうまく回っている会社でも、人事評価との関連づけが足かせになってきたという自覚を持たれるケースもある。タイミングはそれぞれですが、切り離しを見据えた動きを必ず提案するようにしています。

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メンバーが毎日ワクワクしながら働けば、会社は伸びる

こうした目標管理は、昨今のコロナウイルス感染拡大による社会変化の中でさらに重要度を増していると堀江氏は指摘する。その理由は、フルリモートでのコミュニケーションは”成果主義”を強めるからだ。

堀江フルリモートでお互いの仕事をしている姿が見えないと、どうしても「成果」で物事を図るコミュニケーションが強まっていきます。もちろん、成果主義自体が悪いことではありません。

ただ、サイバーエージェントの藤田(晋)さんは「チームワークが損なわれる」と仰っていましたが、私自身はチームのメンバーと話していても、結果や進捗など目標に対する“現在地”の議論が増えたと感じています。すると、“向かう先”が明確でないほど働くのが苦しくなる。これはどの組織でも同様ではないでしょうか。

堀江氏も語るように成果主義は悪ではない。だが、その厳しい側面ばかりが強調されるのがフルリモートでのコミュニケーションではないだろうか。まさに“成果主義の罠”だ。それを裏支えするのがOKRになる。

堀江こうした苦しさが生まれないようにするのが、優先事項を浸透させて、継続的に結果を追えるOKRなんです。会社として向かうべき先も明確になるし、メンバーレベルでも“それに向けて、自分が今向き合うべきものは何か”を知れる。

軸をぶれさせることなくコミットし、貢献できたという実感を得やすいという意味でも、フルリモートにマッチしやすい手法だと感じています。実際、コロナ禍での問い合わせは堅調に増えており、我々からもその価値をもっと伝えていかなければと感じています。

最後に、100社を超える企業にOKRを導入してきた堀江氏に、「OKRに限界や失望を感じたことはないか」と質問してみた。すると、目線を外し少し間を置いた後、はっきりとした声で「ない。全くないですね」という答えが返ってきた。

堀江もし、自分が次の職場を選ぶなら、OKRのない企業では絶対に働きたくない。そう思うくらいには、不可欠な存在だと感じています。それがないということは、自分の仕事が会社のビジョンとどうつながっているか見えないという意味でもある。また、OKRがあれば、全社のObjectiveやそれに紐づくKRの違和感にも気づけますし、おかしいと感じればトップにも伝えられます。

OKRのメリットの一つは、メンバーがワクワクして働ける環境をつくることだ。堀江氏はその効果を心から実感しているからこそ、その結論に達したのだろう。

ResilyがOKRの導入・運用をサポートしている企業にも、さまざまなプラスの変化がもたらされている。事例の一つとして挙げられたレクストホールディングスでは、OKRによって同社のビジョンとその達成に必要な成果、各事業会社のアクションプランをツリー形式で確認できるようになった。結果、メンバーそれぞれの役割と、どのような成果を上げているかが可視化され、階層をまたいで互いに成果を称賛する文化が生まれたという。

子育てや健康管理のITサービスを提供するカラダノートは、KPI(重要業績評価指標)だけの目標管理に限界を感じてOKRを導入。「ワクワクする」「野心的な」Objectiveを設定し、それを達成しようと考えることで、メンバーからこれまでにないユニークなアイデアが提案されるようになったという。

企業の継続的な成長を実現し、学習して変化し続ける組織に生まれ変われるOKR。巨大なビジョンを掲げ、そこへ向かい角度高く成長を志すスタートアップとは相性が良い手法のはずだ。もし、今の目標管理に限界を感じていたり、まだうまく目標管理をできていないのであれば、ぜひ試してみてほしい。

こちらの記事は2020年08月04日に公開しており、
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執筆

崎谷 実穂

北海道生まれ。人材系企業の制作部で求人広告などのライティングを経験した後、広告制作会社に転職。新聞の記事広告を専属で担当。2012年独立。現在はビジネス、教育系の記事や書籍のライティングを中心に活動。著書に『ネットの高校、はじめました。新設校「N高」の教育革命』、『Twitter カンバセーション・マーケティング』、共著に『混ぜる教育』。構成協力に『独学のススメ』(若宮正子著)、『発達障害を生きる』(NHKスペシャル取材班編)など。

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小山 和之

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

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長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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