連載コロナ禍の苦境を乗り越えた5人の経営者──未曽有の“危機”を乗り越えるための思考法

【みずほ銀行コラボ企画】「全部壊して、ゼロになれ」──ブライダルDXを牽引するリクシィ・安藤氏。
2度の上場経験をもつ経営者がコロナ禍で捨てたものは、セオリーと経験

Sponsored
インタビュイー
安藤 正樹
  • 株式会社リクシィ 代表取締役社長 

2003年京都大学法学部卒業。2001年の在学中より創業メンバーとして参画していたインターネット関連事業会社で、営業担当取締役として、新規事業の立ち上げ、事業拡大、営業部門のマネジメント全般を担当し、東証マザーズ上場に貢献する。 2009年4月、ブライダル事業会社に入社し、東証マザーズ上場を経験後、結婚式場の責任者、マーケティング部門の責任者を経て、取締役事業本部長に就任、東証一部指定替に貢献する。その後、常務取締役として事業部門を管掌し、結婚式場30施設、内製部門、新規事業、HR(人的資源)を統括し、売上262億円/ 社員数1,023名の規模(連結)へと成長させた。2016年5月、株式会社リクシィを創業。

関連タグ

2020年2月。突如あらわれた未知なる感染症が日本に波及し、国民全員が先の見えない道に放り出された。その感染症は、今なお我々の生活を脅かし続けている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。この厄災により、多くの中小企業や小規模事業者がダメージを受け、明日の経営に不安を抱いているのではないだろうか。

「そんな経営者たちを少しでも応援したい」「自分の経験から、明日の糧になるヒントを得て欲しい」。そんな想いで駆けつけてくれたのは、自身もコロナ禍の影響を受けた5名の経営者たち。

今回語ってくれたのは、リクシィの代表取締役社長、安藤 正樹氏。コロナ禍で大きな打撃を受けた業界のジャンルの一つ、ブライダル業界においてデジタル化を促進する事業展開をしている。同氏が率いるこのリクシィは、コロナ禍のピーク時において単月の売上がコロナ禍前の1割にまで激減。安藤氏はそこから何を想い、どう盛り返したのだろうか。過去2度の上場経験を持つ同氏の手腕とは一体?その舞台裏にせまる。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
  • PHOTO BY TOMOKO HANAI
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
SECTION
/

単月の売上が90%減。
コロナ禍において3つの事業すべてがクラッシュ

「このままいくと、この会社はなくなる」。コロナ禍に突入した当時の心境を、安藤氏はこう振り返る。

安藤リクシィのキャッシュエンジンは主に2つあり、“結婚式場のコンサルティング”と“ウェディング業界への人材紹介”です。そして先行投資の事業として、結婚式相談カウンターDX『トキハナ』があります。コロナ禍になり、この3つの事業すべてが大打撃を受けました。具体的には、それらすべての事業合わせて単月の売上がコロナ禍以前と比べて1割になったんです。“1割減る”ではなく“1割になる”。「これはまずいな…」と思いました。

新型コロナウイルス感染症によってブライダル業界全体が危機に追いやられたため、それまでのコンサルティング契約は7割ほどが解約となり、人材採用ニーズも減少。式場に新郎新婦を斡旋することで紹介フィーをもらっていた『トキハナ』も、銀座と横浜にサロンを構えていたが、コロナ禍により客数は激減。オフィス機能を持つ銀座のサロンは残し、横浜のサロンはクローズする判断を下した。加えて、安藤氏を含む役員4名の給与を引き下げることも決定。息つく間も無く、速やかにこれらの意思決定がなされていった。

安藤「サービスをグロースさせないと、スタートアップとして事業を推進している意味がない」。そう考え、プロダクト開発に携わる社員はそのまま残し、ビジネス領域のメンバーの半数には他社へ出向してもらおうと決めました。

少しでも支出を減らすべく、横浜のサロンのクローズに加えて開発拠点も手放すといったことを2日ほどで決め、翌日には社員に情報を共有。「リクシィは、潰れかけの会社になってしまいました…!」と、なにを取り繕うこともなく、正直に実態を告げました。

会社のリアルな状況を聞かされた社員たちは、慌てふためくことなく「仕方ないですね」と冷静に事態を受け止めていたと安藤氏は振り返る。これは、会社のキャッシュフローを社員に全公開していたことも関係しているのだろう。このままいくと会社が潰れてしまうのは、公開されている情報を見れば誰しもが理解できた。そのため、出向先探しにあたっても、社員が積極的に協力してくれたのだ。

「社長として恵まれていた」と語る安藤氏は、リクシィの前にも経営者として手腕を発揮した経験を持つ。それも、2社の上場を牽引という離れ技を成し遂げているのだ。そこからどのような道のりを経て、今のリクシィ創業へと至ったのだろうか。

SECTION
/

2社の上場を経験し、満を持してブライダル業界の変革へ

安藤氏のファーストキャリアは、学生時代から創業メンバーとして参画したインターネット関連事業会社。営業担当役員として東証マザーズ上場に貢献する。その後、2社目ではブライダル事業会社に入社。こちらも同じく東証マザーズへの上場を牽引し、取締役事業本部長の時には東証一部への指定替えも行った。

そんな経営者として頼もしい実績を持つ安藤氏が、ウェディング業界でリクシィを立ち上げたのが2016年。先のブライダル業界での経験を通じ、「この業界には産業構造として多くの課題がある」と感じたそうだ。

安藤結婚式には、それまでの自分の人生をみんなに知ってもらった上で応援してもらえる、そんな良さがあります。近年では結婚式を挙げない人も出てきていますが、挙げなかった人へのアンケート調査では、7割ほどの人が「やっておけばよかった」と答えているデータもあるんです。

“結婚式をやるorやらない"を自分たちの価値観に応じて決められるようになった時代だからこそ、結婚式が持つ意味やメリットを世の中にきちんと伝えないといけない。そして、その結婚式の挙げ方に関しても、今の世の中に適したスタイルに変えていくことが必要ではないかと思っています。そんな私がリクシィ創業時にまずやりたいと思っていたことは、ウェディング業界にテクノロジーの要素を取り入れることです。

もともと、この業界はレガシーな慣習が色濃く残っており、テクノロジーの恩恵をほぼ受けられていませんでした。そこに対し、インターネット業界での事業経験を持つ私がテクノロジーの要素を組み込むことで、ブライダル業界の環境が変わり、「結婚式を挙げてもいいかな」と感じる人を増やせるのではないかと思ったんです。

そんな想いを込め、社名のリクシィ(REXIT)は“Real × IT”を意図して名付けました。文字通り、この業界にリアルとデジタルを掛け合わせることで、新たな価値を創りたいと考えたんです。

そこから具体的に安藤氏が始めた事業は結婚式場向けのコンサルティング事業、ブライダル業界特化の人材紹介事業。加えて、『Choole(チュールウェディング)』(現在は『トキハナ』に名称変更)という、ドレスやお花といった結婚式に用いるアイテムが持ち込み自由となる、結婚式場選びのプラットフォーム事業も展開。

安藤ウェディング業界で働く多くの方々がデジタルを苦手としているため、我々のコンサルティングサービスでは主にインターネット・マーケティングのご支援を行っていました。

当時の『Choole』は、通常は持ち込みを不可とする結婚式場からも特別に許可をもらい、新郎新婦に“持ち込みOKの結婚式場"として紹介していたプラットフォームです。しかし、こちらはあまりプロダクト・マーケット・フィット(PMF)しなかった。そこで、サービスのコンセプトと内容を刷新して始めたのが『トキハナ』です。今回のコロナ禍は、まさにこの『Choole』から『トキハナ』へのアップデート最中に起きたんです。

『Choole』が飛躍しなかった理由について、安藤氏は「自分たちが価値だと思っていたものが、お客さまにとっては価値を感じにくいものだったため」と語る。具体的には、「持ち込みOKの結婚式場であれば、自由にドレスやお花が選べ、新郎新婦にメリットがあるだろう」と考えていたのだ。しかし、現実は安藤氏の期待を裏切った。そう、利用者は結婚式場を決める時点ではドレスやお花といったものにまで意識が向いておらず、そのサービスメリットを価値として捉えていなかったのだ。

安藤サービス開始当初の打ち出しは、“ドレスやお花を自由に選び、自分で直接クリエイターさんを決められること"でした。そしてそれは、“仲介を挟まず、コストパフォーマンスの観点でもメリットがある”、ということでもあり、お客さまにとって価値あるものだと考えていたんです。

しかし、実際にサービスを使っていただいたお客さまの声を聞き、気づいたんです。お客様は“結婚式場選びの時点”では、「ドレスやお花を自由に選びたい」というニーズはそこまで強く持ち合わせていなかった。そうしたニーズはむしろ“結婚式場を決めた後”に出てくるものだったんですね。対し、我々はそこに強いニーズがあると読み違えていた。サービスのコンセプトや見せ方がお客さまの視点とズレていたんですね。

もちろん結婚式場に自分の好きなドレスやお花を持ち込めることにはメリットがあるし、やれるならそうしたい。ただし、そう感じるのはその価値が分かっている状況であれば、だ。つまり、結婚式についてまだ何も知らない花嫁がいきなりそのコンセプトを提示されても、何がどうメリットなのかが分からなかったのだ。何せ、そもそも結婚式を挙げるうえで山の様な決め事が目の前に用意され、右も左も分からず話を進めていかなければならない状況。そんな当事者にとって、『Choole』の謳う“カスタマイズ性”と“コスパ”の訴求は刺さらなかったのだ。

そしてこの『Choole』から『トキハナ』へのアップデートにおいては、当初の“ドレスやお花の持ち込み制”を引き継ぎつつも、コンセプトを刷新。オンラインで事前に気に入ったアイテムや式場選定から試着・見学までを行い、実際に見学後、申込を決める。これにより事前に必要なアイテム構成が明確になるため、申込後に見積額が高騰するといった問題も未然に防ぐことができるのだ。

その後、流通取引総額(GMV)は単月で2億円を超えるほどの成長をみせるのだが、それはまだ少し先の話。まさにこの『トキハナ』へのリニューアル真っ只中に襲い掛かった新型コロナウイルス感染症の猛威に、安藤氏は思いもよらぬ策を講じることになる。

SECTION
/

組織運営と事業モデルの大幅刷新。
昨日までの経営スタイルを捨て、掴んだ未来

「失敗したら会社がなくなる…」そんな状況で、安藤氏はどのような打開策をとったのだろうか。その最も大きな打ち手の一つが、“経営方針の180度チェンジ”だ。

リクシィはこれまでボトムアップ型の組織を志向してきたという。事業推進においてはメンバーの声を吸い上げ、サービスに反映。組織運営おいては公平な情報開示や議論の場を提供してきた。それゆえに、コロナ禍においても結束を保つことができたのだ。しかし、今この瞬間、コロナ禍という未曾有の危機においては、社員一人ひとりの声に耳を傾けていられる状態ではない。みんなで一緒に行く先を決めていては、船ごと沈んでしまう。そう考えた安藤氏は、これまでの成功体験を捨て、“超・トップダウン”という真逆の戦略で組織を牽引したのだ。

安藤事業を続けるには、その選択しかなかったんです。それはもうオセロのように、一気に経営陣主導で事業モデルを変えていきました。具体的には、「サロンを閉じる代わりに、LINEでのマッチングをメインにしよう」、「コンサルティングも対面からオンラインのZoomにしよう」とサービスの提供スタイルをアナログからデジタルに切り替えていったんです。

今でこそ当たり前となりましたが、営業の場をオンラインに移したことで、一度に数百名の見込み顧客にアクセスできるウェビナーという新しい営業手段も得られました。おそらくブライダル業界ではリクシィが1番最初にウェビナーを開いたのではないでしょうか。

この施策はオンラインのみでコンサルティングサービスを提供するので、費用は従来の2分の1の価格帯にまで引き下げ、数の勝負で売上を積んでいきました。また、『トキハナ』のLINEマッチングにおいても一筋の光明を見出すことができました。オンラインで結婚式場とお客さまのマッチングをご支援するなかで、自社独自の“LINE活用ノウハウ”を見出したんです。この知見はブライダル業界以外にも応用できると考え、すぐに“toC営業のDX化”と銘打ち、不動産会社や自動車会社など他業界にも展開できるコンサルティングとして推進していきましたね。

このような改革を一気に推し進めるなか、徐々に会社の売上が改善されていった。社内にはキャッシュフローを公開しているため、「あとこれだけの数字を上げれば起死回生できるぞ」と組織全体のムードが不死鳥の如く蘇ってくるのが分かった。と安藤氏は言う。

さらに、百戦錬磨の経営者・安藤氏はそこだけに止まらない。単に数字を上げるだけでは目先の生存だけが目的となり、リクシィという組織でいる意義が薄れてしまう。たしかに、今回実行した異業種のLINEコンサルティングや出向などは、本来のリクシィの事業とはかけ離れた取り組みだ。こうした状況に際し、安藤氏は「今の活動が如何にリクシィの今後に結びついているのか」、すなわち、「“ウェディングをアップデートする”というミッションに沿っているのか」というメッセージも、社内に発信し続けたのだ。

こうして、これまでの成功体験から掴んだ経営スタイルをフレキシブルに切り替えることで、会社存続の危機からブレイクスルーすることができた。リクシィ、完全復活なり。

では、そんな安藤氏に向けて、こんな問いを投げかけて今回の取材は幕を閉じようと思う。

「また同じような危機が生じた際は、どうすればよいのだろうか?」

SECTION
/

経営に正しい解なし。
状況に応じ“あるべき姿”から逆算せよ

未曽有の危機を無事に乗り越えた安藤氏は、我々からの問いに対し「有事は進化のチャンス。常にあるべき姿から考えよ」と述べた。

安藤コロナ禍のような危機によって、今まで積み上げてきたものが通用しなくなったり、どこまで状況が悪くなるかわからなかったりすることは、確かに怖い。でも、私は今回経験した危機により、「再び創業したときのような気持ちでがんばろう」と思えたんです。

世の中ではしばしば“第二創業”という言葉が使われることがありますが、有事の際には皮肉にも強制的に創業期のような状態になります。つまり、それまでの経験やノウハウが活かせない、ないし、持ち合わせていないといった状態ですよね。そんな、いつ来るかわからない危機だからこそ、来てしまったら来てしまったで、「新しいことにチャレンジできるチャンスだ」と思って楽しむ。

それまでのセオリーや常識を取っ払って、あるべき論から課題に対して飛び込んでみる。そうした会社が今、生き残っているのではないかと思います。

安藤経営においては何かと様々なセオリーが語られていますし、再現性のあるナレッジも多く存在すると思っています。しかし、そのセオリーの良し悪しは状況によって是々非々が変わります。なので、結局のところは経営者がその状況に応じた意思決定を行い、責任を持って事業を前に進めることが大事なのではないでしょうか。

「セオリーが通用しなくなるのは、怖い」。安藤氏の言葉に象徴されるように、どんなに実績や経験を積み重ねてきた者でも、有事の際は己の非力さを痛感するもの。しかし、そこで打ちひしがれるのではなく、また無思考に経験則に従い続けるのではなく、一度リセットして“あるべき姿”から逆算する。そう、これまでの自分を一度否定し、アンラーニングできる者にこそ明日への道が切り開かれるのだ。

世の経営者たちよ、ゼロになれ。

こちらの記事は2022年07月07日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

写真

花井 智子

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

When you log in

新規会員登録/ログイン