ビジネスだからこそ社会貢献できる
“エネルギーから世界を変える”自然電力
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太陽光や風力、小水力といった再生可能エネルギー発電所の設置を行う自然電力のビジョンは、「エネルギーから世界を変える」こと。
たんに儲けに走るのでは、世界に変化をもたらすことはできない。
人々の営みや地域の産業まで考慮した発電所作りによって、同社では“社会貢献”と“ビジネス”を高いレベルで両立している稀有なベンチャーだ。
- TEXT BY MISA HARADA
- PHOTO BY YUTA KOMA
NPOから銀行、商社、リクルート出身者まで。ビジネスと社会貢献の両立を目指す人材が集う
自然電力のメンバーである久保田と高尾には、2つの共通点がある。
1つは、学生時代にボランティアに打ち込んだこと。もう1つは、その活動の中で「ビジネスに繋げないと継続するのは難しい」と感じたことだ。
高尾は在学中に環境系のNPOに所属。電気のないインドの村にソーラーシステムを設置したり、長野県・王滝村の森づくりを東京の企業と一緒に支援したりといった活動に励んできた。
高尾自身が山がちな島根県の出身だったため、自然や環境、地域といったものに、もともと強い関心を抱いていたからである。
大学院で電力需給のシミュレーションを研究した後、総務省による“地域おこし協力隊”制度の一環として王滝村に移住。
役場の非常勤職員となり、公共施設への再生可能エネルギー導入や古民家の利活用など、「どうやって人口800人の村を持続可能にするか?」を真剣に考えながら支援事業を行ってきた。
高尾NPOでも地域おこし協力隊でも、県や国の助成金で何か事業を始めることを経験しましたが、そこからお金を継続的に生み出すのがなかなか難しいこともまた知りました。社会貢献自体は本当に重要です。しかし同時に、ビジネスとして成立することが、継続していくためには大切なんじゃないかと感じたんです。
ビジネスと社会貢献の両立について考えている最中、高尾は自然電力について知る。
もともと再生可能エネルギーに興味があったこともあり、経営者全員がビジョンやカルチャーへのフィットを重視しているからこそ生まれた、共同代表3人と必ず会うスタイル*の面接を受けてから、高尾が同社へのジョインを決めるまでに時間はかからなかった。(*2015年11月時点の面接方法です)
一方、中高生の頃から海外への興味が強かったのが久保田だ。「幼少期から国連に入って世界を飛び回ろう」と思っていた。しかし、「もっと現場に近いところで活動したい」という想いが生まれ、大学でボランティア活動を始める。
ハンセン病元患者が住む中国のある村では、久保田たちボランティアスタッフがパーティーを開催したことをきっかけに、ハンセン病元患者たちと、彼らを数十年にもわたって差別していた周囲の村民との間に交流が生まれ、深い感動を覚えた。
だがやはり就職となると、久保田も高尾と同じく“社会貢献とビジネスの両立の必要性”について考え始めた。
久保田そういうことってビジネスにはなりにくいんですよね。活動資金が少ないためにボランティアに依存せざるをえないし、職員にも充分なお給料が払えていなかったりする。利益を出すことができれば、活動できることも広がり、ボランティア先の真の自立にも繋がりやすいと思うようになったのです。皆が自分の利益のために働いてWin-Winになる仕組みについて考えるようになっていきました。
そんな久保田はその後、「短期間でビジネスマンとして成長できるはず」という理由でリクルートに入社。営業やWebマーケティング、事業企画などを約2年間経験して退職。英国の大学院に進学し、開発学などを学んだ。
でもやっぱり、ビジネス側から世界を変えていこう──。あらためてそんな想いを強めた久保田は、海外で働く経験を積もうと中国・上海で1年間勤務した後、たまたま自然電力を知ることになった。
発電事業の売上の1%を地域還元する“1% for Community”
高尾曰く、発電所の設置事業というのは、「何も考えずにやれば、単純な事業になってしまう」
だからこそ自然電力グループでは、発電所を本当に地元に利益をもたらすものとするべく、その土地に本当に適した発電所設置計画を考えていく。
そのため同社では、地域住民への説明を重視。よそ者がやって来て大きな建築物を作るとなったら、当然地元の人々は不安を感じる。
その不安を払拭するべく、「この地域の中で発電所はどんな意味を持つことになるか?」。そんなことを丁寧に説明した上で、その土地に適した事業開発に関連する要望も出来る限り聞いていく。
地域住民への説明を担当する太陽光開発部のメンバーの中には、地域のことをより深く学ぶためにも祭りや地元の行事に参加したり、草刈りなどで一緒に汗を流したりということはもちろん、現地に家を借りて住む者までいるという。
そんな地域の人々と一緒に行う事業構築を通じた地域活性化を大切にしている自然電力では、発電事業の売上の1%を地域に還元する“1% for Community”という取り組みを始めている。
創業当時からのアイデアが、ようやく形になりつつあるものだ。単純に売り上げの一部を地域に寄付するのでなく、「アイデアはあるけど資金が足りない」と悩んでいる地域の事業立ち上げや商品開発をサポートするような、発電所の設置と同時に地域自体を盛り上げることもできる取り組みを目指している。
高尾自分たちの地域にできた発電所の売上の一部が、自分たちの地域の農業や教育に還元されていくということをお伝えすると、地元の方々にも全体が繋がってイメージしやすくなるため、発電所への親しみを持っていただける。私は持続的な地域づくりに貢献したいと思って自然電力にいるので、“1% for Community”のようなことは大事にしながら仕事をしていきたいと思っているんです。
しかし、自然電力の活動は投資家からの巨額の出資があって成立するはずだ。“1% for Community”のような活動は、リターンを求める投資家からクレームがあったりはしないのか──。
久保田もちろん『こちらへのリターンが下がるじゃないか』というご意見を持つ投資家様もいらっしゃると思います。でも、この“1% for Community”は自然電力が再生可能エネルギーを広げていくための譲れないポイントですから、案件に共同参画頂く投資家様にはこの点をご理解いただくようにしています。我々はこういった仕組みを通して、本当に地域に意味のある発電所を作れていると自負していますし、そういうものがどんどん増えてほしい。“1% for Community”のようなアイデアは同業他社にも真似していただいて、業界のスタンダードになっていったらいいですよね。
その他にも自然電力では、発電所建設地域の地方銀行や地元企業から地域のお金を調達し、地域と密着した関係を築くことにも力を入れているという。
また、大手不動産ファンド会社と再生可能エネルギーファンドを共同運営したり、大手インフラ会社と事業提携したり、より大型の案件を開発するための新たな仕組みも立ちあげている。「短期的に自社が儲かるというだけで意思決定は絶対しません」と久保田は付け加えた。
60代、70代のシニアや外国人メンバーも協力し自己実現する職場
ここで自然電力も含めた自然電力グループが具体的にどのような流れで発電所設置事業を進めているのか簡単に説明したい。
まず、開発初期段階を担当するのが、高尾の所属する太陽光開発部。テレアポなどで営業をかけるのが難しい事業であるため、今までの仕事の大半が、パートナー経由の口コミや信頼関係を通じて依頼されたり、開発を行ったりしたものである。
事業用地が決まったら、今度は行政の許認可や、電力会社に電気を売るための送電線を延長するにあたって道路関係者の合意を得たり、地元住民への説明会を行ったりする。
そういった作業を経て、ある程度プロジェクトがまとまったところで、久保田の所属するファイナンス部にバトンタッチ。事業スキームを策定し資金調達に目途をつけ、今度はグループ内でEPC(設計・調達・建設)の役割を負うjuwi(ユーイ)自然電力に引き継ぎ、実際に工事を進める。
完工後は、自然電力社内の発電事業部がアセットマネジメントを担当し、そして、グループ会社のjuwi自然電力オペレーションが運営・保守を担当するという流れだ。
管理・メンテナンスも含めるとひとつの発電所に約20年間も関わっていくことになるが、発電所を建てたら建てっぱなしにせず、グループ全体で長期にわたって責任を負う姿勢が、クライアントや地元住民から自然電力が評価され、クライアントから友人や知人の仕事を紹介してもらえている理由だ。
大規模な業務であるため、当然、ひとつのプロジェクトに関わるメンバーの数も多い。
様々な雇用形態を含めて、自然電力グループ全体で126名(11月1日現在)が働いているのだが、メンバーのプロフィールが幅広いのも面白い。20代から60代、70代までが一緒に仕事していて、その国籍も様々だ。
スペイン語にドイツ語、中国語、英語とさまざまな言語が飛び交うオフィス環境である。人種も違う老若男女、全員に共通しているのが“仕事を通して自己実現する”という意識。
久保田は「エネルギーで社会を変えたい、という根本で大事にしていることがお互い似ているんです。だから、人とのコミュニケーションに関するストレスが本当になくて幸せな職場です」と語る。
久保田たとえば高尾の場合は、地域分散型のエネルギーを日本中、世界中に広げていきたいと考えていますし、一方私の場合は、大気汚染が進んでいるような発展途上国などに再生エネルギーを広げていきたいと思っている。メンバーそれぞれ描いている世界観があって、その集合体として自然電力があるという感覚です。
ベンチャーマインドで日本や世界のエネルギーの在り方を変えていく
何か専門分野を持っているメンバーが多いのは事実だが、意外にも自然電力は採用において、必ずしも現在有する専門性だけを重視するわけではない。
久保田は彼曰く、「ファイナンスのファの字も知らない」状態で入社して、イチから勉強することになった者だ。ポジションによっては、現在保有するスキルや経験よりも、自然電力の事業やビジョンに共感しカルチャーにフィットするか、ということが重要となる。
高尾もちろんそれぞれの強みを最初から活かせるのが一番ですが、地域やエネルギーに漠然と興味を持っているならば、その意志自体が充分当社で働く原動力や理由になります。実際に仕事していく中で、自分だからできる得意分野を見つけていけばいいんです。
同社のメンバーの印象は、“誠実であっても保守的ではない”。まさに“大人ベンチャー”そのものだ。
自然電力という同じ船に乗ってはいても、1人1人がそれぞれ違う壮大な夢を描いている。入社5年目になった久保田は社内では古株の立場だが、入社からの4年間を「ものすごく変化が激しかった」と振り返る。
久保田入社当時は、『こういう世界を目指そう』や『こういう会社になろうよ』という言葉に対して、『本当にできるのかな?』と感じる部分もあったんです。でも実は、自然電力で計画している20カ年計画を、私が見てきた4年間で、どんどん前倒しで達成しているんですよね。それを目の前で見てきているから、5年後、10年後の話も『今は夢のようだけど、このチームであればやってしまえるんじゃないか』と期待できる。その光景を見てみたいし、中心にいる人間として一緒に作っていきたいと思っています。
今はまだ、日本での活動を基盤としている自然電力であるが、「具体的にグローバル案件も話が進んでいる」状態だ。高尾も久保田も、「将来は新興国、途上国にも挑戦したい」と教えてくれた。
再生可能エネルギーで社会や地域に貢献しながら、日本や世界のエネルギーの在り方自体を変えていく。そんな壮大なビジョンを持つ自然電力。
本当に社会貢献とビジネスの両立など実現するのか──。そういう声も聞こえてきそうであるが、そんな人にこそ、高尾や久保田が少年のような眼差しで語る働きぶりを聞いてみて欲しい。
「自然電力のメンバーであればそれがやれるかもしれない」。一度彼らの話を聞けば、社会貢献とビジネスを両立しながらも急成長している企業が存在することに、驚きを隠せずにはいられないだろう。
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