上場前ベンチャーでストックオプションをもらえば億万長者になれるのか?
先日公開したキープレイヤーズ高野氏・スローガン伊藤氏の対談でも話題にのぼった、ストックオプション(以下SOと略記の場合あり)。
「一般的にSOを入社時にもらえる人は少ないし、もらっていてもごくわずか」と言っていた高野氏だが、実際のところ、設立間もない時期に入社した社員がストックオプションをもらっている、という話を聞くのもまた事実。
入社時にもらうことはないにせよ、創業初期から働き、中核として活躍するにつれどこかのタイミングでSOを付与されることは、上場に向かう成長企業では普通にある光景である。
そこで今回は、創業メンバー以外の社員として入社したと思われる方々にフォーカスを当て、上場時の従業員持株比率データ(FastGrow独自調査)を公開しよう。
ストックオプションの調査対象企業
テクノロジー・メディア関連企業で、潜在株式を含む所有株式数の多い従業員上位10名(創業メンバーと思われる人を除く)が記載されている企業の中から、メガベンチャーから最近上場したばかりのベンチャーまで幅広く、独自に選定した22社が対象。
- 時価総額の調査日時は2017年4月20日市場終了時点
- リサーチに必要なデータは上場時目論見書や有価証券報告書から収集した
ストックオプションが話題になった対談はこちら(ベンチャーの待遇の真実。ベンチャーだから給与が下がるわけではない。)
上場ベンチャーの従業員上位10名の持株比率の平均値は?
現物株式とストックオプション(新株予約権による潜在株式数)を合わせた「株式総数に対する所有株式数の割合」に関して、各社の従業員持株比率上位10名(創業メンバーと思われる人を除く。以下同様)の1人あたりの平均値と中央値を算出したところ、平均値は0.34%、中央値で0.185%であった。(サンプル数220。22社、各10名)
平均値が中央値を上回っているのは、取締役を除いた従業員の中でも1%を超える比率を保有している人と、0.1%前後の保有にとどまっている人など、ばらつきが大きいためである。(執行役員は従業員に含まれる)
実際、保有比率が平均値の0.34%以下であった人はサンプル220人のうち153人であった。
取締役という肩書はなくとも、創業期からいる社員や上場に特に貢献したと思われる役割を担う従業員にはストックオプションの追加付与や、出資の打診などがある場合も考えられるため、持株比率にも差が開いたと思われる。
しかしながら、従業員株主の上位10名の平均値でこの0.34%という比率なので、社員番号20番以降で入社される方々や、上場が噂される前後のタイミングで入社した方々についてはもっと少ない比率で保有していると思っていただくのが相場観として適切ということになりそうだ。
ストックオプションで得られる資産価値は1億円以上
次に、上場間もないベンチャーの株式0.34%がどの程度の資産価値なのかを算出した。
対象22社の、上場から2年以内(上場から2年経過していない場合には上場から17年4月20日まで)の時価総額の中央値を用いて、各企業がその時価総額の際、0.34%の株式がどの程度の資産価値なのか算出し、22社の平均値を取ったところ、約1億9400万円となった。
また、上場から2年以内の時価総額中央値が1,000億円を越え、前述の計算で資産価値平均値を大きく押し上げていると考えられる4社(50音順にグリー、コロプラ、ディー・エヌ・エー、ミクシィ)を除いた18社に絞った場合、0.34%分の株式資産価値の平均値は約8700万円であった。
たしかにストックオプションの場合、利益(キャピタルゲイン)は売却株価と行使価格との差額となることや、売却時期の時価総額にも資産価値が大きく影響されるなど変動要因は存在するが、上場前ベンチャーのストックオプションをある程度保有していた場合、上場後に1億円前後の資産を築ける確率は十分にある、と言える。
※一般的にストックオプションは、上場時の株価よりもかなり低い価格で買える権利として発行されているケースが多い。
上場から5年で資産価値がさらに10倍になることも
ここで、ストックオプションの保有に伴う価値は必ずしも上場時に最大化されるわけではなく、場合によっては0.34%の保有率でも、上場から数年後に数億円以上の資産価値となる可能性もある、ということを付け加えておきたい。
上場後の企業成長率や市場からの期待値次第では、わずか数年で株価が10倍以上になり、比例してストックオプション保有者の資産価値も10倍になる、という事態も起こりうる。
今回調査対象とした22社の中でも、株価の上昇倍率が大きかったエス・エム・エスを例に挙げよう。下記株価チャート((株)エス・エム・エス【2175】:株式/株価 - Yahoo!ファイナンス)をご覧いただけると分かる通り、株式分割などを考慮した調整後終値において、上場直後100円前後だった株価が、約5年後の14年には10倍の1,000円に、約8年後の17年には30倍の3,000円に上昇している。
上場直後の初値をもとにした時価総額が約72億円であった同社の株式またはストックオプションを0.34%保有しているとすると、その価値は約2500万円。その価値が、5年後には10倍の約2億5000万円、8年後には30倍の約7億5000万円の価値になった、ということと同義である。
ストックオプションは契約条件によって行使可能時期や売却可能比率が定められている場合が多いため、好きなタイミングで全てを権利行使・売却できない場合もある。
しかし、上場後も成長を続け、市場から更なる成長を期待される上場前ベンチャーに入社できれば、1%以下のストックオプションでも数億円の資産を数年で築ける可能性もある、ということがわかる。
ストックオプションは利用すべきかについての総評
従業員でも上場後に1億円の資産を築ける可能性はあるが、過度な期待は禁物
ストックオプションは高給を提示できないタイミングのベンチャー企業にとって、転職者に提示する条件として強力な武器となるし、転職候補者にとっても数億円単位の資産が5~10年で築けるオプションとして魅力的なものだ。
しかし、「付与割合に関して相場観をもっている転職候補者が少ない」といった話をベンチャーの経営陣から聞くこともある。
持株比率平均値が0.34%、と聞いて「少ないな」と思った方もいると思うが、従業員でストックオプションを持っている者のうち、上位10名の比率を平均してこの数字であるから、一般的な中途入社の際にもらえるストックオプション比率は0.34%より低いのが相場だと考えられる。
それでも将来数億円以上の資産価値に化ける可能性があることがわかれば、その価値をわかっていただけるのではないだろうか。
今回のリサーチが今後ベンチャーへの転職を検討される皆さんの一助になれば幸いである。
調査対象企業(22社)
こちらの記事は2017年05月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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