ディズニー株主ベンチャーTyffon開発のVRアトラクションはマジで怖かった
コンピューター上に仮想の空間、現実を作り出すVR(バーチャルリアリティ)の技術革新は過渡期にあり、ここ1、2年でVR技術を用いた機器が多く発表されている。
特に、一般のユーザーも触れられるものとして、ゲームやアミューズメント分野での活用が盛んだ。
その潮流のなか、東京・赤坂サカスにこの夏登場した「Magic-Reality: Corridor」は、VRの最先端技術を取り込んだ、次世代のホラーアトラクションとして注目を集めている。
- TEXT BY KEI TAKAYANAGI
「Magic-Reality: Corridor」の謳い文句は、「VRを超えたマジックリアリティで体験するウォークスルー型次世代ホラーアトラクション」。同アトラクションの造語であるマジックリアリティは、VRが進化した「Mixed Reality(複合現実)=MR」にも掛けられた言葉だ。開発したのは、VR技術を用いたアプリコンテンツなどを提供している企業「Tyffon(ティフォン)」。同社のCEO・深澤研氏に、このアトラクションが生まれたきっかけや経緯、見どころについて聞いた。
Magic-Reality: Corridor - Launch Trailer
VR技術を用いた次世代型ホラー
「Magic-Reality: Corridor」は、まずVR映像投影用の緑色の床、壁、天井に囲まれた空間で、スピーカー付きのヘッドマウントディスプレイとPCを搭載したバックパックを装備。オリジナルのランタンを手に持って体験がスタートする。
体験者は、各機器を身に着けた瞬間に、薄暗く、古びた夜の洋館に入り込む。足元にぼんやりと浮かぶ魔法陣をガイドに歩くうち聞こえてくる外の嵐の音や雷鳴、仄かに揺らぐ蝋燭、生々しい質感の館の内装、そして、そこに突如立ち現れる亡霊やクリーチャー…。
取材時は、Tyffonのオフィス一画に設けられた実験スペースで体験させていただいたが、頭でここがオフィスだと分かっていても、いつの間にか緊張が高まり、気づけば恐怖と驚きの声を上げてしまう。
赤坂サカスに設置された同アトラクションは、完全版の冒頭部分だけをピックアップしたもので、体験時間は10分程度だが、あっという間に仮想のホラー世界に引きずり込まれてしまった。
ヘッドマウントディスプレイは、単眼カメラのHTC Vive製品。背中に背負ったPCには、リアルな映像美を実現するためのグラフィックボードが積まれる。また、手に持ったランタンがポジショントラッキングの機能を果たす。
体験空間の広さは、約4.5m×8.5mの長方形で、お化け屋敷としては小規模のスペースだが、途中ではエレベーターの映像を用いた上下移動の感覚も与えられ、同じ場所をぐるぐる巡っているとは到底思えないルートとマップ計画がなされている。
自分の中の世界観を徹底的に表現する
Tyffonが最初に注目を浴びたのは2013年にiPhone向けに配信された「ゾンビブース2」というアプリ。顔写真を取り込むと、3Dのゾンビに変身させてくれるアプリで、インパクトと手軽さからシリーズで累計3500万ダウンロードという大ヒットを記録した。
その後、ディズニーがエンターテインメント領域の企業、団体などを支援するために主催する「ディズニーアクセラレータ2014」に、世界中の企業から採択された10社のうちの1社となり、更なる躍進を始める。
ここで開発された、ディズニーのキャラクターにアプリの中で変身できる「Show Your Disney Side」も多数ダウンロードされたが、アメリカのみの配信のため、日本のベンチャー企業が開発したことはあまり知られていないかもしれない。
そんなTyffonが、VRホラーアトラクションをつくるきっかけとなったのは、深澤氏が「ホラーが好き」という単純な動機からだという。
深澤幼少時から、ゾンビや骸骨を描くのが好きで、当時体験したディズニーランドの『ホーンテッドマンション』が原体験のひとつとしてあります。いつか自分が考えたホラーが体験できる空間を実現したいという思いはずっとありました。
これまでのアプリ開発や、前述の企業支援プログラムを通じてできた人脈や技術的なノウハウのバックアップによって、『Magic-Reality: Corridor』をつくることをスタートできました。
開発コンセプト、テーマのアイデアを書き込んだ深澤氏のノートには、登場人物のいる部屋が禍々しく変形するような表現が残されている。

提供:ティフォン株式会社
深澤とてもリアルな部屋が、形を変えていく驚きや感動を得られる、Mixed Reality(複合現実)の魅力を最大限に生かしたものにしたかった。
固定の客席から見るか、自動で移動する車椅子に乗るかといった移動手段を始め、グリーンバックの区画の形状が四角形かドーム状か、登場するクリーチャーのデザイン、そして使用するVR機器の選定まで、深澤氏の世界観を再現するのに最適な要素が選別されていく。
深澤VR空間をつかったアトラクションはアメリカのThe VOIDや、オーストラリアのZero Latency VRなどが有名ですが、それぞれに共通しているのが敵を倒したり任務をこなすようなゲーム性が備わっていること
『Magic-Reality: Corridor』では、あえてこのゲーム性を無くし、Tyffonの世界に没入してもらうことに注力しました。
そのほか、VR機器はさまざまな製品を深澤氏自身が入念に体験しながら決定していった。
深澤進化が著しい分野なので、次々と新しい機器が発表されますが、一方で発売予定のまま企業が買収されて製品が販売されなくなるケースなどもあります。そのため、ヘッドマウントディスプレイは、早い段階で決定し、表現する中身の作り込みに時間をかけています。
今後のヘッドマウントディスプレイについて期待するのは、サングラスをつけるように、もっとカジュアルに装着できる製品の登場。多くの人が同時に装着すれば、テーマパーク全体をMR空間としたり、日常空間をテーマパークに変身させることもできるかもしれない」

話を聞いて感じるのは、深澤氏のVRコンテンツ開発に取り組む出発点が、VR技術の活用やビジネス面の前進といったこと以前に、「深澤氏が見たいもの、表現したいもの」をつくりたいという欲求にあることだ。
深澤はじめはVR技術の知見はありませんでしたが、皆で一から勉強しながらつくっています。一番大事にしているのは、最新技術を用いることではなく、世界観をきちんと表現すること。
私が、ディズニーのホーンテッドマンションで体験した記憶が心に残っているように、『Magic-Reality: Corridor』を体験した人に原体験となるような感動を味わってほしいし、私自身もそう感じられる作品にしていきたいのです。
VRはあくまでも、深澤氏の頭の中にある「仮想世界」を、私達の「現実世界」に再現するための手段の一つであるというスタンスが、力強く魅力的なコンテンツづくりを支えていると言える。

今年10月には、東京・お台場のダイバーシティでTyffonのエンターテインメントを体験できる実店舗を開業予定。体験できるコンテンツを増やし、店舗も増やしていくという。
ディズニーが認め、ディズニーをロールモデルと語る日本人。今後も、現実と仮想世界を複合、融合させていくそのコンテンツ力に注目だ。
こちらの記事は2017年09月20日に公開しており、
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執筆
高柳 圭
連載ビヨンド・リアリティー(BR)
5記事 | 最終更新 2017.10.06おすすめの関連記事
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