連載私がやめた3カ条

「つよつよマネジメント」は過去のもの──FinT大槻祐依の「やめ3」

大槻 祐依

早稲田大学在学中の2017年にFinTを起業。若年層女性向けSNSメディア『Sucle(シュクレ)』の運用やSNSマーケティング事業を展開。インスタグラム運用代行事業では、メルカリや美容ブランドSABONなどの大手企業を中心にアカウントの企画、撮影から投稿までサポート。メディア/SNS運用の知見を活かし、SNSマーケティングの最新傾向やZ世代動向分析に強みを持ち、多数のメディアでSNS専門家として出演。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」略して「やめ3」。

今回のゲストは、若年層女性向けメディア『Sucle(シュクレ)』の運営やSNSマーケティング事業を展開する株式会社FinT代表取締役、大槻祐依氏だ。

  • TEXT BY SHO HIGUCHI
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大槻氏とは?──次世代トレンドをけん引する、お人好しかつキャプテン肌

早稲田大学に進学し、在学時からITベンチャーでのインターンやシンガポールへの交換留学を経験。学生起業し、現在では20代の若手経営者としてテレビや雑誌などのマスメディアにも引っ張りだこだ。いかにも「できる人」といった印象を抱いてしまう経歴だが、経歴の「強さ」とは裏腹に、大槻氏が話している姿は、とても柔和な印象を与える。

大槻氏が現在FinTで手がけているのは、SNSマーケティング事業。特に、主要事業であるInstagramの運用代行事業では、美容ブランドSABONやメルカリなどの大型クライアントも含め、累計150社以上のアカウントのSNS運用をサポートしている。若年層女性向けSNSメディア『Sucle』の総フォロワー数は、87万人以上にも及ぶ。

経歴だけを見るといかにも順風満帆なキャリアを送っていそうだが、ここまでの経歴は決して平坦なものではなかったという。意外と裏で、失敗も重ねてきたのだ。果たして大槻氏は何をやめる決断をしてきたのか。やめることで、大槻氏は何を得てきたのか。

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課題起点のビジネスをやめた

もともとはフィンテックサービスを展開していたFinT。社名の由来は“Financeにhintを”からきている。

大槻シンガポールに交換留学していたときに、日本の学生とシンガポールの学生との間の金融知識の格差を痛感しました。そこで「日本でも、シンガポールの学生たちのように金融知識を活用して豊かに生きる人を増やすために、金融知識を広めたい」と思い、フィンテック事業を展開するFinTを創業しました。

今だから言えますが、自分自身は金融に興味があるかと言われると、決してそうではなかったんです。「ニーズがあるだろうな」という思いだけでフィンテック事業を起業しました。

勝算はあったものの、起業してから半年ほど経っても、全くといっていいほどフィンテック事業には反響がなかった。そこで大槻氏はピボットを決断する。これまでとは違い、「自分が興味を持てる好きな領域」で勝負することにしたのだ。

大槻小さい頃から、ファッションやインテリアなど身の回りのものに人並み以上に興味がありました。学生時代にインターンしていた企業でも女性向けメディアを運営していたこともあって、フィンテック事業から女性向けメディア事業にピボットすることにしたんです。

伸びるか分からない事業でも、情熱があれば続けられる。徐々に女性向けメディアにユーザーがついてきたところで、同メディアのSNSアカウントも始めた。それがFinTにとっての転機となった。

大槻SNSアカウントを運用し始めてから1年で、10万フォロワーを獲得することができたんです。諦めずに女性向けメディアを続けていたから、スムーズにSNS運用に移れたんだと思います。事業に情熱を持てるかどうかという点は、今思えば非常に大事だったんだな、と感じます。

他の起業家からSNS運用のポイントについて聞かれることも増えました。ランチのついでにアドバイスしている程度だったんですけど、すごく喜んでもらえて「事業としてやってもいけるよ」なんて言ってくれることもあったんです。「じゃあ、やってみようか」ということでSNSマーケティングの代行事業を始めて、今では主力事業にまで育ちました。

もちろん、課題起点で事業を始めるベンチャーパーソンも多いだろう。一方で、得意分野だからこそ解像度高くユーザーニーズを理解でき、結果として新しい課題を発見できることもある。大槻氏の起業ストーリーはそんなことを教えてくれる。

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“つよつよマネジメント”をやめた

理想のリーダー像は人それぞれ。どんなリーダーを目指すべきか、スタートアップ経営者は頭を悩ませることだろう。大槻氏が目標とするリーダーと出会ったのは、学生時代。学生起業家の下でインターンをした時の社長が東大出身で、圧倒的なカリスマ性があった。

大槻インターン先の社長は、持ち前のロジカルシンキングで組織をけん引していたんです。一方で、人によっては詰められていると感じてしまうこともあり、「強い」マネジメントスタイルを取っていました。そのスタイルを「つよつよマネジメント」と勝手に呼んでいました(笑)。

リーダーたる者、心を鬼にして事業を推進することが重要だと感じていたんです。だから起業した当初は私も「つよつよマネジメント」をしていたんですが、起業して1年ほどはうまく機能していませんでした。自分の性に合わないこともあって、すごく苦しかったことを覚えています。

マネジメントについてずっと悩んでいた大槻氏。しかし、そのスタイルを変えるきっかけは突然やってきた。

 

大槻今も仲良くさせていただいている起業家や投資家の方々がオフィスに遊びに来てくれたことがあったんです。そこで皆さんから「会社にいると、いつもの大槻さんと雰囲気が違うね」と言われて。現在FinTで社外取締役をしていただいているEast Venturesの大柴さん(通称:調べるおさん)には「普段通りの自分を出した方がいいよ」とも言われました。

そこで私も考え直し、「つよつよマネジメント」をやめることにしました。いきなりやめるのは難しかったので、メンバーに寄り添い引き出すマネジメントスタイルを徐々に織り交ぜていきましたね。

メンバーの意見を尊重し、肯定するようになっていくと、徐々に会社の雰囲気も明るくなった。メンバーから企画も良いものが出るようになっていったという。

大槻自分ひとりの持っているアイデアって、たかが知れていると思うんです。だから様々なメンバーからいいアイデアが出る組織にした方が生産的ですよね。実際に、私より他のメンバーの方が100倍くらい素敵なアイデアを持っていることもあります。

経営者である私の役割は、良いアイデアを出してもらえるような環境づくりです。メンバーに企画を任せられるようになると、会社自体もステップアップしていけますしね。

確かに、「つよつよマネジメント」を使いこなせる経営者もいる。しかし大槻氏は、それが自分と合わないものであると気づいた。最適なマネジメントスタイルは、自分自身で模索していかねばならない、ということだろう。

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年齢層を絞った採用をやめた

創業当初は、大槻氏と同年代の20代半ばのメンバーがほとんどだった。しかし、ここ最近になって、幅広い年代のメンバーを受け入れるようになった。現在のメンバーには30代以上が10%以上、10代や40代のメンバーもいる。

大槻今まではあまり年齢差のある方の採用は敬遠していました。「入社しても馴染めないんじゃないか」と勝手に思っていたんですね。

でも、40代の業務委託の方と仕事をしたときに、その先入観は払しょくされたんです。経験豊富な40代だからこそできるアドバイスや気づきをくれるし、20代中心の私たちとも全然馴染める。補い合って成長できる。そう感じたときに、年齢層を絞って採用することをやめました。

経験豊富なメンバーが気づきを与えてくれることもあれば、柔軟な感性を持った10代だからこそできる企画もある。

大槻SNSを駆使してトレンドを生み出すのが上手いのは、中高生であることが多いんです。FinTにも10代のインターンがいますが、彼女たちはただの作業者ではありません。企画を出してもらって、実行までしてもらうこともあります。

例えば私自身、中高生のようにTikTokをナチュラルに使いこなすことはできていないと思います。そこで高校生の子に「うちの妹はこんな感じでTikTok撮ってますよ」なんて教えてもらうこともあるんです。現役のトレンドを捉えている中高生じゃないと出せない企画は確実にありますね。休憩室でお菓子を食べながら何気なく話しているときに教えてもらうこともあります。持っているマインドが同じであれば、年齢差は気にならないですね。

マインドが共通であれば一緒に戦える。逆に言えば、同じ方向を向くための努力は最低限必要であるということだ。そんな風に組織を変革すべく、ビジョンをより明確なミッション・パーパスにし、行動指針も変えた

大槻採用する年齢層を広げてからは、行動指針に共感してもらうところから面接をスタートするようにしています。それから、これまでのビジョンはやや抽象的であったため、会社の目指す方向と事業内容を埋めるパーパス・ミッションを今年策定しました。行動指針を3つから17つにしたのは、多様なバックグラウンドを持つメンバーの意識を統一するためです。同じマインドを持つ多様な年代のメンバーたちが、助け合って進んでいけるように。

「『キャプテンっぽいね』とよく言われます」。大槻氏はそう言ってはにかんだ。メンバーに寄り添う優しさと、経営者としての冷静さを兼ね備えている大槻氏にぴったりの形容だろう。多様なメンバーの活躍が、大槻氏の求心力を裏付けている。マネジメントに悩まない経営者などいない。悩み、失敗しながらも、着実に組織をけん引し続ける経営者の在り方について、大槻氏からヒントをもらった。

こちらの記事は2022年05月17日に公開しており、
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執筆

樋口 正

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