連載私がやめた3カ条

自分にしか解決できない課題にコミットせよ!東京を離れた会計士の“オリジナルな戦略”──Stayway佐藤淳の「やめ3」

インタビュイー
佐藤 淳

有限責任監査法人トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)の東京オフィスに6年間、シアトルオフィスに2年間勤務。2017年 株式会社Staywayを創業。課題が多い補助金・助成金領域に対しては、全国の地域金融機関/事業会社と連携しながら、テクノロジーを用いて効率化を進める補助金テックを推進しており、金融庁や日経新聞の選ぶFintechスタートアップに選抜されている。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、中小企業や地域のお金の悩みを解決する『補助金クラウド』を提供する株式会社Stayway代表取締役の佐藤淳氏だ。

  • TEXT BY TAKASHI OKUBO
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佐藤氏とは?──オリジナリティ溢れる、悠々自適な起業家

公認会計士という専門的な資格を持ちながらも、あえてその力に頼らず難易度の高い起業を選んだ佐藤氏。専門的かつ多くの企業から必要とされる職種を捨て起業した背景には彼なりの“勝ち筋”がはっきり見えたからだ。

自分のポジションと市場の動向を冷静に見極めもっとも合理的な判断をくだす佐藤氏。今回、本企画の取材を進める中で話してもらった「やめたこと」からも「らしさ」がにじみ出ている。

彼が起業を志した原点は中学時代に遡る。きっかけは友人の父親だった。当時の佐藤氏は、大人になると日中は働きにでかけるのが普通だと考えていた。しかし、友人の家は住まいも豪華なのに父親は昼間から悠々自適な生活をしていたのだ。聞くと仕事は自営業で自分で事業を経営したという。自身の抱く大人のイメージとは全く違う姿を見て、シンプルに憧れを抱いたのだと話す。

何気ない日常から「自分で事業を作る」という考え方がインプットされた佐藤氏。中学時代の子どもらしいきっかけから一転し、彼は今、合理的な判断力と広い視野を持って地方の中小企業を支える事業を展開している。

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専門家でいることをやめた

人は「時間を費やしたもの」や「精一杯努力して手に入れた地位や肩書き」を大事にしすぎるあまり、そこからの脱却や変化が難しくなってしまうことがある。例えば、経営なら、創業時から自社の柱だった事業が市場のニーズに合わなくなり衰退した時、潔く撤退、あるいは変化することができないことなどだ。個人の場合だと、自ら築き上げた努力やキャリアが、自分自身の可能性を狭めている場合がある。

佐藤氏は、自分の“勝ち筋”が見えたからこそ、専門家でいることをやめた。公認会計士として、会計士事務所で勤務を続ける道は安泰だったかもしれない。だが、同等の知識さえあれば自分ではなく誰でもできる仕事が、果たして自分にとっての「成功」なのか疑問に思ったと話す。

佐藤公認会計士として8年働いたのですが、世の中の役に立つ事業を作りたいという気持ちが変わらなかったこともあり、会計士としてのキャリアに固執することはやめたんです。

会計士は色んな経営者と接点を持ち、経営のコアな部分に関われる一方で、自分自身で事業をしていない分、本質のことは理解できないと思ったんです。それっぽい答えは持っているものの、「どんなマーケットでどんな事業をすれば収益性が高いのか」など、自分で思いつくのは難しいと感じました。そこで、自分で事業を始めることにしたんです。

どんな事業がスケールするのか──。未体験の領域で、そんなことを考えながら様々な事業を展開してきた佐藤氏。現在の『補助金クラウド』を着想したのは、周りのスタートアップが補助金の獲得に苦戦していたことを知ったのがきっかけだ。

佐藤コロナの影響もあって、スタートアップの資金調達が難しくなっています。そんな中、私はファイナンスのバックグラウンドを活かして補助金の獲得を積極的に行っていました。当時私は問題なく獲得できていたのですが、周りは苦戦していることを知ったんです。そこで、私が持つ補助金のナレッジを体系化してクラウド型のサービスで提供していけば成功するのでは、と思ったのが今の事業の始まりです。

それこそ公認会計士の資格を持っているので、顧客からの信頼という面でのアドバンテージが大きいんですよね。補助金関連の事業は、資格もなく始められる上に稼ぎやすいと思われているので、中には自分達が儲かることだけを考えている人もいます。そういった業界の中で、国家資格を持っている私がこの事業を担っていく意味合いは、非常に大きいと考えています。

公認会計士から経営者へのキャリアチェンジは苦労もあったが、たとえ逆境の中でも自分のオリジナリティを発揮し、唯一無二の価値を生み出す。流行りに流されず、自分の強みを最大限に活かす場所で戦うのが佐藤氏の“勝ち筋”なのだろう。

佐藤事業を実際に始めて感じたのは、やはり社会課題の解決に結びつくことや、インパクトのあることが収益にも影響してくるということですね。「誰もが困っているけど、誰も解決していないこと」に価値がある、ということを改めて実感しました。

そういった観点では、もちろん個人で公認会計士事務所を作るという選択肢もあったのですが、同じ事ができるプレイヤーは他にもいるのでオリジナリティがありません。それよりも、もっと難しい課題や新しいことにチャレンジし、その結果、収益を上げて成長した先にIPOがあるような未来の方が、自分の人生を楽しめると考えています。

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東京から発信することをやめた

オンラインとオフラインの両面を重視したハイブリットワーク。SaaS関連企業で主流となりつつあるフルリモート。中には海外に住みながら国内企業で働くビジネスパーソンもいる。場所による制約がなくなったことで変わったのは、働きやすさだけでなく事業の戦略もだろう。

Staywayのクライアントの多くは地方企業だ。佐藤氏は自社の事業を振り返った時に「東京でなければならない理由」は見つからなかった。

佐藤コロナの影響もあってリモートワークの働き方が進む中、あまり東京にいる意味が無くなってきたと感じています。何よりも自社のビジョンとして、中小企業や地域のポテンシャルを解放していくということをうたっているのに、私自身が東京にいることに違和感がありました。

地域の中小企業ほど、私たちが提供しているような支援を必要としている企業がたくさんあります。しかし必要な情報が届いていないんですね。そのために私たちは「地方のため」「中小企業のため」と声を上げ、サービスを提供しているのに自分は東京にいる。「掲げているミッションに対して行動が伴っていない」という気持ちが日々強まっていました。本当に地方のためになる活動をしていくため、東京拠点の働き方をやめました。

こういった考え方は前々からメンバーにも相談していたので、業務にも支障なく、むしろ前向きに捉えてくれているので安心しています。他のメンバーも皆、東京にいるのですが、業務としてはほとんどリモートで行っているため実務への影響はありません。関西圏の顧客が増えてきた今、私が先陣を切って関西に行くことの方が自社にとってメリットが大きいと考えているくらいです。

自分の身を顧客が多い地域に置くことによるメリットは「仲間意識」を持ってもらえるからだと話す。佐藤氏は家族とともに関西に生活圏を置き、ゆくゆくは本社機能も京都・大阪など関西へ移そうと考えている。

佐藤メンバーと直接会って話すということも確かに大事だとは思います。ただ、京都や大阪からでも新幹線に乗っていけば数時間で東京にいけるので、朝9時に東京出社することだって可能なんですよね。そう考えると本当に実務では何の問題もないと考えています。

また、私のようなスタートアップの経営者が地方に移住するのは「差別化できる」という観点からもメリットがあります。東京のスタートアップ企業として上場するのと、地方のスタートアップ企業が上場するのとではインパクトが違うんですよね。特に私たちの場合は、地域をエンパワーメントするサービスなので、地方で実績を作った方が顧客も仲間意識を持って喜んでくれると考えています。

スタートアップの経営者にとって地方への移住は、実はいいこと尽くしなのかもしれない。

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群れることをやめた

ビジネスの現場においては、社内外含めてコミュニケーションが生命線だと言っても過言ではない。企業の規模に応じた課題感は様々だが、リモートワークが増加し対面によるコミュニケーションの機会が減った今、対話の機会を意識的に増やす風潮を感じるのではないだろうか。

とはいえ、何の目的や意図もなく行われる雑談や集会は、決して生産的とは言えない。では何が大事なのか。それは「周りの成功事例を鵜呑みにしすぎないこと」ではないだろうか。

例えば佐藤氏は、目の前のお客様の課題を解決することが自社で働くメンバーにとって必要だと考え、不必要に群れることをやめた。「過度にコミュニケーションを充実させるよりも、目の前の課題を解決することで対価をいただき、給与に反映する」ことの方が大事だと判断したからだ。

佐藤群れることをやめた、というと少しドライに感じるかもしれませんが、決してコミュニケーションが無駄だということではありません。スタートアップなので、創業初期からメンバーと活発にコミュニケーションを取ることを大切にしていました。しかし、事業も拡大する中、今後メンバーが高いパフォーマンスを発揮するために、私が果たすべき役割や会社として優先すべきことも変化します。今は今後の成長に向けて会社を整えること、人事制度や収益性の向上など、メンバーの給料ややりがいにいかに繋げていくかが重要だと感じています。

社外においても、昔は積極的に飲み会などの場で営業活動もしていたのですが、優先すべきことを踏まえ、適宜判断しています。もちろん友人や大事なお客さんとご飯を食べに行く、といったことはしています(笑)。

どちらにしても、飲み会などの場で、何の方向性や目的もなく話すだけでは何も解決もしないし結果に結びつくようなこともない。それよりも一貫して目の前のお客様の課題を解決する事業を追求し制度を整えていくことが、会社にとってはもっとも重要なことだと考えています。

そういった文化を浸透させたことによって、社内では「良い・悪い」のフィードバックをシビアに言い合えるようになりました。慣れていない人は大変かもしれませんが、新たな成長の機会だと捉えてもらうようにしています。全体的にパフォーマンスが向上していると感じるので、群れることはやめて良かったです。

また、スタートアップの社長なので、ワークライフブレンドではありますが、家族と過ごす時間が増えたので、改めて「何にどう時間を使うか」を考えることは大事だと実感しています。

あなたは知らず知らずのうちに周りに影響されてはいないだろうか。雑談は本当に自分達の組織にとって大事なことなのか、何が自社にとって必要なコミュニケーションなのか、そもそもコミュニケーションがなぜ大事なのか自問自答してみてほしい。

取材を通して、終始、冷静な考え方をのぞかせる佐藤氏。オリジナルな事業モデルや、関西圏への移住もすべて、自身が導き出す“勝ち筋”として紐づいているのだろう。佐藤氏の周りに流されない思考からブレないマインドセットを学びたいところだ。

こちらの記事は2022年05月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

大久保 崇

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