連載私がやめた3カ条

キャリア形成に「弱者の戦略」を──justInCase畑加寿也の「やめ3」

インタビュイー
畑 加寿也
  • 株式会社justInCase 代表取締役 

保険の原点は「助け合い」。それがより良い商品を作るために各社競争した結果、複雑な保険数理モデルが編み出され、一般消費者は理解できなくなってしまった。もちろん、保険業界に対する不信感は拭えない。これらの思いをテクノロジーに込めて、保険業界を「助け合い」という保険の原点に戻すためにjustInCaseを創業。京都大学理学部(数学専攻)卒業後、保険数理コンサルティング会社Millimanで保険数理に関するコンサルティングに従事後、JPモルガン証券・野村證券・ミュンヘン再保険において、商品開発・リスク管理・ALM等のサービスを保険会社向けに提供。2016年justInCaseを共同創業。 プログラミング: Python / Swift / Ruby / VBA。日本アクチュアリー会正会員。米国アクチュアリー会準会員。ワインエキスパート。フィンテック協会理事。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、「わりかん がん保険」など独自の商品を展開する保険スタートアップjustInCaseの代表取締役、畑加寿也氏だ。

  • TEXT BY TEPPEI EITO
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畑氏とは?
元・京大理学部「数学者」志望。かつ、コテコテの関西人

新卒で2016年に株式会社justInCaseを創業した畑氏。

結果的に「起業家」になったわけだが、学生時代まで遡れば、もともと彼がなりたかったのはまったく畑違いの「数学者」だったという。ちなみに……もう少し遡ると彼の夢は競馬の「騎手」だったようだ。しかし、「あ、でもこれは取材の趣旨とちゃうか」とあっけらかんと話を戻し、詳しいことは話してもらえなかった。

騎手はさておき、京都大学の理学部数学科に進学し数学者を志していた同氏がなぜ、InsurTechのスタートアップを創業することになったのだろうか──。

その過程を紐解いていくと、同氏が持つキャリア形成における哲学が見えてきた。

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「強者のキャリア戦略」をやめた

数学が好きで、そして得意だった畑氏は、数学者になることを夢見て京都大学の理学部に入学した。しかし周りを見渡せば、自分より遥かに秀でた才能を持つ学生ばかり。

自分が“井の中の蛙”であったことに気づいた彼は、早々に数学者の道を諦めた。直感的に「数学者は彼らに任せたほうが社会全体でみても良いだろう」と感じてしまったのだという。

「数学」っていう分野におけるトップは自分には取られへんと思ったから、戦略を変えてトップを取れそうなニッチ領域を探したんです。みんながやってるような領域ではなくて、ちょっと変わった領域を。それで見つけたのが金融の分野です。特に数学の知識を生かせるアクチュアリーとか保険数理とか。

大学1年生という若さで、キャリア形成の戦略を「弱者の戦略」に切り替えた畑氏。自分が持つ「数学」という武器で最も有利に戦える戦場を金融業界に見出したのだ。

彼の“戦略”はただニッチ領域を探すだけではなかった。その戦場で戦うための武器を貪欲に求めた。当時でいうと、それは「英語スキル」だった。

京都大学に入学できるレベルの英語スキルはすでに持っていたが、当領域で勝ち抜くためにはハイレベルな英語が必要不可欠と考えた彼は、大学を1年休学して米国に文化交流ビザを利用することで現地高校のティーチングアシスタントに。1年間日本語は一切読み書きしないことを誓い、実際に実践した。

そうやって手に入れた英語スキルと、一般的に見れば高いレベルである数学のスキルを武器に、1社目の保険数理コンサルティング会社Millimanへと入社したのだ。

「弱者の戦略」は対企業におけるスタートアップや中小企業の経営戦略と捉えられがちだが、その考え方はキャリア形成にも転用できるのだ。いや、キャリア形成においてこそ「弱者の戦略」をとるべきなのかもしれない。社会において、個人が「強者」であることのほうが少ないのだから。

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「連続性あるキャリア」をやめた

畑氏はjustInCaseを創業するまでに6回の転職を経験してきた。そんな彼に、転職において重要なことを尋ねてみると、「連続性と非連続性のバランス」だと答えてくれた。

効率的に自分の市場価値を高めていくには、能力を掛け算していく考え方が必要やと思います。既存の能力を生かした連続的なキャリアを意識しつつも、非連続的な「新しい何か」を掛け合わせるということです。

連続性が高すぎると「足し算」になってしまって価値が高まりづらい。一方で非連続性が高いと既存の能力を生かせず、イチからのスタートとなってしまいます。

実際に彼は、学生時代に得た「数学」の能力に「保険業界」という非連続的なものを掛け合わせ、キャリアをスタートしている。その後の転職でも、「保険数理」に「金融工学」を掛け合わせているし、justInCaseだって「保険の知識」に「テクノロジー」を掛け合わせた結果生まれているのだ。

そうやって彼は、「保険業界において最もテクノロジーを理解しており、IT業界において最も保険を理解している人物」という希少性を手に入れた。

キャリアを積んでいくと、「ニッチな領域を探す」のではなく、自らの能力の掛け算によって「希少性をつくりだす」意識が必要になるのかもしれない。

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タスク消化が目的の時間をやめた

取材の後半では「justInCaseの畑加寿也」としてやめたことがないかを聞いてみた。すると彼は、「会社をやめましたね」と真顔で答えた。

というのも、株式会社justInCaseを創業したのが2016年12月で、前職を退職したのは翌年の11月なのだという。つまり“週末起業”というやつで、約1年間はサラリーマンとして働きつつ、平日の夜や休日に業務を行っていたのだ。

しかし幸か不幸か、TechCrunch2017で大々的に取り上げられたことをきっかけに、会社から「明日から来なくていいよ」と言われ、退職することになった。

“やめた”というよりも“やめさせられた”んか(笑)。でもそのおかげで、justInCaseのことに集中できるようになって、会社の成長につながりました。兼業でやっていたときはリソースに限界があったから、目の前のタスクを消化することで精一杯やったんです。でも時間が生まれたことで、「考える時間」を設けられるようになりました。

この経験は今の彼の「時間の使い方」にも影響している。自分のリソースをタスク消化で埋めてしまわないように、スケジュールをコントロールしているそうだ。最近では、涙をのんで「社員全員との1on1」もやめてしまったのだとか。

とはいうものの、「畑さんなら、1on1がなくても全社員と会話していそうですけれど(笑)」と取材陣が問うと、「おっしゃるとおり(笑)。フランクかつオープンだから、立場問わず誰からも相談されています」と、同席した社員が楽しそうに話してくれたのもまた、畑氏の人柄を象徴するシーンであった。

自身のキャリア成長を助けてくれた弱者の戦略。いまではそれを株式会社justInCaseに転用して戦っているのだろう。どうすれば強者に勝つことができるか。それを考え続けるのが、今の彼の仕事なのだから。

こちらの記事は2022年03月08日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

栄藤 徹平

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