Alchemist Accelerator デモデイ参加企業から読み解く、
アメリカBtoB / BtoBtoCスタートアップの潮流

アメリカのBtoB / BtoBtoCに特化したアクセラレータープログラム「Alchemist Accelerator」が、5月18日にデモデイを開催。

17のスタートアップがピッチをおこなった。

今回のデモデイに登壇したスタートアップは、大きく2つに分けられる。

最新テクノロジーの活用可能性を最大限まで模索する企業と、枯れた技術を活用して最新テクノロジーを後押しする企業だ。

Alchemist Acceleratorはどのようなプレーヤーに注目するのか。その特徴を探っていく。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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そもそも「Alchemist Accelerator」とは?

Alchemist Accelerator

Alchemist Acceleratorは、BtoB / BtoBtoC向けビジネスを展開するスタートアップに特化したアクセラレータープログラムだ。支援者にはSapphire Ventures、U.S. Venture Partners (U.S.ベンチャーパートナーズ)といったVC、GE Ventures(GEベンチャーズ)などのCVCはもちろん、Analog Devices(アナログ・デバイセズ)、Cisco Systems(シスコシステムズ)、Telefonaktiebolaget LM Ericsson(エリクソン)など、大手IT企業も協賛企業として名を連ねる。

書類審査と面接を経てプログラムへの参加が決まったスタートアップは、協賛企業以外を含めた米国中のVCが集結するデモデイへの出場資格が得られる。無論、ピッチの機会だけでなく、デモデイまでの期間にはAlchemist Acceleratorが抱える経営者・投資家たちからのメンタリングやフィードバックも受けられる。

参加チーム数の少なさもAlchemist Acceleratorの特徴だ。前述のY Combinatorが100チーム近く参加するのに対し、Alchemist Acceleratorは一度に17チーム。その分、手厚いメンタリングを提供しているといえるだろう。

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VR / ARを中心に、開発支援ビジネスが半数近くを占める

今回のデモデイをみてみると、参加企業の半数は枯れた技術を活用したものだった。彼らは既存の技術を活かし、最新テクノロジーを後押しする戦略を採用している。

まず多かったのが、VR/AR領域の事業だ。

LIGHT BOX」は、小売業者がVR/AR空間で商品を試すために必要な3Dモデルの制作を、自動化するスキャニングサービス。プロのクリエイターでも1日に数個しか制作できないといわれる3Dモデルを自動生成してくれる。「Ondaka」 は工事現場などで産業従事者の安全性を担保するため、危険な現場にあるモノの位置関係などをシミュレーション可能にするプラットフォームを提供している。

VadR」はVR/ARコンテンツの品質改善を支援するスタートアップ。機械学習によってコンテンツの品質を分析し、改善提案までしてくれるサービスを提供する。ベクトルは少々変わるが、モバイルデバイス上にVR/ARコンテンツを展開する際に障害となる、計算負荷を軽減するためのエッジクラウドを構築している「GridRaster」も、コンテンツ提供における品質改善に寄与するといえるだろう。

VR/AR以外では、IoTデバイスの開発コストを削減する組み込みソフトウェアを提供する「Ubiquios」や、ビッグデータ分析をより円滑化するための高性能CPUを開発する「Intensivate」がいる。また、SaaS企業が新規開拓をおこな際に、顧客がもともと使っていたアプリと同じユーザー体験ができるような、SaaSマーケットプレイスを提供する「Integry」も名を連ねる。

最新のテクノロジーは多くの可能性を有する。ただ、BtoBの場合は技術的安定性も求められる。そこで「枯れた技術」、言い換えれば「こなれた技術」を活用するのは理に適った選択だ。面白みがないようにもみえる領域だが、実は大きな可能性があるのではないだろうか。

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AI領域を中心に、最新テクノロジーの可能性を追究するプレイヤーたち

Cattle Care

とはいえ、自ら最新テクノロジーを駆使してサービスを開発・提供する企業が担う役割は大きい。今回のデモデイに登壇した企業の残り半数は、新しい可能性を模索する企業たちだ。

最新テクノロジーでは、AIが依然として注目を集めている。基礎技術としては、機械学習の「次」として注目を集める「継続学習(continual learning)」の研究開発をおこなう「Cogitai」がいる。EC領域では、AIが個々人に合わせたコーディネートを提案してくれるオンラインカタログ導入を支援する「Neulogic」がピッチをおこなった。物流領域では、AIによる予測分析で荷主と運送会社のマッチングの自動化を実現する「LoadTap」もいる。

ほかにも、牛の動画をAIで解析して健康状態を診断するサービスを展開する「Cattle Care」、セキュリティ監視のための動画解析AIを提供する「AitoeLabs」、ドローンの侵入をAIコンピュータビジョンで検出する「Tarsier」など、AIを活用したビジネスが数多く登場している。

最新テクノロジーではないが、大麻農家向けに化学組成の試験をサポートするIoTプラットフォームを提供する「Vorga」もいた。大麻市場は、2018年1月のカリフォルニア州での合法化もあり、2021年までに4.5兆円の市場規模まで成長するといわれており、注目度が高い。全体としてみると、最新テクノロジーの活用可能性の模索という点では、AIが依然として高い人気を誇っていることが分かる。

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BtoB / BtoBtoCスタートアップの生存戦略は2通りか?

今回のデモデイを通してみても、最新技術だけではない可能性がまだまだ存在することは明らかだ。かいつまんで言えば、サポーター戦略を採用するか、プレーヤー戦略で勝負するか、といったところか。

無論、技術的な革新性を突ければ大きなマーケットが開ける可能性は高い。一方で、技術ではない場面で勝負するやり方も一つの手札としては引き続き重要な考え方だ。

次回のAlchemist Acceleratorのデモデイは2018年8月にスタートする。BtoBビジネスの最新トレンドをリアルタイムに反映した同社の動きからみえるものは大きい。

こちらの記事は2018年07月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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