Chatworkにしかできない“本質的”なDX、カギは「Techと人の融合」──前例のないBPaaS、プロダクトチームの想いと挑戦に迫る

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インタビュイー
海老澤 雅之

ソニー・エリクソンでソフトエンジニア、サービス企画を経験後、ソニーにて、音楽サブスクリプションサービス立ち上げを経験。その後USでPlayStation Networkのプロダクトマネージャーを担当。日産自動車、センシンロボティクスを経て、2022年7月Chatwork株式会社(現 株式会社kubell)に入社。認証基盤やインキュベーション領域のプロダクトまで横断的に関与。2024年1月よりコミュニケーションプラットフォーム本部 VPoPに就任。

神原 湖彩

LIFULLにデザイナーとして新卒入社し、新規事業・プロモーション・リアルイベントなどを担当。また、プロダクトマネージャーとしてグロース領域も経験。その後、エムスリーでコンシューマー向けのサービスのグロース領域を担当。2022年9月にChatwork株式会社(現 株式会社kubell)へ入社し、UXデザイナーとして、新規事業の立ち上げや既存サービスのグロース領域に携わっている。

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2004年に設立されたChatwork。国内最大級のビジネスチャットツール『Chatwork』を主軸に、中小企業のDX推進に寄与してきた。このプロダクトが、国内随一のPLG戦略によって大きく成長してきたため、「ビジネスチャットの会社」であるとの固定イメージが先行しているが、その理解をぜひ、今、大きく変容させてほしい。何せ、これから同社が成し遂げようとするのは、中小企業の生産性を大きく向上させる可能性を秘めた、ノンコア業務が自動化する世界なのだから。

Chatworkが2023年2月に発表した中期経営計画。そこには、クラウドサービスを通じた業務プロセスの提供を意味する「BPaaS(Business Process as a Service)」という言葉が躍る。同社がBPaaSで何を実現しようとしているか、ビジネスサイドの動きはこの記事に詳しい。では、プロダクト開発側は何を思い、どういった役割を担おうとしているのか。そして、戦略の実現に欠かせないビジネスサイドとの連携をどう行っているか。

『Chatwork』をビジネスのスーパーアプリ(あらゆるビジネスの起点となるプラットフォーム)へと押し上げる、BPaaSのプロダクトづくりを手がけるキーパーソン、海老澤雅之氏と神原湖彩氏に話を聞いた。

  • TEXT BY TOMOKO MIYAHARA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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『Chatwork アシスタント』を足がかりにBPaaSのプロダクト開発の要素を探る

海老澤僕はソニーや日産自動車、センシンロボティクスといった企業で、ハードウェアとソフトウェアをあわせてトータルで価値を提供するようなプロダクト開発をしてきました。今、Chatworkが掲げる「BPaaS」では、その“ハードウェア”が“オペレーション”に置き換わった感覚で、これまで以上に面白いプロダクトをつくる仕事ができている気がします。

神原Chatworkはいま、第二創業期にあると思っています。社員数が急増する中で、さまざまな人材がいる。バックグラウンドもバラバラでさまざまな経験を積まれている方も多いので、みなさんの考え方がすごく参考になる、学びのある環境です。

戦略も、コア事業のビジネスチャットから「BPaaS」に枠を広げて、さまざまな施策を展開しようとしています。自分のスキルを活かして活躍できる場が増えていくんじゃないかと期待がふくらみますね。

インタビュイーの2人が笑顔で語る、BPaaSについての話。その裏側を、この記事ではじっくりと探っていく。

「BPaaSを主軸に、Techと人をハイブリッド(融合)させた高い生産性のオペレーションを確立させ、経営における幅広い領域での本質的なDXを実現する」。2023年2月に発表したChatworkの中期経営計画の中で語られる、インキュベーション戦略のコンセプトだ。

なぜいま同社がBPaaSに挑むのか、詳しい背景は以前の記事(12)に譲るとして、Chatworkが展開しようとしているBPaaSのイメージを簡単に共有したい。

中期経営計画や最新の決算説明資料によると、Chatworkが展開するBPaaSのイメージでは、図の通り。同社のコア事業であるビジネスチャットを基盤とし、業務を依頼したい利用者はチャットで連絡をすると、連携された自動化エンジンを介して業務関連SaaSに処理の指示を送り、業務を遂行する。あるいは、実務を担当するオペレーターが業務関連SaaSを選定・操作し、業務を代行する。

オペレーターは必要に応じて、士業や専門家といった専門機関に業務相談をすることもある。

こうしたBPaaSを実現するためのピースの1つとして現在プロダクトチームが取り組んでいるのが、オンラインアシスタントサービス『Chatwork アシスタント』だ。

『Chatwork アシスタント』は2023年6月に正式リリースされたばかりの新サービスだ。現状、完全なシステム化はしておらず、オペレーターの動きを把握し、現場にどんなニーズや課題があるか、業務領域で型化できそうな部分はないか、プロダクト開発の要素を探るフェーズにある。

海老澤氏、神原氏らプロダクトチームは顧客のグループチャットに参加し、やり取りを実際に観察したり、顧客とやり取りしているオペレーターにヒアリングを行ったりして、システム化すべき部分を抽出しているという。

たとえば、サービスの申込み手続きの簡略化。現在は『Chatwork アシスタント』に申込みをする場合、利用者がプランを選んで申込みをすると、Chatworkが請求書を発行し送付する。それをもとに利用者が銀行で入金を行い、入金確認ができればサービス開始となる。ここがシステム化されれば、申込みからサービス提供開始までのリードタイムは大幅に短縮される。

海老澤『Chatwork アシスタント』を利用したいお客様は、できるだけ短時間でサービスの提供を受けたい場合が多い。だからこそ、申込みから作業着手までの時間を短縮することが、大きな価値になります。まずはそのようなベースの機能をシステム化することに優先順位を置き、その先の、たとえば労務や経理といったそれぞれの業務に特化した部分の改善は次のフェーズと考えています。

コア事業のビジネスチャットと、新規事業であるBPaaS。プロダクトマネジメントやプロダクトデザインの観点から見て、両者にはどんな差異があるのか。海老澤氏に尋ねると、「まるで違うといっても過言ではない」との答えが返ってきた。

海老澤ビジネスチャットはユーザー数が多く、トラフィックがものすごい。開発上、絶対に安定性を担保する必要があります。機能開発も、これまで積み上げてきた複雑な仕様があったうえでの追加開発なので、難易度も高いですね。

一方BPaaSは新しいプロダクトの立ち上げ期にあるため、そうした制約がありません。開発組織も新しく、メンバーも少ない。プロジェクトの進行方法も確立していません。リソースが限られている中でいかに早くプロダクトをつくって検証するか、アーリーフェーズのスタートアップに近いことをしていると思っています。開発も、できるだけライトに、早くリリースする方法を模索している状況ですね。

当社はこれまでビジネスチャットに注力してきたために、それ以外のプロダクトをゼロベースで立ち上げることはほとんどしてきませんでした。このタイミングでのBPaaSにおけるプロダクト開発はこれまでにない新たな挑戦となるので、いろいろと模索をしながら進んでいます。

神原コア事業のビジネスチャットのプロダクト組織は、100名規模にのぼるので、私自身、重要な意思決定をする場面も、ビジネスサイドのメンバーとの関わりもほとんどありませんでした。

いま関わっている『Chatwork アシスタント』のプロジェクトは、ビジネスサイドのメンバーと一緒につくり上げていく感覚が強く、実際に日々の意思決定にも関わりながら、スピード感を持って取り組めています。

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ハードウェア出身だからこそ感じる、BPaaSの進化の可能性

海老澤氏、神原氏がどのようにBPaaSのプロダクト開発と向き合っているか具体的に紐解く前に、そもそも2人がChatworkに参画することになった経緯に迫ってみたい。

海老澤氏はChatworkに入社する以前、ハードウェアメーカーでソフトウェア開発やサービスの立ち上げに携わってきた。「Chatworkのような純粋なSaaS企業で、自分の強みを発揮できるイメージが持てていなかった」と話す海老澤氏が、一転Chatworkに入社することになったのはなぜか。

海老澤Chatworkのカジュアル面談で、ビジネス版スーパーアプリの構想を詳しくお聞きして、「コレは面白そうだ……!」と純粋に思わされたんです。

主軸のプロダクトであるビジネスチャットを、プラットフォーム化して、そこにいろんなサービスを載せていきたいと。いまの事業を活かしてまったく違うことをやろうとしているのだと思いましたし、その取り組みがかつて自分がソニーでやった仕事と似ているなと思ったんです。

ソニー在籍時代、『PlayStation Network』のプロダクトマネージャー(以下、PdM)として、PlayStation向けビデオ配信サービスや音楽配信サービスといったサービスをソニー全体のデバイスに横展開した経験を持つ海老澤氏。この経験は、そうそう得られるものではない。少なくとも、日本では希有な存在だろう。

「この領域でなら、強みを活かせる」。Chatworkのスーパーアプリ構想で自身の持っている能力を発揮するイメージが湧いた。また、プロダクトを通じて中小企業の課題を解決していく姿勢が、前職のキャリアと重なった。

ハードウェアのメーカーでは、ハードウェアとソフトウェアの両面でいかに価値を提供するか、考え続けてきた。BPaaSは、ハードウェアがオペレーションに置き換わったようなものだと海老澤氏は言う。オペレーションとソフトウェアをあわせて、いかに価値をつくり出すか。そこを追求する中で、ハードウェア畑にいたからこそのおもしろさを感じている。

海老澤ハードウェアは一度つくってしまうと、替えがきかないんです。しかし、ソフトウェアとオペレーションなら、後からさまざまな変更ができる。ハードウェアよりも進化していける余地が大きい領域だと感じています。そこが、新たなおもしろさですね。

一方の神原氏は、BtoC向けのサービスを提供する医療系IT企業で、プロダクトマネジメントやプロダクトデザインを経験してきた。第二創業期にあるChatworkには、自らを成長させられる環境があると期待をふくらませる。

神原これまでは、ビジネスチャット単体を成長させるフェーズにありましたが、そこにBPaaSが加わるとなると、「既存プロダクトの改善・グロース」と「新規プロダクトの開発・実装」を、バランスよく進める難しさに直面していくことになります。さらに、グループ会社の事業やプロダクトのことも考える必要がある。こうした複数のプロダクトをつなげて、一貫したUXとして見る視野の広さも必要になるなど、デザイナーとしての成長の可能性が感じられます。

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中小企業のノンコア業務における自動化率を高めるという、大きな挑戦

いまや、国内最大級のビジネスチャットに成長した『Chatwork』。そして、「次の一手」と位置づけられるBPaaS。同社の構想の行き着く先には何があるのか。何を「ゴール」と捉えているのか。この点を改めて、海老澤氏に聞いた。

海老澤目指しているのは、自動化率を高めて中小企業のノンコア業務を圧倒的に高効率に回せるBPaaSの確立。今の延長線上でどこまで何を実現できるかまでを断言するのは難しいくらい壮大な話ですが、その究極形は、効率化すべき作業が「すべてが自動化された世界」です。

2023年12月期第2四半期決算説明資料から引用

ビジネスチャットツールで世の中のコミュニケーションを変えてきたChatworkが次に目指すのは、さまざまな業務が自動化され、さらなる生産性向上が可能になっている未来。AI技術の進展も積極的に活用していく、いままでに前例を見ない、壮大な挑戦だ。

自動化のレベルを上げていくには、いくつもの現実的なステップを超えていく必要がある。前章でも触れたとおり、まずはベースの部分でシステム化できる部分に徐々に着手していく。できあがったプロダクトを実際にオペレーションに組み込み、仮説検証しながらPDCAを高速に回していく。

これらを実現するためのアプローチとして、必ずしもすべてを自社内で開発する必要はないと海老澤氏は考える。

BPOを先進的に進め、知見を蓄積してきたのが、2023年2月にChatworkグループにグループインしたミナジンだ。ミナジンは、すでに労務領域でBPOサービスを請けてきた実績がある。PMIの過程でも、実は2人のタッグが活きた。

グループイン決定直後に、Chatwork側にミナジンが持つプロダクトの改善に携わってほしいと依頼があり、プロジェクトに海老澤氏と神原氏がアサインされた。

海老澤M&Aが決まったばかりのタイミングでしたから、僕らもミナジンのメンバーも、どう接していいか恐る恐るコミュニケーションをとっていた印象でした。

神原最初にしっかり状況をお聞きすると、アサインされた件については、ミナジン側でもすでに長期的にいろいろと検討されていたものだったんです。なので、別の考え方を外部から押しつけるようなイメージにはならないように、「一緒に考えていく」というスタンスを心がけてコミュニケーションを取りました。PMIの経験はありませんでしたが……どんな仕事でも、やはり丁寧さが大事なのだと実感しました。

海老澤 神原さんの押しつけがましくなく、かつ説得力のある話しぶりが、信頼感につながったんだと思います。神原さんが突破口を開いてくれて、プロダクトチームの関係性構築がグッと前進したように感じました。

こうしてPMIも順調に進み、『Chatwork アシスタント』の開発にもつながった。そしてこれから、さまざまな外部SaaSとの連携を、本格的に進めていく。

海老澤自社で開発したほうがいい領域と、外部のサービスを活用してうまくつながることを目指したほうがよい領域がある。外部のSaaSで、相性の良いものがあれば、それを取り入れることで大きく効率化できます。あるいは、M&Aでグループインしたプロダクトをつなぐのも、1つの手段です。

SaaSの場合、「課題が見つかったからサービスをつくる」といったアプローチを取ることが多いんですが、それが必ずしも正解だとは考えていません。

特定領域の課題を解決するSaaSは数多く世に出てきてはいるものの、中小企業ではSaaSを導入していない会社が圧倒的に多い。SaaSの導入自体ハードルが高く、中小企業が十分にSaaSを使いこなせていない実情がある中で、Chatworkがオペレーションから引き受け、裏側でSaaSを動かすことで業務効率化が叶う場合もある。このように、あえて別のSaaSをつくる必要のないケースも存在するのだ。

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ビジネスサイドとの連携がスピード感ある意思決定を可能に

壮大で、かつ、社内にも社外にもほとんど前例のない挑戦であることが、少しずつ伝わってきただろうか。となると、立ち上げフェーズにもおそらく、大きな苦労があったことだろう。この点も、振り返ってもらおう。

そもそもこのプロジェクトは、経営サイドが提示した1枚のスライドから始まった。BPaaSの事業イメージを描いた資料がそれしかなかったために、社内でも人によって認識がさまざまで、大きなバラツキがあった。そこでプロダクトチームは、社内の認識を合わせるところからスタートすることにしたという。

はじめに、すべての制約を取っ払った状態で、BPaaSの理想型を描いていく。プロダクトチーム内でイメージをすり合わせながら、神原氏がワイヤー上にビジュアライズしていった。こうしてできたたたき台を、他部署のPdMや事業責任者など社内のさまざまなポストのメンバーに当てていくことで、これからつくろうとしているBPaaSのプロダクトへの期待値を1つにまとめていった。

海老澤このフェーズは通常PdMだけで取り組むことが多く、簡単なスライドやドキュメントだけで調整を進めるのが一般的とも言えます。ですが今回は敢えて、神原さんにワイヤーのかたちで早期から起こしてもらいました。これが、功を奏し、認識を合わせやすかった。これからつくるもののイメージが人によってバラバラだったのが、たたき台があることで議論を加速することができました。

BPaaSに対してそれぞれが抱くイメージは何に対する期待値なのか。たとえば、「Chatworkユーザーを送客するための動線をつくることで、約600万いるユーザー(2023年6月末時点)に気づいてもらって受注を増やす」といった集客への期待や、「受注した後の効率化」を期待する要素もありました。じゃあどこから優先して手をつけていくのか、逆にどこからなら素早く着手できるのか。解くべき課題と解き方を整理して、取り組みのスコープを決定してきました。

BPaaSに取り組むインキュベーション本部は、ビジネス組織、開発組織を含む。Chatwork事業よりもさらに、ビジネスサイドとの距離は近い。狙いは2つ考えられる。1つは、プロダクトの特性、もう1つは、コンパクトな組織にすることで密な連携を生み出すことだ。

ビジネスチャットは純粋なSaaSであるためソフトウェア=プロダクトの考え方を採るが、BPaaSはソフトウェア×オペレーションで顧客に価値を届ける。BPaaSはオペレーションを司るチームとのあいだでトータルの体験として効率化を図る必要があるため、ビジネスサイドとの連携が不可欠だ。

神原ビジネスサイドとの連携は、プロジェクトのスピード感ある進行を可能にしています。私たちプロダクトチームは顧客の実際のオペレーションに関わっているわけではないので、ユーザーや事業に対する解像度をなかなか高めることができません。そこをビジネスサイドと一緒にすり合わせながら決めていけるのが、意思決定のスピードアップにつながっていると思います。

たとえば、必要な機能の選定などは、実際にオペレーションを見ている担当者の意見ももらいながら決めていきました。事業開発チームからも、日々知見を共有してもらっています。

海老澤関係者がコンパクトで少ないことと、コミュニケーションの密度が高いことで、かなりクイックにプロジェクトを進められている感覚がありますね。

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ユーザーのペインをプラットフォーム化で解消。
ニーズに沿ったUXを届ける

日本にはほとんど前例がないBPaaS。それをこれから、どう進めていくというのか。海老澤氏は、BPaaSの全体像を示したうえで、いまと、そしてこれからに向けた課題を挙げる。

海老澤BPaaSの全体像として、まずお客様がいて、オペレーターがいて、そのあいだをビジネスチャットをメインとしたインターフェースでつないでいく。足りない部分は新たなプロダクトをつくって拡張していくと同時に、裏側の業務を支えるために、何らかのSaaSでつないでいく必要があります。かつ、お客様のバックオフィス業務ごと請け負うと、どうしてもシステム分のユーザー管理や組織管理が必要となります。

ただ、そこは共通化していかなければならないと思っています。たとえば社員1人が入退社するときに、システム10個分のアカウントを管理するのは大変です。また、BPaaSとして請け負ったオペレーション側の業務を効率化する観点からも、プラットフォーム化してアカウントの連携をしたり、組織管理を束ねたりといった処理が必要です。

ですから、引き続きスーパーアプリ構想に向けたプラットフォーム化を進めつつ、一方で自社プロダクトやほかのサービスを連携させて、効率的に複数のSaaSを管理できるよう、BPaaSの仕組みの中で我々が業務を引き受けてDXしていく。プロジェクトとしては非常にチャレンジが多いですね。

なお、海老澤氏がここで言うプラットフォームとは、SaaS固有のアカウントを束ねるソリューションを指している。たとえば、ECの業界を見てみよう。10年前と比べ、大手ECモールによる寡占化が進んでいる。これは、アカウント管理を手間に思うユーザーの気持ちに起因する。個別のECサイトで取得したアカウントの管理が手間なため、楽天やAmazon、ZOZOTOWNなど1つのアカウントでさまざまなショップのアイテムを買い回れるサイトに集約されてしまうのだ。

海老澤ビジネスアカウントにおいても、1サービス1アカウントがユーザーのペインポイントになっているのは間違いありません。こうしたアカウントを束ねるソリューションとして、プラットフォームが必要だと考えています。プラットフォーム化に関しては、これまでの戦略で取り組んできた内容がピースとしてつながってきている感覚がある。やり切れそうな手応えを掴みつつあります。

BPaaSやビジネス版スーパーアプリをデザイナー視点から眺めた場合、その目にどう映るのか。神原氏はこう話す。

神原BPaaS全体から見れば、今後いろんなプロダクトがリリースされるでしょう。ただ、ユーザーから見ると、ほしいものはあくまでシンプルで、「簡単に仕事をお願いできる体験」だけだと思っています。

ユーザーに対しては単純に、たとえば「バックオフィスまるごと引き受けます」という説明だけで済む形が理想的。SaaSの導入に躊躇しているユーザーに、「新しいSaaSをつくりました。使いこなしてください」ではなく、負担のない形のUXを提供したいですね。

そうした複雑な部分をシンプルにするためには、プロダクトをどう連携させるか個別に考えるのではなくて、全体を1つのフローとしてどう提供していくか、1つのアウトプットとして考えなければいけないと思っています。

特にデザイナーやエンジニア、PdMは、ユーザー側に視点が偏る場合も多いと思います。そうでなく、バックオフィスの運用をどうしていくか、立ち上げ段階でどうマーケティングを展開していくか、どう売上を伸ばすかなど、ビジネス視点からも俯瞰して答えを出す必要がある。デザイナーとしてのチャレンジだと思いますね。

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レールが敷かれていない状況で自主的に動ける人材と、BPaaSを切り拓きたい

BPaaSを成功に導くためには、神原氏が言うようにユーザー側の視点だけでなく、ビジネス側の視点を持つ必要がある。その点で、ビジネスの鍵になるのは何か、海老澤氏に聞いた。

海老澤現状、『Chatwork アシスタント』は「何時間いくら」という時間単位の価格設定になっています。労働集約的なところでいえば、利益を出すには単価そのものを下げられるかどうか、どれだけ効率を上げられるかにかかっている。

たとえば、4社分で1人月になるような業務であれば、弊社側でまとめて請け負ったほうが全体で見ると効率はよくなります。また、これまでアナログなやり方を採っていた部分をシステム化、自動化して効率化すれば、工数を圧縮して原価率を上げられます。ですから、ビジネスの鍵になるのは「効率化」ですね。

目先の話でいえば、たとえば決済を自動化し、入金までのタイムロスを短くするだけでも違います。業務着手までのリードタイムを短縮することで、本来のオペレーションで発生していた機会損失を防げるようになるでしょう。

そのためには、『Chatwork』のユーザーからより集客を促すために、『Chatwork』のサービスに手を入れる必要が生じる可能性があります。また、請けられる業務の幅を広げることも重要です。ミナジンが提供する具体的なBPOサービスにつながる部分も視野に入れる必要があります。

Chatworkは成熟したSaaS企業であるイメージをもたれがちだが、まさにいま、BPaaS、ビジネス版スーパーアプリという新しい領域で事業が立ち上がっている。そうしたフェーズで、同社はどんな人物を求めているのか。

海老澤レールが敷かれていない状況で、経験のないことも自ら主体的に仮説検証しながら進んでいける。そんな自立した人材を求めています。プロダクトの特性上、オペレーションも密接に絡んでくるので、自分の職域に線を引かず、お互いに越境し合いながら「成功」を目指していける。そんな関係性でいられる仲間がほしいですね。

神原いまはまだBPaaSに関する戦略の抽象度が高い段階にあって、今後それが具体化するにつれて変わっていくこともたくさんあるでしょう。そうした変化を楽しんだり、適応したりできる方が向いているのではないかと思います。

ベテラン勢も多い一方、ビジネスユニット責任者の桐谷や私をはじめ30歳以下のメンバーも多いです。年齢関係なく、積極的にチャレンジしたい方にもぜひ参画していただきたいですね。

また、『Chatwork アシスタント』の開発では、エンドユーザー向けだけではなく、アウトソーシング担当者(オペレーションスタッフ)向けの機能開発にも注力していくという。Chatwork内でも業務を自動化できる余地がまだ残されているため、「いかに人的ミスを減させるか」「いかにユーザーとのコミュニケーションを円滑にするか」といった観点から新しい業務支援SaaSも視野に入れ、業務の生産性向上に貢献していきたい考えだ。

BPaaSという切り口で中小企業のDXを推進し、世の中の生産性を上げていく。そんな前例のない挑戦に挑もうとするChatwork。事業のアーリーフェーズにはさまざまな困難があるが、ほかでは得られないやりがいや経験があるはずだ。中小企業のノンコア業務における自動化率を高める、という大きな取り組みを進める道筋はまだ始まったばかりだ。

こちらの記事は2023年08月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

宮原 智子

写真

藤田 慎一郎

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