特別連載上場企業の社長から “課題解決”を学べる 事業家集団

20XX年、こうしてクルーズは1兆円企業になる──「ECソリューションカンパニー」へと方針転換を決意した小渕宏二が、投資家の疑問に徹底回答

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インタビュイー
小渕 宏二

1974年生まれ。IBM関連会社のセールスマンを経て2001年に起業。2007年にJASDAQ上場、1,000社から20社選出される「JASDAQ-TOP20」に入る。これまでインターネットを軸にキャリア公式コンテンツ、検索エンジン、ブログ、ネット広告、ソーシャルゲームなど様々な事業を展開しながら、創業以来16期連続で黒字経営を続ける。現在は成長市場であるネット通販事業に注力し、ファストファッション通販サイト「SHOPLIST.com」は配信開始から5年で年商190億円規模に成長。

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創業間もないスタートアップがビジョンやミッションを変更することは、しばしば見かけることもあるだろう。しかし、創業21年目を迎える企業がそれらを刷新する例はあまり多くないはずだ。ファッション通販サイトである『SHOPLIST.com』を運営するCROOZ SHOPLISTなどを傘下に持つクルーズは2021年5月、会社の「あり方」を大きく転換する大胆な選択を下した。

これまでクルーズは「100億の事業を創る100人の起業家を創る」ことを前面に押し出してきた。しかし、今後は「ECソリューションカンパニー」であることを明確に掲げ、主要事業を運営するCROOZ SHOPLISTのビジョンをも変更した。

その決断の背景にある想いや意図を問うべく、クルーズ株式会社代表取締役社長 兼 CROOZ SHOPLIST代表取締役社長である小渕宏二氏にインタビューを実施。これまで掲げてきた「時価総額1兆円」という目標はぶらさず、ECソリューションカンパニーとしてのリスタートを切るクルーズ。選択の背景には、いくつかの反省と積み上げてきた実績に基づく大きな自信があった。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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創業21年目にして気づいた誤算。
「自社の知見ある領域にフルベットすべきだった」

クルーズのホームページリニューアルに合わせ、クルーズグループの思想とスタイルとして発表された「オモシロカッコイイ○○をツクル」。「これはビジョンやミッションの類ではなく、会社の思想やスタイルを言語化したものだ」と説明する。

クルーズ株式会社 代表取締役社長 兼 CROOZ SHOPLIST株式会社 代表取締役社長 小渕宏二氏

小渕「○○」の中にはどんな言葉が入ってもいいと思っています。「アイデア」「デザイン」「プログラム」、または「商品」「サービス」「人」……。何を入れるかはメンバーがそれぞれ自由に決めていい。

遊び心を持って、世の中に「オモシロカッコイイもの」をアウトプットするのがクルーズの思想とスタイルだということを社内外に示すために、この言葉を掲げることを決めたんです。ビジョンやミッションは?というと、グループ企業がそれぞれ決定すべきだと考えています。

今回の大変革は、グループとして一貫した哲学の言語化だけにとどまらない。会社としての注力領域を明確にし、企業としての“見せ方”にも大きな変更を加えたのだ。これまでクルーズは「100億の事業を創る100人の起業家を創る」ことを掲げたCROOZ永久進化構想を前面に押し出し、資本市場や採用市場に対してプロモーションを展開してきた。「事業内容を問わず」売上高100億円規模の事業と、それらの事業を生み出す起業家を育成する成長する会社であることを謳っていたのである。

今後も起業家を育成し、さまざまな事業を生み出すことでグループ全体として時価総額1兆円を目指すことは変わらないと小渕氏は話す。しかし、今後はEC領域事業に今まで以上に注力する方針に切り替える。この変更に伴って、クルーズは「ECソリューションカンパニー」であることを強調していくというのだ。この転換の裏にあるのは、2つの誤算である。

小渕経営としてどんな武器を持ち、どんな事業をしている会社なのかがしっかりと社外に伝わっていないと気づいたんです。「100億円の事業×100人の起業家」は、あくまでも1兆円に到達するための1つの手段にすぎません。しかし、その手段を強調しすぎるがあまり、『SHOPLIST.com』を中心としたEC領域に関わる人材やノウハウと実績がある、という明確な武器を社外に発信できていなかった。

そして、これまでは「100億円を生み出せるなら、どんな事業でもいい」と、グループ会社を通じてさまざまな事業にチャレンジしてきたのですが、やはりそんなに甘いものではないんですよね。EC領域の事業であればこれまで得てきた知見を活かせるので成功確率は上がりますが、全くのゼロから飛び地の領域で事業をつくりあげることは、容易なことではない。もともとわかっていたことではありますが、改めて痛感しました。

多くのグループ会社の経営陣が描いていた成長計画に対して苦戦を強いられ、思うように実績を残せていないという課題を抱えていました。結局は我々の武器であるEC事業のノウハウを活せる事業を展開した方が、時価総額1兆円という大きな目標に早く到達できるのではないかと。そういった理由から、これからはグループ会社を立ち上げるにせよ、投資をするにせよ、EC領域を軸に「ECソリューションカンパニー」を掲げる決断を下したんです。

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ECは10兆円の成長マーケット。
「もう遅すぎる」「いまさら?」なんて言わせない

「いまさらEC?」「もう遅くない?」と思う読者もいるかもしれない。たしかに、EC領域はWebサービスの中でも“古参”の部類に入るだろう。しかし、その市場は年率約8%の成長を続けている成長産業であり、2019年に市場規模は19兆円を超えた。『SHOPLIST.com』や『ZOZOTOWN』などがしのぎを削るアパレル領域を切り取っても、その市場規模は2兆円に迫り、同様に8%を超える成長率を維持している。

別の見方をすれば、巨大市場だからといって、伸びしろがないわけでは決してない。国内の物販系EC化率は約7%に留まっており、米国の約10%、中国の約35%といったデータと比較してもまだまだ低水準だ。つまり、日本のEC市場は現時点においてそのポテンシャルの片鱗を見せているに過ぎないのだ。小渕氏の言葉を借りれば「ECに注力するタイミングとして『遅すぎる』なんてことはない」。

小渕先程も申し上げたように、我々には『SHOPLIST.com』を成長させてきた実績とノウハウがある。そして、事業を運営する中でメンバーたちも大きく成長させられた。ECに注力するということは、優秀な人材たちを『SHOPLIST.com』だけに集中させるということを意味しません。

領域はECが中心になりますが、これまで通り優秀な人材にはグループ会社を設立し、代表を担ってもらう、経営を担ってもらうなど、新たなチャレンジの場を提供していきたいと考えています。事業観点だけで考えれば優秀な人材に永久に既存事業のオペレーションを任せた方が良いでしょうが、それでは新たな機会を求める優秀な人材は離れてしまう。会社にとって人材は、成長を維持するための大きな財産です。貴重な財産を失わないためにも、多様な機会を提供し続けられる環境を維持したいと思っています。

今回の方針転換に際し、子会社を含めたグループ全体におけるEC領域の売上高比率も高めていく。「今後グループ会社として増えることになるのは、EC事業関係の子会社がメインとなる」。そう語る小渕氏の目からは、不退転の覚悟を持って、「ECソリューションカンパニー」への転換を進めていくんだ、という強い意志が感じられる。

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「お得感」と「SHOPLISTでしか買えない商品」があるサービスへ

「ECソリューションカンパニー」の軸は、これまでもグループ全体を牽引してきた『SHOPLIST.com』だ。一時は赤字を計上するほどまでに業績が落ち込んだ同事業だったが、2020年7月に小渕氏が『SHOPLIST.com』の運営会社であるCROOZ SHOPLISTの代表取締役社長に戻り、改革を断行したことによりV字回復。その見事な復活劇の内幕は、小渕氏が以前のインタビューで語った通りだ。

小渕氏の社長就任を機に勢いを取り戻した『SHOPLIST.com』にも、大きな変革を起こすという。それは、運営会社であるCROOZ SHOPLISTのビジョンを刷新し、『SHOPLIST.com』だからこそ出すことの出来る価値を、ユーザーに提供するといったものだ。具体的にEC領域において、どのようにサービスを展開していくのかを「有機物」と「無機物」をたとえに、このように説明する。

小渕EC領域では数多くのサービスが存在しますが、その中でも当たり前のように使われているサービスはそのどれもが無機質なものだと捉えていて、その対極にある「有機質なサービスをつくること」で差別化を図りたいと考えています。

有機物とは「炭素を含む物質」ですが、かつては「生き物がつくり出す物質」と定義されていたそうです。これは僕のイメージなのですが、有機物には“ぬくもり”や“温かさ”といった、人の感情を動かす何かが含まれている。反対に、無機物にはそれがない。つまり、無機質なサービスとは「膨大な商品の中から欲しい物を検索し、決済ボタンを押し、届くのを待つ」といったように、ユーザーが一連のプロセスを淡々とこなすだけのサービスを指します。

『SHOPLIST.com』が目指すのは、そういった無機質なサービスの対極に位置する有機質なサービスです。まだまだ具体化はできていないのですが、出店いただいているブランド側も、買い物してくれるユーザー側も『SHOPLIST.com』を利用するすべての人の“感情”が動くような、別の表現をすれば“ファンになってくれるような”サービスにしていきたい。

では、どんなときに感情は動くのか。ブランド側にとっては、売りたい商品が売れたときだと思いますし、ユーザーとっては、ここにしかない商品と出会ったときや、欲しい物をお得に購入できたときだと思うんですよ。だからこそ、『SHOPLIST.com』のビジョンを「一番お得、ここにしかない、商品の提供」としました。

ビジョンの刷新に伴って、事業として追いかけるデータや数値も変化させる。単純なユーザー数や出店ブランド数だけではなく「お得に買い物した年間購入者数」「喜んでくれたブランドの数」「SHOPLISTでしか買えないアイテム数」、この3つの指標を最大化すべく施策を講じていく。

小渕ユーザーにとって「お得であること」はどのサービスを利用するかを決定する重要な要素です。少しでも安く購入したいと考えるのは当然ですし、さまざまなサイトを行き来しながら同じ商品の価格を比較する方も多い。

ですから、ユーザーに対しては、商品やアイテムが検索されたときに、SHOPLISTがお得と感じてもらうための取り組みを行いたいと考えています。

また、出店いただいているブランドに対しては、商品開発や値段設定に活かせるような情報や販売データを提供するための仕組みを整えていきたいと思っています。ブランド側は「SHOPLISTでは、いまこんな商品が売れている」「類似商品がXX円で発売されている」といった情報を求めていますし、我々のようなプラットフォームはそういった情報・販売データを提供することでブランドに価値提供できる。しかし、そうした貢献をできていないのが実情です。今後はブランド側に寄り添った高い価値を提供するための仕組みづくりにも注力していきたいと思っています。

ユーザーに「お得感」を感じてもらうためには、価格が安いだけでは不十分だと考えているそうだ。どこよりも安いだけではなく、さらなる付加価値を提供するサービスを目指していくという。

小渕私が思うにですが、『楽天市場』における付加価値とはポイントでしょう。ECを利用することで溜めたポイントを、楽天が提供する他のサービスでも利用できることがお得感を醸成していますよね。

我々は楽天とは違い、「経済圏」と呼べるほど多様なサービスを展開していないので、同じやり方ではうまくいかない。我々は我々なりの方法でユーザーにお得感を感じてもらえる仕組みをつくっていかなければならないと考えています。

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ブランドの販促支援するシステムの強化が、ここ1−2年の成長ドライバー

「お得感」と合わせて、小渕氏が「成長の鍵を握る」とするのは、インフラおよびシステムの強化だ。「日本一テックドリブンなECカンパニー」となるべく、エンジニア組織改革を進める同社。改革の裏側はクルーズの最高技術責任者CTOである鈴木優一氏や、CROOZ SHOPLISTで開発部の部長を務める加藤督樹氏が過去のインタビューで語っている。

ユーザーとブランド双方に大きな価値を届けるためには、エンジニア組織をより強化し、多様な機能を生み出していかなければならないと意気込む。

小渕ブランド側にさまざまな情報・販売データを提供するためにもシステム面の強化は不可欠です。

たとえばですが「SHOPLIST内で、先週はアウターというカテゴリが先週と比較して2倍の受注になった。つまり、アウターが売れ始めた。という情報をブランド側に提供することができれば、こちらとしてもアウターという商品が動き始めたから、アウターの新商品を追加しませんか?という提案や、アウターが売れ始めたのであれば、逆に受注が下がっているカテゴリの商品は値下げやクーポン発行をしませんか?といった情報提供や提案をすることでブランド側は喜んでくれるはずです。そういった提案をするためには、僕らが多様な情報を持っていなくてはなりませんが、人の手によって情報を集めるのは効率が悪い。

SHOPLIST内のさまざまな情報を提供できる仕組みがあれば簡単にそういった提案ができるようになりますよね。実際に提案をするのはブランドに向き合う営業担当ですが、その提案の価値と質を上げるためにも、システムの強化が欠かせないと思っています。

古い社内システムの刷新、エンジニア組織の改革、そして、ユーザーとブランドそれぞれを対象とした新たな機能開発。これらを急ピッチで進めているところです。

「システム開発だけではなく、他の分野も伸びしろしかない」と続ける。小渕氏がCROOZ SHOPLISTの社長に就任した際、最初に行ったことは課題の抽出だった。メンバーから寄せられた課題の数は、約2,000個。そのうち、事業インパクトが大きいと考えられる200以上の課題を抽出し、それらを解決するための『重要プロジェクト』が立ち上げられた。この『重要プロジェクト』は『SHOPLIST.com』の復活劇において大きな役割を果たしたが、まだまだ解決すべき課題は山積している。

小渕たとえば、現在は新規出店ブランドの初月売上を10倍にするためのプロジェクトを走らせています。こちらのプロジェクトでは、プロジェクト発足以前の過去出店初日売上高の約2倍を記録しました。

また、以前は出店契約を結んでから実際にサービス上で販売を始めるまで、50日ほどかかっていたのですが、現在は最短10日で販売を開始できるようになった。

要は、改善すべき点ばかりなんですよ。僕に言わせれば、そんな“ボロボロ”の状態でも250億円の売上をあげるサービスなのだから、然るべき対応をしていけばまだまだ伸びる余地はあると考えています。

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ここ1年の業績向上に貢献したのは「20代新卒社員の抜擢」。
正直言って、「人材層は厚い」

小渕氏の自信を裏付ける根拠は「解決すべき課題の多さ」だけではない。『SHOPLIST.com』のさらなる成長を担保する要素とは「人」だ。小渕氏が社長に就任したタイミングで親会社であるクルーズから3名の取締役がCROOZ SHOPLISTの取締役も兼任。また、小渕氏が自ら選抜した7人の執行役員やマネジャークラス、子会社役員をグループから呼び、部長職を任せているという。

驚くべきは、育成力の高さだ。18名いる部長の内、15名は小渕氏が社長に就任した後に「何の役職にもついていなかった」メンバーから部長に抜擢したメンバーであり、うち7名は2014年から2017年に新卒入社したメンバーなのだ。また『重要プロジェクト』も約60%は新卒1~7年目がオーナーとして意思決定をしている。

小渕入社5年目から8年目のメンバーが部長として組織を牽引してくれているんです。組織は十分機能していますし、むしろ成績は昨年度よりも向上している。僕は人を育てることなんてできませんが、人が育つ環境を整えることに関しては自信がある。

事実、若手が部長や『重要プロジェクト』のオーナーとして組織をリードし、成績をあげてくれているわけですからね。彼らはこれまで埋もれてしまっていただけなんですよ。本当に優秀な人材を見極め、引き上げる。それも僕の大事な仕事の1つだと思っています。

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1年半で「お得、ここにしかない、商品の提供」ブランドを確立。そこから取扱高成長率は飛躍的に高まる

そんな若手の力によって順調に成績を伸ばしている『SHOPLIST.com』。1年半後までには、ユーザーから「『SHOPLIST.com』は圧倒的にお得だ」と認知されるサービスをつくり上げようとしている。

そういった認知を得ることができれば、成長はさらに加速すると小渕氏は睨む。

小渕いまある課題を解決するのには最低1年ほどかかると考えています。課題が解決できれば、エンジニア部門も営業部門もかなり多くのことが実現できるようになっていると思いますし、1年から1年半後には大きく事業を成長させられるはず。

サービス開始当初は毎年50億円ずつ売上を伸ばしてきましたが、課題を解決した暁には1年ごとの成長率も向上させられるはず。具体的には前年の売上高に関わらず、50億円ずつしか上積みできていませんでしたが、これからは65億円、80億円、150億円と上積みする額を年々増やしていけるはずだと考えています。

公開している決算データBOOKに記載しているKPIは「年間ユニーク購入者数」などの5項目だが、社内では250ものKPIを設定し、かなり細かく各数値をモニタリングしているそうだ。大きな成長を実現するための、細かなデータ、数値管理の設計がなされていることが伺える。

小渕成長し続ける事業を作る上で大事なことは、仕組みを整えること。僕が社長に就任した時点での最大の課題は、システムがボロボロだったことと、全く仕組み化が進んでいないことでした。システムの強化と仕組みを整え、オペレーションがきっちりと回る状態をつくっていかなければなりません。

まずは中長期で目標としている取扱高1,000億円を目指していきます。この取扱高を達成するためには、とにもかくにもシステムの強化と仕組み化が必要不可欠です。まずはその土台を整えるべきだと思っています。

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純投資より事業投資のほうが、ハイリターンが見込める

グループ全体の目標はあくまでも「時価総額1兆円」であることは、前述の通り。前面に出すことはしないが、「100億の事業を創る100人の起業家を創る」ことを掲げるCROOZ永久進化構想を投げ出したわけではない。あくまでも「ECソリューションカンパニー」として、『SHOPLIST.com』を軸に事業を展開しつつ、グループ会社の設立や投資は積極的に行っていく計画だ。

クルーズ自体は自らを「投資会社」と位置づけている。投資会社なのであれば、ECではなくこれから大きな成長が期待できるブロックチェーン領域やAR領域など、伸びゆくスタートアップへの純投資によってハイリターンが得られそうな分野に投資するべきではないだろうか。そんな疑問をぶつけると、「わかっていませんね」と小渕氏らしい返答。

小渕IRR(内部収益率。投資によって得られると見込まれる利回りのこと)30%を目指すのであれば、そういった「旬な」領域のスタートアップに投資を実行すればいいでしょう。しかし、事業への投資はIRRが100%、1,000%を超えることもある。つまり、ECだろうがなんだろうが、持っているキャッシュは事業に投資を行った方が、5年、10年スパンで見れば遥かに大きなリターンを得られる可能性があるということです。

たとえば、『SHOPLIST.com』立ち上げ時は人件費として年間1,000万円のコストを投下することからスタートしました。そうして事業にさまざまな投資を行いながら事業を成長させ、前身の通販事業から通算すると、9年で累計44億円もの利益を生み出しているわけです。

要は自分たち持っている武器を最大限活用して事業で儲けることが大事だと考えています。僕達の武器は『SHOPLIST.com』で培ってきたEC事業の運営ノウハウや、経験そのものです。そして、先程も申し上げたようにEC市場はまだまだ伸びしろを残す巨大マーケット。僕が経営者として、あるいは投資家として何に会社の資産を投下すべきかと考えれば考えるほど、その正解はやはり「EC事業」なんですよ。

投資会社ではあるものの、クルーズが志向するのは自らの土俵であるEC事業への投資を行い、事業を成長させることによって“リターン”を得ることなのだ。

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「あと15年で時価総額1兆円は必ず達成できる」

社内外を問わず、EC事業への投資を繰り返し「時価総額1兆円」を目指す同社。いつまでに目標を達成できるかと問うと、「あと15年」と具体的な数字が返ってきた。裏付けとなるのは、これまでに残してきた確かな実績だ。

小渕『SHOPLIST.com』は前々期3億円の赤字でしたが、僕が社長に就任してから7か月で20億円の利益が見込めるまでに成長させられました。また、よりロングスパンで収益成長を捉えたとしても、ゲーム事業を売却し事業売却益を得た期を除くと、クルーズグループは創業以来ずっと増収を続けています。僕が社長として積み上げてきたこれらの実績に加えて、今では若手たちが大きく成長してくれているので、このペースでいけば先程申し上げたように、これからは『SHOPLIST.com』単独で1,000億円の売上を出すことを十分可能だと思っています。

そして、これまで20年ほど会社を運営し、複数の事業で売上高100億円を超えるまでに成長させられました。自分の中では折り返し地点に来たかなという感覚なんです。これからはさらに成長速度を上げ、あと20年ではなく、15年ほどでグループの時価総額1兆円という大きな目標を達成したいと考えています。

悲願達成のための準備はすでに始まっている。「詳しくはまだ言えない」そうだが、水面下では新事業の立ち上げを進めており、そう遠くない未来『SHOPLIST.com』に次ぐ柱が現れることになりそうだ。

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勝てる組織に組み込む行動指針は、「スピード。以上」

グループ全体の行動指針も、このタイミングで策定した。クルーズの行動指針、それは「スピード。以上」だ。このシンプルかつ力強い言葉に込めた想いを、こう語る。

小渕インターネットサービスの世界においては、スピードかクオリティを高めなければ勝っていけないと思っています。我々はスピードを取るということを社内外に示すために、「スピード。以上」という言葉を選びました。

変化し続けなければ生き残っていけないんです。変化のスピードをゆるめてしまうことは、企業にとっての「死」に近づくことと同義だとすら思っている。そういった意味で、スピードは企業の成長可否を決める最重要要素だと捉えています。

もちろん、クオリティなどを軽視するという意味ではありません。誠実であること、大胆に挑戦すること……さまざまな企業が掲げる行動指針にあるような言葉はどれも大事にしなければならない。でも、その中でも我々が最重要視するのは何かといえば、スピードなんですよ。

業務の実行スピード向上を阻害する仕組みや制度は、今後どんどん廃止していく。グループ全体に号令をかけ、「複雑化した稟議ステップや承認工程など、無駄だと思われる業務フローを洗い出し、上場企業としてのガバナンスとコンプライアンスを担保できる範囲で排除していきます」と断言。

小渕業務フローも3〜5年で陳腐化してしまうんです。常に「現状に即した業務フローになっているか」注視しなければならないと思っていますし、必要があればどんどん変えていく。何にせよ、スピードが最優先です。業務スピードを落とすような、古くなってしまった仕組みはこのタイミングで一掃してしまおうと考えています。

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スピードを追求することが、
労務環境の健全化にもつながっている

こうした業務フローの見直しは、労働環境の改善にもつながる。「長時間労働が当たり前になってしまっている環境は、業務フローやタスク管理に問題がある場合が多い」と小渕氏。SHOPLISTでは、21時以降に作業をしているメンバーがいると担当部長が「どんな作業を、なぜ今しているのか」確認することを徹底している。

実際に確認してみると、メンバーが今やらなくてもよい無駄な作業をしていたり、システムが整っていないためにやむを得ず手作業で業務をして余計な時間が取られていたりすることが多い。そうして組織としての課題を洗い出し、瞬時に解決することで労働環境の適正化を進めている。もちろんこういった業務フローの見直しや労働環境改善は、グループ全体におしなべて行っていく予定だという。

小渕働き方や業務の進め方に関する課題がなくなることはありません。大切なのは、いかにその課題を早く察知し、解決するか。課題の抽出から打ち手の実行までのスピードはどの会社にも引けを取らないと思っていますし、結果として労働環境はどんどん良くなっています。

ただし、まだ完璧だとは言えない。一部のメンバーが、特定のタイミングで長時間労働をしていることも事実です。そういった状況を改善するために、メンバーマネジメントや適切な業務采配ができる人材を「呼び戻している」んです。

つまり、かつてクルーズグループにおいてハイパフォーマンスを見せていたマネジメント人材に声を掛け、戻ってきてもらっているんですよ。直近の半年で6人が「出戻り」しました。そうしてマネジメント人材の層を厚くし、メンバーたちの労働環境をより適正化していきたいと考えています。

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クルーズらしさは、
環境問題解決やジェンダー平等にも一石を投じうる

クルーズが意識しているのは労務環境だけではない。もちろん、SDGsを意識した経営にも着手中だ。とりわけ、環境問題やジェンダー平等といったテーマには積極的に取り組んでいる。2021年6月には『SHOPLIST.com』内にアウトレットカテゴリを新設し、アパレル産業が抱える「供給過剰が招く大量の廃棄」といった問題の解消に取り組んでいる。

女性が活躍できる環境を整えることについては、「みんな何をいまさら騒いでいるんだ、当たり前のことでしょ」と小渕氏は笑いながら語る。

小渕『SHOPLIST.com』はユーザーの90%が女性なんです。どのECサービスよりも高い割合であり、このサービスは女性によって支えられているといっても過言ではありません。女性のためのサービスというわけではありませんが、実態がそうなっている以上、女性目線は不可欠です。

一方で、サービスのユーザー比率に関わらず、そもそも「働く」ということにおいて、男性と女性を分けて考えること自体がナンセンスだと考えています。優秀な人材には仕事を任せる。それだけのこと。

(前述した)『重要プロジェクト』では、多くの女性メンバーがプロジェクトオーナーとして活躍しています。このプロジェクトを始める前までは、オーナーシップを発揮する機会すらなかったために、埋もれてしまっていた女性社員が多くいたんだなと改めて認識しました。大小合わせて200を超えるプロジェクトを走らせたことによって、優秀であるにもかかわらず、「自分で考えて自分で進める」という機会が与えられていない社員が多くいることが発見できたんです。これは『重要プロジェクト』の大きな成果の一つだと言えるでしょう。

誤解を恐れずいうと、ジェンダーを意識しないで業務アサインしていくことが、究極のジェンダーフリーな企業なのではないでしょうか。優秀な人材に、チャレンジングな仕事を提供する。それがクルーズの経営方針です。

過去の失敗を素直に認め、時代に合わせ、柔軟に方針を転換することは経営者が備えるべき重要な資質の一つだろう。取材陣に対して「あれは失敗だった」「僕が間違えていた」と明け透けに語る小渕氏には、間違いなくその資質が備わっている。

無論、20年の間、複数の100億円ビジネスを生み出し続けた中で積み重ねたのは「失敗」だけではない。

起業家、そして経営者としての確かな実績が、小渕氏と、クルーズグループにはある。

数々の失敗から得た学びと、輝かしい実績に基づく自信、そしてこの1年間の復活劇。不退転の覚悟とともに始まった、新生クルーズの進化に、私たちも目が離せない。

こちらの記事は2021年06月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

写真

藤田 慎一郎

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