「根本をひっくり返す意思決定」が非連続な成長を生む──freee武地氏が明かすOKR活用術
【ラクスル主催BizDev BootCamp Vol.3】

登壇者
武地 健太

先祖代々会計一家の出身。公認会計士。あずさ監査法人・ボストンコンサルティンググループを経てfreeeにCFOとして参画。その後事業開発担当、パートナー事業担当を経て、現在金融事業を中心とした新規事業開発に携わる。

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スタートアップの成長において、事業をドライブさせる「BizDev」の果たす役割は大きい。しかし、必要とされるスキルセットが多岐にわたるからか、BizDevの育成ノウハウはあまり体系化されていない。

そんな課題意識を背景に、ラクスルが呼びかけて始まった、日本を代表するスタートアップ企業群によるBizDev育成の取り組みがある。「BizDev BootCamp」だ。freee、ランサーズ 、 マネーフォワード、ラクスル、ユーザベースが5社合同で行い、各社数名の選抜者が、選りすぐりの講師陣から成長に必要な要素を学んでいく。

3回目となる今回のテーマは、多くのスタートアップが目標管理のフレームワークとして活用する「OKR」。講師を務めたのは、freeeで全社へのOKRの導入に取り組む武地健太氏だ。京大卒業後、監査法人で企業の上場支援などに従事し、BCGを経て2016年にfreeeにCFOとしてジョイン。現在は、金融部門での新規事業開発のかたわら、OKRの運用を通した組織課題の解決にも力を注いでいる。

BizDevこそOKR活用を推進すべき理由と、ワークしないOKRに命を吹き込む「たった一つの方法」が明かされた。

  • TEXT BY HUSTLE KURIMURA
  • EDIT BY TAKUMI OKAJIMA
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OKRをワークさせるための、“高いハードル”とは?

「目標(Objective)」と「主要な結果(Key Result)」の頭文字をとった「OKR」は、シリコンバレーで生まれた経営管理手法だ。企業のミッションを成し遂げることを念頭に、「何を達成すべきか」の「何を」の部分に、定性的な目標として「Objective」を掲げる。そして、Objectiveの達成度を測るための定量的な指標が「Key Result」である。

OKRを導入する場合、原則的に個人、チーム、会社と、異なるレイヤーでそれぞれObjectiveとKey Resultが設定される。個人のObjectiveの達成がチームのKey Resultの達成につながり、チームのObjectiveの達成が会社のKey Resultの達成につながる状態を構築し、ミッションやビジョンの達成を目指す。

さて、この日の勉強会は、武地氏がリンクアンドモチベーション取締役・麻野耕司氏の著書『THE TEAM 5つの法則』を引用し、BizDevがOKRを学ぶべき意義を語るところからスタートした。ビジネスを取り巻く環境が激しく変化する昨今、OKRの重要性がますます高まっているという。

freee株式会社 金融事業 本部長 兼 freee finance lab株式会社代表 武地健太氏

武地「1年で1万社に使われるサービスになる」という目標を立てたとしましょう。果たして、それが1年後にも変わらず有効な目標だと言えるでしょうか?

BizDevは、短いスパンで目標をチューニングし続けながら事業を推進せねばなりません。だからこそ、売上などの数値で示す「成果目標」ではなく、実現したい世界や社会へ与えたい影響を表す「意義目標」の重要性が高まっているんです。

『THE TEAM 5つの法則』でも、「意義レベルの抽象的な目標設定をすれば、新鮮なアイデアが生まれやすくなり、チームにブレイクスルーが起きやすい」と語られている。また、FastGrowでも以前、OKRがスタートアップにとって有用なフレームワークである理由を、BEENEXTの前田ヒロ氏に語ってもらった

OKRは、IntelやGoogleの飛躍を支えたフレームワークとしても知られ、関連書籍も多数出版されている。しかし、OKRを活用して高い成果を挙げた事例を目にすることは多くない。武地氏は、OKRを活用しきれている企業が少ない理由として、「ワークさせるためのハードルが高い」点を挙げる。

武地OKRをワークさせるためには、メンバー全員が中長期的かつ完成度の高いObjectiveを掲げ、それに紐づく個人のKey Resultも過不足なく設定し、セルフマネジメントできなければいけません。

特に職務範囲が多岐にわたる事業開発においては、メンバーの一人ひとりに、仕事への圧倒的なパッションとビジネスへの深い理解度、そして自己管理を徹底的に行う自走力が求められる。そうした人材を揃えるための採用力はもちろん、育成環境も必要だ。逆に言うと、それらが不十分な状態で教科書通りにOKRを導入しても「上手くワークしない」。自社の環境がOKRの導入に耐えうるかどうかは、「慎重に判断すべき」と武地氏は念を押す。

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YouTubeが「視聴時間」をObjectiveに設定した理由

では、OKRをワークさせるために、どういった工夫をすれば良いのか。武地氏が明かした答えは、とてもシンプルだ。「時間を使って十分に考え抜け」。

武地「どれだけ時間を要しても良いから、目標設定に全力で取り組むことが最重要」という空気感を、全社規模で醸成することが大切です。freeeでも、目標設定のために一人約10時間を費やすことも珍しくない。それほど真剣に自分自身と向き合い、じっくりと考え抜くことを奨励しています。

もちろん、あまりに時間を割きすぎて本来の業務に支障をきたしては本末転倒です。しかし、OKRは当該対象期間において、常に立ち返る拠り所であるべきなんです。「手抜きで上すべりな目標設定は従来の方針に沿ったタスクリストになりがち」であることを、マネジメントする側が口酸っぱく言い続ける必要があります。

武地氏はOKRを最大限活用できた例として、スタートアップ界隈で有名な『Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR』で紹介されているYouTubeのケースを紹介した。

2012年以前、YouTubeの広告は動画が始まる前だけに表示される仕様だった。さまざまな指標のなかで「視聴回数」を最重視し、すべての動画の評価が行われていたという。結果、視聴回数が伸びやすい短尺のマニュアル動画や釣り動画が、検索結果の上位に表示されるようになってしまったそうだ。

コンテンツの質低下が懸念され、「YouTubeが本当に目指すべきは、ユーザーを夢中にし、できるだけ長い時間をこのサイトで過ごしてもらうことなのではないか?」と半年間にわたって議論が繰り広げられた。結果、「2016年末までに、1日あたりのユーザーの総視聴時間を10億時間にする」というObjectiveを設定。視聴回数ではなく「視聴時間」を追求するよう、目標を変更したのだ。当時の広告表示方法を前提にすると短期的には減収となる、しかし長期的な事業成長には必須と判断しての決定であり、OKR議論を通した戦略の大転換だったのではないか、と話した。

OKRを活用し、非連続な成長を生むためには、ときにYouTubeのような「根本をひっくり返す意思決定」が必要だと武地氏は力強く語る。

武地YouTubeの強さを証明する意思決定だと思います。新規事業の開発を先導するBizDevは、こうした意思決定を臆せず行う姿勢を身に付けるべきです。

勉強会の後半には、チーム別ディスカッション型のワークショップが行われた。テーマは、受講生たちが今まさに参加している「BizDev BootCamp」のOKRを設定すること。武地氏が前半部分で語ったチェックポイントやメソッドを活かしながら、各チームが独自のOKRを打ち立てて発表を行い、勉強会は幕を閉じた。

まだ見ぬゴールを目指す事業開発は、不確定要素が多いなか、成功を信じて突き進まなければならない。見通しの不確かさに、気持ちが折れそうになることも少なくないだろう。だからこそ、「自分たちが目指す先」に立ち返れるOKRが必要なのだ。

目標は「抽象的な難題」にするという共通認識を持ち、目標設定にメンバー全員が全力を注ぐ。freeeにその文化を根付かせた武地氏の言葉は、若手BizDev人材にとって示唆に富むものであった。

こちらの記事は2019年11月20日に公開しており、
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執筆

ハッスル栗村

1997年生まれ、愛知県出身。大学では学生アスリートを取材し、新聞や雑誌の制作・販売に携わる。早稲田大学文学部在学中。

編集

岡島 たくみ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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