INTERVIEW
小林 賢一郎 橋本 武彦 稲本 浩久
18-10-24-Wed
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日系大手の研究者が集い、技術力で業界を革新。
不動産ベンチャーGA technologiesが生んだAI戦略室の実態

TEXT BY TOMOMI TAMURA
PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA

既存のレガシーな産業にテクノロジーを掛け合わせ、イノベーションを起こすX-Tech。
FinTech、HRTechなどに続き、ReTech(Real Estate(不動産)×Technology)が熱い。
この領域で事業を展開し、今もっとも世間からの期待と注目を集めているのがGA technologiesだ。

同社には業界初となるAI戦略室があり、元ソニーの主任研究員をはじめ、
人工知能やデータ解析、画像処理などのエキスパートが日々新たなプロダクトを生み出している。
何が彼らの心を掴み、どんな変革を起こしているのか。
AI 戦略室 室長の小林賢一郎氏と同室ゼネラルマネージャーの橋本武彦氏、稲本浩久氏に話を聞いた。

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人工知能、データ解析、画像処理。すべて生かせる場所だった

メーカー等で研究開発に携わっていたみなさんが、不動産を扱うGA technologies(以下:GA)にジョインしたきっかけは何だったのでしょうか。

小林私は、ソニーの主任研究員として、AIBOなどのロボットや自然言語処理をはじめとする人工知能、データ解析などを長年研究してきました。不動産業界とは全く別の世界で生きてきたのですが、紹介で知り合ったGA社長の樋口から話を聞くうちに、この業界には自分にできることが山のようにあると思ったんですね。

そもそも、巨大なプレイヤーが多いレッドオーシャンな業界でどれだけ研究開発を繰り返しても、自分が開発した新しいプロダクトを実際に世に出したり、独自の価値を業界に提供したりすること自体が難しいなと感じていました。

一方の不動産業界は、アナログな業務や抱える課題の多くを、今までの技術で解決できる。ある意味ブルーオーシャンの業界にとても興味を持ち、2016年から1年間ほど顧問に就き、2017年にAI戦略室ができたことをきっかけに、本格的にジョインしました。

橋本私も小林と同じような理由です。これまで主にマーケティング領域データ分析に長年携わってきました。

ヘッドハンターからのお声がけでGAを知ったのですが、話を聞くと、経営陣がレガシーな業界をTechnologyの力で変えていくことに強い想いがあったんです。加えて、AI・データ活用を長期的に実現させるための安定的な利益基盤もある会社だということもわかりました。そんな環境ならチャレンジしたいと思い、2017年4月、AI戦略室立ち上げのタイミングで入社しました。

稲本私はリコーで、画像処理や画像認識の分野を長年研究していました。ただ、世の中に貢献するプロダクトを生み出したいと思っても、小林が言うようになかなか難しくて。それなら自分が企画者側に回ろうと思い、新規事業の企画職に社内公募で異動しました。ここで立ち上げたのが、360度カメラRICOH THETAを活用した不動産向けVRサービスtheta360.bizです。

不動産業界の方と話をするうちに、衣食住の「住」を扱うこの業界は、たくさんの人を幸せにできるポテンシャルがあると思うようになりました。しかも、IT化が進んでいないので、業界にとってイノベーティブなプロダクトをいくらでも生み出せそうだなと、少しうらやましく思っていたんです。

そんなとき、偶然ヘッドハンターから連絡があり「不動産のベンチャーが画像処理の技術者を探している」と言われたんですね。「不動産会社が画像処理ってどういうことだ?」と聞いた直後は混乱したのですが(笑)、話を聞いていくうちに、これは自分のための仕事だと運命のようなものを感じ、2017年8月に入社しました。

 
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レガシーな技術でも業務効率を改善できると確信

最先端テクノロジーの世界から、アナログな不動産業界に飛び込んで、覚悟していたものの驚いたことはありますか?

小林正直、「ここまでか!」と思いました(笑)。ほとんどが紙のやりとりで業務が成立しています。たとえば皆さんご存知の通り、賃貸の契約書だけでも、サインする書面がたくさんある。これまで業務効率化が進んだ世界にいたので、紙を大量に使うことに驚きましたが、同時にこれらはいくらでも改善できると思いました。

橋本私はこれまでビッグデータの分析をしていたので、大量のデータが存在しない世界に驚きましたね。不動産は1人が何度も購入するものではないですし、賃貸にしても何十回も借りる人はあまりいません。だから、そもそもデータが溜まりにくい業界構造なんです。加えて、電話やFAX、紙を使うから、過去何十年分の購買・賃貸情報も残っていないという。

稲本そう、FAXが現役なんですよ。カルチャーショックに近い想いはありましたが、でも逆にそこがビジネスチャンス。一気に業界を刷新できる可能性もあるなと思いました。

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ブラックボックスだった不動産のあらゆる情報を可視化

そうした驚きから今、AI 戦略室では具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。

小林直近で成果が出ているのは、不動産の広告(通称マイソク。以下同)を読み取るプロダクトです。

稲本これまで、マンションをどう仕入れていたかというと、住宅メーカーから月に数千枚単位で送られてくるマイソクを、仕入れの担当者が数人がかりで1軒ずつ見て買うか・買わないかを判断していたんですね。これでは属人的で意思決定にムラが出るし、そもそも作業が大変です。

そこで、マイソクを自動で読み取ってデータベース化し、これまでの取引実績をベースに「この物件は売れそうか、売れなそうか」を機械学習で瞬時に判別。良い物件をランキングで表示させる仕組みです。

最終的にはプロが自分で目利きしますが、このプロダクトにより、すべての物件情報をくまなく見る必要がなくなり、仕入れにかかっていた時間を3分の1にまで削減することができたのです。そして、物件仕入れの意思決定に関わるデータも残るようになった。このプロダクトは、プレスリリースなどで発表するたびに「自分たちも使いたい」との声を他社の方からいただくので、いずれ外販したいと考えています。

橋本それから、不動産業界は「情報の非対称性」が大きな課題です。不動産に関するさまざまな情報は世に出ないため、ブラックボックス化しているんですね。この状況をいかに解消するかを考え、取り組んでいます。

たとえば、Aというマンションは、いつ建てられて、どんな間取りなのかという基本的な情報から、いくらで売買されて、貸し出す時の家賃はいくらなのか、その金額はどう推移してきたのか、空室率はどのくらいか、どんな地域なのかなど、あらゆる情報を可視化しました。

稲本これら情報は見ているだけで楽しいのですが、たとえば10年ものの1Rマンションで比較すると、渋谷区の空室率は10%だけど、 足立区は21%といった定量的な情報が一目でわかります。地域の人口についても、子供が多い、老人が多い、女性が多い、単身者が多いなどがわかるので、物件購入者が将来の収益や住み心地、治安の良さを推測できるんです。

また、家賃は新築からしばらくは下がらないのですが、あるときを境に下がり始めるんですね。それは地域によって差が出るので、「渋谷区初台のマンションなら○年後に下がり始める傾向にある」などの予測もしています。これは独自のデータだけではなくて、政府が提供するようなオープンデータを広く収集し解析しています。

小林AI戦略室は、「こういうのがあれば便利かな」と思うプロダクトを1日・2日で作り、社内に公開してブラッシュアップしているので、こうしたAIエンジニアのアイデアが次々と形になっているんです。

また、首都大学東京や横浜国立大学などとの共同研究も昨年から進めており、最先端技術を研究している大学教授や学生たちと一緒に、次のプロダクトの基盤となる新たな技術を創出している最中です。

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テクノロジーの力で、業界全体の信頼度を高めたい

レガシーな業界にITやAIを取り入れるにあたって、難しいことはありますか?

小林やはり、いかにデータを整理するかですね。もともと捨てられていたデータを使えるようにして残していく。これは業界全体でできていないことなので、データを整理することで業界標準を作りたいと考えています。

稲本同じマンションでも、会社によって名前がカタカナで書かれていたり、アルファベットで書かれていたりするんです。住所も最後まで書かれていないことも多くて。

橋本名称が書かれていればまだいい方で、たまにマンション名に「日当たり良好」とか、「角部屋南向き」とかありますからね(笑)。

小林そうですね。マイソクは物件PRを目的としたパンフレット的な側面もあるので、我々はそれらの情報をコンピューターが読みやすいように形を変えている状況です。

今後、どのような改革を進めたいとお考えでしょうか?

小林パソコンやスマホで物件を簡単に検索できるサービスが生まれたことで、不動産業界は集客がとても楽になりました。しかし、お問い合わせをした人が内見をしたのか、契約をしたのかというデータは残っていません。だから、我々はそれを一気通貫でサービス展開することで、きれいなデータを蓄積させ、活用したいと考えています。

橋本加えて、不動産業界以外にもドメインを拡張していきたいですね。GAはお客様とその資産情報を蓄積していけますから、まずは不動産に近接する金融領域や保険領域へ進出し、それら業界にテクノロジーを掛け合わせることで新たなサービスやソリューションを生み出したいと思っています。

GAが狙うのは「いまはまだアナログな業界」ですから、スポーツ業界もその1つ。代表の樋口もプロサッカー選手を目指していたほどですから、いつかGAとしてスポーツ業界の変革にもチャレンジしたいね、とよく話しています。

稲本私は不動産業界全体をより良く変えていきたいので、成果が出ているプロダクトは積極的に他社にも広く活用してほしいと考えています。GAだけがハッピーになるのではなく、業界に対してなんとなく持たれている悪いイメージを払拭することで、社会に貢献したいです。

小林そうですね。いまは不動産領域でプロダクトを開発していますが、それらを外販することでレガシーな業界のITツールを販売する、サービスを展開する会社として成長していきたい。不動産業界に限定せず、AIをはじめとしたテクノロジーの力を活用することで、今はまだ不透明さや非効率さが残っているあらゆる業界全体の信頼度を高めたいと考えています。

[文]田村 朋美
[撮影]藤田 慎一郎

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