連載押さえておきたい、スタートアップの生成AI

押さえておきたい、生成AI時代のスタートアップのAI関連事業創出事例──FastGrow厳選急成長企業5社の取組み(後編)

2023年、相次いでリリースされる生成AI関連の事業やプロダクト。AIを導入しなくとも十分効率よく利益を産んでいたサービスが、AI・LLMを導入することで社会を揺るがすレベルまで爆発的な効果をもたらすほどの変化を遂げていた。

先日公開した前編では、UPSIDERやFLUX、AppBrew、IVRy、GVA TECH、xenodata lab.を紹介した。

だが、AIは何も、生成AIだけではない。というよりも、生成AIはAIの中の一部でしかない。この流れが起こるよりも前から、特徴的なAI活用をしっかり推進してきたスタートアップが多くいる。

そこで前編に引き続き、AIに関連する新規事業・プロダクト、あるいは既存事業のさらなる進化・改善に取り組むユニークな事例を紹介していこう。厳選5社、それぞれが急成長を遂げながらも、地に足の着いた事業開発を進めている。今回も、その意思決定や狙いについて具体的に見ていこう。

  • TEXT BY REI ICHINOSE
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動画解析AIの活用で、高齢者の転倒を防ぐ──Rehab for JAPAN

高齢者の生活をより良いものにすべく、介護業界のDXを牽引するRehab for JAPAN(以下Rehab)。介護事業所のリハビリや記録業務支援を行うSaaS事業、科学的介護ソフト『Rehab Cloud』がメインプロダクトだ。

この2023年8月、前年からの実証実験を経て、新たに『Rehab Cloud モーションAI』というプロダクトをローンチした(リリースはこちら)。

これは、AIを活用した動画解析ソフトで「高齢者の片足立ち状態の動画を撮るだけで、適切な転倒予防メニューが提供される」というプロダクトだ。介護事業者は客観的なバランス評価に基づき、高齢者の転倒予防の対策に取り組むことが可能となる。

姿勢推定モデルをベースに10名を超えるリハビリ専門職の知見を組み合わせて開発した。動画撮影から約1分で解析が完了し、フィードバックシートや運動プログラムが出来上がる。

FastGrowの読者層はまだ実感が湧かないかもしれないが、高齢者にとって「転倒予防」はとても切り離せないテーマなのだ。そもそも、高齢者が要介護者になるきっかけとして「転倒・骨折」はとても多く、認知症、脳血管疾患に次ぐ第3位に位置する。毎年、高齢者の3人に1人が転倒しており、そのうちの10%は骨折に至る。さらに要介護高齢者では、転倒した際の重篤な外傷発生のリスクが高まり、長期入院や要介護度悪化につながる可能性がある。

転倒を防ぐために、バランス能力の維持はとても重要だ。バランス能力は加齢に伴い低下しやすい要因であり、60歳を超えると10年で16%ずつ低下するという報告もある。

しかし、バランス能力を評価する上での専門知識が不足しており、予防のためのリハビリをうまく実施できてない事業所も多いのが現状だ。同社の調査によると介護事業所には「正しく測定できているか不安」「測定結果からリハビリ提案につなげるのが難しい」「測定結果を分かりやすく説明するのが難しい」といった課題がある様子。

その解決に向けて、満を持してローンチしたのがこのプロダクト「モーション AI」だ。

実証実験を重ねて、現場で安全かつ適切に使用できるかを確認できた上でのローンチであり、常に真正面から社会課題に向き合うRehabの誠実な企業体質がうかがえる。

生成AIなどが話題になっているが、それらの先端的な技術さえも、このように高齢者の日常に社会実装されていく好事例である。

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2015年から運営する「AIアナリスト」で、連続成長を遂げる──WACUL

2015年、人工知能「AIアナリスト」と銘打ったプロダクトをリリースしたWACUL。Google Analyticsのアクセス解析データを連携させ、サイト内の課題を発見し、改善方針を提案。AIを搭載しているので、長く使うほどに機械学習によって提案力が強化されるとのことだ。

またこのプロダクトは、成果が出なければ返金するという成果コミット型で提供された。当時からCVRが1.3倍~2.0倍以上改善される実績があったという。

しかし、ここまでの話は、8年前のリリース時のこと。AI関連のサービスを提供する企業のなかでは古参と言えるWACUL。なぜこの「急成長スタートアップの生成AI関連サービス」という企画で登場するのか。

その理由を、テクノロジー企業成長率ランキング「Technology Fast 50 2022 Japan」で23位を受賞した、というニュースから紹介しよう(リリースはこちら)。

このランキングは、テクノロジー・メディア・通信(以下、TMT)業界の収益(売上高)に基づく成長率に従ってデロイト トウシュ トーマツ リミテッドが発表しているものだ。ここにきてWACULは、過去3決算期の収益(売上高)に基づく成長率123.6%を記録し、3年連続入賞という成長ぶりを見せているのだ。

現在WACULはAIアナリストのほか、『AIアナリスト SEO』、『AIアナリスト LP』など、蓄積してきたデータをふんだんに活用できるプロダクトを複数提供している。

さらに、不定期で発表される研究レポートも同社のサービスの一つと言えよう。この研究レポート、X(旧Twitter)で頻繁に拡散されているため、目にしたことがあることも多いのではないだろうか(例はこちら)。

この特集で紹介するサービス以外にも、世の中にはすでに多数のAIサービスが存在することは言うまでもない。しかし、2015年から生成AIを活用するWACULのサービスのデータ蓄積量、機械学習の頻度、サービスの改善回数、近年の成長ぶりをみると先行優位を感じずにはいられない。導入が早い分、学習が進むのがAIだ。

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すべてのモノにAIを宿らせる、をビジョンに掲げ、AI関連サービスを多数リリース──アラヤ

次に紹介するのは2013年に創業されたアラヤだ。「人類の未来を圧倒的に面白く!」をミッションに、「すべてのモノにAIを宿らせる」をビジョンに掲げる。創業者で代表取締役社長の金井良太氏には研究者としての一面もある。サセックス大学では認知神経科学の准教授を務め、脳構造画像の解析において、世界的にリードしている。

また2018年、アラヤは経済産業省が選ぶJ-Startupに選出され、Microsoft Innovation Award 最優秀賞を受賞。2020年 には第5回JEITAベンチャー賞を受賞。その他、数多くの賞を受賞している。

と、このように非凡な背景を持つアラヤ、FastGrow読者にも注目していた方は多いだろう。

同社が提供するサービスには、画像や定点映像をもとにAIが問題点を指摘する画像認識AIソリューションや、表情から人の状態を導き出せるニューロテック(ブレインテック)などがある。他にも多数の産業に向けた多数のAIサービスを提供しているが、その多くが画像・映像をAIが識別する機能がベースとなっている。金井氏が率いるアラヤだからこそできる、追随を許さない特徴のひとつだろう。

“画像映像をAIが識別する機能”とはどんなものか。こちらの投稿によると、白いごはんの上に落ちている白髪を、すぐに発見できるとのこと。人間の眼には難しいことだと、誰でも想像できるだろう。

目視で確認する作業を、同じレベルで機械が代行してくれる。これだけでも有益であるものの、このポストを見ればAIを導入する意味を痛感する。これは目視では気づけない。

さあそんな同社の、直近リリースされたサービスを紹介したい。

AI開発・運用コストを最適化する開発ツール『SubnetX』だ(リリースはこちら)。通常、学習後のAIでは、このような対応デバイスの変更は不可能という。しかし、このプロダクトを活用することで、学習済みのAIでも多くのデバイスへの最適化が容易となる。

昨今、AIやLLMを使ったサービスの開発・運用が相次いでいることから、AIを扱えるエンジニアの採用は困難を極めている。そんな折に誕生したSubnetXは、生成AI関連サービスを開発するハードルが下げてくれる。

生成AI関連サービスに関わりのある方、興味がある方は押さえておくべきサービスだ。

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AIに特化したプロジェクトチーム「AITC」が存在──ISID

1975年に株式会社電通(現 株式会社電通グループ)とGeneral Electric Company(GE)のジョイントベンチャーとして設立されたISIDを紹介する。

同社は「新卒入社してよかった会社ランキング2022」(オープンワーク社発表)において、グーグル、三井不動産、マッキンゼーなどが名を連ねるなか、10位にランクイン。FastGrowはこれまでその組織力について取り上げることが多かった。しかし、今回はAIに関する取り組みについて見ていきたい。

2020年、同社はAI製品企画・開発、AIサービスのサポート、社内AI人材育成など、AIに関わる事業を広範囲に行うべくAIに特化したプロジェクトチームを発足した。その名も『AITC(AIトランスメーションセンター)』だ。

マイクロソフトとの協業を進めており、Microsoft Azureを活用したAI・データ分析のプロジェクトを多数推進する。2021年には「マイクロソフト ジャパン パートナー オブ ザ イヤー 2021」において「AIアワード」を受賞。2022年には同社所属の小川氏が「Microsoft MVP」のAIカテゴリで日本人6人目となるMicrosoft MVPアワードを受賞している。

念のためにお伝えすると、生成AI関連で最も話題となったChatGPTを提供するOPEN AIはマイクロソフトから投資を受け、強固な協力関係が存在する。そんなマイクロソフトが行うAI関連での受賞が相次いでいるのがAITCだ。今回のテーマでお伝えしないわけには行かなかった。

次に、AITCが誇るプロダクトを見ていこう。

技術文書活用をAIが支援する『TexAIntelligence』、ChatGPTの導入・活用・教育を推進し、業務効率化を支援する『Know Narrator』、AIモデルの開発・運用を自動化する『OpTAp』などバラエティ豊かに提供されている。

現在最新のプロダクトは2023年8月にローンチされた『Securate』だ(リリースはこちら)。SaaS導入時の業務効率化を図るプロダクトである。SaaSを導入する企業は、サービスの利用前にリスクアセスメントのためのチェックシートを作成し、SaaS企業に回答を依頼。しかし、各社ごとに内容が異なるため、SaaS導入企業も、SaaS企業もチェックシートの作成に非常に時間がかかっているのが現状だ。

そこで、AIの出番だ。過去に回答済みのチェックシートを顧客(プロダクト)ごとにAIに学習させることで、チェックシートの質問項目に対応する回答を提案する。“よくある質問を列挙する”のではなく、”回答を提案する”点が非常に有意義であることは想像がつくところだろう。

ここまで、ビジネスの側面のお話をしてきた。ここからは研究開発について見ていこう。過去FastGrowでAITCの若手メンバー3名に取材を行った際、こんな話が出た。

コンサルティングの案件と製品開発をどのように並行して進めているのかといえば、月曜日と火曜日はクライアントのデータ分析、水曜日と木曜日は研究や製品開発、論文執筆、金曜日は社内勉強会やブログの執筆といった具合に、曜日ごとに取り組む内容が分かれているのだそうだ。

──FastGrow<少数精鋭。これが必然的な裁量を生む──ISIDのAI・データサイエンス集団“AITC”にみる、若手が自走する組織カルチャーとは>から引用

そう、A働く方々の執筆機会が多いことも同社の特徴だろう。公開されているコラムは、社内データを利用したChatGPTの回答精度検証と改善方法や、生成系AI利用における著作権法の解釈についてなど、幅広い読者に有益な情報が提供されている。

本記事を興味深く読んでくれている方にはぜひ一読いただきたい。

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AIよりAIが扱う”データ” に注力。
未来のあたりまえを創る──セーフィー

最後にセーフィーを紹介しよう。「映像から未来をつくる」をビジョンに掲げる同社は、幅広い業界、シーンの課題を解決するソリューションとして映像データを主軸に事業を展開している。

防犯などに用いられるクラウドカメラの国内シェア半数以上を占める同社であるが、ビジョンに掲げられた「未来」とはどのようなものなのだろうか。

その答えは先日FastGrowが行った代表取締役の佐渡島氏への取材で見つかった。

私たちの事業構想は、「映像データがインフラ化した世界はこうだよね」というゴールから逆算して描かれたものです。まずは防犯カメラにフォーカスし、クラウド化したカメラの映像データをSaaSによって大手企業に提供するところから事業をスタートしました。

やがて各業界の企業がアプリケーションを付与することで、映像データの使い方が増えていきます。これこそ、セーフィーがきたる2030年に確立したい「Video Data as a Service(VDaaS)」の第一歩です。

──FastGrow<商流における“オセロの4隅”を押さえよ──人々の“第3の目”として「映像」を加えるセーフィー。CEO佐渡島氏が語る2030年の社会から逆算した緻密なロードマップとは>から引用

そう、セーフィーは2030年までに“映像データのインフラ化”を目指している。ちなみに、映像データのインフラとは、対応するデバイスを持ってさえいれば5Gネットワークが使用できるように、デバイスさえ持っていれば、映像データを使用できる状態を目指す、ということだ。

では、本題だ。セーフィーはその実現に向けて、AIをどのように活用しているのだろうか。

まずは、自社開発したLTE回線を内蔵したウェアラブルカメラ『Safie Pocket2』。建設現場や製造業における、遠隔臨場、遠隔立ち会い、遠隔監査などさまざまなシーンで活用できる。現場に行かずとも、オンラインでできることが増えるツールだ。

そしてもうひとつが小売業の課題解決を目的に、立ち入り検知・通過人数カウント・立ち入りカウント機能を提供するAIカメラ『Safie On』。これはエッジAIという、デバイス自体にAIを搭載する技術が使われている。一台のカメラに複数のアプリをインストールできるため、お客様の用途に応じてアプリを切り替えることで、カメラ自体をカスタマイズできるようになる。もちろんAIを搭載するので、学習し続けるのである。

これら2つのカメラが持つ役割は、映像データを記録・扱うデバイスというわけではない。AIを搭載したカメラを使うことで、必要なデータを高い精度で取得できるように作られているのである。先述のインタビュー時、佐渡島氏はこう話した。

AIに注力する企業は、必ずデータを求めます。

だからAI開発を軸にしようとは思いませんでした。データを持つ企業のほうが、AI開発に注力する企業に対して新しい発見をもたらす可能性が高いからです。私には「AI=凄い」という感覚がないので、AIを動かすデータのほうで日本一、世界一を目指すほうがやりたいと思ったんです。

──同上

セーフィーはあくまでも本当に必要なデータを取得するために、AIを活用している。AIに“精度の高い回答”を求めるサービスが多いなか、“取得”のためにAIを活用する方法も興味深い。

急成長スタートアップの生成AI関連について2回にわたり、紹介してきた。今すぐ使用したい、誰かに話したい、と思えるサービスがあったのなら幸いだ。

こちらの記事は2023年08月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

いちのせ れい

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