【独占取材】ラクスルHRの進化と挑戦──事業経営者たる「HRBP」 × HRを強化する「HR Enablement」は事業価値をどう生み出すか

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インタビュイー
柏山 奈央

ユナイテッドに新卒入社後、セールスマネージャーを経て人事部長として採用・育成・制度設計等を統括。2022年にラクスルに入社しラクスル事業のHRBPとして複数の組織人事プロジェクトを推進する。

大橋 美沙季

メルカリで海外労務、BPR、人事システムやダッシュボードの導入等を担当。2021年にラクスルに入社し、海外子会社管理やM&A後のPMI支援プロジェクトを経て、HR Enablementチームを設立。マネージャーとして新たなHR体制作りをリードする。

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複数の事業立ち上げなどを通じて、非連続な事業成長を遂げるラクスル。同社の飛躍の基盤に採用への強いこだわりがあることはよく知られている。

経営者や事業責任者自身が直接優秀な人材をスカウトして採用する。今となっては当然とも言えるこの方式は、ラクスルの創業当時から用いられ、その重要性が受け継がれて数百名の組織となった今でも、年々その強度を上げている。今日、さまざまなスタートアップが参考にする、ラクスルの組織進化を語る上で最も重要な要素とも言えるであろう。

しかし、近年のラクスルHR領域で、それと同等以上に重視する2つのテーマがある。それは、事業経営者としての人事を生み出す「HRBP」と、HRBPや各人事機能のエンパワーメントを担う「HR Enablement」だ。

さらなる組織進化に欠かせない存在であるHRBPとHR Enablement。それぞれの役割と、互いに連携することで生み出すシナジーについて、ラクスル事業本部 HRBP 柏山 奈央氏とHR Enablementチームマネージャーの 大橋 美沙季氏に訊ねた。

  • TEXT BY TOMOKO MIYAHARA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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事業の「経営メンバー」としての価値創出に向き合うラクスルのHRBP

「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに掲げ、基幹事業である印刷のプラットフォーム『ラクスル』を中心に、広告のプラットフォーム『ノバセル』、物流のプラットフォーム『ハコベル』、コーポレートITのプラットフォーム『ジョーシス』の4つの産業領域で事業を展開するラクスル。

各事業領域がグロースフェーズにある中、それぞれの事業執行は各事業経営チームに任されている。この事業経営を組織人事面から強度を持って推し進めるために設置された役割がHRBPだ。

近年、事業ごとにHRBPを設置する企業は増加しており、当ポジションの認知度は上昇している。だが、一概にHRBPといっても、採用中心・育成中心など、企業ごとにその役割は異なるのが実情である。

このように各社がそれぞれの取り組みを行う中で、ラクスルのHRBPの取り組みは実に挑戦的だ。同社のHRBPは、人事部門ではなく各グループ企業や事業組織に配属され、事業経営者のサポートや相談役ではなく、事業を経営するチームの一角としての価値発揮を目指す。

人件費計画、採用、育成、評価、制度、人材のリテンションなど、HRBPの見るべき領域は多岐にわたる。事業の中期計画とそれら各人事機能を統合したストーリーを構築&アラインさせ、事業フェーズや時々の重点課題を加味してフォーカスすべき変革目標を掲げ、推進する。このような視座で活躍をするHRBPを複数揃え、ベンチャー企業のCHROの集合体のような体制を目指すのがラクスルなのだ。

柏山HRBPとして一番の基本であり重要なことは、あるべき人材ポートフォリオを描き、実現していくことです。印刷事業領域には、主力のチラシ等の商業印刷事業からアパレルなどの新規事業まで、現在8つの事業があります。これらがそれぞれ拡大し、さらに新たな事業を内製で生み出し、時にはM&Aによる領域拡張も行いながら事業を成長させていきます。

そのような中では、既存事業を牽引している人材が、新規事業立ち上げやM&A先の経営者として参画したり、彼ら彼女らの新たな挑戦に伴いその後を継ぐ次世代のメンバーを輩出していくなど、人材の強い成長と流動が必要です。

HRBPは事業責任者と共に中期目標を達成するための人材ポートフォリオ計画を作成し、それを実現するために各半期どんな採用をし、誰にどんな経験の場を与えて成長を促すのか、各事業の組織OKRを設定して、その目標達成に向けて人事施策を推進していくイメージですね。

HR Enablementチームの大橋氏は並走するラクスルのHRBPをこう評する。

大橋全社人事側の視点から見ていて、ラクスルのHRBPの特徴はまず事業との距離の近さです。近いというより、事業全体を自分の組織だと捉えて事業責任者と一体となって仕事をしていると感じます。

次にその事業責任者との関係性ですね。事業責任者や各マネージャーと時に意見が乖離しても、対等に渡り合っているのは素晴らしいと思います。例えば、採用の局面で選考基準が甘くなっていると感じれば、HRBPは「事業でこの北極星を目指すと掲げるなら、今の採用は間違っている」と事業責任者たちに堂々と言える。

大橋これが多くの場合、「自分は事業に対してそこまでの解像度は持っていないし、日々、事業の現場に向き合っている方々の意見の方が正しいですよね……」と主張を取り下げてしまうことも多いと思うんです。

ですが、時に軋轢を生んだとしても事業部門の軌道修正をできることは、HRBPに強い意思があったり、経営陣からもそれを期待されているラクスルならではの強みだと感じますね。

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HRのレベルアップをミッションに持つHR Enablementが、HRBPの事業経営者としての価値発揮を支援する

次に、HRBPを含む各人事機能をエンパワーメントする役割を担って生まれたのが、大橋氏が務めるHR Enablementである。HR Enablementの価値を端的に表すと、組織人事のプロセスを磨き続け、HRBPをはじめとした人事メンバーの価値発揮を最大化することだ。

その実現に向けて重要度が高いことが人事プロセス全体のアラインだ。採用、オンボーディング、育成、評価、異動、退職など、運用する中でそれぞれが独立しがちな各人事機能や人事プロセスが、連動しひとつのストーリーのもとで価値を生み出せるように統合し、本当に必要なことにフォーカスできるようにしていく。

この時に重要なピースとなるのが人事に関わるデータである。各人事プロセスにおいて共通する重要な指標を定義し活用している。中でも特徴的なのはデータを「活用しきること」に力点を偏重させている点だ。既にある情報を集計するこのではなく、HRBPを含む事業経営チームがどういった場面で、どのように意思決定をすべきなのかという点から逆算で必要データを定義し、それを収集・活用できるように業務プロセスや人事制度を作り上げていくのだ。

このような活動を通じて、HRBPや各人事機能の実効性や生産性を高めていく。それらを実現するための一環として、日本ではほぼ事例のないPeople Management Platform『Lattice』の統合的な導入と活用にも着手している。

こうしたHR Enablementの役割について、HRBPの柏山氏は「HRBPに武器を渡してくれる存在」だと表現する。

柏山採用や評価など、様々な人事プロセスから収集されるデータを読み解いてHRBPに連携することや、データの活用だけではなくその前段階で、「このような問題が起きがちなため、事前にこう行動すべきです」と未然に部門マネジャーに働きかけてくれるなど、HRBPにとっての相棒のような存在です。

HRBPは自事業の価値観や流れにどっぷりと漬かっていくため、HR Enablementから数値や客観的な目線を持って、または他事業も含めた成功・失敗の例も含めて、「それは本当に正しいのか」「データ的にはこの方が正しいのでは」という問いかけをもらうことで、HRBP一人だけではできない思考が可能になります。

HR Enablementチームのマネージャーの大橋氏は自らのミッションについてこう語る。

大橋HR Enablementは決して人事データを分析する部門ではありません。HRBPが事業経営者としての意思決定や課題設定をできる、ラクスルが組織規模の拡大とマネジメント強度の向上を両立し続けられる、こうした挑戦的な目標の実現に向けて、HRに関わるメンバー、またはその先にいる全マネージャーの実効性や生産性を向上させることをミッションにしています。

重要なのはたくさんの情報を集めたり、複雑な分析をすることではなく、全人事プロセスが一気通貫した軸の通ったものになっているか、それらを各HRやマネージャーが理解し活用できているか、結果的に意思決定や強度ある施策実行に直結するものになっているかなどであると考えています。我々の事業に対するアウトプットは可能な限りシンプルで、活用しきる、やりきることができるものであることを心がけています。

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HRBPとHR Enablement、共創により促進する「価値の向上」

HR EnablementとHRBPの関係性は、武器を提供する者と、その武器を使う者というイメージだ。HR Enablementが武器を開発し、各事業のHRBPへ提供する。

大橋HR Enablementが提供する人事プロセスやそこから得られる各種のレポートは、HRBPが事業経営という土俵の上で価値を発揮することを支援します。

ただレポートやデータを提供するだけではなく、「このデータをこう読み解いて課題設定してください」「組織問題に対して行動してください」という明確な意図を持ち、ある意味HRBPを自分達の思い通りに「動かす」ところまで入り込むことが必要です。

また反対に、HRBPの「こんな情報では意思決定できない」「もっとこういう事業成長に活きるクリティカルな情報が必要だ」と忖度のないフィードバックを受けて、我々がHRBPの思い通りに「動かされる」ことで、HR Enablementはより事業成長に資する武器を開発することができます。

両者が、日々の業務の中でこのようなコミュニケーションを行い、最高の武器を作り上げる。私たちはお互いに支え合い、また磨き合う関係だと思っています。

HRに関するデータの設計や収集はHR Enablementが提供するため、各社各事業のHRBPはこうしたデータを活かして事業価値に向き合うことができる。このような体制を敷いている企業は稀有な存在だろう。

柏山自社のHRデータを収集・分析している企業は無数に存在していると思います。しかし、そのデータを事業側の意思決定や価値創出に活用しきれているか?それをやりきろうとしているのか?というと、難しい側面が多いのではないでしょうか。最悪の場合、事業側から「コーポレートの自己満足や押しつけ」だと捉えられたりすることもあるでしょう。

前職では、このようなコーポレート側と事業側の連携ミスによる問題が時折発生していました。しかし、ラクスルではこうした問題を目にしたことはありません。なぜなら、大橋さんを始めとするHR Enablementチームが、「HRBPの価値発揮の最大化がミッションである」という姿勢でいてくれているからです。

「このデータをこう使うと課題設定に役立ちます」「他の事業はこういったアプローチでの成功例があります」と、単に収集したHRのデータをHRBPに丸投げするのではく、HRBPが使いやすいよう、事業成長に役立つようなフォーマットや活用方法を添えて渡してくれます。だからこそ、我々も目的意識や効果を明確に理解した上でさらに自事業に合わせた深堀りをしたり、事業責任者たちと議論できるので、スムーズに事業に活かすことができるんです。

大橋日々、目の前の事業に専念しているHRBPからすると、ラクスル全社や他事業で何が起こっているかの情報キャッチは、どうしてもHR Enablementチームのある全社HRとはその量や速さに差が出てしまいます。

大規模な施策もいきなり全社展開せず、どこかの事業本部で小さく強く試してから、全体への展開をすることもよくあります。我々が積極的に各社、各事業のメンバーたちとコミュニケーションを図り、それを各事業にフィードバックする役目を担っているんです。

逆に、事業本部内でどんな議論や意思決定をしているのかの詳細は、全社HRでは見えづらい側面があります。そのため例えば各事業の評価会議に出席し、具体的にどんな議論や意思決定をしているのか、我々の提供したものがどう使われているのか、この解像度を上げて提供価値を高めていくことも重要です。

とはいえ、各HRBPから「現場のことは自分が一番わかっているのだから、放っておいてくれ」と反発されることはないのだろうか。

大橋HR EnablementからHRBPへ何かを提案すること自体に対して、ネガティブなフィードバックをもらうことはありませんね。

ラクスルでは何かを行う際には、「その価値は何か?」ということが常に問われます。特に人事領域は、施策と効果の関係が抽象的・曖昧になり、仕事のための仕事を生み出しがちな側面があるため、投資対効果や実効性が真剣に議論されます。

こうしたカルチャーが浸透しているので、HR EnablementからHRBPへ提案する際も、無思考に首を突っ込むようなことはしません。明確な目的を持って働きかけるので、HRBPから煙たがられることはないですね。時に意見の相違はあれど、それは「組織を進化させるという、同じ目的を共有した上での視点の違いである」という相互信頼があります。

柏山私も同感です。事業側も、あらゆる施策において「なぜそれを行うのか」を明確にする姿勢が強くあります。大橋さんの言うように、ラクスルは総じて目的思考です。また、HR EnablmentはHRBPの仕事内容に染み出し、理解を高めるように動いてくれるため、不必要な混乱は起きず、意見のぶつかり合いがあったとしても建設的に行われますよね。

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攻めと守りを相互に行き来する、理想的な補完関係

実際に、HRBPとHR Enablementがどのように連携し、シナジーを生み出しているのか。そろそろ具体的な実例を知りたくなってきた読者もいるだろう。そこで、ここからは「ラクスル事業本部」におけるオンボーディングのプロジェクトを見てみよう。

ラクスル事業本部では、新しく入社した人材がいち早く価値発揮できる状態になるための、独自のオンボーディングプログラムを導入していた。導入以前はオンボーディングがほぼなされていなかった反省から、「できることは積極的にやろう」という総花的な手厚いプログラムが存在するものの、「その全てがやりきられているのか」「提供側や新入社員それぞれの工数に見合う成果があるのか」「そもそもオンボーディングにおける成果や価値とは何か」などが曖昧な状況となっていた。

そこでHR Enablementチームが、採用・育成・評価・退職といった前後のプロセスで重要視されるポイントから、オンボーディングの充実や活動評価に本当に必要な情報やアクションを特定し、目的を明確にすることを提案した。オンボーディングの状況をはかる指標も30超から5つに絞り、HRBPがこれらを活用し、メンバーフォローやマネージャーを育成する上でどのように扱うべきかを設計したそうだ。

大橋柏山さんが述べていたように、HRに関する情報は集計結果が出たところで活用の仕方がわからず、「これをどう事業に活かせばいいのか?」という状態になりがちです。

だからこそ、ラクスルではHR関連のデータを「集計」するのではなく、そこからどんな意思決定をし、アクションを行い、どういった結果を得たいのか。そのためには人事プロセスや人事制度はどういった形であればよいのかといった「企画」から参画します。

また、経営者、マネージャー、人事など人事データに関わる人たちは、ともすれば採用・オンボーディング・育成・評価・退職などをそれぞれ独立したものとして考えてしまう傾向があります。

どのプロセスにおいても、マネージャーとメンバーの間にあるべき関係と、その構成要素は基本的には同一です。各プロセス個別の課題設定や情報分析が重要なケースも勿論ありますが、それだけでは全体感や本質を見逃してしまいます。そして何より、データやマネージャー陣へのメッセージが複雑化して、「精緻そうだが扱いきれないもの」になってしまうリスクがあるんです。

大橋オンボーディングプロセスの充実を目的にすれば従前の内容も正しいと言えるものでした。しかし、採用や育成など、前後のプロセスと一体性を高め、マネージャーにわかりやすく提供する。有限なリソースを、最大限に成果の出るポイントに集中するといった、実効性を高め価値を発揮しきるという視点においては課題が多かったんです。

結果的に重要なものをしっかりコントロールするためにデータをシンプルにし、オンボーディングのタイミングで、「こういった状況である場合、採用プロセスにおけるこの課題がある」「または育成評価のタイミングでこういったケースになる」といった具合に、提供するデータの中から見るべきポイントをいくつか洗い出し、それをハイライトした状態でHRBPに渡しています。

多くの場合、データを取得してもそれを眺めて「なるほど」「やはり」「人事施策を増やそう」で終わることがしばしば。しかし、HR Enablementが存在している限り、「その施策の価値は何か?」「やりきれるものになっているのか?」「全ての人事プロセスとの整合はシンプルで適切か?」という問いが発生し磨き続けられることがラクスルの強みなのだ。

柏山HR Enablementから提供される入社オンボーディングや異動オンボーディング関連の情報は、その人材のパフォーマンスや満足度を予測したり、採用時や異動時のマネージャーの行動のGood / Moreを振り返り、改善したりする上で役立っています。

採用・オンボーディング・異動・育成・評価・退職などのタイミングで一貫性のあるデータの提供があり、そこから示唆を得られることで、その人材がどのように成長しているか、またどのような課題に直面しているかなどを多面的にチェックし、フォローすることができる。その結果、HRBPの仕事の実効性や生産性を高めてくれるんです。

このオンボーディング施策に関しては、新人が入社した後のどのタイミングを定点観測のサイクルに組み込むべきか、HRBPとHR Enablementチームとで対話を繰り返しながら作り上げてきた。

このように、HRBPとHR Enablementが連携する場面では、常に一方が他方に依頼するだけでなく、相互に補完し合う。そんなインタラクティブな関係性を保っているのだ。

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単なる「バックオフィス」ではない。事業価値向上への貢献を肌で感じられるのがラクスルのHR

HR Enablementが創設される以前、柏山氏はHRBPの業務範囲が幅広いだけに、オペレーティブな仕事も幅広く発生し、価値を生み出すことに時間が割けない状況を課題に感じていた。

事業価値に貢献すべく、目の前にあるHRデータを整えそこから示唆を得る重要性は理解しているものの、日々の業務の合間に対応するには圧倒的にリソースが足りない。かつ、事業マネージャーには触れさせづらいセンシティブなHRのデータもあり、「事業成長に資するHRデータの活用」と言っても、その価値を出すことは簡単ではない。

柏山私自身、前職でコーポレート側にいた時に感じていたことですし、他社の人事の方と話す中でも同じ課題を抱えているなと感じていました。

元来、HRのデータは「何が」「どこに」存在し、「何が実行可能」で、「どのような」情報が求められているかということを理解するためのコミュニケーションラインが多く、時間もかかります。

その点、ラクスルではHR Enablementが存在することで、このような乖離が生じない仕組みになっていてありがたいですね。

事業価値にフォーカスできるよう、HRBPの土台を整えるHR Enablement。こうした関係性でありがちなのは、どちらかがどちらかの下請けのようになってしまうことだ。そうならないために重要なことは、双方が双方に対し、自分達の思考や相手への「もっとこうすべき」という意見を伝え合う関係性であるという。

「何のためにこの施策を行うのか」──。ゴールのイメージから逆算して意図を共有することで、両者間の摩擦を防ぐことができる。

一見すると、HR分野のポジションは、直接的に事業の数字に貢献できるわけではないのかもしれない。しかし、ラクスルのHRBPやHR Enablementのように、間接的に事業の成長を加速させたり、事業価値に貢献することは十二分に可能なことが分かってきた。

柏山HRBPは、ラクスルにおける各社、各事業の中で事業経営に携わるメンバーの一員だと思って参画しています。事業責任者を中心とした事業経営の会議に参加し、目指すべき姿や現状の事業や組織の状況を理解した上で、チームのメンバー全員が今どういう状況にいるのかを正しく把握しています。

その結果、課題を見つけ、事業の管掌役員たちとコンセンサスを得て解決策を提供することができるんです。この意味において、事業価値に貢献する役割を担っていると感じています。

大橋人材ポートフォリオの観点から見ると、HR Enablementはラクスルに入社してくれた人が十分に活躍できない事態や、離職を防ぐといった役割も担っています。

ラクスルの重要なアセットである人材がどういった局面で十分に力を発揮できなかったり、離脱に繋がりがちなのか。また、どうすればその壁を乗り越えることができるのかといった知見が集約されています。こうした情報をもとに、ラクスルの事業成長を鈍化させる要因を取り除くようなマネージャーの行動デザインや、人事プロセスの構築を行うことができます。

HR Enablementの活動が直接的に事業の数字に響いているかは測定が難しいですが、HRBPと密に連携をとり、事業組織の解像度を高く持った上で、人事全体のデータや制度を整え、HRBPやマネージャーの行動を正しく変革していくことは、会社をあるべき方向に進める役目を果たしているのではと感じていますね。

単なる事業部付きの人事ではなく、事業経営を担う経営メンバーである。これこそが、ラクスルが目指すHRBPの最大のユニークネスだろう。

また、HR Enablementも単にHRデータを収集、成形してHRBPにパスする“データ屋”というわけでは決してない。HR Enablementの立場からしか見えない景色で得た情報やナレッジを活かし、HRBPならびに人事機能チーム、事業マネージャーらに向けて、組織拡大やマネジメントの質の向上のためにエンパワーメントしていくのだ。

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二度おなじ手法は通用しない。非連続な事業成長の中で味わうカオス

ラクスルの組織は各事業の規模が年々拡大することに加え、上場・市場変更、各事業の分社化・JV化、ベトナムやインドの海外機能子会社の設立、M&Aによる各社のグループインなどと常に変化を続けている。

同社のように非連続に成長し続けるスタートアップにとっては、ある時点におけるHRの課題を整理したからといって、それが今後も効力が持続するとは限らない。毎年別の会社のように生まれ変わっていくイメージだという。

柏山ラクスルのギャップはそこにあると思います。社外から見ると、完成された組織と思われがちですが、入社してみてびっくりしました。「スタートアップだから整っていない部分もあるだろう」と思って入社したのですが、その想像をはるかに超えるカオスでした(笑)。

ただ、単に整っていないだけということではありません。前提として常に全力で整えていくのですが、会社や事業がどんどん先へ先へと進んでいくために、いわゆる「整った」という状態を迎えることがないんですね。常に新しいことに向き合わねばならないため、なんでも全て丁寧にやるというよりは、本当に重要なポイントを見極めて実行する必要があります。大変ではありますが、決して飽きることがない刺激的な環境です。

大橋柏山さんの言う通り、1つの課題が落ち着いても、またすぐ次に整え直すべき課題が発生するので、課題は尽きません。とにかく変化が激しいため、一度仕組み化したものが、次のタイミングではまったくフィットしないことなんてざらにあります。

ただし、毎回仕組みを構築し直すことは非効率なので、こうした環境下で、フェーズごとの垣根を超え、本当に重要なことのみを見極め、どのように「持続可能な仕組み化」にしていくかが今後の課題ですね。

ラクスルのHRBPは設立から4年、HR Enablementに至っては僅か1年と、まだまだ立ち上がったばかりのチームだ。特にHR Enablementは、最近になって徐々に歯車が回り始めたところである。この両輪の連携こそが、強いHRとして、急成長によるカオスな状況下でも組織を強化し続けるための「本当に重要なこと」であり、そのマインドを持って両者は組織構築を進めている。

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組織のポテンシャルを最大限に引き出す稀有な役割、それがラクスルのHRBPとHR Enablementだ

HRBPやHR Enablementの役割には高度な価値発揮が要求される。しかしながら、その役目を担う上で「HRの経験は必須条件ではない」と、大橋氏、柏山氏は口を揃える。

柏山ラクスルのHRBPは、HR業務の全領域をカバーするので、知識と経験があって損はしません。ただし、本当に価値発揮するためには管掌する各社や各事業における「経営メンバー」としての参画が必要になるため、単にHR領域のフレームワークと知識に依存するやり方ではフィットしません。

それよりもむしろ、経営視点であったり、事業において今何が課題となっているのかを把握したりする課題設定力や問題解決力が重要です。マインドセットとしても能力としても、大事なのはまずは「事業経営者である」こと、その次に「主な価値を出す領域としてHRである」という順番であり、ここが大きな挑戦になります。

これまでのHR経験とは全く異なる能力が求められ、直接的に事業の推進を担うわけではない職種でありながら、「どう事業価値に結びつけるか」を思考することが必須となる。まさにチャレンジングな環境と言えるのではないだろうか。

柏山全社目線からの机上の空論だけでなく、または人事施策を実行したかどうかではなく、本当に事業にとって価値を出す課題設定と実行ができているのか?多くの環境ではHRの立場でそれらを追及することは簡単なことではないと思います。それを本気で追い求めたい人であれば、どの会社のどのフェーズで、どういった取り組みをしてきたかに関係なく活躍できると思っています。

大橋HR Enablementも、人事経験者である必要はありません。ただし、思考することが負担と感じる人には難しいと思います。なぜならHR Enablementは、HRBPだけでなく、各社の人事や事業責任者など様々なテークホルダーとコミュニケーションを取っていかなければ、価値を創出できないからです。

HR Enablementに限らず、我々のような全社人事はHRBPと比較するとどうしても事業の最前線から離れた場所にいます。だからこそ、事業価値に貢献するというゴールから少しでもぶれると人事屋・データ屋になってしまいます。

多くの人を巻き込み、ディスカッションをして、「事業価値に貢献するHRの仕組みをつくろう」「HRデータを価値につなげる方法を考えよう」といった意志を持って楽しめる方がフィットすると思います。

新設されたばかりにもかかわらずラクスル全体の事業成長に影響を及ぼす、HR Enablement。そして、各社、各事業の経営メンバーとして、HR起点で事業価値にコミットするHRBP。どちらも難度が高く、挑戦しがいのあるポジションではないだろうか。

柏山HRの領域で高みを目指す方にとって、ラクスルグループのHRBPは、新たな挑戦の喜びや醍醐味を味わえると思っています。少なくとも、「自分はHRだから、事業を伸ばしている感覚がないんだよね……」と感じることはまず、ありませんね。これは断言できます。

「事業経営者としてのHR」という役割で価値発揮することは口で言うほど簡単ではなく、私自身それを体現するには課題も大きいです。しかしそれでも、目指すべき姿として不足のない挑戦だと思っています。

大橋HRBPとHR Enablementは、相互に連携することで、事業成長に大きく貢献できる存在だと思っています。ですが、その重要性を真剣に考えている企業は少ないのが現状ではないでしょうか。

ラクスルでは、HRBPはもちろんのこと、HR Enablementというまだ他社には類を見ない役目の必要性を理解して、リスペクトを持って共に事業活動を推進してくれています。

今日お話ししたHRBPとHR Enablementの関係性だけでなく、各事業や経営陣がHR Enablementの価値を認識し、積極的に連携してくれる。そうした良い環境の中で取り組めていることが、嬉しいですね。

HRBPとHR Enablementによる共創で、HRとしての提供価値を進化させ続ける──。

今、「事業を伸ばしている感覚がない」「HRでは、事業成長には貢献できない」「事業におけるHRの可能性を、もっと模索していきたい」と感じている読者にとって、ラクスルは絶好の挑戦機会を得られる場所となるだろう。

ラクスルのHRBPとHR Enablementの大きな挑戦は、まだ始まったばかりだ。

こちらの記事は2023年07月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

宮原 智子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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