即効性ある策は、知識習得なり──Sozo Ventures・中村氏に訊く、グローバルスタンダードで勝ち抜く秘訣

登壇者
中村 幸一郎
  • Sozo Ventures ファウンダー/マネージング ディレクター 

早稲⽥⼤学法学部在学中にヤフージャパンの創業・⽴ち上げに関わる。三菱商事では、通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーションファンド事業などを担当した。早稲田大学法学部、シカゴ⼤学MBAをそれぞれ修了。⽶国のベンチャーキャピタリスト育成機関であるカウフマンフェローズを12期生として2009年に修了。2012年に当時カウフマンフェローズの代表であったPhil Wickhamと共にSozo Venturesを創業。Sozo VentureはTwitter等のグローバル展開サポート、 投資の実績等で知られている。ベンチャーキャピタリストのグローバルランキングであるMidas List 100の2021年版に日本人として72位で初めてランクイン、 2022年度版では63位まで順位を上げる。シカゴ大学起業家教育センターのアドバイザーを2022年より務める。

砂川 大

慶應大学法学部卒業後、三菱商事入社。海外向け鉄道案件を手掛ける。その後、Harvard Business Schoolに留学、卒業後は米国独立系VCであるGlobespan Capital Partnersに入社し、ディレクターとして投資業務に携わる。同社日本代表を経て、起業。株式会社ロケーションバリューの代表取締役社長として、複数の位置情報サービスを開発、展開。NTTドコモに同社を売却しロックアップを経て、Googleに入社。Googleマップの製品開発部長、Androidの事業統括部長を歴任。2018年2月にGoogleを離れ、5月に株式会社スマートラウンドを起業、現在に至る。また個人としては、エンジェルとして国内外のスタートアップに積極的に投資している。

関連タグ

起業家とベンチャーキャピタル(以下、VC)の間に生じる情報の非対称性を解消し、イノベーターの成長を促進する──。このミッションを基に誕生したのが、スマートラウンド運営のスタートアップ・コミュニティ『Smartround Academia』だ。

当コミュニティでは、主にIPOを遂げたスタートアップに着目。創業からの資本政策の歩みを、当事者であるスタートアップのCxOやVCらの経験談と共に紐解いてきた。そして今回、2022年においては2度目の開催となる『Smartround Academia』では、4つのセッションが開催された。

第1部は、Sozo Ventures中村氏とスマートラウンド砂川氏。第2部はLegalFores浦山氏、Ubieの久保氏、Yazawa Ventures矢澤氏。第3部は前回に引き続きKnot, Inc.小林氏、Off Topic宮武氏、シニフィアン朝倉氏が登壇。その後、第4部では毎開催ごとに白熱する、投資家との壁打ちイベントも開催された。

本記事では、2022年10月4日(火)に開催された本イベントの第1部を、イベントレポートという形で読者にお伝えする。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
SECTION
/

VCは目利きやスピードより、“成功モデル"をつくれ

第1部のテーマは、Sozo Venturesのファウンダー兼マネージングディレクターの中村 幸一郎氏に訊く、グローバルスタートアップ事情について。聞き手はスマートラウンド代表取締役社長の砂川 大氏が務めた。

砂川氏が選んだ今回のテーマは、“VCというビジネスの勝ち方”・“日本のベンチャー・スタートアップへのアドバイス”、“日本のスタートアップエコシステムを進化させる方法”の3つだ。1つ目のテーマで、まず砂川氏は次のような問いを中村氏に投げかけた。

スマートラウンド 代表取締役社長 砂川 大氏

砂川一般的に、VCにとって重要なポイントとは、“スタートアップに対する目利き(=直感)”と、“投資判断のスピード”などが挙げられますが、中村さんの場合はそうではないと。むしろ、スタートアップにまつわる膨大なデータ分析や、投資対象とするスタートアップの過去実績、ビジネスモデルや財務状況を細かく精査。こうした情報から投資すべきか否かのモデルを組み立て、それを基に投資決定しているとお話されていました。

そこで今回ぜひ聞きたかったのは、「そうは言っても、フェーズによるのではないか?」「投資対象とするスタートアップの事業フェーズに応じて、VCが見るべきポイントは変わるのではないか?」ということです。

レイターステージなら、財務データ含め様々なデータがあるのでモデルを立てやすいかと思います。しかし、アーリーステージのスタートアップの場合、やはりVCが最も重視すべき点は目利きやスピードだという人も大勢いると思うんです。この点について、どうお考えでしょうか?

中村これは非常に重要な質問です。結論から言うと、アーリーステージだろうとレイターステージだろうと変わりません。

まず前提として、VCによるスタートアップへの投資は株式で投資するんですが、本来、その投資は1度きりで終わるものではないんですね。これは多くの方がベンチャー投資について認識していることとは異なるポイントです。

Sozo Ventures ファウンダー兼マネージングディレクター 中村 幸一郎氏

中村ベンチャー投資とは、投資する時点でどれだけ利益を得られるかが分かるものではなく、“その場で売れない株”に投資するものなんです。長期的に成長していく可能性がある会社の株を保有し、その持ち分に応じた責任を要求される投資と言えますね。この責任というのは、1つはVCがスタートアップに提供する資金以外の付加価値。2つ目は、持ち分に応じた形で必要な追加資金を出していくということを指しています。

それらの責任を果たすためには、ステージが変わったとしてもVCのやるべきことは一緒です。「この会社が理想的に成長したら、こんなチーム構成で、こんな事業モデルになるだろう」「その時の我々の株の持分はこれくらいが望ましいだろう」「その持分比率にするためには追加資金をこうやって集めよう」などと、常に起業家に伴走しながら自らも考え動いてく姿勢が、正しいVCの在り方です。

この認識を間違うと、如何に起業家側に悪条件を突きつけて資金だけ注入するかといったような、起業家対VCの構図になってしまうと中村氏は続ける。

中村VCという仕事を例える際によく用いている表現がありまして、それは“子ども銀行券”です。これってつまり、今の時点では換金できないんですよね。パートナーと一緒に目標に向かって頑張り、達成した時に初めて換金できる。それまでは責任を共有して進めていかなければ、互いにメリットは享受できないんです。

アーリーステージだとまだまだ勝ち筋が見えない段階ですので、スタートアップ側は事業を伸ばす成功モデルをたくさんつくることが重要になります。そしてVCにとっては、投資先のスタートアップにその成功モデルをつくる能力があるかどうかを見ていくことが大切なんです。

また、もう1つ大事な点があります。それは、スタートアップに投資した後、どのくらい自分たちVCの予測したモデルと現実の業績に乖離があったのか、毎期ごとにチェックすることです。その差分をきちんとデータで押さえて、PDCAを回していく。VCの仕事はこの繰り返しですね。

VC界隈では「スタートアップへの投資は直感」「起業家の人柄や熱意が大事だ」といった言説も見られるが、中村氏はフェーズに限らず客観的なデータを基に見ていくことが重要だと、真逆のポジションをとっている点が印象的だ。

SECTION
/

ドラフト前日に選手を調べているようでは、遅すぎる

次に、“投資判断のスピード”についても見解をみていこう。

砂川なるほど。では投資に至るまでのスピードについてはいかがでしょうか。僕が昔VCをやっていた時には、投資判断の速さはVCの売り文句でもありました。人気の投資案件が出てくると、「誰よりも早く見つけ、押さえた方が勝ち」といった慣習があったかと思うのですが。

中村スピードは確かに大事ですが、投資チャンスが来た段階で初めてそのベンチャーを見るようではダメです。例えば、野球のスカウターは注目選手をリトルリーグの時代からチェックしていると言います。

まだ芽が出切っていない段階からその選手の試合を見て、先々投資するために必要なデータを揃えていく。だからこそ、数年後、いざドラフトとなった時に迷わず即断即決できるんです。ドラフト前日になって「初めて該当選手の試合ビデオを見ました」では遅いんです。

続けて、中村氏は「表に売りに出ている投資案件に良いものはない」と指摘する。

中村VCは、起業家のプレゼンテーションだけを見て投資を決めることは滅多にありません。プレゼンテーションを見る前からその会社をずっと見てきたり、取引先や業界の情報を集めたりと、アンテナを張り続けてきた末に投資を決定します。

これを銀行に例えると、長く付き合いのある取引先であれば、新たに融資できる機会が出てきた時、素早く良い条件で貸すことが可能ですよね。一方で、初めて顔を合わせて数十分しか経っていない人に、「融資してほしい。この場で決めてくれ」と言われても無理ですよね。これは積み重ねてきた信用の問題です。スピード感ある投資判断をするには、事前に投資先の情報や周辺知識を得ていることが大前提なんです。

SECTION
/

「VCアセットはボラティリティが高い」
と嘆くLPは、良い投資案件を掴めていない

次に砂川氏が取り上げたのは、スタートアップに投資する際の投資件数について。スタートアップ投資とは運に大きく左右されるため、何よりも数が大事なのではという説だ。この問いに対し、中村氏は「迷信だ」と断言してみせた。

砂川中村さんはよく、「スタートアップ投資は、世の中に数あるファンドアセットの中で最も継続的に、高い成功率を維持できる投資である」とおっしゃいます。すなわち、成功している人がずっと勝ち続ける投資形態だということですよね。

ここでお伺いしたいことは、「とはいえ、結局はソーシングでほぼ成否が決まってしまうのでは?」ということです。先ほどVCは成功モデルを構築し、データを用いて投資活動を行うべきとありましたが、そこに対してこのような反論があった場合、中村さんはどのようにお答えしますか?

中村多くの方々は、VCが個人の才覚で投資先を探し出していると思っているようですが、継続して利益を出し続けるVCは真逆です。投資先への判断基準や、投資機会の創出方法などに再現性ある仕組みがないと、安定的に成功はできないんです。では、どうすべきなのか?

それは、他のVCにはない差別化要素をつくり出し、VCとしての勝ちパターン、つまり成功モデルをつくることです。例えば、良い起業家に出会えるコミュニティの形成、投資決定までのスピード、投資後の支援など、工夫できる点は様々あります。

中村また、LP観点で言うと、「スタートアップは生存率が低く、他のアセットクラスと比べてVCアセットはボラティリティが高い」と思われていますが、これも迷信です。

最も網羅的なリサーチデータを持つとされているスタンフォード大学、ハーバードビジネススクール、ブリティッシュコロンビア大学らの調査を参考にしてみましょう。

これらのリサーチデータによると、あらゆるアセットクラスの中で最もボラティリティの平均値が低い投資は、VCアセットとされています。対して、景気動向のボラティリティが最も高いのはインデックス投資。そしてその次がPEという具合です。

ただし、VCアセットに関してここで一つ重要な点があります。それは、ボラティリティの平均値が低いとされるVCアセットにおいても、その中では勝ち負けがハッキリしているということです。具体的には、60〜70%のVCアセットがマイナスリターンとなります。つまり、良い投資案件とは上位約25%のVCに寡占されているということですね。

更に面白い事実があります。その上位25%のVCのうち更に0.4%のVCが、VCアセット全体で創出されたリターン総額の80%を得ているんです。ここで少し過激な発言をすると、VCアセットに投資しているLPの方々で、「VCアセットはボラティリティが高い」「リスクが高い」と感じている方々は、そもそも良い投資案件に投資できていないということになります。

そして、そんな寡占状態のVCアセットに投資できるLPは、当然ですが継続的にそのVCに投資し続けるので、新たなファンド組成においてVC側から新規のLPを募集することはほぼないんですね。

ちなみに、Sozo Venturesは1号ファンドからどんどんファンドサイズを大きくしています。そして今でもLPの8割が既存のLPさんたちとなっています。

VCアセットをビジネスの対象として捉えると、非常に難易度の高い領域であることが分かる。

投資家であるLPも、データを用いて科学的に分析し、再現性ある成功モデルを持つVCを見極め、投資していくことが重要ということだ。日本のスタートアップ・エコシステムの発展のためにも。

SECTION
/

お金が必要な人は、成功しない人である

次に取り上げられたのは、「日本の問題はリスクマネーが足りないことなのではないか」という説だ。中村氏曰く、これが3つ目の迷信だという。

砂川中村さんはかねてより、「有望な起業家やVCは資金に困っていない。一方で、成功しない人たちは資金に困っているが、そういう人たちに無闇に資金を注入しても成功しないモデルが増えるだけである」という話をされていますよね。

中村そうですね。残念ながら、お金が必要な人は成功しないという皮肉な現実があるんです。失敗する人に資金を渡すと、ネガティブな影響が大きいんです。

VCという組織で例を挙げると、成功するVCは人が辞めないので、当然ながら組織が大きくなっていきますよね。そこで、成功するモデルとは何かを掴んでいくので、人が増えれば増えるほど成功モデルを押さえた人が増えていく。そんな好循環が生まれます。

反対に、失敗するVCは組織が上手く機能していないので、1〜2年でどんどん人が辞めていってしまう。辞めては人を採り、辞めては人を採りの悪循環で、業界に対しても悪影響を及ぼす形となるんです。

中村好循環を生み出すモデルケースとして1つ例を挙げます。私がインスパイアされているのは、米国のキャピタリスト育成プログラム、『カウフマン・フェローズ・プログラム』の同級生がSpotifyに投資した事例です。

その同級生とは、スウェーデンから来たステファンとフレドリック。ヨーロッパ方式の投資方法をまったく知らない2人がアメリカに出てきて、真っさらな知識からアメリカのスタンダードな投資方法を学ぶんです。そして、そのアメリカ式の投資方法で投資したのがSpotifyなんですね。

当時のSpotifyはシリーズA。周りのVCが5,000万円〜1億円しか投資していないところに、ステファンとフレドリックは欧米の共同ファンドを組成して単独VCとして約30億円を投じました。驚異的な話です。

そこからのSpotifyの躍進は割愛しますが、この投資モデルがVC業界に1つの風穴を開けたと言えるでしょう。そこから、世界各国のVCたちが彼らのようなグローバルな共同投資案件を志向するようになり、業界に好循環を与えた良いモデルケースとなっています。

LP、VC共に、誰に資金を渡すのかで大きく未来が変わるスタートアップ投資。日本においても成功モデルを確立し、1人でも多く、投資に携わる者たちがその成功モデルを踏襲できるような仕組みを構築していきたいところだ。

SECTION
/

異なる分野の交差点に立つプラットフォーマー、狙うはここだ

2つ目のお題は、中村氏から見た“魅力的なスタートアップ”について。事業領域・ビジネスモデル・物理的な地域・組織の特徴など、いくつかの観点から見解をうかがった。

中村事業領域については、各カテゴリーのグローバルなデータプラットフォーム・プレイヤーに注目しており、我々はアーリーステージからサポートしています。中でも魅力的だと感じるスタートアップの特徴は、◯◯×FinTech、◯◯×ソフトウェアといったように、異なる分野の掛け合わせで事業を行っている会社ですね。そうしたスタートアップのVCになることで、様々なネットワークやデータを取ってくるんです。

具体例を挙げると、FinTech領域で成功したSquareというペイメント×モバイルデバイス・ソフトウェアの会社。あるいはCoinbaseという仮想通貨のトレーディング・データプラットフォームの会社ですね。要は、新しく勃興していく領域のデータプラットフォーマーであったり、複数の領域の交差点に立つプラットフォーマーとなれる会社ですね。これが、急成長・急拡大する事業領域です。

次にビジネスモデルですが、こちらは投資対象とするスタートアップと類似の会社A社から推定して、そのA社が今後急成長していったら将来どうなるのかという設計図を描きます。そこから逆算して、投資対象の会社には何が足りないのか、その足りない点を改善して大きくなっていく可能性があるのかといったことを見ていきます。

中村物理的な地域で言うと、色々ありますがやはり世界最大市場のアメリカ。ここで実績あるユーザーにサポートされているスタートアップというのは成長ポテンシャルを持っているので、注目していきたいです。

最後に組織ですが、最終的にそのスタートアップがどこを目指すのかによって変わります。グローバル・プラットフォームを目指すのであれば、やはりどこかの段階でグローバルな人材を獲得していく必要があります。またその際に、そもそも初期段階のチーム構成を見て、このメンバーならグローバルを目指して勝ち抜いていけそうかもよく見ています。

グローバルで戦っていくのであれば、当然ながら狙う市場で事業を伸ばした経験、Exitした経験などを持っている人材を集めなければ勝ち目はない。そして、そうした人材を獲得していける力や魅力がその組織に備わっているのかという点についても、VCは目を凝らして精査しているのだ。

また、「この組織観点でもう一つ面白いエピソードがある」と中村氏は続ける。それは、Sozo Venturesの共同創業者であるフィル氏がしばしば語る、組織の入れ替わりの速さについてだ。

中村フィル曰く、「スタートアップという組織は、毎年約50%成長していく組織。1年で50%も人員が増えるということは、翌年の組織の半分の人員が、1年前には存在していなかったということ。これは、おそろしいことだ」と言うんです(笑)。

でもたしかに、その状態で会社のカルチャーを維持し、人間関係の問題なく組織を運営するのは非常に難しい。そう考えると、たしかにすごいことですよね。

事実、多くのスタートアップが人間関係の構築で失敗しています。隣のメンバーが何をやっているのか分からず管理が効かなくなったり、信頼できなくなったりと、急拡大する組織にはそれ相応の問題が発生します。そうした中で組織をしっかりと統制し、事業を伸ばしていける会社なのかどうなのかといった点も投資する際に注視したいポイントですよね。

砂川中村さんの話で印象に残ったのは、逆算でみていく点ですね。投資対象のスタートアップがユニコーンになった将来をイメージし、ゴールからやるべきことを因数分解する。この一連のプロセスってまさにファイナンスと同じですよね。

「最終的には◯◯なステージに行くために、これくらいのキャッシュが必要だ」「そのためには◇◇な段階で資金調達をすべきだ」という逆算のプロセスです。

しかし、こうしたプロセスを設定しても、スタートアップ創業者が描く夢と、VCが客観的に見ている世界が一致していなければ良いタッグが組めないと思います。この目線を合わせることはなかなか難しいのではと感じますが、どう思われますか。

次章では、この砂川氏の問いに対し、中村氏がアメリカの平均婚姻期間を例えに、持論を展開した。

SECTION
/

VC選びは慎重に。
追加投資歴のないVCにはアラートを立てよ

中村Sozo Venturesのパートナーがよく言うのが、「VCが一度スタートアップへ投資を始めると、平均7年間はその投資先に伴走する。この7年という期間は、アメリカの平均婚姻期間よりも長いんだ」というものです…(笑)。つまり、それくらい長く時間を共にするパートナーですから、安易に投資契約を結んではいけないということです。

そして起業家とVCの目線合わせで言うと、まさに砂川さんがおっしゃった通りです。VC側にもスタートアップの事業経営に明るい人材がいることが重要。でなければ、スタートアップの経営者と長期的にアラインすることは難しい。日本のVCにはなかなかそうした人材が少ないですよね。

砂川そうですね。これは特定の誰かを攻撃する意図はないんですが、VCは起業家の事業計画は評価するのに、自分たちが起業家およびスタートアップに対してどんなバリューを出せるのかは明示していないケースが多いように感じます。つまり、資金提供だけに終始してしまっているという具合です。

こうした姿勢のVCを見ると、あくまで「VCである自分は傍観者で、事業を伸ばすのはスタートアップ側のみ。自分はファイナンシャル・リターンだけ狙います」と言っているように聞こえるんですよね。そうではなく、起業家にとって本当に価値あるVCなら、「僕が投資することであなたの夢が実現します」と断言できるポジションを取ってほしいと思うのですが。

中村その通りですね。冒頭にお話したように、VCはスタートアップに投資すると、その会社の持ち分を持った責任者になります。20%の持ち分なら、「20%分のアップサイドを取るだけではなく、20%分どういう責任を負うんですか?」ということもしっかりと定めることが重要です。それは例えば、投資後のスタートアップのファイナンス支援に関しても言えます。

予めお断りしておきますが、ここからの意見はかなり強烈なバイアスを含んでいます(笑)。今回、このセッションの参加者、視聴者の方に持ち帰っていただきたいことは、「追加投資をしない、追加投資の是非を評価できないVCからは資金調達をすべきではない」ということです。

VCは一旦投資したら、その持ち分割合の責任を超えてうまく成長している投資先がある場合、追加投資をしないとダメです。しかし、それができないということは、VC側に投資先の事業状況を正しく理解し、どの段階でどれくらいの資金が必要かを見定める力がないということですから。

これができるようになるには、やはり事業経験を持った人材をVC側も獲得していく必要があります。そして、起業家側もVCを見る時はこうした視点で精査していくことが重要になってくるんです。

極めて尖った意見であり、中村氏も「極端な話ですが…」と念を押してはいるが、「たしかに」とうなづける話であることは間違いないだろう。今や起業家もVCを選ぶ側と言われているが、その風潮を表す刺激的なメッセージであった。

SECTION
/

知識をつける。
これが即効性ある日本のスタートアップの底上げだ

最後のテーマは、“日本のスタートアップ・エコシステムを進化させる方法”だ。界隈のステークホルダーである、VC(投資家)・スタートアップ・行政・その他の関係者たちは今後どのような貢献をすべきなのだろう。

「これら4者のうち、最も大きな役割を担っているのはVCではないか」という砂川氏の問いかけから、最終セッションが始まった。

中村VCは、LPから信頼される、再現可能な投資をするため、チームと仕組みをしっかりつくっていく必要があります。具体的には、投資先ポートフォリオのマネジメントができたり、各投資先の財務状況が見れたり、良いソーシングができたりといった具合にです。

こうした各要件におけるプロフェッショナルを揃えて、投資先に付加価値を出していける体制づくりが肝要です。その結果として、LPを筆頭に金融業界から信頼を勝ち取れるアセットクラスになっていかないと、次の世代に良いバトンを渡すことができないと思っています。

次はスタートアップ向けに、ですね。やはりグローバル市場を狙っていくのでしたら、その経験を持つ人材の獲得を頑張っていただきたいです。砂川さんのようにグローバル市場での事業経験を持つ人材は貴重ですから、そうした人材から魅力的に思われる組織づくりを行う努力が必要ですね。もちろん、自分自身がグローバル市場での事業経験を身につけたって良いんです。

中村行政の方々においては、まずはレギュレーションの緩和をお願いしたいです。成功している会社を後押しするような政策をぜひお願いします。あとは、先にも触れましたが、ところ構わず資金をばら撒くことは辞めていただきたいです。支援すべき会社を正しく判断できる自信がないのであれば、そもそも資金提供という手段を取るべきではないと思います。

その他、ベンチャー / スタートアップに関わる関係者へ言えることは、会計士や弁護士といった専門家の不足をカバーしたいですね。スタートアップにおける投資や会計に詳しい人材の総量が増えていくと、日本のスタートアップ界隈がよりグローバルスタンダードに近づいていくと思います。

どれも継続的な努力の積み重ねによって成り立つものかと思うが、何か即効性のある打ち手もほしいところ。率直に砂川氏が問うと、中村氏は最後にこう答えた。

中村皆さん、知識をつけてください。遠回りに見えますが、教育・知識習得・情報共有を通じて、投資先のスタートアップと同じレベルで議論ができるようになっていくことです。結局はそれが1番の近道です。

こうした場で知識の底上げをして、皆さんにも様々な問題意識を持っていただき、学習していただくことは大きな効果があると思っています。Sozo Venturesとしても、スタートアップ界隈に属する各プレイヤーの方々に向けて、スタートアップ投資やスタートアップ経営に必要なベースラインの知識を提供していきたいと思っています。

この知識の向上に対して、皆さんで可能な限りのリソースとお金、エネルギーを使っていくことが、日本のスタートアップ・エコシステムの成長に向けて即効性のある効果をもたらすのではないかと思っています。

後半の質疑応答も盛り上がり、中村氏が見る日米のベンチャー投資の違いや、VCの目線に関心の高さがうかがえた第1部。中村氏からはシビアな発言も飛び出したが、砂川氏との掛け合いで納得できた起業家も多くいたことだろう。グローバル市場を目指したい起業家は、ぜひこの知見を今後に活かしてほしい。

『Smartround Academia』は今後も実施を予定している。参加希望の起業家は、ぜひ次回開催の情報もこまめにチェックしておこう。

世界を動かすキングメーカー Sozo Ventures 中村幸一郎氏に聞く、グローバルスタートアップ事情【Smartround Academia】

こちらの記事は2022年12月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン