真の変革には、やはりアセットやブランドが活きる?「大手発スタートアップ」の現在地とは──ユニークな戦略携える5社を厳選紹介
大手企業発のベンチャー/スタートアップと聞くと、どんな印象を抱くだろうか?
「とはいえ子会社でしょ?」「本体の親会社の意向を鑑みた守りの経営になるのでは?」
と穿った見方をする読者もいるかもしれない。もちろん、そうした大手発の企業も存在することは間違いない。しかし、中には母体となる大手企業が持つアセットやブランドを活用するなどして、他社にはなしえない大きな社会変革に挑むチャレンジャー(企業)たちが多く存在する。
大手発のベンチャー/スタートアップだからこそ持ちうる強みやユニークネス。そしてそこで得られる挑戦機会。これらを紹介することで、読者のネクストキャリアを含めた新たな挑戦の選択肢を広げるきっかけを創りたい。今回は事例として、FastGrowが注目する大手発のベンチャー/スタートアップを5社、紹介していく。
Gakken LEAP──77年かけて築いた「コンテンツ資産」と「顧客チャネル」。その価値をテクノロジーで再編せよ
製造業界の変革と言えばキャディ、印刷業界の変革と言えばラクスルなど、各レガシー産業にはDXを牽引するスタートアップが存在する。その中で、教育業界の変革を牽引するのは、“あの”学研発スタートアップ・Gakken LEAPなのだとFastGrowは考えている。
「Gakken LEAP?そもそも学研にスタートアップが存在していたことすら知らない」──、そんな読者が大半かもしれない。しかし、一度そのポテンシャルを知れば、同社が日本の教育を再編するリーダーとなることに確信を持つはずだ。
その理由は以下の通り。
(1)学研では、創業から77年にわたり豊富な「コンテンツ」と「顧客チャネル」を築きあげてきた。Gakken LEAPは、その資産を最大限に活用することができる。
(2)Gakken LEAPの首脳陣は、教育業界外での高い実績を挙げた事業リーダーたちで構成されている。具体的には、マッキンゼー・アンド・カンパニーで若くしてパートナーとなったCEOの細谷氏。そして日経新聞社で『日経電子版』の創刊を主導したテクノロジーとデジタルサービスの専門家、CTOの山内氏である。
(3)細谷氏・山内氏の下には、Gakken LEAPの「業界の変革」へのビジョンに共感する若手人材が、外資系コンサルティングファームや著名スタートアップなどから次々と集まってきている。
2023年6月に、第一弾のプロダクト『Shikaku Pass』がリリースされたばかり。これからのプロダクト拡充や新サービスの展開といった多方面へのアプローチが期待される。まさに注目のスタートアップと言えるだろう。
誰もが一度は接したことがある学研の教育コンテンツ。現在、それがテクノロジーの力で大きく進化を遂げ、教育業界に新しい風を吹き込もうとしている。この変革の波に乗るチャンスは、今しかない。
LIFULL senior──LIFULLグループ全社に浸透する「利他主義」が優位性を生む。
シニア向けサービス市場を切り拓け
続いて紹介するのは、LIFULLグループの1つ、LIFULL senior。同社は、日本全国52,000件以上の老人ホームや高齢者向け住宅などを掲載する『LIFULL 介護』を主軸に事業を運営している。
元々『LIFULL 介護』は、LIFULLのいち事業として誕生。その後、2015年に分社化をして今の体制となった。こうした背景から、LIFULL seniorの経営権は親会社であるLIFULLが握っているように見えるかもしれない。
だが、LIFULL senior代表の泉氏は、それを明確に否定する。なぜなら、LIFULLグループは、“経営者の育成”のためにグループ経営を推進しているからだ。そのため、親会社からの細かな指示はなく、経営や事業推進の裁量はもちろん、LIFULL senior側にあるとのこと。
そうした裁量の大きさは、LIFULL seniorのメンバーにおいても同様だ。泉氏は、メンバー一人ひとりが意志を持って取り組めるよう、事業推進上多くの意思決定権をメンバーの裁量に委ねている。
さらに認識すべき同社のユニークさと言えば、“利他主義”というLIFULLグループ全体の社是が組織の根底に浸透していることだろう。自分よりも相手の利益を優先する。介護領域においては、高齢者本人だけでなく、シニアの暮らしに関わる全ての人々が笑顔あふれる社会の仕組みを創ること。そうした強い信念を持って臨むメンバーが多いからこそ、同社のサービスは業界最大級の規模にまで拡大したのだ。
LIFULL seniorの目標は、介護を含む老後のすべての困りごとを解決することである。まだ圧倒的な勝者が存在しないシニアマーケット。その中で、同社独自のアプローチは非常に学び深いものであるし、シニアの暮らしに課題感を覚える読者が新たな社会変革に挑んでみたいと思うのであれば魅力的な環境なのではないだろうか。
No Company──博報堂グループのマーケティング力×SNSデータの力で次世代の採用広報を支援
SNS上のエンゲージメントを分析し、世の中のニーズに合わせた採用広報のブランディングを手がけるNo Company。博報堂グループ初のSNSデータを起点とした、採用広報支援企業だ。
No Company代表の秋山氏は、2016年に博報堂グループのスパイスボックスに新卒で入社。わずか2年後に同社内で採用コミュニケーション事業を立ち上げ、2018年10月に博報堂グループの新会社としてNo Companyを立ち上げた。
会社から独立しスタートアップとしてゼロから事業を立ち上げるという選択肢もある中で、なぜ博報堂グループ内での挑戦を選んだのか。その理由について、秋山氏は「博報堂グループの人や仕組みなどの安定したアセットがあれば、余計なことを考えず社会課題に取り組むことができるから」だと語る。
その当時、「就職や転職活動において、もっと求職者側の選択肢や自由度を増やしたい」と考えていた秋山氏。いち早く自分のやりたいことに向き合うためには、博報堂グループのアセットを最大限に活かした方が最適だと判断したのだ。
No Companyは「スタイルマッチで組織と人を変えていく」というミッションを掲げる。同社は、コミュニケーションの力で求職者と企業、双方のスタイル(価値基準)のミスマッチを減らし、自分らしく活躍できる人たちが増える社会を目指す考えだ。
博報堂グループという意外な環境で採用広報領域に新風を巻き起こそうとする同社。より良い社会を創るため。創業128年の歴史で積み重ねられたアセットを活用しながら、多様性が認められる今の時代に合った新しい採用広報のスタイルを自分たちの手で生み出している。
NTTアノードエナジー──NTTグループの「人・技術・資産」で挑む地球規模の事業開発
NTTグループ発のスタートアップとして2019年6月に誕生したNTTアノードエナジー。
同社は、NTTグループが保有する人・技術・資産を活用したスマートエネルギー事業の推進を目的に設立された組織であり、再生可能エネルギー領域のリーディングカンパニーである。
昨今、深刻な地球温暖化により、その一因となる温室効果ガスを削減するため、世界各国で脱炭素に向けた動きが始まっている。その中で次世代の発電として期待されているのが、CO2を排出しない太陽光や風力といった再生可能エネルギー(以下、再エネ)だ。
現在、大手企業を中心に工場やオフィス、店舗などで再エネを導入する動きが加速しており、今後もその動きは拡大していくだろう。再エネ市場は、これから伸びていく業界の1つとして注目を集めている領域だ。
だが、こうしたエネルギー事業は、国際情勢や自然環境などに左右されるため、難度の高い事業だ。例えば、太陽光発電は天候の影響で発電量が不安定になりやすい。そのため電気の需要と供給のバランスがくずれると、大規模な停電を引き起こしてしまうリスクが生じる。
そこでNTTアノードエナジーでは、電気の需給バランスをとるために、ICTを活用して電気の使用量を見える化したり、蓄電池システムを活用して発電量をコントロールしている。また、地域の電力会社やガス事業者と協力のもと安定した電気の調達に取り組んでいるのだ。(九州電力と三菱商事とコラボした事例はこちら)
同社がこのような規模で事業を推進できるのは、NTTグループという巨大なアセットがあるからこそ。
国が定める「2050年のカーボンニュートラル実現」に向けて、地球温暖化対策が待ったなしの日本社会。NTTグループという巨大なアセットを活用して、世界が直面する社会課題に挑戦したいならば、NTTアノードエナジーはこれ以上にないチャレンジングな環境になるだろう。
eiicon──パーソルよりMBOで独立。
オープンイノベーションという「市場」を創造せよ
最後は、日本企業のオープンイノベーションを推進しているeiiconを紹介したい。同社もまた大手企業発のスタートアップだ。2016年に人材大手パーソルイノベーション(以下、パーソル)のいちプロジェクトとして立ち上げられたeiicon。その後、eiiconは累計28,000社の企業が利用する日本最大規模のプラットフォームにまで成長を果たす。
だが、日本ではまだオープンイノベーションの市場ができていない。ここからさらにオープンイノベーションを日本に浸透させていくためには、人材サービスを主軸とするパーソルではなく、オープンイノベーションの推進にフォーカスをした事業経営の必要性をeiicon代表の中村氏は感じていた。
そこで2023年4月にパーソルよりMBOを実施し、eiicon経営陣による株式の買い取りと資金調達を行ったのだ。そこには、セイノーHDのCVC(Spiral Innovation Partnersが運営するLogistics Innovation Fund)をはじめ、メルカリ取締役の小泉氏や新規事業家の守屋氏といった錚々たる投資家たちが名を連ねている。
パーソルから独立するまでは、「大手企業の事業部の1つ」という認識で見られることが多かったというeiicon。だが、今回のMBOによって、「eiiconは、いちスタートアップとなって、日本ではまだ生まれていないオープンイノベーションの市場を本気で“自分たちの手”で創りにいこうとしているんだ」という心意気をFastGrowは感じている。
大手企業から独立したとはいえ、既にeiiconは安定的な売上を生み出している。そのため、資金的な面で不安を感じる必要はないだろう。既存の市場ではなく、ゼロから市場を創っていく。成長環境としても申し分のないチャンスが今、目の前にある。これを逃してしまうのはもったいないのではないか。
こちらの記事は2023年08月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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